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猫被り令嬢は平穏無事に暮らしたい  作者: 星乃まひる
猫かぶり令嬢とマチルダ王女
2/25

タウンハウスのお嬢様 (前)

自宅の猫かぶり令嬢・・・


学院の登下校は馬車が使われる。駐馬車場の使用やはり身分の順番になっていて、中下級の場合は火急の用がない限りは馬車待合で待つことになる。

辺境伯という高い身分になる私はなるべく早く馬車に乗って学院を後にしなければ他の生徒たちの帰宅時間がどうしても遅くなるから放課後のおしゃべりなどは夢のまた夢だ。


(お腹すいたなぁ。早く帰ってエメ(料理人)のオヤツが食べたいな~。今日は苺のタルトだって言ってたもんね。)

なんて考えている私には願ったりかなったりのシステムでもあったけれど。


大陸中央の国ルシアナとの国境山岳地帯を広く領土とする辺境伯家は代々武門の家として栄えるばかりでなく山裾の高原から産するワインも名産で大陸中で高値で取引される。

さらに今では母が取り仕切る織物がわが国だけでなく各国に輸出もされるというぶっちゃけ『お金持ち』である。


父は辺境伯家の傍系の傍系、もうほとんど庶民という家に生まれ辺境伯家国境警備隊の魔獣殺しとして活躍していた。

そこで勤務中に『魔獣慣らし』という特殊能力のために実家で嫌われついに追い出された母と出会った。

母の能力は王都官僚貴族では嫌われても辺境では威力を発揮し辺境伯領の長年の魔獣問題を解決。若い二人はやがてその勢いで結ばれた。

そして跡継ぎがいない辺境伯家を義祖父曰く「生きた金の使い方」という半ば戸籍ロンダリングもどきで な裏技を使い養子入りし継承した。

今や悠々自適である先代辺境伯は夫婦ともに気さくな人柄で遠縁の私たちを子供の頃から本当の孫のように可愛がってくれた。


学院家政科でボロが出ないのは緩いけど礼儀に厳しい母と義祖母の教育と・・・

「シビル様、タウンハウスに向かう馬車の中とはいえそのようなお振る舞いは下の者に示しがつきません。」

銀縁眼鏡の奥でアイスブルーの瞳を光らせる有能使用人アシュリーのおかげだったりする。

貴族子女たるもの通学の馬車の中とはいえ付き添いもなく移動するなどあり得ない。

通学の馬車には乳母だったり専属メイドだったり家庭教師だったりが同道し教室まで荷物を運ぶと学院内には用意された控室でそれぞれ過ごし、休み時間などに用がないか尋ねて仕事をしたりする。

下校時になると彼女たちは授業が終わるくらいに教室の外でお嬢様を待ち、お嬢様の荷物を持って馬車に乗りともに屋敷へと帰宅する。

今日もアシュリーはそこでシビルの帰りを待っていたのだろう。


「壁に耳あり、と申します。馬車の中でもご油断なさいませんように。」

「はぁい。」

「お返事は短く元気に気持ちよくなさいませ!」

アシュリーにそう叱られて私は肩を竦めた。

(・・・爺やのように口やかましいな・・・。ってうち爺やはいないか。いや、馬車の中でも侍女としての姿勢を崩さないアシュリーを見習えってね。)

そんなことを考えながら私は空腹をこらえつつ帰りの馬車に揺られているのだった。


「お帰りなさいませ。シビルお嬢様。」

学院から帰宅すると辺境伯家のタウンハウス有能執事のデビッドを筆頭に出迎えを受ける。

王国の貴族たちは広大な領地を所有し、そこからの税収や地代で生計をたてることを主とする層と国家の要職に就きその収入を元に投資や小さめの領地で生計をたてる貴族がいて、後者は自宅が王都にあることが多いが前者は正式な自宅は領地にあり、王都では借り上げた館に住むことが多い。

ただ公爵家や豊かな貴族はタウンハウスと呼ばれる自宅を持っていることも多い。

我が辺境伯家は王都での交易活動などの拠点として自前のタウンハウスを所有していて私と弟のキャスパーはむしろこちらが本拠地だ。

今は辺境伯の主要産業の関係で母がこちらに一緒に住んでいて父は寂しいとよく手紙を書いてくる。


脱ぎ着にいちいち人手がいる制服を部屋づきメイドに脱がせてもらい柔らかく動きやすい普段着に変わる。

制服を手入れするために出ていくメイドと入れ替わりに濃紺ワンピースから従僕の衣装に着替えたアシュリーが姿を現した。


そう、私に『侍女』として通学時についてくるアシュリーは実は男性だ。

侍女姿のアシュリーは別段女装好きではない。業務上「しかたなく」女性の格好をしているだけだ。

アシュリーは気がついた時は家にいたと思う。父に聞いたら魔獣退治に向かった村で拾ったと言った。5歳くらいで父以外にはしばらく懐かなかったらしい。

母と出会った時は7歳くらいであまりに一緒にいるので母はしばらく父の子だと思っていたそうだ。子持ち男に見えていたと知った父はけっこうショックだったと教えてくれた。

そんなアシュリーはやがて父が結婚し母が魔獣問題対策で忙しかったので私や弟の子守りをするようになり現在に至る。

本来なら弟に着くべきなんだろうが弟は初等科なんかとっくに飛び級して研究室にいる。

「俺はどこでもうまくやれないわけがないけれど姉上の相手は普通の女性メイドじゃキツすぎる。てか気の毒だけどアシュリーにしか相手ができないと思う。」

という意見に家族満場一致でアシュリーの女装侍女生活が始めることが決定したわけだけど、人を考えなしか何かのように言わないでほしい。

私もそこそこそれなり優秀な学生なんだが、キャスパーは規格外だ。つくづくあれが弟でよかった。あんなのと比べられたら性格が歪む。というか今でも十分素晴らしいんじゃないか?えらいぞ、私。


「アシュリー、小腹空いたんだけど。」

「は?ランチにあれだけ食べて?」

先ほど馬車に乗っていた時とはころっと違うアシュリーの口の利き方はアシュリーも餌のいらない猫を飼っているからだ。

「お嬢様ぶりっこで食べたから足りない。」

今日のお昼ご飯はシャーロットとともに用意したサンドイッチと冷製肉だった。公爵家の料理人はとても腕が良いけどシャーロット二人分と見積もっても私には少ない。

私の答えにアシュリーは肩を竦める。

「あの量ならシビルなら秒だな。だけどこれから夕食だぞ。それも食べるんだろ?」

今日の夕食は実家から届いた鹿の熟成肉の予定だから食べすぎはやめろと言われた。

熟成肉、それもエメの作る絶品料理・・・・。悩む。

「ダメなの?ちゃんと動くよ。」

「いや、そういう問題ではなく。」

腕を組んでアシュリーは呆れたというように表情をして見せた。

「もうすぐ夕食ですからエメにはお茶と軽い食事を用意させます。そのかわり食べたらきちんと日課を果たして頂きますよ。」

「やったぁ。アシュリー。話が分かる。」

私が手を叩いて喜ぶとアシュリーは肩を竦めた。







有能なお目付け役、アシュリーのメイド服はいわゆるピラピラは無理なので、きっちりハイネックに足まで隠れるロングワンピです。長身なので鍛錬ついでに足を曲げて歩いてます。


シビルは栗色の髪に濃い青の瞳です。一人称にしたらなかなか書けないのでここで。

(誰に必要?情報)

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