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外伝15 王子を追いかけて

 「頼む。王子を救ってくれ!」

 大けがをしたクレメンス国王の姿が痛々しい。


 詳しい話を聞いてみると、四人の不気味な男が王城を襲撃してきたそうだ。ものすごく強い魔法使いらしく、騎士たちの善戦もむなしく国王は重傷を負い、太陽のオーブを奪われたそうだ。

 ところが王子がオーブを取り返そうと男たちに飛びかかり、一人の男がおもしろそうに王子の頭をつかんで、そのまま城から姿を消した。


 硬い表情で旅支度をしているユーミが、

 「あれは普通の人間じゃないわよ。王子を助けに行かなきゃ!」

 「ユーミ。俺たちが行くから、お前は城で待ってろよ」

と俺が言うと、ユーミが首を横にふって、

 「だめ。絶対に一緒に行くからね!」

と言い張る。春香が、

 「夏樹。一緒に連れて行こうよ。勝手に飛び出されても困るし、それにユーミの装備だって強いんでしょ?」

 「あったり前よ! 新開発のギミックスーツよ!」

と自慢している。

 大丈夫かなぁ。心配だけど……。でも王子を思う気持ちは一緒か。

 「わかった。一緒に行こう!」

 俺がそういうと、ユーミが、

 「なら行くわよ!」

と城の出口に向かって歩き始めた。

 おいおい。今は夜だぞ?

 「さっさと行くの!」

 春香がクスッと笑って、

 「ほら。夏樹。ユーミが呼んでるわ。……行こうよ」

と俺の手を引っ張った。


 城の出口ではノース宰相が待っていて、深々と頭を下げた。

 「王子をよろしくお頼みします!」

 ユーミが胸を張って、

 「ふん。まかせておいて! このユーミ様にね!」

 俺は一礼して、

 「力を尽くしますよ。では」

とユーミの後に続いて城を出発した。

 ……四人の不気味な男。強力な魔法使い。油断はできないぞ。


 街の出口を出たところで、俺と春香はそれぞれ神力で馬を作り出す。

 自分の馬に乗った春香がユーミに手を伸ばして引っ張り上げる。

 ユーミが春香の前に乗ったのを確認して、

 「とにかく死の谷に向かう。いいな?」

 「ええ」「いいわよ」

 馬を街道の方に向け、一気に夜の闇に駆け込んだ。


 ……俺と春香は、すでに肉体が神に近づいているので夜の闇の中でも真昼のように見通せるようになっている。

 ユーミはごついゴーグルを目につけた。きっと暗視眼鏡ノクトビジョンかなにかだろう。

 普通の馬よりも早く、オアシスを抜けた街道から東の間道へ曲がっていく。

 夜中だから魔物の活動も活発になっているから油断をすることはできない。気配を探りながら、近づいて来た狼の魔物を通り抜けざまに切り捨て、そのまま死体を放置して進んでいく。


 背後で、ユーミが、

 「よくこの暗い夜を何もしないで見えるわね」

と言っているのが聞こえた。春香が、

 「うふふ。これも訓練の成果よ」

と答えている。

 「……ふうん。じゃあ、私の方は王子につけた発信器の動きを探るわ」

 春香が驚いて、

 「王子に発信器なんてつけてたの?」

 「だって、あの王子ったら、ほっとくとどっかへ行っちゃうから、腕輪型の発信器を作って、いつもつけてるように言ってあるのよ。……っとと、え~と。やっぱりこのまま東の方ね。移動を止めているみたいだから、急がないと」

 なるほど。抜け目がない。……やっぱりあの王子にはユーミがぴったりだ。いい夫婦になりそうな気がするね。

 そう思いながら、また飛びかかってきた狼の魔物を切り捨てた。

 ――待っててくれよ。王子!


――――

 その頃、全身鎧を来た一人の騎士が夜道を歩いている。

 輝くような金髪に、ドラゴニュートであることを示す巻角が出ている。

 竜騎士の女性、シエラだ。


 「ふう。予見ではそろそろのはず。……っと、来たわね」

 そういって空を見上げると、西の方から高速で何かが近づいて来ていた。

 それを見てシエラは気配を隠して息をひそめる。

 近づいてくると、飛来してくるのが四人の人だということがわかる。もう少しでシエラのいるところにさしかかると言うときに、飛んでいる一人の人が何かを地面に投げ落とした。

 それを見たシエラが落下予測地点に走る。


 どうやら投げ落とされたのは人間の子供のようだ。

 「うわあぁぁぁぁ」

と叫び声がぐるぐるとまわって聞こえる。

 シエラが大きくジャンプして、その子供を抱きかかえ、荒野の大地をズザザザーっと滑った。もくもくと土埃が立つけれど、夜中なので誰も気がつかないだろう。


 ようやく止まったシエラの腕の中には、ルキウス王子が気を失っていた。

 シエラは飛んでいった四人の行く先をにらみつけた。

 「まったく。こんな子供を乱暴に……。私たちがやっつけてあげるから、待ってなさいよ」

とつぶやき、ふたたび道を歩き始めた。

 「さてと、夏樹さんたちと合流するまで、見晴らしのいいところで待機してようっと」

 そういってシエラは王子を抱きかかえて歩き始める。夜の闇の中、その全身がかすかに光を帯びていた。


――――

 進んでいる間道が、次第に道らしい道でなくなっていく。荒野をユーミの道具を頼りに王子のいる方向に走っていく。

 ユーミの魔導具での反応によると、すでに一カ所に止まっているということだが、それは安心していいのか危険な状況なのかわからない。

 俺たちの不安を表すかのように、漆黒の闇がせまってくるようだ。しかし、その暗夜を切り裂くように俺たちは進み続けた。


 「夏樹! 前に誰かいるよ!」

 後ろから春香が叫ぶ声が聞こえる。目をこらすと、確かに前方に全身鎧の騎士が……、ってあれはシエラじゃないか!

 あわてて馬を止めさせる。

 ズザザッ。

 「おっとっと!」

 俺たちが目の前で止まったのを確認して、シエラがにこやかに、

 「おひさ! 夏樹。春香。……ユーミも」

と近寄ってきた。って、そこにいるの王子じゃないか! 

 俺はあわてて馬を下りて、

 「シエラこそ。それに王子は無事か? どうして王子と?」

と言いながら王子に近寄る。

 春香たちも馬を下りてついてくる。シエラが、

 「いやぁ。驚いたよ。いきなり空から落ちてくるんだもの!」

 そ、そうか。いきなり落とされたのか……。だがシエラもよく受け止められたよな。いや、シエラがいてよかった。


 どうやら王子は気を失っているようだ。胸が規則的に上下に動いていて、見たところ外傷はないようだ。ひとまず安心といったところかな。

 かたわらで心配そうな顔で王子を見つめているユーミに、

 「どうやら気を失っているだけみたいだから、大丈夫だよ」

と言うと、

 「そう。……よかった」

と言いながらも、物憂げな表情で王子を見つめていた。


 周りの気配を探って危険がないことを確認し、今晩はここで野宿をすることにした。

 魔道具で結界を張り、アイテムボックスからテントなどを取り出す。

 「春香。テントを組み立ててるから、その間にお茶の準備をしておいてくれ。……あとユーミ用の栄養ドリンクを頼む」

 「りょーかい。ついでに何か食べるもの作る?」

 「ん~……。そこまではいいかな」

 春香は「わかった」といいながら、自分のアイテムボックスからコンロを取りだしお湯を沸かしはじめた。

 俺はその間に、テントを取りだして、シエラに手伝ってもらいながら組み立てる。

 張り終えたら王子をテントに運び、ユーミに引き続き見てもらい、俺たちはイスに座った。

 春香が紅茶を手渡してくれる。

 「はい。どうぞ」

 「ありがと」

 「シエラも、はい」

 「は~い。ありがとう」

 王子を無事に保護できたこともあり、ほっとして紅茶を一口すする。

 シエラは俺たちの乗ってきた馬を見て、一人でなにか納得したようにうなづいている。……まさか神力でつくったとバレてないよな?


 「そういえば、シエラはあれからも、ずっとその旦那さんの指示でどこかに行っていたの?」

 春香がそうきくと、シエラは、

 「いったん家に戻ったんだけどね、また指示があって……」

 「へぇ。……もしかして人使いが荒い?」

 「そういうことはないけど、ちょっと自分が動くわけにいかない理由があるから」

 「そう。よくわからないけど、大変なのね」

 「あはは。まあ……」

 うん。そういえばシエラの旦那ってどんな人なんだろうね。と思っていると春香が、

 「いつかシエラの旦那さんに会えるといいな」

と言った。うん。やっぱり考えることは一緒だな。

 「え、ええっと。いつか紹介するよ。……もう会ってるけど」

 え? 最後なんて言った? よく聞こえなかったぞ。

 春香がにこやかに、

 「うん。楽しみにしてるね」

というとシエラはあいまいに笑った。

 その時、

 「ニャーン」

と猫が鳴く声がした。……おかしい! 気配なんてしなかったぞ?

 あわてて立ち上がって周りを見回す。すると、どこからか毛の長い黒猫が現れて、シエラの足にまとわりついていた。

 シエラは落ち着いて猫を持ち上げると自分の膝の上にのせた。警戒している俺と春香を見て、

 「あれ? どうしました?」

と怪訝そうに首をかしげている。

 なんだか気恥ずかしくなって、春香と二人、顔を見合わせて苦笑いする。

 「あはは。……なんだ猫か」

 「そ、そうね。おどろいて損しちゃった」

 イスに座り直し、紅茶のカップに口をつける。ふっと猫を見て、

 「あれ? その猫って前にギルドにいた?」

 春香も気がついたようで、

 「ホントだ。奇遇だね。この猫ちゃん」

 いやいや。春香。そこは驚くことだろう。だって、ここは荒野の真ん中だぞ? 絶対に普通の猫じゃない、よな? 一体なにものだろう。

 じいーっと、シエラの膝の上で寛いでいる猫を見ていると、猫があわてたようにぷいっと明後日の方向を向く。……むむむ。怪しい。怪しいぞ。この猫!

 突然、俺の足に衝撃が走る!

 「ぬおぉぉ」

 見ると、春香が足を踏んづけていた。

 「ちょっと。いくらシエラが美少女だからって、……胸を見過ぎ!」

 「い、いや。春香、違うぞ。それは断じて違う! 俺が見たい胸はおまえのだけだ!」

 そんな俺と春香のやり取りを、シエラは頬をひくつかせながら見ていた。

 「あ、あはは……」


 そこへユーミがテントから頭を出した。

 「王子が起きたよ」

 おお! 起きたか!

 俺たちは王子の所に急いだ。

 テントの中で、王子が上半身を起こして頭を振っている。

 「う、う~ん」

 どうやら少しぼうっとしているようだな。

 ユーミが王子のところにいって背中を支える。

 「ちょっと大丈夫?」

 「う、うん。ありがとう。ユーミ。……って、あれ? ボクは……」

 春香が、

 「王子。どこか痛いところとかない? この指は何本?」

 「え、ええっと。3本だよ」

 「うん。大丈夫みたいね。ちょっとお茶を入れてくるわ」

 そう言って春香が外に出て行った。入れ替わりに王子のそばに行き、

 「本当によかった。……王子。シエラが助けてくれたんですよ」

 そういうと、王子はシエラの方を見て、

 「ありがとう! シエラ。……ボク、空から落とされたところまでしか覚えてないんだ」

 ……は? 空から落とされた? おいおい。よく無事だったな。川に落ちたというわけでもなさそうだが……。どうやって助かったんだろう?

 首をひねっていると、シエラが、ちょっと焦りながら、

 「あはは。私もよく無事だったなぁ……なんて」

と頬をカリカリとかいている。

 王子が、

 「それにしても酷ひどいんだよ! 太陽のオーブを使って、砂の魔人の封印を解くっていうんだよ! そんなことしたら大変なことになるよ! ……お母さんの魂だってどうなるの?」

 俺は思わず、

 「なんだって! 砂の魔人の封印を解くだと?」

と叫ぶ。おいおい。早く追いかけないとまずいぞ。それにあの四人は一体なにものなんだ?

 立ち上がったところで、春香がお茶を持ってきた。俺の顔を見て、

 「あれれ? どうしたの?」

 「ああ。ちょっと緊急事態だ」

 俺の返答を聞いた春香が、さっと王子にお茶を手渡し、ユーミに後をお願いしてから、俺を見上げた。

 「ちょっと、外に行こっか」

 「ああ。……シエラもいいか?」


 テントの外で三人で話し合う。

 「これからのことなんだが……」

 春香が確認するように、

 「王子は無事に助けられたわね」

という。俺はうなづいて、

 「ああ。ただ、封印を解こうとしている奴らがいる。しかも、太陽のオーブも持っている」

 シエラが首をかしげて、

 「太陽のオーブ?」

 「ああ。封印に干渉するのに、太陽のオーブが必要なんだが、よりによって奴らが奪い去っている。……奴らは封印を解く手段を持ってるんだ」

 「げげげ! それってまずい状況じゃ……」

 俺と春香はうなづいた。

 「ああ。だから、できたら封印の地まで追いかけたい。なんとしても止めないと」

 「ただ、王子とユーミがついてこれるか心配なのよ」

 シエラが、「そっかぁ」とつぶやいた。

 その時、後ろのテントから、

 「ボクは行くよ! 絶対に」

と声が聞こえた。振り向くと、テントから王子とユーミが顔をのぞかせている。ユーミが、

 「もちろん、私もね」

と決意を秘めた表情で言う。

 王子が、

 「絶対に、復活させちゃいけないんだ! ポプリのみんなを守るのがボクの役目。今、止められるのはボクたちだけなんだ!」

と大きな声で叫んだ。

 その決意と気迫が俺の心を振るわせる。

 春香の方を見ると、春香はうなづいた。そうか。王子ももう決意しているんだ。

 俺は気合いを入れて顔を上げた。

 「そうだな。……よし、行こう!」

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