これが楓の基本メニューです~健康処楓12~
「よろしくお願いします」
挨拶をしてすぐに。
パン!
花信風幸洋は両足首をつかみ、ぐっと力を入れる。
(あっ、痛いかも)
そんなことを思ってしまうと。
モミモミモミモミ
「アアアアアア!」
二の腕に移られ、内側に入った親指が激痛をもたらすではないか。
「右手でいつも持って、それでモニター見ているから、これが痛いのよ」
そこから二人羽織のように後ろに回られ、脇からにゅ!っと手を出され、右に左、もう一回右左に上半身をほぐされる。
自分は何をされているのか、これからどうなるのか、不安がじわりとわいてくる。
本日の分が終わる頃には。
「先生のおかげで生まれ変わった気分です」
「それは良かった」
「とまあ、こういう感じかな、基本は」
「いつもよりは普通かしら」
「なんだよ、その言い方は、でもな、ワケアリのお客さんが多いから、これが楓の基本メニューですって言われてもな、困るんだよな」
どこに不具合があるのか、申告しても。
「ここかな」
言葉に惑わされることなく。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
幸洋は原因に直接アプローチしちゃうタイプである。
そしてその先生は今弟子をとっている、息子の青葉の元同級生でもある虎児であった。
「なんだよモミー、これから青葉のところにいくのか?」
こいつは現在の虎児の現同級生男でもある澄水
「あん?」
返事なのか?それともこれから喧嘩になるのか、わからない顔である。
「怖い顔するなよ、初代によろしくな、二代目」
この男は青葉とも同級生だったことがあるのだが、先ほどからモミーとか初代、二代目とかの話にも関わっている。
「うちのお父さんは人の疲れをとるお仕事をしています」
当時の話、作文で青葉は自分の父親の仕事をテーマにした。
「マッサージ?」
「あれだよ、人をもみもみするって感じ」
「じゃあ、お前は今日からモミーだな」
クラスにいたバカの一言で、その日からあだ名は決まり。
「青葉はあの時の目が怖かったぞ」
これが初代の話、二代目が決まった時の話をしようか。
現在職業体験という授業を学校では必ず受けるので、全く知らないところよりはいいだろうと、虎児は楓を選んだ。
しかし虎児の母は青葉がいたから選んだのであって、遊ぶんじゃないかと心配の母は幸洋へ連絡を取った。
「うちの息子がご迷惑をかけていやしないかと」
「いえいえ、虎児くんのおかげて大変助かりました、お客様がタクシーで帰られるときも荷物をもってくれましたり、電話を受けるにしても配慮を感じられるようなことばかりで、そういった世話を自然と焼けるのは、お母様の育て方が大変良かったからではありませんかね」
「あれを聞いたときは、本当にもう、あの子はお兄ちゃんたちと比べて、要領よくやれないし、頑固で決めると、揉めることになっても譲らないから、ろくな人間にならないわって思ってたのに」
涙声で母親はこれまでの不満を訴えた後。
「あんたはもうこのまま先生のところで、修行しなさい!」
という形で楓で本腰を入れることになったのである。そしてそこから。
「二代目誕生だな 」
ここでモミーというあだ名は虎児のものになる。
揉めることになっても譲らない性格は、本日学校で澄水にモミーと呼ばれた後、楓に来る前にこんなことが起こしていた。
チャリン
虎児の足元に小銭が転がってきた。
拾い上げれば、いつもお世話になっている日宿交通のタクシーの運転手さんに、食って掛かっている客のものだった。あきらかにわざと支払いの小銭を落としたもので。
「虎児くん、まさか!」
揉めたんじゃないんでしょうねと推測するのは虎児の同級生女である岩彰
「なんだよ、俺はただな」
自分の父親ぐらいの年齢の客の手首をとった。
「俺の勘違いなら、それでいいんだけど、今なにしたのか、もう一回最初から見せてくれないか?」
やり直させただけです。