聖霊使いの少年が世界最悪の悪魔になる話。
皆様はじめまして!
この度この作品を投稿させていただく、Maona.です!
前々からラノベを書いてみたいなーと思っていたところ、友達に書いてみれば?と誘われ、勢いそのままに書き上げたのがこの作品です。
処女作というのもあり、拙い点やその他気になる点等々あるとは思いますが、ぜひ読んで欲しいです。
これはプロローグという事で、もしご好評いただけるようでしたらぜひ連載という形で完結まで書き続けたいと思っています。
よろしくお願いいたします!
昔々、まだ神様と人間と魔物とが一緒に暮らしていた時代、唯一神様と仲の悪い魔物がいました。
この魔物は自らを悪魔と呼び、ある日たった1匹で神様に戦いを挑みました。
戦いの結果は神様の圧勝。呆れた神様は世界が混乱する前に悪魔を封印する事で手を打つことにしました。
ですが悪魔は隙を見ては頭だけ封印から抜け出し、契約と称して人間達から大切なモノを奪い去るというイタズラを繰り返すようになります。
ある程度世界に落ち着きが戻った後、神様は力を使い果たし天へと帰っていきました、ですが神様がいなくなった事により世界は人間と魔物とが争う混沌の世へと姿を変えてゆきます。
『君の一族に、私に仕える聖霊の力を貸そう』
変わってしまった世界を嘆いた神様はそう言うと、残っていた僅かな力を使い、清らかで善良な心を持った青年に聖霊を召喚する力を与えました。
この青年でなくとも、遠い遠い未来なったとしても、この力を継いだ誰かが再び平和を築いてくれる事を願って……。
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「フィル、お前は本当にこの絵本が好きだな…。
実はもう暗記してるんじゃないか? 少なくとも俺はもう暗記してる。」
窓枠に腰掛け、聖霊を肩に乗せたおじさんは神話の書かれた絵本を閉じつつ少し自慢げに言う。
「僕のほうがおじさんよりも先に暗記してた!
でもいいんだ〜、僕はおじさんが読んでくれるから好きなの!」
おじさんは早くに両親を亡くした僕をここまで育ててくれた。
早くに亡くしたと言っても、お父さんは魔物に、お母さんは病に侵されている体で僕を産んでそのまま…。
だから両親の記憶は全く無い。
でも、フィルという名前は生前のお母さんがつけてくれたらしい。僕はそんな自分の名前が大好きだ。
そんな僕をおじさんは誰よりも先に「俺が育てる。」と言って引き取ってくれたらしい、これはおじさんにはナイショ。 あの時はカッコよかったわ〜っておばさんがコッソリ教えてくれた。
僕の名前はフィル。
そしてここは僕が生まれ育った聖霊使いの村。
周りを森林に囲まれ、ひっそりと佇むこの村にはあまり人が来ない。それこそ僕のお父さんくらいだ。
その代わり自然や動物、聖霊と共に暮らしている。
聖霊___神様に仕える聖なる存在。 僕たち村民のパートナーとなって共に生き、魔物を襲われそうなったら追い払うために力を貸してくれる。
見た目は小さな人型、蝶のように綺麗で透き通った羽根を生やしていて、宝石のような瞳を持っている。
喋る事は無いけれど、鈴が転がるように綺麗な声でよく笑う。
僕たちのご先祖さまが神様から頂いた特別な力。
それが〈聖霊召喚魔法〉この村に伝わる魔法だ。12歳になると同時に、名前の通り一生を共にする聖霊を召喚する。
僕はあと3日で12歳になる。気が早いかもしれないけど、期待と緊張で胸が鳴る。
「絵本は読み終わったかしら? はやく水を汲みに行くわよ!」
玄関に目を見やると両手を腰にあて、綺麗な白銀の髪を揺らし、これまた綺麗な空色をしている瞳を吊り上げながら頬を膨らませている少女と目が合う。
「待ってよリリィ、まだ着替えてない!」
「もうたくさん待ってたわよ! 全く…ほんとにトロいんだから、神様に笑われちゃうわよ?」
彼女はリリィ、おじさんの実の娘だ。 僕よりも2つ年下なのにお姉ちゃんみたいにしっかりもの。
「もう先に行っちゃうんだから! 転ばないように急ぎながら追いつきなさいよね!」
それだけ言うとリリィは水汲み用のバケツを両手に出て行ってしまった。
「リリィも今日で10歳か…。 感慨深いなぁ…。うぅ…」
「またあなたは…、毎年毎年泣かれちゃフィルもリリィも気が気じゃないですよ。」
おばさんが言うように、おじさんは毎年こうだ。
僕とリリィの誕生日にはこっちが申し訳なくなるくらいに泣く。
嬉しいんだけど、ちょっとくすぐったい…。
「行ってくるね!」
そう言って先に行ってしまったリリィを追いかけるために扉を開ける。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やっと来たわね!遅いわよ…。」
やっとの思いで川辺にいたリリィに追いつくと、水がたんまり入ったバケツを目の前に、どうしたものかと思案しているところだった。どうやら勢いよく飛び出したは良いものの、バケツ2つとなると中々重かったようだ。
「お待たせ、水汲んでくれてありがとね。バケツは僕が持つよ。」
「ちょっと! 1個は私が持つの!」
「いいからいいから、ここまでリリィが頑張ってくれた分、後は僕の仕事だ!」
「………ありがと…。」
小さな声でお礼を言ってくれる。
なんだかんだ凄く素直で良い子なのだ、おじさん達の娘なんだから当たり前か。
「さあ! 早く帰るわよ!」
「ええ…、まあ良いけどさぁ…。」
リリィはぐんぐん進んでいく。
だが、小高くなっている丘の峠で1度足を止める。
それはいつもの事なんだけど、明らかに様子が変だ。
どうしたのかと問いかけようとすると、
「…………………嘘…。」
顔は見えないけれど確かに声は震えていた。
嫌な予感がして急いで丘を登りきる。
普段ならここから村が見えるんだ。 僕とリリィはここから見える村を見ながらあれは隣のおばさんだとか、あそこに見えるのはなんだろうとか、そんな他愛もない会話をしながら少し休憩する。
でも_____
村があるべき場所には焼け野原が広がっていた。
隣からリリィ膝から崩れ落ちる音がする。
でも僕はそんなリリィの方を見る事も出来ず、ただ茫然とする事しか出来なかった。
どうして……村の皆には聖霊がついてる、魔物の襲撃にあっても簡単に追い払ってくれるはずだ。
理解出来ない。頭が回らない。
今日はリリィの10歳の誕生日で、帰ったらおじさんとおばさんとお祝いをするんだ。
それが終わったら3日後の僕の誕生日に備えて儀式の準備を、おじさんはとても楽しそうにそう話してくれた。
いくら目を凝らしてもそこにある筈の村は無く、ただただ家が焼け落ちていく光景が広がるだけだった。
「…………………行かなきゃ…助けなきゃ!!!」
リリィの言葉でハッとする。
そうだ、僕たちは動ける。 誰かを助けることが出来るかもしれない。
「うん、行こう…!」
このくらいの水なんてあっても無くても同じだ。
汲んで来たばかりの水の入ったバケツを放り捨ててリリィと一緒に村への道を急ぐ。
村に近づくにつれてどんどん気温が上がっていく。
村の入り口につくころには僕の目からは涙が溢れていた。
「フィルはあまり火が強くないところをお願い!
私は魔法で何とかなるから大丈夫!」
そう言いながらリリィは氷の魔法で身を包みながら奥へと進んで行く。
「わかった! 気をつけて!」
僕の使える魔法は火の初級魔法だけ。悔しいけど足手まといにしかならない。
倒れている人へ駆け寄ってみる、でも既に息はない。
「っ…! ごめんなさい!」
今は埋めてあげられる時間は無い、生きている人を見つけて助けるのが先決だ。
______何か変だ、村の人たちに火傷は無い。こんなに火の手が上がっているのにだ。おそらく聖霊が火から守ってくれたのだろう。
つまり、聖霊は確かにいたはずなんだ。
そして主な死因は多分、鋭利な物による刺し傷や切り傷だ。
違和感が拭えない、話の辻褄が合わないんだ。
思考を巡らせているとリリィの行った方から声が聞こえた。
「てめぇ! リリィを離せ!!」
おじさんの声だ! 生きてたんだ!
リリィを離せって言ってた…他にも人がいる?
その瞬間点と点がつながる。
襲って来たのは魔物じゃなくて〈人〉だ。
木で作られた家が大半の村で火をつければあっという間に燃え広がる。
聖霊の助けを借りてなんとか逃げ出して来たところを刃物で…。
それでも聖霊がいるなら守って貰える筈なのに、何か引っかかる。
でもどうして? 一体何のために?
理由がわからない、何が目的なんだ!!
「全ては神の復活のために…、期待以上の収穫です。 私が直接出向くだけの価値はあったということですか。」
「っ…くそ…… どうして…」
「お父さん!! お父さん!!! やめてよ…もうやめて………」
人が倒れる音がする。リリィの声もだ。
「少し熱いですね… 目的のモノは手に入れました。去るとしましょうか。」
無機質な声がそう告げると同時に火が一瞬で消し飛ぶほどの衝撃が地を駆ける。
僕は声も上げられずに地面を転がる事しか出来なかった。
なんとか顔を上げると、白い服を身に纏う誰かが空に浮かんでいた。その背中に描かれている十字架を目に焼き付ける。
こちらは見ていない。
______でも、その人に抱えられたリリィと目が合った。彼女は泣いていた。
僕には決して泣き顔を見せなかった彼女が確かに口の動きで僕に言う。
「助けて。」 と
次の瞬間、リリィと一緒にその人の姿はかき消えた。
「くそっ… どうして……っ」
おじさんの声だ! 急いで駆け寄る。
少し開けた場所に出る。…奥の方にはおばさんが倒れていた。
「おじさん! 何で…っ! 一体何が起きたの!?」
「ああ… お前は無事だったか… 良かった…」
「いいから早く治療を! まずは止血して…」
「もういいんだ… 俺は助からん… 最期にお前が無事なのを知れて良かった…」
「でも! まだ僕はおじさんに生きていてほしい! まだ教わりたい事が沢山っ…沢山あるんだ…っ」
「すまんなフィル… お前に頼みたい事が1つだけある… 娘が… リリィが連れ去られてしまった… 俺はあの子を守ってやる事が出来なかった…っ 親としてここまで悔しい事は無いっ…! だから…」
「わかったよおじさん 必ずリリィは僕が助け出す、どんな事をしても! たとえ『悪魔』に魂を売ることになってでも!!」
「お前がそこまで言うならあの子は大丈夫だ… ありがとうなフィル…」
おじさんはニカッと笑い僕の頭を撫でる、僕をここまで育ててくれた、大きくて温かい大好きな手のひら
でも、それを最後に二度と僕を撫でてくれる事はなくなってしまった。
リリィを連れ去られ、おじさんとおばさんは殺された。かけがえの無い物を失い、自分は独りぼっちになったんだという現実を突きつけられる。
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それからどのくらい時間が経ったかわからない、我に返ると辺りはすっかり暗くなっていた。
「もう泣くのは止めだ、リリィを助けるって約束したんだ。」
その為にはまず生きなければならない、なんとしても命を繋げと自分の心身に発破をかける。
「お腹空いたな…まずは何か食べなきゃ…」
放り捨ててしまった水の事を思い出し、水を汲み直すついでに川で魚を獲り火の初級魔法で火を起こし、その日は凌いだ。
そんな生活を何日か繰り返し、遂にその日が来た。
僕の12歳の誕生日、聖霊召喚の日だ
誰よりも、なんなら僕自身よりも心待ちにしてくれていたおじさんはもういない
僕だけの力じゃリリィは救えない、約束を果たすために君の力を貸してほしい
相棒となるまだ見ぬ聖霊に心の中で声をかける。
儀式の手順は完璧に覚えている、この日の為に何度頭の中で繰り返したかわからない程だ
「よし、これで準備は完了っと…。」
手に付いた土を軽く払いながら足元に描いた魔法陣を見下ろす、あとはここにありったけの魔力を注ぎ込むだけだ。
「…………よしっ!! いくぞ!!!」
呼吸と整えたのちに魔法陣にありったけの魔力を注ぎ込んでいく
白から青に、青から赤に、赤から紅に、段階的にその光量を増していく魔法陣。
次第に、魔法陣を中心として風が起こり始め、それによって巻き上げられた落ち葉が舞い始める
様子がおかしい…? 僕の知ってる聖霊召喚はもっとこう……そう!とても綺麗で神々しいものだったはず!
そんな事を思ったのも束の間、澄み切っていた空が急に暗くなり、聞いたことも無いような雷鳴が轟きだす
「さすがにこれってマズイよね…?」
思わずそう口に出した瞬間、紅の輝きを放っていた魔法陣が黒く、僕が知っているどんな黒よりも黒く輝き出す
「でもこれって相当強い聖霊が来てくれるのかも! いや、来てくれ!!」
もうこの際しのごの言ってる余裕は無い、魔法陣に込める魔力を更に強める
魔力が尽きて倒れることになってもいい、強い聖霊を! その一心でただひたすらに、ただがむしゃらに。
刹那。暗くなった空から魔法陣の中心へと黒い落雷が放たれた。
落雷による土煙が晴れていく中で、魔法陣の中心に浮かぶ影を目に捉えると同時に、魔力の枯渇した僕は意識を手放してしまった。
僕は気づいていなかった。 魔法陣に描く十字架を全てひっくり返して描いてしまっていた事に___。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
意識が戻ると僕は魔法陣の隣に横たわっていた
当たり前だ、僕は独りで召喚を行ったんだ。見届けてくれる人も倒れた僕を介抱してくれる人もいない
「 そうだ! 聖霊! 聖霊は!?」
悲しみに暮れそうになっていたが、意識を現実に引き戻す、やっと一歩前に進んだんだ。振り返るのは後でいい、今はとにかく前へ進め。
周辺を見渡してもそれらしき姿はない、ここにあるのは魔法陣、僕、そして小さな1対の角と翼がついている灰色をしたもふもふ、それだけだ
______ん?
「やっと起きたか人間。」
頭の整理がつく前になんと向こうから声をかけられる
「おーい、聞いてんのかー? 人間如きがこのおれ様を無視するとはいい度胸だな!」
聞こえてるよ、自分でも驚くくらいに鮮明にね。
でも混乱しすぎているのか上手く声が出せない。
「あ、そういえば寝言がうるさいから声出せないようにしてたんだっけか、ほれ」
もふもふ…今はそう呼ぼう がそう言った途端に声が出せるようになる。
「え? え? あれ?」
声が出るのと順序立てて言葉を話すのはまた別だけど。
「何をぐだぐだしてんだよ、早く契約の証を差し出せ、このおれ様にな!」
もふもふは小さな翼でぱたぱたと浮かびながらこれまた小さな指で自らを指し示す
「契約?ってなにさ? そもそも君は? 僕の聖霊は?」
「はぁ? 何言ってんだお前? いいか良く聞け! お前は聖霊なんかじゃなく、このおれ様! そう! 悪魔様を呼んだのさ!」
怪訝そうな顔をしたのも束の間、もふもふはとても自慢げにそう話す
「でも悪魔って昔々に神様と戦って封印されたんじゃ…? 君がその悪魔だっていうの?」
「ほうほう…おれ様もそんなに有名に…ニシシ そうとも!このおれ様はあのクソったれな神の野郎と唯一タイマン張ったあの悪魔様だ!」
これまたとっても自慢げに もふもふ はそう言う
「ええー…でも信じられないよ、だって悪魔は神様に歯向かえるくらいに強いんだよ?」
「ニシシ…そうかそうか! おれ様の強さがちゃんと伝わっているようで何よりだ!!」
またまた自慢げだこんなに自信が持てたら人生楽しそうだなとか考えていると。
「___それはそうと契約だ。 早く貴様の1番大切なモノを寄こせ、おれ様に嘘は通じない。正直に差し出すのが身のためだぞ?」
一転、急に雰囲気が変わる
契約を結ぶ必要なんて聖霊には無かったはず、もしかして僕は何か間違えて召喚しちゃったのかも…
「よくわかんないけど、とりあえずわかった。 でも、今の僕には君にあげられる様なモノはなんにも無いんだ… 大切なモノはつい最近に全部無くなっちゃった…」
「はあああああ??? お前よくそんなんでおれ様の事を呼び出してくれたな??……なんとか言えよ。」
「ごめんっ… ごめんねっ……」
もう泣かない、そう決めた筈なのに気づけば僕の目からは涙が溢れ出して止まらなくなっていた。
「なんだこいつ…? 勝手に呼び出した挙げ句おれ様をほったらかして泣き出すとは…。___まて、お前瞳を見せろ」
もふもふに言われるままに目を合わせる。
「決めた。 その美しい瞳をもらう事にする」
「何を勝手に… 目が見えなくなるのは嫌だよ…」
鼻をすすりながらなんとか反論する。
「いーや、おれ様はそう決めた、お前に拒否権は無い。 それにおれ様はお前の瞳から光までは奪うつもりはない、その美しい色を契約の証として差し出せ」
なんだかふわふわした内容だ。
「それならもう勝手にしてよ……」
そう口に出した時、一瞬だけ右目に電流が流れるような刺激が走る。
「これで契約は成立した、何でも望みを言うが良い。」
「なんだよそれ… まるで悪魔との契約みたいじゃないか」
「だからおれ様は最初からそう言ってるだろう?」
手違いで召喚してしまった自称悪魔との旅が始まった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
前置きにも書かせていただいた通り、ご好評いただければ連載作品として書き続けたいと思っています。
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