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外伝19 奪われた王妃

 夜が明けた空は、まるで台風が通り過ぎた後のような、青空とコントラストのはっきりした迫力のある雲とが入り交じっている。

 ポプリ王国が崩壊していることも覚悟していたが、街道を馬で走る俺たちの目の前に、変わらぬ王国の姿が見えてきた。

 内心でほっとしていると、春香が、

 「よかったね」

という。多くを語らなくてもわかる。春香も同じことを考えていたのだろう。


 まだ朝早い時間だが、街の入り口には四人の門番が緊張した面持ちで立っていた。いつもの倍の人数だ。

 「止まれ! ……お、王子! よくぞご無事で!」

 王子が手を上げて、

 「ただいま! お父さんたちは大丈夫?」

 「はい。幸いにして魔法でケガを回復しましたが、伏せっておられます。……どうかすぐに行かれてください!」

 「うん。わかった! みんなも気をつけて」

 「「はっ」」

 確かに王様のケガはひどかったが、魔法ってすごいな。王子が無事と知れば、ひと安心だろう。……ただ最悪の知らせもあるが。

 夜中に飛び出すように出発して街の様子をよく見てはいなかったが、どうやら街には被害がなさそうだ。

 つまり、あの四人。おそらく魔人の部下なのだろうが、奴らはお城をピンポイントで襲い目的を遂げたのだ。……一人を倒したとはいえ、かなり厄介な奴らだ。


 城門を通り抜け、王子について伏せっている王の寝室に向かう。途中でやつれたノース宰相に会うと、無事にもどってきた王子を見て、涙を流してよろこんでいた。

 王の寝室に向かいながら、詳しくわかった被害状況を説明してくれたが、王を含め重傷の人が20人。そして、太陽のオーブのみが奪われたそうだ。重傷の人は回復魔法ですでに傷が治っているが、医療室で休ませているとのこと。

 こちらも、王子を助け、奴らの一人を倒したことにはお褒めの言葉をいただいたが、太陽のオーブは奪われたまま、しかも魔人が復活したことを伝えると、その顔が青ざめた。


 「おお! ルキウス! 良かった。本当に良かった」

 そういって、クレメンス国王が王子を抱きしめ、ケガが無いか確かめている。

 「そなたらには、またも世話になったな」

 「いいえ。王様。……それよりも深刻な報告があります」

 ――死の谷で何があったのかを説明すると、国王は深刻な表情になってうなづくと、

 「うむ。……そうか。わかった」

と言って、王子の頭を撫でる。その姿勢のままで俺たちに、

 「あとは我らに任せよ。そなたらはルキウスを頼む。この子は、ロザリーの残してくれた大切な宝なのだ」

 俺はうなづいた。たしかに王子から目を離すと突っ走る可能性が高い。ユーミがそばにいるとはいえ、俺たちも注意していた方がいいだろう。

 それに魔人も、俺たち冒険者にも招集がかかるというならわかるが、今は王国に任せておくほかはない。

 なにか言いたそうな王子をつれて、俺たちはいったん王子の部屋に向かった。


――――

 考えてみれば、王子の部屋に入るのははじめてだ。

 「おじゃましまーす」

といいながら中に入ると、一〇畳くらいの部屋に勉強用の机や本棚が並んでいる。王子に聞くと、この奥にさらに一〇畳くらいの寝室があるそうだ。

 ユーミは何回か来ているようで、さして珍しそうな顔をもせずに、勝手にイスに座った。

 一方で、春香とシエラは棚に並んでいる雑貨をながめている。

 「ふんふん。……案外、いろんなところに行ってるみたいね」

 「あ、ほら。春香。これってユーミのところの……」

 「あ、そういえば、そんなの買ってたわね」

 「うふふ。こんなに大事にかざってあるってことは……」

 二人でひそひそと話し合っているが、まる聞こえだ。聞き耳を立てていたユーミの顔がだんだんと赤くなる。

 王子はイスに座って、ぐいんっと後ろに寄っかかった。両手を頭の後ろで組んで、天井を見ながら、

 「なにかボクにできることはないのかなぁ」

とつぶやいた。

 いやいや。王子、それはダメだよ。下手に動いたらかえって迷惑を掛ける。

 ユーミが、ぺしっと王子の額を叩いた。

 「あうっ」

 「なに言ってるのよ。そんなことしたら邪魔になるんだから、……一緒にいてあげるから、私の手伝いをしたら」

 ふむ。それもいい手だ。ユーミがなにを研究してるかしらないけど、そのほうが安心かも知れない。

 「う~ん。……そうだね。そうしよっかな」

と王子がつぶやいた。


 春香がアイテムボックスからポットとコップを取り出し、みんなのお茶を入れる。

 一息ついたところで、春香が、

 「ね? 王妃さまに会いに行かない?」

 ……たしかに、王妃の魂はおそらく魔王と一緒だろうから、こっちの王妃の肉体に異変が無いか確認した方が良いな。

 だが、春香。それは王子の前では言わない方がよかったんじゃ……。

 春香は俺の目を見て、

 「ほ、ほら。王子もお母さんの顔を見たら安心するでしょ?」

と言うと、ユーミも、

 「そうよね。……王子。行こうよ」

と王子の手を取った。

 う~ん。なんだか嫌な予感がするんだけどな。

 俺はそう思いながら、重い腰をあげた。


 王子とユーミが手をつないで廊下を歩く。

 その後ろを俺と春香がつづく。春香の右手はいつものように俺の左腕に添えられている。

 シエラが俺たちの後ろからついてきながら、

 「う~ん。ナツキとハルカも大概たいがいよねー」

と言ってきた。振り返って、

 「え? なにが?」

とききかえすと、少し困ったように、

 「私も早く旦那様といちゃいちゃしたいよ!」

と小さく叫んだ。

 ああ、そういうことね。

 春香と顔を見合わせてクスッと笑った。

 春香が、

 「ごめんね。って、そういえばシエラって結婚して何年目なの?」

と尋ねると、

 「ええっと、約10年かな?」

 それを聞いて思わず、俺と春香が足を止めて振り返った。

 「「10年?」」

 おいおい。シエラって何歳だ?

 きょとんとしたシエラに春香が、

 「あのね。もしかして見た目通りの年齢じゃないとか?」

 「え、え~と、32よ。……もしかして若く見える?」

 まじか? 10代後半だと思ってた……。竜人族って、そういう種族なのかな。

 うらやましく……、ないか。もう俺たちも年を取れるのか、わかんないしな。何となく若いまんまな気がするけど。


 そんなことを言いながら、階段を降り、王妃の部屋に入った。

 王妃は前と変わらず、ベッドの上で眠っている。

 王子もやっぱり心配だったのだろう。王妃の姿を見て、急に肩の力が抜けたようだ。

 ユーミが、

 「何ともないみたいで良かったね。ルキウス」

と言うと、王子は微笑んだ。「うん」

 俺はそっと寝ている王妃を見つめる。

 ふと気がつくと、シエラが厳しい目で王妃を見ている。

 振り返って、

 「シエラ?」

と小声で呼んだときだった。

 王子が、

 「あっ! お、お母さん?」

と素っ頓狂な声を上げた。向きなおると、王妃の身体がまるで何かに釣り上げられるように、ベッドの上に浮かんでいく。身体もうっすらと透明になっていく。

 「おい! なんだこれ!」と叫びながらその身体を捕まえようと手を伸ばす。

 「お母さん! お母さん! 行かないで!」

 「ちょっと! どういうこと!」

 王子とユーミが必死で王妃を捕まえようとジャンプしている。けれど、王子たちの手も、俺たちの伸ばした手も王妃の身体をすり抜けていく。

 どんどんと透明になっていく王妃。

 王子が涙目で、「あ、あああ……」

 ついに王妃は空中に消えてしまった。

 「お、お母さーん!」

 王子の叫び声に、部屋の扉が乱暴に開けられて、クレメンス国王とノース宰相が飛び込んで来た。

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