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外伝21 小さなオアシス

 深くフードをかぶり、俺たちは街の南門を出る。

 目の前の砂漠には、ぎらぎらした太陽が照りつけて、ゆらゆらと陽炎が立っている。

 南門の外は、すぐに砂漠になるため、討伐依頼を受けた冒険者以外は使う人がほとんどいない。

 俺と春香は、シエラにあわせて普通のらくだに乗っている。黒猫の姿が見えないから、街のどこかにいるのだろう。


 「行くぞ」

 言葉少なく、まっすぐ砂漠を見据える。すでに偵察のために魔法のハトを3匹飛ばしている。

 ギルドで入手した地図を頭に浮かべながら、砂の海に乗り込んだ。

 砂魔人を倒すまで。王妃を見つけるまでは、もうここに戻らない。


――――

 砂丘を三匹のラクダが進んでいく。足跡が点々と後ろに伸びている。

 ジリジリと照りつける太陽だが、ジュンさんにもらったコートに頼るまでもなく、結界魔法を応用した気温調節の魔法を春香が展開しているため、ここまで快適に進むことができている。

 途中で巨大な砂漠のカニ、砂でできたゴーレム、体表を岩でおおった大きなサソリなどに遭遇したが、不思議と俺たちの姿を見るや、すぐに砂に潜っていなくなった。

 熱と死の世界。砂丘がどこまでも続いている。



 夜が近づくころ、小さなオアシスが見えてきた。

 ギルド情報だと、ここでようやく砂の塔まで半分の距離らしい。……つまり、勝負は明日ということだ。

 ここまで緊張から沈黙が続いていたが、春香もシエラもオアシスを見て表情を緩めている。

 それを横目で見ながら、

 「今日はここまでだな」

といって、ラクダをオアシスに向けた。


 ラクダから下りて、湖で水を飲ませ、そのまま自由にさせておく。

 その間に結界を張って、テントを設置すると、春香が早速夕食の準備を始めた。

 砂魔人が復活する前ならば、きっとこのオアシスは討伐依頼を受けた冒険者のベースキャンプに使われていたことだろう。

 俺たちの他には人影の無いオアシスを見て、どこか空気が張り詰めていることをひしひしと感じる。

 気温が下がったせいだろうか。空には雲が出てきた。

 「夏樹! できたよ!」

 湖のほとりで空を見上げていた俺に、後ろから春香の声がかけられた。

 暗がりから、ランタンの明かりの点る春香のところへ歩いて行く。


 ところが、その時、

 「うわあぁぁぁぁぁ」

 「きゃあぁぁぁぁぁ」

と頭上から男女の声が聞こえ、つづいてバッシャーンと湖から盛大な水柱が立った。

 あわてて振り返ってほとりに近寄る。

 湖の中央部から、ぶくぶくと泡が出て二つの小さな人影が頭を出した。

 「――王子! ユーミ!」

 俺はあわてて上着を脱ぐと、そのまま湖に飛び込んだ。


――――

 気を失った二人を抱きかかえて湖畔に戻ると、春香とシエラが駆けつけてきた。

 「二人を頼む!」

 「了解! シエラ、そっちお願い!」

 慌ただしく春香とシエラがテントに戻っていく。その後ろ姿を見ながら、俺は空を見上げる。雲に紛れているが、何かが空を飛んでいるようだ。

 きっと王子たちを連れてきたものがいるはず。腰の剣を確認して、再び空を見上げたとき、

 ピカッ。ゴロゴロゴロゴロ……。

 まるで大きなストロボのように雲の一部が光り、上から何かが煙を吐きながら落ちてきた。

 目をこらしてみると、それはプロペラの着いた巨大なアームのロボット、シエラと出会った時に見たプロペラ・キャッチャーだった。

 ということは、ユーミの発明品か。……まさか王子たち。追いかけてきたんじゃないだろうな?

 胸騒ぎをおぼえつつテントに戻ると、春香の素っ頓狂な声が聞こえた。

 「え? 本当に!」

 なんだなんだ? 急いでテントをのぞくと、すでに王子とユーミが意識を取り戻していた。


 ……事の発端は、俺たちの出発を王子が知ったことらしい。

 「ボクも行くんだ!」「お母さんをたすけるんだ!」と言い出した王子に、結局、押し切られて王様が認め、ユーミと一緒に追いかけてきたらしい。


 俺は思わず右手で顔を隠し、

 「危険に巻き込まないように、と思っていたんだけどな」

とつぶやいた。

 それと見た王子が申し訳なさそうに、

 「ごめん、お兄ちゃん。でも、ボクのお母さんは、ボクがたすけたいんだ」

 横からユーミも鼻で笑って、

 「ふんっ。当然でしょ。今さら私たちを蚊帳の外におこうなんて、都合が良すぎるのよ」

 シエラがおもしろそうに、

 「……砂魔人が復活した以上、どこにいても危険ね。遅いか早いかの違いでしかないわ」

 顔をおおった指の隙間からのぞくと、春香とシエラが苦笑いしていた。

 ため息をついて手を下ろし、王子とユーミを見る。

 王子の真っ直ぐな瞳。そして、ユーミのなぜか高飛車な眼。

 なぜか心の奥底から笑いがこみ上げてきた。

 「くくく」

 王子とユーミが、あれっ? という表情をする。

 「なんだか色々と考えていたのがバカみたいだな。……王子、ユーミ。わかったよ。一緒に行こう」

 「うん!」「……それでいいのよ」

 なぜか春香とシエラも大笑いしていた。


2-22 竜巻


――――

 ……キウス。……ルキウス。


 寝ていると、誰かの声が頭に響いてきた。


 ……こっちだ。


 目をこすりながら身体を起こす。ぼうっとしながらテント内を見回した。

 大きなテントでみんなで横になっている。

 隣には春香が可愛らしい寝息を立て、その向こうにはシエラらしき毛布の山が見える。

 反対側には、王子とユーミが並んで寝ている……、はず?

 「王子?」

 ルキウス王子がいたはずのところには毛布が転がっていて、その向こうにユーミが寝ている。

 まさか、外に出たのか? 俺はまだ眠い頭を振って立ち上がり、フラフラしながら外に出た。

 髪をなで上げながら見回すと、月明かりのなか、湖の手前にたたずんでいる王子が見えた。

 よかった。近くにいてくれた。

 そう思いながら、王子に近づいていく。


 ……ルキウス。そなたにこれを授けよう。……我が巫女、そなたの母親を救うのだ。


 再び誰かの声が頭に響いてきた。

 月の光が湖の水面に反射してキラキラしている。

 天空からスポットライトのように一条の光が、王子の手前の湖面に降り注いだ。

 その光の中を一本の剣がゆっくりと下りてくる。

 それを見た瞬間、眠気が吹っ飛んだ。あの剣。尋常じゃない力を感じるぞ?

 王子が湖に踏みいって、剣を手に取った。

 「うん。わかったよ。……ありがとう。ファフニルさま」

 独り言のような王子の声が聞こえる。

 王子が剣を手に取ると同時に、何かが立ち去った気配がする。


 「王子?」

 小さな背中に声を掛けると、王子はゆっくりと振り向いた。

 「お兄ちゃん? こんな夜中にどうしたの?」

 いやいや。それは王子もだから!

 「王子が外に出ていく気配がしてね。……その剣は?」

 王子は手にした剣を大切そうに捧げ持ち、

 「うん。火竜王の剣だよ」

 火竜王の剣? なんだ、その凄そうな剣は? ……もしかして、さっきの声って、火竜王か?

 あわてて空を見上げたり、まわりを見回すが、どこにもそれらしい姿は見えなかった。

 う~ん。不思議なこともあるもんだ。

 王子が空を見上げて右手を突き上げる。

 「火竜王さま。ボク、がんばるよ!」

 ……まあ、考えてもわからないこともあるよな。王妃が巫女だったんだ。王子にも俺にはわからない力があっても不思議はないだろう。

 さあ、朝も早い。王子。テントに戻ろう。


――――

 朝になり、オアシスを出発すると、すぐに空にどんよりとした雲が立ちこめてきている。どうも気圧も下がってきたようだな。

 先頭を進みながら、行く先の空を見つめる。

 ……これは、やはり竜巻の可能性が高いな。

 そう考えながらまた一つ、砂丘を乗り越えたとき、遠くに数本の竜巻と、その中央に聳える砂の塔が姿を現した。


 竜巻の様子を観察していると、左隣にやってきたシエラが、

 「で、あれはどう?」

ときいてきた。

 俺は困ったように苦笑いしながら、

 「ああ。あれは塵旋風じゃない。竜巻だ」

 それを聞いたシエラが、

 「そう。……でも、その顔は、何か手があるってことね?」

 いいや。そこまでは考えていないよ。ただ……。

 「見たところ、あの竜巻は砂の塔を守るように動いている。竜巻ってのは、気圧の変化によるんだが、あの規模だと馬車くらい簡単に空に巻き上げることができるだろう」

 ユーミが、

 「うげっ! それってやばいじゃん」

 俺は、

 「安心しろ。……俺と春香とでどうにかする」

といって、ニコッと笑った。

 「「「え?」」」

 おどろくシエラたち三人をよそに、俺は春香に目配せをする。

 ……春香。もう力を隠すのはやめようぜ。

 春香はだまって微笑んだ。

 ……夏樹。信じてる。あなたと一緒なら、私は何だってできるわ。


 春香と並んで砂の上に立つ。

 俺は腰だめに剣を構える。隣の春香は杖を構えている。

 ――神力解放。

 二人の足下から白銀の光が螺旋を描いて立ち上る。二つの光の柱が重なり合い、一つの大きな柱になっていく。

 ……夏樹。行くよ!

 春香の心が伝わってくる。

 手元の剣に神力を込める。春香の杖の先に白銀の光が集まっていく。

 「「はあぁぁぁぁ」」

 居合い斬りのように鞘から剣を解き放った神力と、春巻の杖の先からほとばしった神力が、まっすぐに飛んでいき、竜巻を消し飛ばした。

 「「おおお」」

 背後から王子とユーミの驚く声がした。うん? 誰か「ようやくだけど、ちょっと違うのよねぇ」ってつぶやいたような?


 竜巻は消えたものの、空は嵐のような雲に覆われている。

 風も強く、今にもヒョウが降ってきそうだ。

 再び竜巻が発生する前に、俺たちは急いで砂の塔に向かってラクダを走らせた。


 もう少しで塔に着くと言うとき、急に頭上から、

 「ふはははは! ここから先は通行止めだ! 通りたければ俺を倒していけ」

という大きな声と共に、一人のローブを着たガリガリの長い耳をした黒い肌の男が姿を現した。

 その狂喜に満ちた目を見て、俺たちは即座に散開して戦闘態勢を取る。

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