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外伝24 儀式の場

 階段を上りきると、そこは塔の最上階だった。四方の壁は無く空が見える。

 中央が小さなステージになっているようで、そこから天に向かって光の柱がのびている。

 「お、お母さん!」

 王子が叫んだ。そう、その光の柱の上の方に王妃が力なく宙に浮かんでいる。


 王子が駆け寄ろうとしたところを、あわててユーミが捕まえた。

 「あんた、なにやってんの! まわりをちゃんと見なさい!」

 そうだ。中央のステージの脇に、二人のローブの人物がいる。間違いなく四天王の残り二人だろう。

 一人は緑の細長い顔の人物でとても人間に見えない。もう一人は筒状の帽子をかぶりアンクを手にし、目には墨で縁取っていて、まるでエジプトの壁画に出てきそうな人物だ。


 アンクを手にした男が、

 「王子よ。よくここまで来たな。俺は、砂魔人さまの四天王のリーダー、ガラハドだ」

 王子がきっと睨み、

 「お母さんを返せ!」

と大きな声で叫んだ。

 ガラハドは、クククと笑い、

 「礼を言うぞ。王子。火竜王の加護のあるお前の母親を核に、今、天地の瘴気を集めているところだ。……もうまもなく魔人さまが復活するだろう」

 俺は一歩前に進んで構える。そのすぐ後ろでは春香が杖を構えている。

 「させないぞ。魔人の復活は俺たちが止める」

 ガラハドが俺を見る。

 「ククク。愚かな。自ら死にに来たか。……レリック。あの男と女はお前に任せる。奴らの命を魔人さまに捧げるのだ!」

 「グシシ。いいぞぉ、ガラハド。わしに任せておけ!」


 レリックと呼ばれた男が不気味に空を滑るように近づいてくる。

 狙いは春香だ。

 「させるか!」

 俺は春香を背中にかばい、全身に魔力を巡らせる。それに呼応するかのように、春香も魔力を高めているようだ。

 レリックは笑いながら、口から火の玉をいくつも吐き出した。

 左手に魔力の膜を作り、無造作に火の玉を受け止めて握りつぶす。

 「春香! 全開で行くぞ!」

 「了解! わかってるわ!」

 軽く床を蹴り、まるで瞬間移動したかのようにレリックの懐に飛び込み、剣で斬りつける。

 剣に魔力を載せて切り上げると、剣閃の跡が三日月の飛ぶ斬撃となってレリックの左手を切り飛ばした。

 「ぬほ!」

 驚きで無防備になったレリックに、春香の七属性の魔法が襲いかかる。

 「レインボー・ブラスト!」

 魔法の光線がレリックを貫き、後には黒焦げになったレリックが呆然とたたずんでいた。

 レリックの眼に赤い光りが点る。

 「グシシ。やるではないか! ……ふん!」

 気合いと共に左の肩から新たな腕がズボッとのびて、薄皮が剥がれるように黒焦げの部分がぱかっと外れ、中から全身に鱗のあるレリックが現れた。

 それを見た春香が、

 「やだ、こんなのばっかり……」

とつぶやいた。


 レリックが無造作に手を伸ばす。その手が5メートル以上のびて届くはずのない春香に襲いかかった。

 春香は杖で防ぐが、その杖をレリックに奪われた。

 「これで魔法は使えまい」

 ニヤリと笑うレリックに、春香は冷静にアイテムボックスから俺と同じ剣を取りだした。

 目と目が合う。――合体技だな。


 剣を捧げ、まとわせた魔力に属性を載せる。俺の剣が黒い闇に覆われ、春香の剣が白く輝き出す。

 レリックを中心に円を描くように回り込みながら、俺と春香が剣を中心に向ける。

 「「太極陰陽剣」」

 ワードと共に剣の光と闇がレリックに襲いかかる。頭上から見れば太極図に見えただろう。

 「ぐぐぐ。……なんだこれは? 普通の属性じゃない?」

 うめくレリックに、春香と同時に間合いを詰め、その胸を突く。レリックの中で俺の春香の剣が交差し、そこを中心に太い光りの柱が立ち上った。

 俺と春香の目の前でレリックは断末魔をあげながら、光りの柱に溶けるように消えていった。

 「ま、魔人様あぁぁぁぁ」


 光りの柱が消え去った後、そこには俺と春香だけがたたずんでいた。

 目を合わせてうなづき、すぐに王子たちの方に振り向くと、ガラハドの放った巨大な炎の中で、王子たちはシエラに守られながら耐えていた。


 即座にガラハドにせまる。こちらに気がついたガラハドが左手を向けると、その手のひらかが火炎放射の方に炎が伸びてきた。

 まずい! あわてて射線から飛びすさろうとしたとき、ガラハドがのけぞった。

 「ぐわっ」

 その足下に見慣れた一匹の黒猫が。……なぜここにあの猫がいるんだ?


 俺の体を覆う魔力が障壁バリアとなって炎から俺を守る。一段と魔力を高める。心の底から、体の奥から魔力と共に神力が涌いてくる。神力は魔力と溶け合い、そのまま俺の体に染みこんでいく。

 驚愕の表情で俺を見ているガラハドを、俺の剣が貫いた。

 奴の背中から剣の切っ先がのぞいていて、ガラハドのどす黒い魔力が傷口から蒸気のように立ち上っている。

 奴の体を蹴って距離を取る。


 傷口を押さえているガラハドが、何かに気がついたように頭上を見上げる。

 つられて空を見上げて、思わず戦慄した。

 空全体が不気味に脈動するように震えていて、何かのエネルギーが渦を巻いて空に浮かんでいる王妃に吸い込まれていく。

 ガラハドがニヤリと笑った。

 「ククク。……ここまでくれば、もう魔人様は復活する! 残念だったな」

そう言いながらガラハドが宙に浮いていき、自ら手に魔力を込めるとそのまま自らの胸を貫いた。口から青い血がこぼれる。

 「魔人様! 我が身を御身に捧げます!」

 その言葉が終わらないうちに、ガラハドの体が端の方から塵になっていき、王妃に吸い込まれていった。


 呆然とその光景を見ていると、いつの間にか側に来ていた王子が、

 「お母さん」

とつぶやいた。

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