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外伝5 小さな王子さま

――――。

 今日も強い日差しが照りつけている。

 俺たちは初の依頼として、薬草採取を受け、湖のそばの林に来ている。


 俺と春香は、まるで砂漠を行く旅人のように深くフードをかぶって強烈な日差しを防ぎながら、林の中を歩き回っている。

 「ん~。なかなか見つからないね」

と後ろの春香がぼやいている。ここは町の外だから、俺も鍛えに鍛えた気配感知をしながら、下生えの草むらからお目当ての薬草を探している。

 この世界のスキルの中にあるという鑑定のスキルがあれば、簡単に見つけることができたと思うけれど、残念ながら俺も春香もそのような便利スキルは身につけていない。

 その時、春香が、

 「あ、みっけ!」

と言って、木の根元にしゃがみ込んだ。これでようやく一株か……。


 それから1時間ほど探し続け、さらに二株の薬草を見つけたところで休憩を取ることにした。

 二人並んで太い根っこをイス代わりに座り、レモン炭酸水ソーダを取り出して春香と一緒に飲む。

 幸いに神力の鍛錬によって、亜空間収納ができるようになったため、気軽に色んなものを持ち歩くことができるようになった。スキルというべきか魔法というべきか迷うけれど、任意の空間に亜空間収納の入り口を出すことができ、中に入れた物の時間が停止しているようで非常に使い勝手がよい。

 まさか4次元ポケットとか言うわけにはいかないので、俺と春香はアイテムボックスと呼んでいる。

 レモン炭酸水ソーダを飲んだ春香が、目を細めながら、

 「くぅ~。こういう暑い日にはぴったりだね!」

と小さく叫んだ。確かに俺たちはこのコートのお陰で快適だけれど、煌々(こうこう)とかがやく太陽のしたで飲む冷えた炭酸水は格別なものがある。

 「魔法があればすぐに冷やせるし便利だよね」

と肩に寄りかかる春香に笑顔でいうと、春香はコートのはしっこをつまんで、

 「でも不思議だよね。コートの中だけじゃなくて顔とかも快適だなんてね」

 俺は苦笑しながら、

 「神さまのすることだからねぇ。考えるだけ無駄さ」

 「ぶっぶぅ。……まあそうなんだけど、それで済まされるとちょっとなぁ」

 口をとがらせる春香の様子が可愛い。


 しばらくそのまま二人寄り添いながら、通り過ぎる風に目を細めていると、何かが近くに走ってくるのがわかった。

 あわてて二人とも立ちあがって木の陰に隠れ、そっと腰に差した剣に手を添える。

 近くの藪やぶからバサッと飛びだしてきたのは、一人の少年だった。

 年のころは10才くらい。明るい金髪で身なりの良い服を着ている。

 何かに追われているようで、左右をきょろきょろと見て俺の顔を見ると、だだだっと走ってきた。

 「ごめん。ちょっと隠れさせて!」

と言いつつ、男の子は俺の背後に隠れた。

 その時、同じ藪から角のあるウサギが2匹飛びだしてきた。きょろきょろとつぶらな瞳で左右をせわしなく見回している。おそらく男の子を探しているのだろう。

 隣で春香が小さい声で、

 「なにあれ? かわいい!」

とつぶやいている。男の子が後ろで、「アルミラージだよ」と教えてくれた。

 2匹のアルミラージはクンクンと空気の匂いをかいでいて、ぐいっと俺たちの方を見た。

 「見つかった!」

 俺はそう叫んで、木の陰から飛びだして剣を抜き、アルミラージと対峙たいじする。

 「キュキュッ」

 可愛らしい声を上げて角で突き刺そうと突っ込んできたアルミラージを、サイドステップでよけて無意識のうちに剣を振る。

 スパンッと音がして、アルミラージの角が根元から断たれる。

 着地した角なしのアルミラージが慌てたように逃げていった。

 俺の横でスパンッと音がして、春香がもう一匹のアルミラージに切りつけていた。お見事。同じく角がぽろんと落ちて、あわてたアルミラージが逃げていった。

 パティスとの訓練で強くなった俺たちは、この程度の獣であれば無理に殺す必要もない。……それに見た目が可愛らしいしね。


 男の子がおそるおそる木の陰から出てきて、ほっと胸をなで下ろした。

 「よかったぁ。……ありがとう。ボク、ルキウス。よろしく」

 春香が元気いっぱいの男の子を見て、どうやらキュンッときたようだ。ふふふ。俺たちには子供ができなかったから、余計に母性本能がくすぐられるのだろう。……もちろん俺だってそうさ。

 ん? まてよ。ルキウス? それって……。

 「ポプリ王国の王子だよ」

 なんで町の外にきてるんだ!


――――。

 俺たちは、王子の安全のために、見晴らしのいい湖沿いの街道に出て城下町に向かった。

 遠く町の方から、5人の騎士たちがあわてて走ってきているのが見えた。

 その騎士たちを見ながら、俺は、

 「王子。みんなに心配かけるのは感心できません」

と隣を歩く王子に言うと、王子はしゅんっとなって、

 「ごめんなさい。ボク、どうしても町の外が見たくって。この湖のほとりまできたんだ」

 「子供だけで水場に来るのは危ないですよ。……次からは大人の騎士にも来てもらわないとダメです」

 「はい。……ごめんなさい」

 うつむいている王子を見て、俺はため息をついて、

 「で、突然どうしたんです?」

と尋ねると、王子は、

 「城のベランダからいっつもこの湖を見ていたんだ。キラキラしていて、どうしても近くで見たくなって」

 「……そうですか」

 春香が反対側を歩きながら、

 「きっと水面が反射していたのね? 王子。手をつなぎましょうか?」

と言うと、王子はうれしそうに「うん!」と言って春香と左手をつないだ。

 俺は苦笑しながら、王子の反対側の右手をつなぐ。春香とアイコンタクトをとりながら微笑んだ。……まるで親子みたいだね。春香の目がそう言っている。

 そこへ騎士たちがようやくやってきた。

 「お、王子ぃ! 探しましたぞぉ!」

 一番立派な鎧をした、ひげの騎士が息を荒げたままでやってくると、王子が俺と春香から手を離して駆けていった。

 「ゴドリフ! ごめんごめん!」

 ゴドリフと呼ばれた騎士が、王子を抱っこして持ち上げた。

 「王子! よくぞ。……よくぞご無事で!」

 ふふふ。あの人は騎士団長かな? 王子は色んな人に愛されているようだ。

 ふと腕を絡めてきた春香と微笑みながら、ほのぼのとした気持ちで見ていると、突然、空が光った。

 一瞬おくれて、空気と地面が震動する。

 「な、何事だ!」

 あわてて周りを見回すと、遠く正面に見えるポプリ城から煙が立ち上っていた。お城の上空に何か船のようなものが浮いている。

 春香が指を指して、

 「お城が!」

と叫んだ。


 それを見たルキウス王子が、突然ゴドリフさんから飛び降りると、町に向かって走り出した。

 その後に続いて、俺と春香、そして騎士たちが王子を追いかける。

 「王子! 一人では危険です!」

 しかし、俺の声は王子の耳に届いていないようだ。

 先頭の王子は、

 「お父さ-ん!」

と叫びながら、無我夢中に走り続けた。


――――。

 城下町の入り口にいるはずの警備兵の姿も見えず、王子はそのまま町に飛び込んでいく。

 俺もその背中を追いかける。もう少しで王子に手が届きそうなんだが、ちょこまかと動き回るので捕まえられない。

 俺のすぐ後には春香が息を弾ませており、王子を迎えに来た騎士たちは鎧が重いのか、はるか遠くをヨタヨタと走っている。


 幸いに、城下町の方には被害はないようだが、人々が心配そうに道に出てお城を眺めており、非常に邪魔だ。

 人と人の間をすり抜けつつ噴水広場を駆け抜け、お城の堀にかかる一本橋を王子に続いて走って行く。

 警備兵は、みんなお城に向かったようで一人も姿が見えない。

 お城が近づくと、爆撃を受けたようであちこちで何かが爆発した跡と、兵士たちが倒れていた。


 お城の正面入り口を突き抜けると、赤い絨毯が敷いてあった。周りの調度品も高そうに見えるが、今はそちらに意識をやる余裕はない。

 王子は正面の階段をのぼっていき、二階にある大きな広間へと飛び込んでいった。

 俺も続いて飛び込んでいくと、そこは謁見室だった。太い柱が立ち並び、一番奥の一段高くなっているところに王座が設えてある。


 王子が叫んだ。

 「お父さん!」

 王座の前に国王らしき冠をした初老の男性が倒れており、その目の前にソフトボール大の宝珠を手にニマニマしている8才くらいの少女の姿があった。

 少女は、王子がやってくるのを見て、眉をしかめ、

 「なによ。このガキは!」

と言って手にした何かのスイッチを押した。

 すると少女の背負っているランドセルのようなものから巨大なマジックハンドが飛びだしてきて、走る王子の襟首えりくびをつかんで宙づりにする。

 王子は逃げようと必死で足をバタバタさせるが、マジックハンドは振り子のように王子を振ると、ぽいっと投げ捨てた。

 俺は急いで走り込む。

 「間に合えー!」

 頭から突っ込むと、ちょうど広げた腕の中に投げられた王子が飛び込んできて、そのまま王子を抱えてゴロゴロと転がった。

 ガシーン。

 次の瞬間、頭に強い衝撃が走る。

 仰向けに倒れた俺の視界には、春香が俺の名前を叫びながら走ってくるのが見えるが、そのまま俺は気を失った。

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