間違った幼馴染
凶暴と言うか、肉食系と言うか…
荒々しい幼馴染が俺にはいる。
自分の生活が好調のときは一切連絡とかよこさないのに、いったんつまずくと、泣き言、もしくは猛り狂った雄叫びを聞かせに俺の許にやってくる。
困っちゃうんだよねー
あいつそこそこ美人だから彼女に誤解されたりして。
高校生のときの彼女と、働き始めてすぐ付き合った娘はそれが原因で別れた。
俺、ほんわかした娘が好き。
どっちかというとおとなしくて、雰囲気のいい娘が。
だから歴代の彼女はみんな小動物系。あいつとは真逆の。
でも付き合ってみると、この世にほんわかした女なんかいないって事実に気付かされる…
基本みんないろんなことに鋭くてヤキモチ焼き。
そう言う意味では女って一種類だよね?
一人まったり過ごしていたある夜、突然ヤツがやってきた。
「なーお願い、加奈子、もう帰って。
マジ今の彼女ヤキモチ焼きだから女部屋に上げたのバレたらヤバイ。
女子会終わった後急に訪ねて来ることもあるし…
だいたいお前さー、同じ会社のやつと付き合うリスクなんか初めからわかってたことだろ?
乗り換えられた女がこれまた社内の女ってのはキツイけど」
「別に男に未練はないのよ!
ただ社内で他の人の話の種にされているのが耐えられないのっ!私が捨てられたみたいに言われてるのが、い!や!な!のっっ!」
「だ、か、らー最初からそういうリスク有りきでしょ?社内恋愛って」
俺がそう諭したら加奈子は「悔しい!悔しい!悔しい!!」と叫んだ。
わー、すっげぇ形相。
鬼みたい…
夢に出てきそう。
「ね、マジ帰って?」と言う俺の嘆願に「薄情者…人がこんなに弱ってるときによくそんなことが言えるね」と加奈子は応える。
ふ、弱ってる人の顔してないけどな…
「大丈夫、大丈夫、弱っていてもアンタ人並み以上のパワーがあるから、小学生のときから」
そう、こいつとは小学生のときからの仲なんだよな…
「はあ…小学生のときなんか京一全然女子に人気なかったのに…なんであんたに彼女とかできるんだろう…?」
京一のくせに生意気だとでも言いたそうな口ぶり。
俺は勉強ができるだけの目立たない子供だったもんな…
小学生生にとって勉強ができるって大したアドバンテージじゃなくても、年を追うごとにその価値は上がって来るんだよ。
社会に出たら勉強が出来ることによって得た椅子に座って手に入れる報酬が自信を生むし。
モテはしないけど、女の子と付き合うことはふつーにできるんですよ。
「ハイ、NGワード出た、強制退去」
そう言って、俺は加奈子の腕をつかみ玄関に連れてゆき加奈子とバックと靴を廊下に出した。
で、速攻鍵かけた。
「薄情者っ」と小さく短く加奈子が叫ぶ声がした。
それを無視していたら気配が消えた。
帰った?帰ったよね。
大丈夫だよな、うん、まだ電車あるし。
それに吐き出したいことは一通り吠えただろう。
前の失恋よりは今回の方が傷が浅そうだし…
はーせっかく予定のない週末の夜、一人まったり過ごしていたのに突然の嵐に見舞われた感じ。
ん?実際なんか風強くなってきたな。
窓のサッシがガタガタうるさい。
…
加奈子…
強引に追い出して悪かったかな?
はは、まあ風に飛ばされるようなややつじゃないから大丈夫か。
例えば、普段からそこそこコンスタントに会うような仲だったら俺ももう少し親身になれる。
だけどあいつが連絡よこしてきたの二年ぶりだよ?
人付き合いって地道なメンテナンスが必要でしょうが。
そういうこと全然わかってないよな。
この部屋はお前の実家じゃないっつーの。
傷ついたときに甘えさせてもらいたければ、日頃の根回しってもんが必要だろ?
たまには飲みに誘ってくるとか、さ。
…普段は俺のことなんか忘れてるくせに。
加奈子、お前は何かを間違えている。
そして多分それは俺も同じ。
今の彼女との結婚を考えないわけではないんだけど、いまいち踏み切れないのは…
俺が結婚してしまったらお前の緊急避難先が無くなってしまうような気がしてるからだ。
そんな理由で彼女にプロポーズできない俺はやっぱり何かを間違えてるよなあ?