素直でクールな娘(こ)は好きですか?
俺は七詩今年で高校二年生だ。
今日から春休みが終わり、始業式が始まる。少し前までは中学生であった者は高校生に、一年前までは右も左も知らない新一年生は先輩になる。
最早、全国の学生生活定番の校長とPTAの長話も終わり、新しく決められた教室での決めごと(係や委員会、生徒会関連)も終わって。友人達と雑談を楽しんでいた時のことだった……
俺が楽しく雑談をしている時、俺は何者かに肩を叩かれ、振り向く。
そこには、さっきの話し合いによって任命されたばかりの我が学級委員長がいた。
以下、彼女の事は委員長と呼ぶ。だって、長いんだもん。
委員長とは去年違うクラスだったので全く知らない。自己紹介の時は、僕自身の自己紹介のネタを考えるのに必死だった為、聞いていなかった。
そして、振り向いて初めてちゃんと委員長を見た印象はこうだ。
『真面目で委員長に向いてそうな女子生徒』
そして、その実態はさっきまで雑談していた友人達の中には去年委員長と同じクラスだった奴がいて、こんなことを話していた・・・
(いやぁ〜まさかこの現実にあんな子が存在したなんて・・・今年も委員長と同じクラスでよかった〜)
そして、賛同する俺たち。
まあ、俺も名前は知らなくとも、委員長の話は多少は耳にしている。
やれ、この高校の入学試験をトップで合格し、去年の定期試験は毎回三本の指に入り、また何度かトップの成績をとったりもすれば、運動神経も良く。去年入ったばかりの水泳部の400m個人メドレーでは地方屈指の実力だったり。
そして、おまけに黒髪ロングストレートでメガネと非の打ちどころの無い容姿。
ただ、欠点をあげれば、最低限かつ非常に事務的な会話と、相手に思った印象や欠点などをズバズバいう点と全くの無表情、もう鉄面皮オブ鉄面皮。そんなくらい表情を変えないところな所だ。
普通なら何の事はないハブられ者だが、そんな女でも才色兼備で完璧超人、それでもって人格者な美人なら、話は別。
そんな彼女の様子をみて、やれ「クールでかっこいい」だの「ツンデレ」だの「キャリアウーマンの鑑」だのと言い出す始末。
それでも、全く動じない彼女はさしづめ俺達の事をどこかの猿か雑草か何かと思って接しているのかと思わせる程だ。
入学試験をトップで合格・・・ってのは流石に怪しい話だが、定期テストでの結果発表時の成績優秀者の張り出しには確かに彼女の名前が書いてあったり。確か、友人に無理やり連れられて、夏の学校のプールでの水泳部の活動を見たこともあった。勿論、鉄拳制裁は済ませておいた。・・・・・・全く、何故彼女はあんなに脂肪の塊を胸につけておきながらあのスピードが出せるのか・・・?
個人的には非常に気になる・・・
・・・ゴホン! ゴホン! まあ、兎も角そんなみんなの女神様もとい委員長様が俺の目の前に居て、なんの用なのか? 俺? 何かあなたにしましたっけ?
「七詩、私の子を産んでくれ。」
理解不能な言葉、一瞬の静寂、凍りつく空気、そして・・・・・・
「・・・へ?、今なんて言ったの?」
愚かにも、俺はもう一度彼女に聞いてみる。
「ああ、分かった。七詩、私に子を孕ませてくれ。」
俺を含め、彼女以外の教室内の生徒全員唖然。そして脳が処理しきれなくてフリーズ。俺の脳、再起動・・・
「な、なんだってーー!!」
俺、驚愕、絶叫。
みんな、まだポカーン・・・・・・
「「「何ィィィィィィィィ!!」」」
みんな、やっぱり、絶叫。
■ ■ ■
で、彼女以外のみんなが落ち着いた所で・・・
「ところで、委員長? どうして俺にそんなこと言ったんだい?」
「気になる、気になる。なんで、こいつなんかに?」
友人と共に彼女の動機を聞いてみる。まあ、友人の余計なひと言はとりあえず保留だけど。
「私の七詩をこいつ呼ばわりは癪に障るが・・・それより、七詩。私の事は委員長ではなく青野空美という名前があるんだ。これからは名前で呼んでくれ。」
うん、青野空美さんね。いままで、噂話も含めて全部委員長と呼ばれてたからホント全く知らなかったよ。
「あの〜、話を逸らさないでくれません……」
とりあえず、はぶらかされない為に釘を打つ。
「名前。」
「え?」
「名前で呼んでくれるのなら、私が君に惚れた理由を言おう。」
「いや、先にこっちの質m「 名 前 で 呼 ん で く れ な い か ? 」
「・・・・・・」
うーん・・・・・・これは言わなければいけないのか?
困ったので隣にいるはずの友人に(目線で)助けを送る。
俺(大友〜、助けて。)
大友とは俺の友人のことで。小学校からつるんできた昔からの腐れ縁。
残念ながら、近所同士でもないので、幼馴染でも無い。さっきの友人の余計なひと言も彼が発したものだ。
大友(うるさい! うるさい! うるさい!! 委員長とのフラグなんか何時立てたんだよ!?)
なんか、一瞬何かを彷彿とさせるも、聞き流す。頭に思い浮かばない人はスルーしてくれ・・・って誰に言ってんだ?
俺(しらないよっ! 大体、委員長と面と向かって話すのなんか初めてだぞ。それに、去年は委員長とは違うクラスだったでしょうが。)
大友(いいよ!! お前みたいなモテモテ野郎なんて豆腐の角で頭ぶつけて、ゲイにでも自分の穴掘られてろッ!! 氏ね! むしろ死ねっ!!)
だめだ、まともにとりあってくれない。
そう判断した俺は助けを求めようと、教室を見渡すが・・・
(あああ!! こっちはもっとダメだ!)
どうやら、あまりにも珍しい光景なので、クラスメイト達はみな奇異や羨望等々の視線を送っていた。
今なら、見世物にされている動物の気持ちがよーくわかるような気がする。
「ほら、早く言ってくれないか? あまりに焦らされると我慢が効かない・・・」
残念ながら、委員長は羞恥心という物をどっかに落っことしてしまった人のようだ。
それよりも我慢って・・・何を我慢してらっしゃるの!?
とかなんとか焦っている内に、いつの間にか周りの空気もなんか(もう言っちまえよ〜)とか(ここで言わないとか無いだろ、男として。)とか(氏ね、むしろ死ね。)・・・うん、これは関係ないな。兎も角、そんな空気になってんのだけど?!
いや、理由を聞くためだけにここまでみんな頑張らなくても?! ここまで、グダグダはっきりしない俺も悪いとは思ってるけどさぁ?!
流石にこんな空気になったら僕も言わざるを得ない。
観念したように俺は・・・
「えーと・・・なんで俺なんかにそんなことを? 青野さん?」
「名字じゃない。名前で呼んでくれないか?」
・・・・・・しょうがない。
「・・・空美さん。」
すると、委員長は顔を赤らめながらも
「ああっ・・・イイ!! 凄くイイッ!! ・・・でも約束は約束だな、分かった。言おう。
七誌も話を聞きながら思い出してくれ。」
なんか一瞬目が肉食獣そのものになっていたのは気のせいだ。うん、幻覚だ。
「あれは・・・去年のこの時期の事だ。私は無事この学校に合格し、入学式に出るために登校したのだが・・・」
そして、委員長は真剣な表情になる
「その時君の姿に一目惚れした。」
再び俺の脳はフリーズした。同時に話を聞いていた友人達もフリーズする。一部ではあまりの呆気無さにずっこける奴まで続出。俺だってやりてーよ。
そして、俺は誰よりも一番早く立て直し、委員長に確認してみる。
「まさか、それだけとはいわないよな? な?」
すると委員長は顔をしかめる。いや、こっちが顔をしかめたいぐらいだ。
「失敬な私はそこまでだらしがない女ではない。それに、人を見る目だって自信はある。それに始まりなんて物はそんなものだろ?」
「いや、それだけでは納得が・・・」
苦笑いで答える俺に委員長は二コリを微笑み・・・
「ああ、万が一の為もあるだろうから、最初の一年間は君の行動パターン、性格、癖等を観察して本当に私が選んで正解だったのかをしっかりと調査済みだ。そのところは安心してくれ。むしろ君の事が分かるに連れて私は更に君の事が好きになった位だ。」
あ〜あ、やっぱり爆弾発言。
だれか〜この人に羞恥心と言う物の存在を教えてあげて〜
と、心の中で叫ぶ俺に知ってか知らずか・・・
「君はちゃんと服装もきっちり整えているし、課題や自分のすべき事もしっかりと成し遂げ、他人に左右されないしっかりとした意思もある。それに、君は優しい。見返りを期待せず、ただただ困っている人を見つけると自分のできるだけの事したり、その人と一緒に悩んでくれる。私は君のそのひたむきな優しさ・・・偽善の無い、その綺麗な優しさを無意識に見抜き、惹かれたのだろうな。」
と言い、今度はその調査の結果を言う始末・・・もう、恥ずかしいです・・・・・・
ホントにまさか、そこまでするとは・・・
そこまで思ってくれてること自体は一、男子としては大変嬉しい、全くもって嬉しい事だが、ヘタすりゃこれ・・・ストーカーだよな?
先ほどの言葉を聞いて、無言になる俺。
それを見た空美は、表情を暗くし俯く。
「しかし、よくよく考えたら。これは立派なストーカー行為。幾ら愛する者の為とは言えどこんな事をする女は君は嫌いか・・・?」
といって、上目使いでこちらをチラリ。
ヤバイ!・・・これは・・・・・・ヤバ過ぎる・・・・・・!!
これが泣き落としって奴なのか・・・?!
「だけど、もし君が許してくれるのなら。明日、放課後に返事をくれないか? なんなら無視してくれてもいい。怒ったり罵ったりしてくれてもいい。どうか頼む。」
い、言って何事も無かったように自分の席に戻って行った。
その時の彼女の背中どこか寂しそうに見えた。
「・・・なんてこったい・・・・・・」
そのあとすぐに担任が来て、何か話し始めるも全く耳に入らず、ただただ頭を抱えるばかりであった・・・
前略、まだまだ生きてる父さん、母さん。
どうやら俺は若干16才にして、人生のターニングポイントに来てしまったようです。
■ ■ ■
んでもって、当日の朝。
俺は昨日の出来事にまだ戸惑っているのか、珍しく早起きしてしまった。
二度寝しようとも考えたが、どうもその気がおきないので諦めてリビングに向かう事に。
「おはよう、母さん。」
「あら〜珍しく早起きなのね〜」
と、キッチンで俺の方にパタパタと手を振っているこの女性。・・・そう、この女性こそが我が七誌家の母親である。
驚異の身長140cmを誇り、見た目も性格もおっとりとしたお姉さんな我が母親。
今でも、たまに学生とか女子高生に間違われるらしい・・・・・・
「ちょっと待っててね〜もうすぐ朝ごはんできるから〜」
「はーい。」
と、言いつつも。自分もコップや冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、準備をしておく。
そして、数分後には・・・
「いつもならもうちょっと後に留衣が来てからなんだけど。せっかくだし先に食べちゃおか。」
まあ、いいだろと返す。
ああ、さっき母が言ってた留衣ってのは俺の妹だ。今年で中二になる。
いつもなら、まだ俺が二度寝という誘惑に負けて、惰眠を貪っている時に問答無用で 文 字 通 り たたき起こされるが、今はきっと寝ていることだろう。
「では。」
「「いたただきまーす。」」
うまいこと委員長への答えを一時的に現実逃避して、朝を過ごした俺であったが・・・
「起立、礼。」
「「「ありがとうございました〜」」」
すっかり、今日の授業の終わりまで忘れてましたと・・・
「・・・・・・あ゛ーーーーもう!! なるようになれ!!」
そして、とうとうヤケクソ気味になる。
「おいおい、七誌・・・どうしたんだそんなに慌てて・・・・・・」
そんな俺の姿を見て呆れたのか、大友が話しかけてくる。
俺はとりあえず、現状を報告し助けを求めるも・・・
「あのな・・・俺にそんなこと求めて、仮に教えたとしても絶対に納得いかんぞ。お前も委員長も。あとついでにこのクラス全員も。」
さらに大友は言った。
「それに、大体考えるも何も・・・お前自身は委員長の事、どう思ってんだ・・・・・・? 本当に委員長の事が好きなら好きって言ゃあいいし、仮に嫌いなら嫌いと言えばいいだけだ。要は自分の胸に手でも当てて考えやがれ。」
確かに・・・そう言われればそうだ。何、馬鹿なこと考えてんだ。俺は俺の気持ちを正直に委員長に言えばいい。
「・・・ったく・・・・・・委員長、屋上に向かって行ったぞ。とっとと行ってこい。勿論結果は教えろよな。」
全く・・・今日のお前・・・・・・一番、カッコよく見えるぜ・・・言わねぇけど。
俺は大友に感謝しつつ、委員長の待つ屋上に向かった。
■ ■ ■
「やあ、来てくれたのだな。」
沈んでいく夕日をバックに委員長がいた。
「さあ、君の答えを言ってくれ七誌。もう覚悟はできている。」
と言い、スッと目を閉じる。
「俺・・・委員長の事・・・・・・好きじゃないんだ・・・・・・」
その言葉を聞いて唖然とする委員長。だが、委員長が泣きそうになる前に俺はもう一言付け加える。
「なぜなら・・・高嶺の花みたいな人だから・・・俺なんかとは絶対に縁が無いだろう・・・・・・ってな。」
え? という表情な委員長をよそに更に喋る。
「だからな・・・いきなり恋人とかそれ以上の関係は無理なんだが、まあ・・・その・・・段階を経て付き合っていきたいと思う。」
「・・・・・・と、いうことは・・・?」
委員長が恐る恐る聞いてきた。
「こんなヘタレな答えしか返せない。不憫な男ですが、宜しくお願いします。」
「・・・・・・っ!!」
最後の言葉を言った瞬間、委員長はいきなり抱きついてきた。
よほど心配だったのだろう。若干、泣いていた。
「・・・嬉しぃ・・・嬉しいよ七誌ぃ・・・・・・」
「ごめん、委員長。こんな答えしか出せなくて。」
すると、委員長は顔を上げ
「いいんだ、結果的には私を受け入れてくれたのだ。それだけで嬉しい限りだ。」
「うん、でもこの後も迷惑をかけてしまうかもしれないけど、本当に・・・その・・・俺でいいのか?」
まあ、俺でも図々しいと思うが、俺は俺で心配なんだ。
「ああ、いい。」
「そうか。ありがとう。」
しかし、そんな俺のある意味わがままを真剣な表情で返す委員長を見て俺はもう覚悟を決めた。
絶対に、委員長を悲しませるような結果だけは回避しよう。
「七誌・・・」
少し切なげな声を出しながら、徐々に接近する委員長・・・
「あ、あの〜、委員長? ちょっと・・・顔・・・近いですよ・・・・・・?」
と、委員長に言ってみたのだが・・・
「空美って呼んでくれないとダメだ・・・ったく、そんな奴には罰だ。」
そして、俺の唇が塞がった・・・
って! キ、キ、キ、キ・・・・・・キス〜!?
オイ! オイ! オイ! オイッ!? 早速、俺の導きだした答えの意味が無いって!?
・・・・・・つーか長いなオイッ!! もうかれこれ一分過ぎるぞ!? もう・・・もう・・・息が、息ができましぇぇぇん・・・
なんだこの一昔前の少年漫画みたいなオチは・・・
そんなことを考えながら、俺の意識は酸欠によりブラックアウトするのであった・・・・・・
出来れば、誤字脱字やアドバイスを頂ければありがたいです。
しかし、あくまで第三者としての意見を自分は求めていますので、残念ながらストーリー上の口出しなどはご遠慮願います。
そして、もういちど読者の皆様には大変、ご迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ありませんでした。