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外伝17 闇の洞窟

 一旦、谷底まで下りた道がまた上り道になり、目の前の洞窟へと続いている。

 どういうわけか、モンスターの類いが襲ってくることはない。というより、一匹も見当たらないし気配もしない。恐らく、俺にはあんまり違いがわからないが、この谷全体が何らかの力を帯びているのだろう。

 雨もやみ、風もなく、死の谷全体が不気味な静けさに覆われている。

 洞窟の手前まで来たことで、さっきよりも春香を近くに感じる。

 みんなを振り返る。王子も剣を持ち、ユーミは身につけたスーツをチェックしている。シエラも取り戻した剣を持って、俺を見ている。

 どうやら準備オッケーのようだな。

 「みんな……、行こう。春香と合流し、封印と王子のお母さんを守ろう」

 「うん」「「ええ」」


 洞窟に向きなおって、俺は中に入った。

 後ろからユーミが、

 「いやに暗いわね。ちょっとまってて。……フローティング・ライト起動」

といい、手首のスイッチを押した。

 ユーミの背中から、ブウゥンと機械が動く音がして、小さな二つの円盤が浮かび上がって光り始めた。思いのほか、強い明かりで洞窟の中が明るくなる。

 王子がびっくりして、

 「うわぁ。すごいよ。さすがはユーミ!」

と褒めると、ユーミが照れくさそうに、

 「ふ、ふん。こんなんで驚いてるんじゃないわよ」

と口をとがらせている。が、頬がゆるんでいてうれしそうだ。

 再び焦りがつのっていたが、二人のやり取りを見て心が落ち着いた。

 とその時、前方に何かの気配がする。


 「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」

と耳障りな鳴き声を上げているのは、洞窟の中にひしめき合っているゴブリンだった。身体の色がいつもの緑ではなく、真っ黒色をしていて強い力を感じる。

 シエラが、

 「ブラックゴブリン。オーガーともやり合うような強い奴だわ。注意して」

と言いながら、王子たちの前に出た。

 俺は俺で剣に神力をまとわせ、

 「いくぞ!」

と言って飛び出した。

 「疾風斬」

 振り払った剣から、無数のカマイタチが飛んでいく。俺の後ろからは王子が、「ファイヤーボール!」と魔法を放っていき、その隣ではユーミが右手を挙げて、「マジック・ミサイル」と言うと、その腕からいくつもの魔力のミサイルが飛んでいった。

 しんがりのシエラが冷静に打ち漏らしたブラックゴブリンにとどめを刺していく。

 前からは一際大きいブラックゴブリンが三匹出てきた。それぞれ槍、大剣、斧を持っている。

 できれば後ろの王子のところまで通したくはない。

 即座に飛びだして、突き出された槍を剣で擦り上げて頭をかち割り、そのまま隣から斬りかかってきた斧の一撃をステップで交わす。そのまま回し蹴りで斧使いのブラックゴブリンを吹っ飛ばした。

 そこへ後ろから大剣が振り下ろされるのを感じて、前転してさけると、大剣使いのゴブリンの脇腹に、王子が攻撃していた。

 苦しむゴブリンにユーミが、「フレイム・ランチャー」とコマンドワードを唱えると、背中のスーツがせり上がって、砲身となり大きなファイヤーボールが飛んでいった。

 ……よかった。戦えている。

 意識を切り替えて、蹴っ飛ばしたブラックゴブリンのところへ飛び込んでいき、袈裟斬りに剣を振り下ろした。


 敵がいなくなったところで、一端、周りの状況を確認する。と、ユーミが、

 「み、見て。ブラックゴブリンが煙になっていくわ」

と指をさした。

 あわてて周りを見回すと、倒したブラックゴブリンが煙になって洞窟の奥へと流れ込んでいった。

 王子が首をかしげて、

 「うわぁ。不思議だね。なんだろう?」

と言うと、ユーミがポカリと頭を叩いて、

 「のんきなことを言ってないの!」

と突っ込んでいた。王子は、テヘヘと笑っている。

 シエラが油断なく、周りを見回し、

 「とにかく奥へ行った方がいいかな」

と俺を見た。そうだな。ゆっくりはしていられないだろう。

 うなづいた俺は、先頭を歩いて、洞窟の奥を目指した。


――――

 洞窟を猫ちゃんと一緒に歩いていると、ぐんぐんと夏樹が近づいて来ているのがわかった。

 きっと私が洞窟にいることがわかって、大急ぎでやってきているんだろう。

 私は慎重に洞窟を歩きながら、

 「むぅ。……おかしいなぁ。この道、夏樹の方向じゃなくて、どんどん奥へ向かっているような気がする」

とつぶやくと、足下で猫ちゃんが、「ニャーオ」とないた。

 足を止めて下を見下ろし、

 「ねぇ? そういえばアナタのお名前は何かしら?」

と声をかけると、猫ちゃんは左腕を突き出してきた。

 私の言葉、わかるのかな? そう思いながら腕を見ると、小さな腕輪をしているのが見えた。

 「ふふふ。そうよね。飼い猫なら、その印がないと野良猫に間違えられちゃうわよね。……ええと、サクラ? これがあなたのお名前?」

 「ニャオン」

 「そう。サクラか。……不思議ね。なんだか日本風のお名前だわ」

 もしかして、こっちの世界にジュンさん以外にも日本の文化を伝えるような人が来ているってことはありえるのだろうか?

 新たな疑問が胸のうちにわき出たところで、黒猫のサクラが鋭く、

 「ニャッ!」

とないた。

 あわてて杖を構える。きっとモンスターだろう。

 洞窟の先の方を見ると、体長40センチくらいのコウモリが20匹ほど、天井から私を見ていた。

 「うわっ」

 正直、見たくなかったなぁ。

 私は杖を構え、

 「マナバリア。ファイヤーバレット・ストローク」

と自分とサクラに魔法のバリアを張ってから、1メートルくらいの火の玉を頭上に三つ浮かべ、そこから拳ほどのファイヤーボールをマシンガンのように打ち放った。

 ドララララララっ

 凄まじい音がして、コウモリたちが逃げようとする暇もなく、地面に落ちていく。

 すべてが終わって、異常が無いことを確認し魔法を解く。……猫ちゃんも無事なようね。

 猫は私の足下から跳び出すと、私の背後に向かって飛び上がって、爪を一閃した。

 「な、なに?」

 あわてて振り向くと、猫ちゃんがくねっている一匹の蛇を足で押さえつけていた。

 あっぶなぁ。気がつかなかったよ。……それに鮮やかな色をしているけど、もしかして毒蛇? サクラに感謝だわ。

 私が攻撃する間もなく、サクラがその蛇を仕留めた。私を見上げて自慢しているような表情だ。

 「ふふふ。ありがとうね。……またよろしく」

と言うと、「ニャン!」とないた。

 さあ、夏樹と合流するまで慎重に進もう。

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