出会いは突然に
繋ぎが悪くなったので短めです。
出会いは突然に訪れる。それはもうこちらの都合も何も全く考慮せずに。
その時間、私は選択していた国際経済学の授業が休講になり一人で本を読みに来ていた。
学院高等部になると授業は選択制になりクラスメイトとも同じ授業を受けないことがある。
経済学の授業はどちらかというと中級貴族で女官吏として王宮政庁勤務希望者が良く選ぶ授業なので特に親しい友人もいなかったからだ。
さすが貴族の学院だけあって図書館のキャレルはそれぞれに防音と障壁の魔法が施され、中で誰が何を読んでいるのかわからないようになっている。
受付でキャレルの予約を確認すると一件の申請が出ていたが他に利用者はいないようだった。
私が利用されているキャレルとは反対の端っこを選んでドアノブに手をかけようとした時、何やら奇妙な音が私の耳に飛び込む。
「くくっくっくっく・・・・いやっはっはっはっは。」
(はて?なんだ?この笑い声は?笑ってるのか?風の音?何か魔法陣とかの破損?)
ドアノブに手を伸ばしかけたまま私は思わず首を傾げた。
だって品が良くて、可愛らしくて、育ちが良くて、鈴を転がすような笑い声が定番なこの学院で「それ」を笑い声に認識する機会なんて今までなかったからだ。
(別に笑い声が「おほほ」「うふふ」「くすくすくす」だけでないことは知ってるけど。いかん、親しみがありすぎる笑い声だ。)
やめておいた方がいいという心の声は聞こえていたけど、好奇心には打ち勝てず私はそっと音の源のキャレルに近づく。
「いやっはっはっは。もう何なのこれは・・・・泣く。泣ける。お腹痛い。」
間違いない、空見じゃなかった。
どうやら施錠が不完全で遮音魔法陣が作動しきっていないようだが、そんなに笑うほど面白いものってなんだろう?
遮音魔法陣が作動していないという事は、障壁も当然作動していない。だから上手く行動すれば相手に私の動きを察知されることはないだろう。
大丈夫、気配をうまく消せば中の人には気が付かれるはずがない。
キャレルの中からあふれ出すどうやら猫飼い仲間のいそうな気配。さんざん逡巡し隙間に顔を近づけようと腰をかがめた瞬間、
「あなた?私のキャレルに何か御用がおありなのかしら?」
急に背後からかけられた声に文字通り飛び上がりそうになるが、なんとか堪える。
中の人には気が付かれないかもしれないが、普通にキャレルを除こうとしていたことは紛れもない真実である。
(まずい。このままではキャレル覗きの不審者・・・。辺境伯家の名誉にかけて・・・ごまかしだ!!)
いかにも落ちていた物を拾い上げていたように、すっと身を起こし相手に向き合う。
私に声をかけてきたのは制服から察するに最上級生らしい。背の中ほどくらいのクリーム色の髪をゆるく編み込んで垂らし褐色の瞳にはものすごい警戒心を抱いているのが見て取れる。
「あ、あの大変失礼いたしました。こちらのキャレルをご予約なさっておられたのでしょうか?私、ペンが転がってしまいまして。」
「そうでしたの。見つかりまして?」
安心したように彼女が聞く。
「それが勘違いのようでした。後で侍女と探しに参りますわ。」
そう言ってさりげなく去ろうとした。
「あなた・・・たしかトゥモンド辺境伯の御令嬢シビル様でいらっしゃいません?」
「はい。左様でございます。大変失礼いたしましたわ。では、私はこれで。」
丸く収めて立ち去ろう・・・とした瞬間、また
「もうっ。これ何なの。最高じゃないのよ!!」
笑い声が聞こえ女生徒ははっきりわかるくらいに顔色を変えてキャレルの扉に飛びつき、勢いよく扉を閉めようと・・・したが間に合わなかった。
「あ、マーシア。遅いよ。ちゃんとお菓子持ってきてくれた?」
マーシアさんの奮闘も空しく内側から勢いよくキャレルの扉が開き、中から一人の令嬢が姿を現した。
「「・・・・マチルダ様・・・・」」
「あら・・・。マーシア・・・だけじゃなかったのね。」
驚愕と諦観の二重唱で名前を呼ばれたその人は完璧令嬢、究極の姫様と呼ばれる我が国第二王女マチルダ様だった。
猫かぶり仲間の登場です。
最上級の猫ちゃんw