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7.イブキのメモワール➆



 7.イブキのメモワール➆



 練が教室に戻ると、もう数人の生徒が集まって談笑をしていた。

「おっ、レン! おはよう!」

「おはよう、レン君」

 二郎とエミリの二人もすでに学校に到着していたようだ。

「ああ。おはよう」

 練は二人の元へ向かう。二郎は相変わらず眠そうにしているし、エミリは相変わらず変わった髪型を維持している。

「おはー。レン君!」

 練の背中がいきなり突き飛ばされる。びっくりして後ろを振り向くと、そこには小さな女の子が居た。金髪に染めた髪を二つに結んでいる、そして、それを止めているリボンには、大きな蝶のアクセサリーが左右一対になって付いている。どこから見ても高校生とは思えない少女。彼女の名は――

「だ、誰だ? お前?」

 思い出せなかった。そんな少女には覚えがなかった。金色の髪をしていれば、他のクラスだって気がつくはずだ。

 もしかしたらイブキの話していたメモ……その考えを二郎が断ち切った。

「おいおい。お前寝惚けてんじゃねえのか? 幼なじみのエイラちゃんじゃないか」

「あ?」

聞き覚えのない名前だった。

 もしかしたら、イブキの記憶だけでなく、この少女の記憶も消え去っていたのかもしれない。とにかく、二郎が知っているというならば、それを知っている風にするのが安全だろう。都合よく名前を教えてくれた二郎に感謝しながら、すぐに練はエイラと呼ばれた少女に謝った。

「悪い悪い。そうだった。あまりにも小さいんで妹だと思った」

「レン君の妹、まだ小学三年生じゃない。流石にそれを言ったら可哀想じゃない?」

「ほんとだよ! ひどいんだねーレン君!」

 つんつんと練の胸を突く少女。どんなに正面から見ても、やはり練の記憶の中に、この少女のことはなかった。

「じゃ、私は忙しいから。ばいばーい」

 そういうと、エイラは他のクラスの友人のところへ向かっていった。

「朝から元気だなあ。俺なんか眠くって仕方がねえよ」

 二郎が大あくびをすると、それに釣られてエミリも小さなあくびをした。

「私だって流石に眠いわよ。試験が終わったら、もう学校なんて来ても来なくても変わらないし。早く冬休みにならないかなあ」

「へっ、別に冬休みになったって彼氏なんていないんだから、急いでやるもんでもないだろ」

「うるさい! 二郎にそんなこと言われたくないわよ! 何回振られたんだっけ。五回? 六回だっけ?」

「四回だ! 四回……そっかあ。俺、そんなに振られてたんだ……」

 再自覚して、二郎はしょんぼりと肩を落とした。

「あっはっは。だっさいの」

「うるさああああい! 頭にドーナツ付いているクセに! このミスドーナッツ! クーポン券使うぞコラ!」

 そう言って何故かポケットからクーポン券を取り出す二郎。

「お、気が効くじゃん。ありがと」

「まだあげるとは言ってない! やめろ! 返せ、かえせええええ!」

 二人がはしゃいでいる間、練はあのエイラという少女のことを見ていた。

 確かにイブキが記憶を取り戻してくれた。それなのに、まだ練は記憶の檻の中に閉じ込められているような気がした。

 イブキと同じように、みんなが知っているのに、自分だけ知らない。

 エイラは、本当に存在する人間なのか?

 その時、ホームルームのチャイムが鳴り始めた。学校の生徒たちが一斉に席へと戻り始める。ふと練はイブキの席のほうを見た。まだ戻ってきていなかった。

「イブキはまだ来てないのか」

 イブキならばエイラの違和感について答えてくれるかと思っていた。イブキのことだから、仕事熱心にアブラハムだかなんだかを探しているのだろう。練がそう思っていた矢先、二郎とエミリが首をかしげた。

「イブキって誰のこと?」

 その時、エイラが席についたのが見えた。そこはイブキの席だった。




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