勇者の充実
勇者の旅は順調だった。
一年も経つ頃にはセーヤも戦いに慣れ、先陣を切って敵へ立ち向かうようになっていた。
聖剣でモンスターを斬り捨てる爽快感。
仲間と連携して強敵を倒す一体感と達成感。
行く先々で『勇者様』と讃えられる悦びは、セーヤの世界を狭めていった。
町の外はどうしても危険で、出かけるのに護衛なしではあり得ない。
それに全ての町民に護衛を雇えるほどの財力があるかというと、そうでもなく。その上、護衛がいたとしても危険なことには変わりない。
だから人々は極力町の外に出るのを避け、聖女の祈りが続くことを祈りながら閉塞的な暮らしをしていた。
人々の顔は、不安と怯えで暗く、笑顔をもない。
セーヤはそんな人々を見て、思う。彼らに笑顔をあげたい、と。
旅を続けていくうちに、段々と共に異世界に召喚された恋人の存在を思い出さなくなった。
向こうは安全な環境で暮らしている。世界の人々の様子を見ることも、戦うこともなく、護られた環境で祈るだけ。
聖女の祈りが届く各町の聖核に、異常は見られない。それが何よりの証拠だ。
その互いの環境の対比が、よりセーヤの世界を狭める。ならば、少しくらい羽目を外してもいいのではないかと思うようになったのだ。
魔法使いの姫がセーヤに好意を抱いていることは誰から見ても一目瞭然だった。
彼女の好意をセーヤは前向きに受け止めていた。
騎士も騎士で、姫の好意が勇者に向かう事を良しとしていた。
町に泊まる時には、彼は若い二人に気を遣って出かけていく。彼は彼で他で愉しんでいるようだった。
二人きりの時間が増えた。
そして、もうすぐ魔王がいる領域に辿り着こうとしていた。
そうなれば、町で泊まることもなくなる。
危険は格段に増え、今までのようにはいかないだろう。
敵も魔王直属の支配下だけあって強力だ。命を落とすかもしれない確率がぐっと上がる。
セーヤは魔法使いの姫に言った。
────俺が必ずあなたを守り通してみせます、と。
魔法使いの姫は喜んで頷き、二人きりの夜は更けていった。
それから三ヶ月後のことである。
世界は魔王の支配から解き放たれた。