外伝23 砂の塔
俺と春香が先頭、王子とユーミがそれに続き、一番後ろをシエラが歩いている。
すでに塔に入ってからどれくらいの時間が経っているだろうか。
幸いにして罠らしいものは今のところないが、人型や鳥形のサンド・ゴーレムとは幾度となく遭遇し、戦ってきた。幸いにして気配感知でゴーレムの核の場所がわかるので、それほど苦労することなく戦えている。
しかし、そろそろ王子とユーミに疲れがたまってきているようだ。
どこかに休憩できそうなところがあるといいのだが……。
「仕方ない。ここで少し休憩しよう」
通路の曲がり角で俺はそう言い、魔道具で結界を張った。王子とユーミが壁を背にへたり込む。
春香がアイテムボックスから栄養ドリンクを取りだして、王子とユーミに手渡した。
「あ、ありがとう」「うん」
素直に受け取った二人が、瓶の蓋を開ける。王子が首をかしげて、
「あれ? 水じゃないの?」
春香がさらに三本の栄養ドリンクを取り出しながら、
「栄養ドリンクよ。飲むと疲れがとれるわ」
「栄養ドリンク? へぇ」
そう言いながら、王子がおそるおそる口をつける。
「あ、これおいしい!」
一口飲んだ王子がうれしそうに笑った。その隣にいるユーミも美味しそうにちびちび飲んでいる。
春香からドリンクを受け取ったシエラが、腰に手を当ててぐいっとあおり、
「うん。うまい! ……もう一本!」
と、サムズアップした。
春香が笑いながら、さらに一本手渡した。
俺もフタを開けて口にする。味としては、よく冷えたフルーツミックスジュースなんだけどね。パティス直伝の配合で、たしかに疲れた体にはよく効くんだ、これ。
不意に王子が、
「あれ?」
と言って立ち上がった。
「どうしたの?」とユーミも立ち上がる。王子は向かいの壁にしゃがんだ。
気になった俺も王子のそばに行くと、
「これってなにかな?」
と言いながら、王子が無造作に壁についている茶色のボタンに指を伸ばす。
「お、おい! 王子ダメ!」
と止めようとするが、それより先に王子がボタンを押し込んだ。
……ブウウウゥゥゥゥン。
王子以外の四人があわてて周りを警戒する。なんだ? この低い音は?
「なんかやばくない?」
緊張した声でユーミが言った瞬間、俺たちの足下に魔方陣があらわれた。
これは……、転移魔方陣?
俺たちは光に包まれた。一瞬の浮遊感の後、俺たちはどこか別の階層の広い部屋にいた。
よかった。全員が一緒の所に転移したようだ。
みんなと顔を見合わせ、すぐに部屋の中を確認する。
「……どうやら中ボスの部屋って感じだな」
一番真ん中に大きな砂の山がある。
「戦闘準備だ」
ちょうどみんなに指示したところで、ズゴゴゴと音を立てながら砂の山が蠢うごめきはじめた。
砂が細長くなっていき……。
ユーミが緊迫した声で、
「ちょ、あれってド、ドラゴンよね」
王子が、
「そうだね。すごいよ! 頭が二つもある!」
いやいやいやいや。それ喜ぶところじゃないから!
ドラゴンの目が赤く光る。……動き出す!
「行くぞ!」
俺は剣に魔力をまとわせ、切り込む。
ドラゴンの口から火の息が吐き出される。それをかいくぐりながら、胴体に突き刺す。ドラゴンとはいえ、砂でできているのであっさりと胴体に突き刺さるが、魔力を込めて切り上げた。そこから魔力がらせん状に吹き上がる。
その魔力にそってドラゴンの身体が崩れるが、サァーという音とともにみるみる復元していく。
それを見ていた春香が、杖をかかげる。
「いっけぇ! 瀑布ウォーター・フォール」
ドラゴンの頭上の何も無いところから、大量の水があふれ出す。ドラゴンの身体が水分を含んで色が変わっていく。
王子が剣を頭上にかかげた。
「サンダー・ボルト!」
ドラゴンの頭上から一条の雷が落ちる。しかし、その雷撃は胴体を通って、足下に流れていった。
それを見たユーミが、
「だめよ。ルキウス! アースになってるわ」
ドラゴンの尻尾が王子とユーミに迫る。
シエラがその前に飛び出して受け止める。
そこへドラゴンの片方の頭がかみつこうと口を開いた。
「させるか!」
俺は飛び上がって、剣に氷の魔力をまとわせて、ドラゴンの頭に振り下ろした。
剣がドラゴンの頭に突き刺さり、そこからピキピキと凍りついていく。
そこへユーミが両手を前に突き出して、
「オーバー・アクセラレート。……プラズマキャノン、スタンバイOK!」
その拳の先に光が集まっていく。
「イグニッション、ファイヤ!」
波動砲のような太いレーザーが凍りついたドラゴンに襲いかかる。
……すごいな。どういう魔道具なのかわからないけど、ドラゴンがバラバラに砕け散っている。
「コア、みっけ!」
シエラが軽い調子でガラクタになったドラゴンの残骸に歩いて行って、そこにあった黄色いオーブに剣を振り下ろした。
ピシッという音を立ててオーブが真っ二つに割れた。
それでも俺はドラゴンが動き出さないか観察したが、どうやらもう動かないようだ。
「……なんだか呆気なかったね」
春香がそう言いながら近寄ってきた。シエラがオーブの破片をさらに踏みつぶしながら、
「魔法生物だから、そんなものよ」
と言っている。
「転移したときは焦ったけどな」
そういいつつ王子の方を見ると、王子が申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい! ついボタンを押しちゃって……」
春香が、
「王子。何にでも好奇心を持つのはいいことだけど、時と場合によるからね」
「うん。もうしないよ」
「ならいいわ。ね、夏樹?」
俺はうなづいた。「……それに、随分と高いところまで転移したみたいだ」
これもケガの功名ってやつだな。ここからなら、俺の気配感知で屋上に巨大な力が渦巻いているのが感じられる。そこへ至るルートも。
「さあ、行こう。どうやら目的地は近そうだ」
そういって、俺は先頭を歩く。すぐ後ろを春香が、そして、王子とユーミシエラが続いてくる。
これからが正念場だぜ。