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猫被り令嬢は平穏無事に暮らしたい  作者: 星乃まひる
猫かぶり令嬢とマチルダ王女
7/25

猫かぶりたちのお茶会

王宮に集う猫


指定された日は学院の休日で私は母に連れられてギザント王国王宮へ参上した。

夜会は卒業後デビューした成人対象なので知らないが王宮で王女の茶会に出たことはある。

私と母に従うお供は侍女姿のアシュリー、商会担当者と採寸担当のお針子を数名だ。


案内された王女の居室は落ち着いた色合いの緑を基調にした居心地いい部屋だ。母と挨拶をして勧められた椅子に腰を下ろした。

最初に注文を受けた仕立て屋と王女の側近たちが話を終え、やがてそれらの実務的な話が終わると彼らは退場する。


嫁ぐ際の衣装なのだから我が国の特産を用い、贅を尽くしたものが用意される。わが辺境伯家のアラクネ絹で作られるのは確か夜会用ドレスと昼間の歓迎園遊会用ドレスを各一着だと聞いていた。

何が何やらわからない素材名やら、刺繍に用いる植物名やらをニコニコしながら聞いているとふと見たマチルダ様が欠伸をかみころそうとして優雅に扇を開くまさにその瞬間だった。

私と目が会ったマチルダ様は困ったように笑みを浮かべ、私も小首を傾げ笑顔を返した。

完璧姫様と言われるマチルダ様と何だか共犯めいた気持ちになれた。



打ち合わせが無事に終わり、やっとゆっくりとしたお茶会が始まる。

サーモン、キュウリのサンドイッチ、スコーンはドライフルーツとプレーン。スイーツも可愛くて美味しそうでさすがの繊細さだ。

お茶会は大好きだ。全てが上品なサイズでカトラリーを使わないのが私好みだ。

王女と母、私の3人でおしゃべりをしながらお茶を楽しんだ。


「姉上。ご挨拶に参りました。」

姿の良い少年が入ってきた。

「あら、エド。あなた学院は?」

第三王子エドワード様は私たちより年下で文官科の一年生だ。やたらと顔はいいのだが優秀揃いの兄弟の中では顔以外評判を聞かない。

同学年同専攻のキャスパーに聞いたことがあるが何も言わなかった。

「学院は今日は終わりました。」


ん?今日学院があるのは補習再テストのはずだが?母の方を見ると澄ました顔をしている。

「辺境伯夫人が来ていると聞いて姉上のついでに私の服もついでに頼もうと思って来ました。」

「まぁそれはありがとうございます。」

口では嬉しそうに礼を言うが、今日は女性用の針子しか連れてきていないので男性の対応はいささか厳しい。

本来は貴人の相手は前もって申し付けるのが礼儀でもあるし、私たちは商会の平民ではなくあくまで仲介する貴族であるのでこれは相当ぶしつけな依頼になる。

「うん、今何か持っているかな?すぐに見てみたいんだ。」

王子はワクワクした表情をしているがうちは商会ではないのであるわけが無い。母が詫びると

「なんだ。つまらないな。気が利かない。」

王子のやたらと整った顔があからさまに蔑んだ表情を浮かべた。

「エドワード、私のお客様で私の打ち合わせよ。失礼なのはあなだだわ。」

マチルダ様が厳しく言うとエドワード様ははいと素直に言ったが絶対わかってないだろうな、という顔をしていた。

そして私たちが望みのものを持っていないとわかると興味を失ったのか退出の挨拶をするとサッサと部屋を後にした。


「ごめんなさいね。末っ子で甘やかされてしまって子供のままなの。父上がいらしたらよかったのだけど。」

マチルダ様は申し訳なさそうにそう言い、何だか微妙な沈黙が広がってそのままお開き、という雰囲気になった。



「そうだわ、シビル。あなた、シュトライデント植物図鑑に興味があると聞いたわ。先日色刷版が入手できたのだけど興味はあるかしら?」

マチルダ様は柔らかく微笑んだ。ずっと読みたくて手配していたけれど色刷はまだまだ希少で入荷は順番待ちだ。

読みたい。素直に待てば半年待ちである。

母は私の顔色から遠慮は無理だと早々に見切りをつけたらしい。許可するように頷いた。

やがて母は去り、私はまた椅子に腰を下ろした。伴として残ることになったアシュリーは壁際まで下がる。


「シャーロットに聞いたとおりあれを餌にしたら簡単だったわね。」

他の侍女や召使をさげた部屋で王女とマーシアさんはそう言って顔を見合わせて微笑み合う。

やはり出処はシャーロットだったようだ。もっともシャーロットには好きな物を聞いただけだろう。


「ね。単刀直入に聞くわね。あなたには同類の匂いがするのよ。違うかしら?ね、マーシア。」

「『なんだか猫仲間見つけてうれしかったというか…』」

先日の私の独り言をマチルダ様が微笑みながら口にする。

「ね、シビル。あなたも私と同じ、餌のいらない猫を飼っていらっしゃるのでしょ。それも相当にお行儀のいいかわいこちゃんを。」

にこやかに笑うマチルダ様とマーシアさんに私は頷くことしか出来なかった。



「へぇ。そもそもは辺境伯家に家族養子で入るまでは庶民暮らし。」

「はい。そうなんですよ。父はなんだか傍系の傍系とかで一族にギリギリ入ってたというくらいで。私は学院に来るまでトゥモンド育ちです。」


最初は口調も崩さないように気を付けたけど、王女が楽に話したいと言ってくれたし、猫かぶりの辛さやら苦労やらを話しているうちにマーシアさんとマチルダ様とはいつの間にかすっかり打ち解けてしまった。


王女の許可が出たのでマーシアさんも侍女として控えるのはやめてテーブルについている。

アシュリーがいつの間にか給仕として動き始めている。


マーシアさんは母が乳母としてマチルダ様に仕え、自分も5歳から一緒にいるが、さほど身分が高い方ではなかったので猫かぶり令嬢仲間の一人でもあった。


「それにしても物凄く学院に溶け込んでいらっしゃるのね。」

マーシアさんは感心したように言う。

「母と祖母、先代辺境伯夫人の薫陶の賜物です。それに皆さんとても親切で、楽しく過ごしてますよ。」

母は生まれながらの伯爵令嬢だ。どうやらマーシアさんは母の実家に心当たりがあるらしく納得してくれた。

「本当にもう少し早くあなたのことに気が付いていたらね。仲良くできたのに。」

マチルダ様は残念でたまらないというふうにため息をつかれた。

そこは私も残念だと思う。純粋お嬢様育ちのシャーロットといるのもとても楽しいけど、マチルダ様のような共通項のあるお友達もきっと素敵だっただろう。


ほっこりとした気持ちでお茶を楽しんだ私だったけど、帰りの馬車の中では防音結界を張ったアシュリーになぜだかこってりとお説教を食らう羽目になったのだった。


私、何か悪いことしたのだろうか?


猫かぶり王女に猫かぶり令嬢、猫かぶり侍女に猫かぶり夫人。

出る人みんな猫装着

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