Farewell
「うまくやれるさ」と少年の肩を叩いた人は、あっけなくこの世を去った。
少年がそれを叶えるよりもずっと前に、なんの言葉もかわせないまま。
白い卵型のカプセルに入れられたその人は、なんてことないように船へと乗せられる。
少年は宇宙服を着て、葬列に続く。
一団は、その人を見送る最後の旅に出た。
窓の外はどこまでも星ばかり。
得体の知れない感情に思考を奪われて、少年は別れの歌に耳を傾けるしかなかった。
これからどこへ行き着くのだろう。
自分が、あるいはその人が。
別々の場所に行くということしか、分からなかった。
嘆いても祈ってもその時は来る。
ずいぶんと遠くまで来た。
何かの空洞に取り残されたような宇宙で、星ばかりが遠くにちらつく暗闇で、宇宙船のドアが開いた。
その人の近しい人々によってカプセルは運び出され、真っ黒な夜ばかりの海へと浮かべられる。
もうきっと、あの外に出てしまえば上も下もないのだろう。
鉛の詰まったような少年の頭に、そんな考えがぽっかりと浮かんだ。
船は母星を目指して還る。
白いカプセルは人工衛星のように静かに流れて行きながら遠ざかる。
少年はいつまでも、窓に顔を張り付けてそれを眺めていた。
船の中は夜霧のような静寂に包まれていた。
ふと気がつくと、視界の下にはもう母星が迫っていた。
ぼくらは ここにかえるんだ。
音もなくそう呟いた時、少年の中の何かが水風船のように張り裂けた。
(もう あのひとはかえらないんだ。)