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外伝28 帰還

 「おお! ロザリー! ルキウス! よくぞ無事に」

 王様が王妃、王子と順番に抱きしめて帰還を喜んでいる。

 特に王妃がもどったことに喜びを隠しきれないようだ。それを見ている宰相のノースさんをはじめ、騎士団長やメイドに至るまで、みんながハンカチで目元を覆っている。

 ……ふふふ。ポプリ王国って家族みたいに温かいよね。


 喜びをかみしめた国王が、俺たちに向きなおる。

 「冒険者ナツキ殿。ハルカ殿。そして、竜騎士シエラ殿に科学者ユーミ殿。そなたたちの活躍のおかげで、砂魔人を倒し、そして、我が愛する王妃ロザリーを取り戻すことができた。ポプリ王国国王として、そなたたちに心より礼を言う。本当にありがとう」

 俺と春香は二人揃って、片手を胸の前に添えて軽く一礼する。シエラはだまってうなづき、ユーミはえっへんと胸を張った。

 俺たちは拍手に包まれた。顔を見合わせ照れ笑いを浮かべながら、俺たちは人々にもみくちゃにされた。


 その日の夜、すぐに祝賀会の用意が進められ、街も盛大なお祭りが開催されている

 俺たちはお城の会食の間にいた。

 一段高いメインテーブルには国王夫妻に王子とユーミが座り、その隣に俺たちが座っている。

 今日ばかりは、騎士達も当直をのぞいて、礼服を着て会食に参加している。

 会食前にはお城のテラスから街の人々に、砂魔人の討伐と王妃の帰還を報告した。街の人々も大きな歓声を上げていた。

 会食が始まり、人々が順番に前に出てきて、お祝いを述べている。


 会食が始まって少ししてから、俺は春香と一緒にグラスを片手にテラスに出た。

 遠くでは花火が上がっている。ドォォンという音と共に色とりどりの花火が夜空を彩っている。

 春香が手すりに寄りかかりながら、

 「この世界にも花火があるのね」

 「そうだな。……きっとジュンさんが広めたんだと思うよ」

 「あ、そうだよ。きっと!」

 グラスをかかげ、ぬるめのスパークリングワインを一口飲んだ。

 パチパチパチパチと花火が散る音が聞こえる。


 俺は思い切って、

 「なあ、春香」

 「なあに?」

 「俺たち、もうジュンさんの課題をクリアできると思うんだ」

 「……うん」

 春香の表情をうかがうと、なんとなく俺が言いたいことがわかっているようだ。

 「そろそろ……、みんなとお別れだな」

 「うん。……わかってる」

 春香はそう言いながら、寂しくなったのか、俺の肩にもたれかかってきた。その背中に手を回し、ぐっと抱きしめてやる。

 「夏樹。……きっと、これからもお別れってたくさんあるよね?」

 「そうだな」

 「さびしいね」

 「ああ。でも、俺がずっと一緒にいるよ」

 「うん」

 また新たな花火が打ち上がった。

 光に照らされながら、俺たちは二人で寄り添い続けた。


――――

 「ピピピピ……。訪問者デス! 訪問者デス!」

 次の日の早朝、俺は再び自宅のアラームで起こされた。

 誰だよ一体。今日くらいはゆっくり眠らせてくれ。

 そう思いつつ重い頭を持ち上げる。春香は「うんん」と眉をしかめながらもまだ寝ており、手だけが目覚まし時計を探しているようにもぞもぞと動いている。

 相変わらず可愛いよな。

 そう思いつつ、階段を降りていくと、玄関のドアがドンドンと叩かれ、その向こうから、

 「お兄ちゃん! お姉ちゃん! 旅に出るって本当?」

という王子の声が聞こえた。

 ……ああ。シエラあたりに聞いたのかな?

 俺は苦笑しながら玄関のドアを開けた。

 外にいたのは王子とユーミだった。キッチンのテーブルに連れていき、お湯を沸かす。

 さっきまで騒いでいた王子だったが、中に入ると急に静かになった。

 そこへあくびをしながら春香が下りてきた。

 「ふわぁぁぁ。おふぁよう……、って、王子とユーミ?」

 春香はそのまま王子とユーミの向かいに座ったが、まだ眠そうで寝ぐせもそのままでぼんやりしている。

 お湯はまだわかないので、手でなでつけてやるが、ぴょこんぴょこんとなるだけだ。それを見ていたユーミがプッと吹き出した。

 「もう。やだなぁ。朝っぱらから、なんでそんなに甘い空気をただよわしてるわけ?」

 俺はニヤリと笑みを浮かべながら、

 「そりゃあさ、ユーミの将来の見本になるだろ?」

 「な、見本?」

 ボンッと音が出そうな勢いでユーミが赤くなる。と同時に、ヤカンがピューッと鳴った。

 お湯が沸いたな。俺はお茶の用意を始めた。

 ちらっとユーミを見ると、まだフリーズしているみたいで、王子が面白そうにその目の前で手のひらを動かしている。


 ふふふ。この二人もお似合いの二人だよ、まったく。

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