外伝25 火竜王の降臨
四天王は倒したが、光の柱が消える様子はない。
さてどうしたものか。
「とりあえず近づいてみるか」
そう言いながら俺たちは中央にそびえる光の柱に近づいていった。
王子がそっと手を伸ばし光の柱に触れる。
「えっ」
その声を残して王子の姿がかき消えた。
あわてて、
「王子!」
と言いながら手を伸ばした。光の柱に触ったと思ったら、視界が一瞬で切り替わり、目の前には王妃の姿があった。
隣には、驚いている王子がいた。よかった。
ほっと胸をなで下ろしたとき、王子が王妃に駆け寄っていった。
「まて、王子! 落ち着いて!」
と言うが、王子の手が王妃に向かって伸ばされた。
「お母さん!」
しかし、その手はバシッという音と共に何かに弾かれた。同時に、ドクン、ドクンと脈動する音が聞こえはじめた。
あわてて王子の側に行き、後ろから王子を捕まえる。諦めきれない王子は再び手を伸ばす。
その時、王妃の体がすうっとさらに高いところへ浮かんでいった。
「お、お母さん?」
塔の上空に広がる雲が、浮かんでいった王妃に集まり、姿を見えなくする。
それと同時に眼下の砂漠から砂が巻き上がって、王妃のいたところに集まっていく。
赤い光がほとばしり、俺と王子はそこからはじき飛ばされて、塔の屋上に落っこちた。
「夏樹!」「王子!」
春香とユーミがあわてて駆け寄ってくる。
「大丈夫だ」
と言いながら二人を手で制し、王子を立ち上がらせる。
王子は余裕の無い様子で、屋上の端っこまで駆け寄って空を見上げた。
「お母さーん!」
集まっていく雲と砂が混じり合い、そこに塔より大きい巨大な砂巨人が現れた。ローブを着て、眼には瞳孔がなく、不気味にぽっかりと空いている。
人型をしているが、あれは化け物だ。……そうか、あれが砂魔人。火竜王と戦った化け物か。
砂魔人は大きく息を吸うと、ぶおおおっと砂を空に吹き出した。その砂は普通の砂ではない。黒い塵のような砂だ。黒い砂がどういう原理かわからないが雲になっていく。
不意に左手が引っ張られる。見ると春香がおびえてブルブル震えていた。
「な、夏樹」
俺は左腕で春香をぐいっと抱きしめる。耳元で、
「大丈夫だ。春香は俺が守る」
とささやく。
ユーミが王子を後ろから抱きしめて、跳び出さないように守っている。俺たちをシエラと黒猫が並んでみていた。
その時、不意に王子の腰の剣が光り始める。光は王子を包み、王子ごとふわふわと宙に浮き始めた。その剣から、光が一直線に天に向かって飛んでいった。
砂魔人の吐いた砂によって、黒い雲が塔の上空を覆っている。その雲の上から、ドラゴンの鳴き声がする。
「グオオオ」
雲の天井にぶわっと穴が開き、そこから大きな赤い竜が下りてきた。
見ただけでわかる。あれは火竜王ファフニルだろう。うっすらと黄金色のオーラを放ちながら、砂魔人を見下ろしている。
砂魔人がファフニルを見上げ、雄叫びを上げる。その雄叫びが物理的な衝撃をともなって通り過ぎていった。
砂魔人の口から砂のブレスが放たれ、ファフニルの体が砂に覆われて石像のようになっていく。
王子が一生懸命に応援している。
「がんばれ!」
その声が届いたのかわからないが、ファフニルを覆った砂の層にピシッとヒビが入り、ボロボロとこぼれ落ちていった。
ファフニルの口に光が集まっていく。ドラゴンブレスだ。砂魔人も口から砂のブレスを出し、ファフニルと砂魔人の中間でブレスがぶつかり合った。
その時、ユーミが、
「あれ? 王子?」
とつぶやいた。そっちの方を見ると、王子の体を赤いオーラが覆っている。王子も自分の体を見回して、「あれれ?」と言っている。その後ろに、うっすらと王妃の幻影が見える。
春香が俺の手を引いた。正面に向き直ると、ファフニルのブレスが勢いを増し砂魔人のブレスを切り裂いたところだった。
砂魔人の顔が跡形もなく吹っ飛ぶ。王子が「やったぁ」と声を上げた。
ところが再び砂がうごめくと再び元通りになる。……厄介だ。どうしたら砂魔人を倒せるんだ?
再びにらみ合うファフニルと砂魔人。
しかし、その時、俺たちのいる砂の塔に異変が生じた。
ゴゴゴゴ……。
不気味な地響きがして激しい揺れが俺たちを襲う。
春香が冷や汗を流しながら俺を見る。
「な、夏樹。これってまさか」
「……ああ、崩れるぞ」
そういった瞬間だった。俺と春香の足下に一気に崩れ、俺たちは砂に飲み込まれた。
――――
即座に春香が結界魔法で俺と春香を守る。ちょうどシエラの神竜の盾のように球形の光に守られながら、何かに引きずり込まれたかのようにどこまでも砂の中を沈んでいく。
一瞬、焦ったものの、落ち着きを取り戻した俺は、春香の手を握りながら、
「王子たちは無事かな?」
「……たぶん大丈夫よ。シエラがそばにいたから。きっとね」
「そうだよな」
たしかにシエラなら、この結界魔法のようにみんなを守るだろう。となれば、この状況からどうやって脱出するのかということだが……。
「! 転移するぞ!」
不意に転移独特の感覚が俺たちを襲った。
そうして、俺たちはどこかの亜空間に落ち込んだ。