師匠の予約はキャンセル待ち~健康処楓10~
花信風幸洋の妻は、菊露という。名前からわかる通り、暮れ行く秋に生まれた彼女は、健康処楓にて女性客専門のエステをしている。
「あっ、はい、わかりました」
虎児は電話を受けながらなにかをメモしている。
「先生、師匠の予約はキャンセル待ちでいいんですか?」
先生とは幸洋のことで、師匠というのは菊露のことだ。
「そうだよ、一番新しい情報はホワイトボードにあるやつ」
これで更新時間になると確定となり、それを各種お知らせとして配信される。
「すいません、エステの予約は二週間全て埋まっております、キャンセル待ちの案内はその都度出しますので、そちらをご確認の上、予約をお願い致します、それでは失礼します」
チン
「暑くなると、エステの方はお客様がひっきりなしだな」
「薄着になるから、気にするのさ」
「そんなの気にしなくてもいいのにな」
こういう所が、こういうところが、虎児キュンが尊い理由!
「そしていよいよ、花信風母の登場ね」
ゴクリとしているのは、最近この楓に通っている岩彰桜桃
「何さ、その言い方、まだ会ったことなかった?っけ?」
そういうのは花信風息子である青葉である。
「結構来ているのに一度もないわ」
「これはまぁ‥しょうがないか」
「そうだね」
男性陣は言いにくそうであった。
「岩彰さん、うちのオヤジはとんでもなく痛い」
そこで幸洋は照れた。
「ということは、うちの母はなんだと思う?」
「とんでもなく気持ちいいとか?」
それはサロンドゥムンにいってください。
「うちの母曰く、今まで避けていたこと、見たくなかったこと、その先に美はある」
「?」
「もっとはっきり言わなきゃわかんねえよ、師匠な、ホテルで宿泊プランで止まるお客さんしか今は受けてねえの、受けた後トイレから離れられなくなるから、だから師匠のエステを受ける部屋には、ちょっと前からドラム式の、乾燥機ついている洗濯機とかついているの」
「えっ?」
まだ飲み込めてない。
「顔のマッサージすると、皮脂とか信じられないぐらい出る、それで鼻が悪かったりすると鼻水が止まらない、そんな調子で胃腸もやるとだな、トイレに何度も何度もいくことになる」
「体から老廃物がとんでもなく出てくるんだよ、だからその間人には見せられないから、ホテルで過ごしてもらう、どうしても半日はすごいことになるからさ」
食事もルームサービスになります。
「怖い」
本当、乾燥機つきの洗濯機が導入されてよかったにょ、その前はお風呂場で洗濯して、洗濯しながら、私ってなにやっているんだろうって、呆然としながら洗っていたにょ。
「岩彰さんも興味あるなら」
「私は虎児くんでいいです」
その言い方に大変機嫌良くなった虎児くんはもりもり今日もお仕事をしました。