勇者の帰還
強大な魔王の力は、決戦の場となった大地を大きく抉り、勇者一行以外の生命を途絶えさせた。
さすがに勇者一行も無傷とはいかず、激しい戦いとなった。
どれだけ傷をつけようと弱まる気配を見せない魔王に苦戦。
猛攻をどうにか躱し続けようやく見出した魔王の弱点に、騎士の決死の特攻で生じた僅かな隙を突いて、セーヤはトドメを刺すことができた。
この際、セーヤも重傷を負ったが、特攻した騎士の方が酷かった。
片腕を失くし、腹部を貫通する傷を負ったのだ。
戦いが終わった頃には息も絶え絶えで、か細い命のともしびは今にも消えそうだった。
魔王にはペットの飛竜がいた。手荒く扱われていたようで主を殺した勇者たちを見て怯える様子を見せたが、敵ではないことをどうにか知らせ懐柔することに成功した。
そしてセーヤは飛竜に乗って始まりの地である王都へと戻ることを決めた。
騎士の傷は、魔法使いの姫の治癒魔法では癒やしきれない。
それならば一刻も早く王都へと戻り、神殿にいる聖女の力を借りようと考えたのだ。
共に戦い続けた仲間をミコトなら助けてくれると信じて。
セーヤがどうにか守りながら戦った甲斐あって、姫はほぼ無傷だった。
回復薬も優先して彼女に投与し、飛竜の上で定期的に騎士の命を繋ぎ続けた。
一年と少しかかった旅路。
魔王がいなくなったことでモンスターは消え、安全な道中となった帰路は三日程度で終着した。
セーヤ一行が王都に降り立ったとき、飛竜の出現に王を始めとする人々は驚いていたが、セーヤたちの姿を見つけていっせいに安堵の表情を浮かべていた。
例え安全な道中となろうと、激戦を終えたばかりのセーヤたちは衰弱しきっていた。
騎士を治癒し続けていた姫も、魔力切れで意識を失いかけていた。
城へと急ぎ運び込まれていく姫と騎士を見送り、自身も衰弱しているのに耐えながらセーヤは聖女の名を呼んだ。
しかし聖女の名を聞いた途端、王は苦しげに顔を曇らせた。
静かに王が告げたのは、聖女──愛した恋人の死であった。
セーヤたちが魔王に挑んでいる頃と時を同じくして、神殿が襲撃にあったそうだ。
聖女の祈りの力を狙った魔王の手先によるものだった。彼らはどうやってか神殿の結界を破り侵入してきたのだ。
襲撃に気づいた王国兵たちが駆けつけた時には、既に惨劇は終わっていた。
神殿内は荒れに荒らされ、あちこちが崩れ、夥しい血の量と無残な死体が転がっていたそうだ。死体のほとんどは見るに堪えられないほどに原形を留めていなかったという。
聖女がいたと思われる部屋にも、血の海が広がっていた。
だが、そこに聖女と思われる死体は無かった。
──恐らくだが、と王が続けた推測は、指先ひとつ残さずモンスターに食われてしまったのだろう、とのことだ。
神殿には大きなモンスターの足跡があったという。人間ひとりなら丸っと飲み込めてしまえそうなほどの。
頭が、ぐらりと揺れた。
それらを聞き終えたセーヤは、脳内に闇が広がるような感覚を覚えた。
信じられなかった。
愛した彼女がもうこの世にいないなんて。
彼女がいない、ということは、聖女の力も借りられず共に戦った仲間を失うことも意味している。
ずしんとした重みが心にのしかかる。
そしてそのまま限界を迎えてしまったセーヤは、その場に膝を付き倒れ伏したのだった。
次も勇者視点となります。