勇者の処遇
次に目を覚ましたとき、最初にセーヤが感じたのは肌寒さだった。
怪我は手当されてあったが、激戦のあとを未だ引き摺る身体は回復しきれていないようで気怠い。
寒さを感じたのは上半身裸の状態だったからだろう。
そこは薄暗く、窓から僅かに差し込む光が現在は日中であることを教えてくれていたが、それ以外に灯りはない。
夜になったら真っ暗闇に覆われるに違いない。
冷たそうな石造りの壁。窓には格子。そして重たそうな鉄製のドア。
かろうじて頭だけは起こせたので、部屋を見回して得た感想は“牢屋みたい”だった。
しばらくすると、鉄製のドアが鈍い音を立て開かれた。
入ってきたのは王と魔法使いの姫だった。
最後に見た魔法使いの姫は魔力切れ寸前で蒼白い顔をしていた。
入って来た姫の顔色はとても良さそうだ。出会った当初のように美しいドレスを纏っているのを見るに、完全回復したのだろう。
彼女が無事でほっとしたセーヤだったが、今度は彼女の表情が気になった。
冷ややかな眼差しでセーヤを見ていたのだ。
旅をしていた頃に向けてくれたものとは正反対の性質を持った視線がセーヤを突き刺す。
王も王で、娘と同じ目をセーヤに向けている。
どうしてそんな目で自分を見るのだろうか。
感謝されることはあっても、そうされる心当たりが全くない。
まず王から口を開いた。
魔王討伐の功績を讃える言葉と身体を労る言葉が掛けられる。
次に、騎士の死が告げられた。
聖女が死んだ今、やはり彼を救えるものは誰もいなかったのだ。
その話だけはセーヤの心をさっくりと切り込み、深い悲しみを与えた。
もしかして、騎士の死を悲しんでの表情なのだろうか。神殿の襲撃といい、傷ましいことが続いている。
しかしそうは思ったが、やはりどう考えても二人の表情はそれとは一致しない。
なんだかおかしい、と思いながらもそれを口にすることはせず、セーヤは拘束の意味を問う。
王の言葉の中に、セーヤの状況に関連するものは見当たらなかった。
それに功績を讃え労った割には、心は感じられなかった。本来はあたたかいはずの言葉はセーヤの耳に冷たく入り込み、どこにも残らず抜けていったのだった。
セーヤは王の言葉を待った。
聖女の死を告げたときのように、王は静かに、そして低く告げた。
──我が娘に、無体を働いたそうだな。
セーヤは意味が分からなかった。
無体を働いた、その意味はわかる。
自分がどうして姫を?
彼女は自分を好いていたはずだ。あの夜、彼女は確かに嬉しそうに微笑んでいた。
だからセーヤは王の言葉を否定した。そんなことはしていない、姫も望んだことだったと。
反論してきたのは姫だった。
それは真っ赤な嘘だ。
私はそんなの望んでいなかった。
勇者は聖女と恋人だった。
会えない寂しさと欲望を募らせて私を捌け口にしてきたのだと、もっともらしい虚言を言い放った。
まるでゴミでも見るような目をセーヤに向けながら。
嘘だろ、とセーヤの口から言葉が漏れた。
聖女を喪い、共に戦った仲間も亡くし、セーヤの希望は自分を慕ってくれていたはずの姫だけだった。
それが突然の裏切りにガラガラと崩れ去る。
茫然として言葉を失うセーヤに、王は更に告げる。
これは不敬罪に値する。
たとえ国を救った勇者であろうと、見過ごすことはできない。
──よって、そなたを刑に処す。
セーヤに与えられた残りの時間は、三日だった。
まだまだ勇者側が続きます。