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外伝9 竜騎士との出会い

 巨大なカブトムシが暴れていることを知らせると、ルキウス王子が、

 「大変だ! みんなを助けに行かなきゃ!」

と叫んで、いきなり森の奥へと突っ走っていった。

 「「王子! まって!」」

 俺と春香が叫ぶが、王子はそのまま森へと入っていった。


 「いかん! 先に行く! 春香はこの物をアイテムボックスに収納してから来てくれ!」

 「わかったわ!」

 春香の返事を聞いて、あわてて王子を追いかけて森の中へと突入した。

 森の木々の間をできた小道を走る。木々を通り抜け、藪の枝に服が引っかかるが強引に突っ切っていく。


 カブトムシが暴れているであろう音が断続的に聞こえてくる。

 「王子! 止まって!」

 視界に見えない王子に呼びかけるが、返事はない。焦りがつのるが、とにかく走り続けた。


 森の木々が途切れ、広場みたいな所へ飛び出る。

 そこには、カブトムシと対峙する王子の姿があった。

 あわてて駆けつけて、王子の前に飛びだす。


 「ナツキ!」

 「王子! だめです! ゆっくり下がって!」

 目の前のカブトムシが、急に現れた俺を見つめている。どうやら警戒をしていて、いきなり襲ってくるようではない。

 王子が離れていくのを背後から感じる。俺はカブトムシに全神経を集中しながら、じりじりと興奮させないように後ろに下がりはじめた。


 そこへ春香が森から飛びだして、王子を抱え込んだ。

 「王子! よかった! ……な、夏樹!」

 安心したのもつかの間、カブトムシと対峙する俺を見て叫び声を上げている。

 ……頼むから刺激しないでくれよ。


 とその時、はるか上空から、

 「きゃああぁぁぁぁぁ」

と女性の叫び声が聞こえてきて、何か質量のある物が降ってきてカブトムシの頭に直撃した。


 ボゴオッ。


 ものすごい音がして、カブトムシの頭が地面にめり込む。激突したところの甲殻がひび割れている。


 落ちてきたのは鎧に身を包んだ金髪の女性で、カブトムシの頭がクッションになって、大きくバウンドしてふんわりと落ちてきた。


 両手両足をバタバタしながら、女性は地面におしりから落ち、慌てて四つん這いになって離れていく。

 少し離れたところでおしりを押さえながら、

 「いたたた……。あー、死ぬかと思った」とつぶやいて、立ち上がって空の一点を指さした。そして、息をすうぅぅっと吸って、

 「ユーミ! 覚えてなさいよ! 私の剣を返してもらいに行くからね!」

と宣言した。


 つられて空を見上げると、そこには大きなプロペラの着いた、UFOキャッチャーのような機械が遠ざかっていくところだった。

 「な、なんだあれ?」

 思わずつぶやきつつ、カブトムシを見ると、カブトムシはどういうわけか白目になって泡を吹いて気絶していた。手足がぴくぴくと震えている。

 女性の方を見ると、女性は鼻息荒く腕を組むと、そこではじめて俺たちを見た。

 あれ? この人、頭に大きな巻角まきつのがついている。


 恐る恐る、

 「あの。怪我は大丈夫ですか?」

と尋ねると、女性はにっこり笑って、

 「大丈夫ですよ! こう見えても竜騎士なんで体は頑丈ですから。……ええっと、私はシエラです」

と言った。


 改めて見てみると、春香より背が高く俺と同じくらいありそうだ。色白で結構な美人。きりっとしてるけど、あどけさなの同居した感じだ。鎧で体型はよくわからないが、手足はほっそりとしていて竜騎士とはとても見えない。年の頃は……、10代後半ってところか?


 俺は握手をしながら自己紹介し、春香と王子を紹介した。

 「え? ポプリ王国の王子?」

 王子の名前を聞いたシエラが驚きの声を上げた。

 その時、背後からカブトムシが身じろぎする音が聞こえた。……まだ目が覚めていないようだが、離れた方がよさそうだ。

 俺たちは、いそいそとカブトムシから逃れるように森の奥の小道へと進んでいった。


――――。

 歩きながら、シエラ――呼び捨てて呼んで欲しいとのこと、から詳しい話を聞いた。

 どうやら彼女は、旦那さんである主君の命を受けてこの森に来たそうだが、森の奥にある町でユーミに隙を突かれて剣を奪われ、あのプロペラ・キャッチャー――と命名した、に捕まって運ばれたそうだ。

 王子が「太陽のオーブ」を取り戻すために向かっていると聞いて、心を動かされたのだろう。自らの剣のこともあり、一緒に行ってくれるそうだ。

 武器のないシエラさんには王子の護衛(子守)を頼んで、もし魔物が出てきたら俺と春香で対処することにした。


 気配を探りながら、春香と並んで歩いていると、

 「ね。すごい美人さんだね。……気になる?」

と春香が小声できいてきた。俺はふっと笑って、

 「春香がいるのに? ならない、ならない。……ちょっと心配した?」

とききかえすと、ちょっと恥ずかしそうにうなづいた。

 心配いらないのになぁと思いつつ、そっと春香と手をつなぐと、春香はうれしそうに破顔した。


 後ろから、

 「ね。こんなところで手を繋いでいるよ」

 「ふふふ。青春ですよ。王子も将来、いい人が見つかるといいですね」

と声がするが、聞こえないふりをする。


 幸いにして、カブトムシ以降、襲ってくる魔物や獣の気配はない。が、ところどころに落ちている騎士団の物らしき鉄の破片が気にはなる。


 「あ、そうだ。……王子。さっきのカブトムシの所では、傷ついた騎士も地も見当たらなかったので、騎士団は無事だと思いますよ」

と振り返って王子に言うと、王子は、

 「うん。みんな、ちゃんと逃げられたみたいだよね。……この先にいるのかな?」

と言いながら、散歩をするように歩きながら、頭の後ろ両手を組んだ。


――――それから2時間ほどして、森の木々の隙間から風変わりな町が見えてきた。

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