浮橋
「待たせたわね」
ここは彼氏の家である。
「えっ?何、いきなりどうしたんだ?」
「マッサージがなくて、寂しかったんじゃないの?」
「いや、そうなんだけども、指大丈夫か?無理しなくていいんだぞ」
彼女はマッサージをしてくれていたが、揉みすぎて指が荒れたのである。
「そうね、自分のマッサージしか私は今までしてこなかった、でも一人ぐらい増えても大丈夫、そう思っていたのに、油断したわ、このザマよ」
スッ
「あっ」
本当かどうか指を見る、左手の人差し指が確かにツルッとなっている。
マッサージの癖として、左手を前に出して肌を滑らして、それが指の荒れの原因になっていたのだ。
「今まで使っていたオイルだけでは乾燥してしまって、だから秋冬に使っていたクリームにしたら、もう一発よ、一発であのパサッとがなくなったのよ」
「しかし、まだ無理しなくても…いいと思うぞ」
「マッサージすると、次の日違うなっていったのは、どこのどちらかしら?」
けれども水仕事をした後の指の痛さを見ていたので、まだどうも迷う。
「そういえばお蕎麦は食べた?」
「ああ、旨かった」
「ふっ、あれは粉から打ったもの、確かにもしかしたら治らないかもしれないと思ったけども」
「なるほどそこまで言うならばお願いしようか」
彼女のマッサージを受けると、トイレに行く回数が増える。仕事中ならば困るのだが、この時間、自宅ならば問題ない。
ノンカフェインである麦茶を飲む、いつもより飲んでいても腹ポチャにならないのは、上手いこと体に必要とされ、循環しているのだろう。
「体力がないとデトックスも難しいからね」
「痛いのは効くとかはいうが?」
「痛い方が好きなの?」
「そう言われるとな…」
クリ!
「あっ!」
体がピン!と伸びてから、うなだれた。
「痛かった?」
「来たぞ、今のは」
リラックスモードの時に、目がカッと開いてしまうぐらいの刺激である。
「あんまり痛いのはおすすめしないよ、今のは予想以上に痛いところ入っちゃったけども」
肩がひどいという。
「もう!」
足の指に彼女の指が絡み付いていく、そこから伸ばされて、開かれて血の通う感覚。
「はい、うつぶせ」
「ああ」
彼女の膝をついた足の間に、彼氏の両足を通している。そして彼女の手は足の裏をぐぐっと押す、離す。ちょっと置いてから、またぐぐっと押してきた。
グニ
指を立てて、腎臓のツボを押す。爪を感じないのは、もちろんマッサージのために爪を整えて、深爪にしてくれているからだ。
そこから流して、膀胱のツボをぐーりぐり。
本当、ここまでは痛くない。
コリ!
痛みが走る、肩である。
「これは鎖骨もやったほうがいいわね」
鎖骨をマッサージされるのは好きだ。マッサージのためにオイルやクリームを塗られ、伸ばされて、ほぐすために指が動いていく。
トントントン
整えるために掌で叩いていく。
仰向けからまたうつぶせに、オイルを変えて耳の後ろのツボをぎゅ~、唾液が自動的に口の中に広がる。
そこから耳のつけねを人差し指でモミモミモミ…
あ~感動するわ、わざわざ指を治して、自分のマッサージしてくれるんだから。
「あら、どうしたの?」
「嬉しくてさ、そう思ったら涙が出てきたよ」
「大げさね」
疲れているのよと続く声がだんだんと遠くに聞こえていった、安心してしまったらしい、もう春は終わってしまったが、俺は浮橋の上に乗せられた。