表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫被り令嬢は平穏無事に暮らしたい  作者: 星乃まひる
猫かぶり令嬢とマチルダ王女
5/25

王女の告白

類は友を呼ぶ?

キャレルで大きな声で話はできないというので、私はあっという間にマーシアさんとマチルダ王女に談話室に連れ込まれた。


(優雅に退散しようと思ってたのに。この猫が!猫が憎い。)

素直に上位者に従う自分を呪いながら、背筋を伸ばしてマチルダ様の正面に腰を下ろした。

ニコニコとした笑顔で私をじっと見つめるマチルダ様はマーシアさんがお茶を入れ終わるまで一言も話さなかった。


学生食堂にあるには不似合いな上品な青い花を描かれた磁器のカップに注がれた紅茶からはマスカットのような芳香が漂ってくる。キャレルが開いた瞬間こそは天を仰いでいたマーシアさんだけど瞬時に体勢を建て直し、今は全く滑らかな手つきでお茶をいれている。彼女は将来きっと凄腕の女官になるだろう。

そんなことを考えながら、気分はまな板の上の魚である。


「さて。トゥモンド辺境伯令嬢シビル様。何から話しましょうか?」

さっきのぞんざいな話し方は夢だったのだろうか?と思う優雅さでマチルダ様はカップを手ににこりと微笑む。

「マチルダ様、そんな圧迫面接みたいな振る舞いは感心しませんよ。」

背後に控えたマーシアさんがそう言うとマチルダ様はペロリと舌を出した。

「えぇっ。王女らしく威厳を出してみたんだけどいけなかった?」

「手遅れだと申し上げているんです。ご覧ください。シビル様がすっかり固まってしまってるじゃないですか。」

そう言いながらお二人は猫を脱ぐべきか否か懸命に計算中の私をじっと見た。


(あ、これ私の猫はバレてないかな?)

私は内心一息ついたのだった。


マチルダ王女は猫かぶりだった。


それを知っているのは乳姉妹である宮中伯令嬢であるマーシアと乳母であるその母親。それと早くに亡くなった父である王配陛下だけだという。

「もともと私は後継者としてあまり必要がなかったのよ。」

「はぁ。」

「まぁ王女たるべきものやるべきことだけは押さえてるだけなのですもの。」

深刻な話かと思いきや、王女はケラケラと笑った。


長女として弟2人が生れるまで厳しく教育された姉や生まれた瞬間から後継者に定められた長兄とその控えとしての次兄と違い、すべてが緩やかだったそうだ。


さらに3人の姉兄の教育には口を出せなかった父である王配はマチルダ様を掌中の珠として自分の趣味である読書や学問芸術を教え、時に乗馬や狩猟、さらには街にも連れだしたという。

王配様はマチルダ様が10歳の時に亡くなってしまいマチルダ様の楽しい子供時代は終わってしまったけれどある日自分が兄姉と比べられ父が悪く言われていると聞いてマチルダ様は発奮した。そしてその努力が実って今や完璧姫と呼ばれるようになってしまった。


(何という事でしょう。上流階級の常とはいえ母親にさえばれてないとか上には上がいたもんだ。)

と私が感心しきりに頷いているしかなかった。


今日は王城の私室で読むと叱られてしまうような市井のコメディ小説をひっそりと読んでいたという。

王宮では侍女の目もあり猫は常時脱ぐ暇がないという。

「あの笑い声でございましょう。遮音結界の張れるキャレルを手配したのに戸締りしないと発動しないではありませんか。」

もぅっっ!と腰に手を当てて叱るマーシア様と肩を竦め謝るマチルダ様にアシュリーに叱られる自分を重ねてなんだか生暖かい視線で見つめてしまう。


「いや。もう。いう気はありませんから。ご安心ください。なんだか和む・・・。いえ。それではもう失礼してもよろしいでしょうか?」

授業時間終わりの鐘に次の時間は授業があるからと私は辞去を乞う。


どうせ『完璧王女のマチルダ様は猫かぶりですよ。』と言ったって誰も信じてもらえないだろう。いくら私が人気者でもマチルダ様の完璧王女評価は絶対だ。

それにマチルダ王女はどうせあと半年ほどで嫁いで国を出ていかれる。それなら平穏にお見送りして差し上げるのが人の道というものだろう。


(何より私は平和に平穏に生きてたいのだ。卒業したら領地に帰るんだから。)


マーシアさんとマチルダ様は顔を見合わせた後に退出を許された。


「なんだか、猫仲間みつけて嬉しかったというか・・・より疲れたというか・・・。あぁ、はよ帰りたい。」


背後からひそやかに覗いてる視線に気が付くことなく、私は大きく息をついて伸びをした。



「シビル様、なんだか今日はとてもお疲れのようですけど?」

今日は辺境伯家の従僕としての仕事があるという事で朝のお伴の後は帰宅していたアシュリーがしっかりメイド服で迎えに来てくれた。

教室で荷物を渡した時点で不思議そうな顔をしていたけれど馬車に乗るとさっそく聞いてきた。

やはりアシュリーには顔色で気が付かれてしまうようだ。

「まぁ・・・いろいろあったけど。言えない。言ったらダメな気がする。」

そう言って口の前で指でバツ印を作る。

「はぁ・・・。シビル様、どうにもならなくなってから泣きついてこないでくださいよ。」

アシュリーはものすごく嫌そうな顔でそう言った。

王女様も猫かぶりでした。

シビルはごまかせたと思ってますが、しっかり背後で見られてます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ