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外伝7 王子の願い

 次の日の朝。

 「ピピピピ……。訪問者デス! 訪問者デス!」


 家に備え付けられた魔道具のけたたましい警報とアナウンス、深い眠りに沈んでいる俺と春香を容赦なくたたき起す。

 ……なんだよ。昨夜は遅かったんだけど。

 まだまだ眠っていたいと、布団にくるまって耳に蓋をするが、いつまでたっても警報が止まらない。

 俺はため息をついて、ベッドから降りた。

 春香はうなりながらベッドの布団の中に潜り込んでいる。


 急いで着替えて一階の玄関に向かい訪問者を確認すると、そこにいたのはルキウス王子だった。

 俺はあわてて玄関の扉を開ける。

 すると俺が挨拶するより早く、

 「おはよう! お兄ちゃん!」

と王子がにっこりと笑って元気に挨拶をしてきた。

 くぅ。夜更かしだった俺に、この元気がまぶしすぎる。

 思わず目を細めながらも、俺は内心で、

 ……こっちの世界の王族ってこんな風にフレンドリーなのかね?

と思い、ちょっと戸惑いながらも、

 「おはようございます。王子。……こんなところでは何ですから、中へどうぞ」

と言って、王子を招き入れた。

 すかさず俺の脇を通って中に王子が入っていくのを確認し、俺は外の通りをちらっと見た。

 「……誰もいない。またお供とももいないのか」

 まだ早朝だから無理もないと思いつつ、一人も護衛の兵がいないとは。……これでいいのかポプリ王国、と微妙びみょうにやるせない気持ちになりつつ玄関を閉めた。


 俺はダイニングテーブルにちょこんと座っている王子の向かいに座った。

 ルキウス王子は、そわそわとしながら俺の様子をチラチラと見ていた。その様子が小動物みたいでかわいらしい。

 俺は王子に向き直って、

 「王子。こんなに早くにどうしたんです?」

と尋ねると、王子はちょっと口ごもっていたけれど、

 「お願いがあるんだ。ボクと一緒に、……ユーミのところにいって欲しいんだ!」

 「え?」 

 「太陽のオーブは大切なこの国の宝物なんだ。お父さんはそれで寝込んじゃったし、みんなもしょんぼりしてるし……。でもきっとオーブが帰ってきたら元気になるよ!」

 俺は困ったなと思いつつ、

 「でも、王国の騎士が行くことになっていましたよね」

 しかし、王子は沈んだ顔で首を横に振った。

 「うん。……怪我をした人も多いし、それでも無理して行ってるんだ。ボク……、ボクもできることをしたいんだ。お父さんやみんなのために! でも一人だと行けないし、お城の人は絶対に誰も一緒に行ってくれない。だからお兄ちゃんとお姉ちゃんにしかお願いできないよ」

 俺は腕を組んで考える。


 そこへようやく起きて着替えた春香が階段を降りてきた。

 「夏樹、お客さんは……。ルキウス王子?」

 王子が顔を輝かせて、

 「あ。お姉ちゃん! おはよう!」

 「うん。おはよう」

 春香はキッチンに行って、グラスを取り出して冷蔵庫から冷えたハーブティーをいれている。

 「で、どうしたの? こんな朝早くに」

という春香に、俺が事情を説明する。

 「ふ~ん。そっか。…………いいんじゃない? 夏樹」

 俺はちょっと驚いて、

 「え? だって危険だぞ?」

 「うん。そこはさ。……ね、王子。私たちの言うことをちゃんと守れるわよね? 私たちが危険だって判断したら、すぐに帰ってくるわよ? それでもいいかしら?」

 王子がうなづいたのを見て、春香が俺に、

 「ね? だったら夏樹と私となら大丈夫よ」

とニッコリ笑った。

 俺はその笑顔に毒気を抜かれ、ため息を一つついた。

 「わかった。……王子。俺からは一つだけ。ちゃんとお城の人に許可を得ること。それが守れるならば、俺と春香がお供しましょう」

 「……うん。わかった。ちゃんとボクがんばるよ」


――――。

 俺と春香は、パティスさんが来たときのために書き置きをダイニングテーブルに残し、武具を身につけ準備を整えた。

 二人とも革の軽鎧に剣を腰にさし、コートを羽織る。

 準備ができると、王子と一緒に王城に向かった。


 城内では、兵士やメイドが一生懸命にがらくたの整理や汚れた壁の掃除をしている。中には怪我をして包帯を巻いている兵士もいる。

 作業をしている中を、王子について奥へと進んでいく。謁見の間を通り抜け、石造りの廊下を進んでいくが……。俺たちがこんなにお城の奥に来ちゃって大丈夫なのか?

 だんだん心配になってきたころ、王子が一つの扉をノックして返事も聞かずに中に入った。さすがに後には続かずに、ドアの隙間から中の様子をうかがう。

 眼鏡をしたはげ頭にカイゼル髭のおじさんが、王子に、

 「王子! またお一人で外出されてましたね!」

 「ごめん。ノース」

 ここからは見えないが、王子の向こうから壮年の男性の声で、

 「……よい。宰相。ルキウスよ。みんなに迷惑をかけるでないぞ」

 「うん。お父さん。大丈夫?」


 そっとドアの隙間を空けると、王子の向こうにベッドがあり、その上で身体を起こしている白いお髭の男性が見える。王子が「お父さん」と呼んでいることから、あの男性が国王クレメンスなのだろう。

 王子がベッドのそばにたって心配そうに国王の顔を見た。国王が王子の頭を優しく撫でている。

 「すまんな。ルキウス。それで今朝はどこに行っていたのだ?」

 「お願いに行っていたんだ」

 「お願い?」

 「そう。お父さん。……あのね。ボクが、太陽のオーブを取り返してくるよ」

 それを聞いた国王の手が止まった。

 「お前が、太陽のオーブを?」

 「うん。ボクだって、ポプリ王国の王子だ! みんなのためにできることをしたいんだ!」

 「……ルキウス」

 王子の覚悟を聞いたカイゼル髭の宰相さんが、感動して国王に背中を向けてハンカチを目に当てている。「いつのまにかたくましくお成りになって……」


 国王はゆっくりとベッドから降りて、ルキウス王子の前に立った。

 「ルキウスよ。すでに騎士団を送っているが、それでも危険は承知の上だな?」

 国王の問いにうなづく王子。

 「そうか。お願いというのはお前と一緒に行ってくれる者か?」

 「そうだよ。……ね、お兄ちゃんとお姉ちゃん。中に入って」

 うおっ。この中に入っていいのか? 国王だって正装じゃないぞ?

 ちょっと戸惑っていると、春香がうんとうなづいて扉を開けた。

 俺は覚悟を決めて、部屋の中に入って春香と並んで膝をついた。

 「冒険者の夏樹と春香でございます」

 頭を下げる俺と春香に国王と宰相の視線が注がれているのを感じる。

 国王が、

 「よい。顔を上げて立ちなさい」

 「「はい」」

 俺と春香が立ち上がると、俺たちの前に王子がやってきた。

 国王が俺と春香を見て、

 「そなたらは確かルキウスを連れてきてくれた者たちだな。……うむ」

と、一人納得したようにうなづくと、王子に、

 「ルキウスよ。ポプリ王国国王としてそなたに命じる。奪われし太陽のオーブを取り返してまいれ。……ただし、危険な場合は自らの安全を優先にせよ。いのちを大事に、よいな?」

 「はい!」

 ついで国王は俺と春香を見て、

 「ナツキ殿、ハルカ殿。くれぐれもルキウスを頼む。危険な場合は必ず戻って参れ。国宝よりもルキウスの方が大事じゃ」

 「「はい」」

 国王の隣で涙を抑えている宰相が、

 「王子。……いつの間にこんなにご立派に。うううぅ」

と涙を抑えている。この人、見た目と違って感動屋さんだな。

 「じゃ、お父さん。行ってきます」

 「うむ。気をつけてな」

 俺たちはルキウス王子の後について、国王の病室を退室した。


 なんとしても王子の身は俺たちが守らないと。

 春香と目を合わせてうなづくと、俺は王子の後を歩く。


――――。

 王子も準備があるらしく、俺と春香は城門で待つことにした。

 「お待たせ~!」

 走ってきた王子は、革の服にマント、腰に身長に合わせた剣をさしている。

 王子と合流した俺と春香は町を出て、らくだに乗った。

 さあ、行こう。ユーミのいるという西部の砂漠の向こうへ。

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