大丈夫、君も慣れるよ~健康処楓5~
季節の変わり目と気圧の低さ、この重なりは…
「申し訳ないけども、マッサージしてもらおうかしら」
岩彰でさえもそう言ってしまいそうな日である。
遠くからでも、健康処 楓の名前の由来になった銘木は青々としているのがよくわかる。
重いドアをよいしょとあけ、スリッパに履き替え、待合室に入ろうとした時。
ガタン
先生の前に立っていた最後の不健康が崩れ落ちた。
「……」
「あっ、こんにちは」
「こんにちは岩彰さん」
本日の待合室は、この人の他にも倒れてる人たちがいて。
「よぉ」
奥から同級生の虎児と先生の一人息子青葉が、担架をもって現れた。
「そっち足が出てる」
「よっと、仮眠室に運んでいる最中なんで、ちょっと待っててな」
「今日はお忙しいんですか?」
「年に一回ぐらいはこんな日があるね」
聞けばこの後出張にいくので、ええい!面倒くさい、ここで全部片付けてやる!となったらしい。
「腰やっちゃったそうなんだよ」
「あぁ、それは」
先生助けてくださいなんだそうだ。
「よーし、準備できたぞ」
岩彰は自分の不調を同級生の虎児にマッサージをしてもらっている。
先生と奥さんに期待されているだけあってとても上手い。
コリコリコリ
足の右親指を指の腹でアプローチする。
「今日は早めに寝ることだな」
「うん、そう思うわ」
「俺の指が忘れられなくしてやる」
「虎児、言い方!」
「まっ、今日元気な奴は健康だろうな」
そう、そうしてこんな日に決まる事もある。
最初は健康に対する不安を話すような、これから頑張って行きましょうねだった。
「前にいった所、何年も通ったんですけどね」
「この間までいった先生、変なところ触るの」
ところが一人が楓にいった所から、事情が変わる。
「あそこ…ヤバいわ」
この集まりの参加者は健康となっていった。そして、集まりにも名前がついた。
『健康を愛する会』
本日その今期の会長が決定となり、みなの前で挨拶することになった。
「でもいいのかな、僕なんかが会長で、たまたま居合わせただけなんだけども」
「何をおっしゃりますか、新会長、その時その中で一番健康なものが率いるべきなのです」
レポートを書いていたら、肩こりがひどくて、肩を動かしていたら「こういうときは楓にいきなよ、腕もいいし、料金もこのぐらいで、だいたい一回でよくなるぜ」
なんていわれたんだ。
素直に、へぇ~そうなんだと思って、肩も辛くなっていたし、行くことにした、そしたら今日はとんでもなく混んでいた。これは時間がかかるなと、上着を脱ぎながらよそ見していたら。
地獄絵図が始まった。
「ギャァァァァァ」
予備知識がない人間が、健康処 楓の先生がいきなり技をかけ始めたら、これは胃腸にとてもよく効きますといっても、まず信じられないだろう。
「アアアアアアア」
絞り出るような悲鳴である、その悲鳴を聞いたら、恐怖で体が全く動かなくなっていた。
「君は脂っこいもの食べ過ぎだ」
次の相手は膝の裏側をもみもみされている。
そしていつの間にか、立っているのは僕一人になっていた。
ああ、もう…これまでか…
「あっ、初めての方ですね」
「えっ、はい」
「肩がお悪いようで」
先程まで屍の山を築いていた男が、その山の前で、とても丁寧な口調で聞き取りしてくる。
「肩の高さが変わってくると、腰も悪くなっていきますので、ストレッチをお教えしますから、一日に一回やっていただければいいでしょう」
普通の対応である、それ故にさっきまでの事が頭から消えていたそのとき。
「じゃあ、ちょっと肩をやりましょう」
グッ!!!!!
鎖骨のくぼみ、そこに思いっきり指を入れられ、あまりの痛さに崩れ落ちたところに。
「こんにちは」
と岩彰が入ってきたのである。
「虎児くんに彼女ができて、道をはずすしたかと思ったでキュン」
「キュンさんは虎児くんが独立するとを楽しみにしてますからシュ」
『健康を愛する会』の正式名称はもちろん『健康処 楓を愛する会』である。
だいたい一発で悪いところを治された人たちは、今もこうして集まり、いや、月曜日の夜は会議室借りて、遠方からの人たちはオンラインで参加し、会長選挙などを組織的な活動をしていた。
「しかし先生に久しぶりに技をかけられたから、これで明日もがんばれるでゴワス」
「来るぞってわかっていても、避けることができない、あの空に浮く感覚痺れたでシュ」
がこれは己の健康状態の話をする会と言よりさ、何かの巣窟ではないだろうか。
「あ~早く虎児くんの指を忘れられなくなりたいキュン!」
「僕は…やっていけるかな」
新会長は不安そうだが、大丈夫、君も慣れるよ!