お前は命が惜しくないのか~健康処楓7~
健康処 楓を狙った空き巣というのは、人の気配がない昼の待合室を狙ってやってきた。
そわそわ
しかしそこは花信風幸洋の間合い、近くに(不健康が)いるせいで、落ち着くなっていたそうだ。
「お前は命が惜しくはないのか」
「今まで、こんなものかちょろいなってしか思った事なくて、あんなにも怖いって思わなくて」
カチカチと震えながら、そう話した。
体を作らずに、技もかけ慣れていない人間が、気配なく、いきなり捕まれて、そこからスープレックス。
「後ろから持ち上げられてから、スローモーションになった」
「っていってます」
幸洋の一人息子の青葉が話した。
「走馬灯見えたな」
弟子の虎児が頷いた。
「オヤジのここまでイケるは、だいたい人の想像を越えた先にあるからな 」
えっ?これ、ちょっと大丈夫じゃない、ギャァァァァァァァ。
「失神はしないから怖いんだよ」
「高さで言うなら四階ぐらい」
人間が気を失う高さは五階ぐらいとされています。
「その言い方、でも俺はまだそこまで至らないんだよな、塩梅っていうの、掴めなくて」
それを真似しないように言われてます。
「自然とそれが出るまで‥か、よーし今日もがんばって揉んでやるぜ!」
「その手!」
「なんだよ、ゆすら」
「やる気を出されるのはわかるけども、変な方向に行かれても困るわよ」
岩彰ゆすらの言葉に。
「正論だね」
「でもや、若気のいたりと言う言葉もあってな」
「確信犯が」
「孤児くんが言う通り、若いときはなんでもしていいと思うよ」
「先生は大人になってから、この道をめざしたそうですけど、何かきっかけがあったんですか?」
先生は当時の彼女である花信風さんと付き合ってから、手に職をとは思ったそうだ(先生の旧姓は高木である)
「もし子供が生まれたら、このままでは保育園の面接で落ちるって思ったから」
わりと現実的な理由でこの道に来ました。
ここで青葉が苦い顔をした、思春期の始めに聞かされた、この時のエピソードを思い出したのだろう。
「きゃー久しぶり、結婚したんだって」
母親の知り合いがおめでとうをいってきた。
「で、旦那さんって何をしている人なんですか?」
「無職でーす」
空気は凍りついた。
「ああ、そうなんだ、じゃあ、私はいくから」
正確には次の職場が決まった状態で、新婚ということもあり、一ヶ月ほど余裕を持たせた時期でのことなのだが。
この話を聞いてから、青葉は変わった。
「僕、この先生に習いにいこうと思うんだ」
自分がしっかりしなければいけないと感じたらしく、そこから父親への呼び方もパパからオヤジになったそうだ。