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外伝14 襲撃、再び

 今日は、討伐の依頼を受けて、オアシスの北に広がる砂漠を抜けて、赤茶けた大地の広がる荒野に来ている。

 変わった形の台地がいくつか見え、その遙か向こうに巨大な山脈の姿が見える。一定の高さから雲に覆われていて、どれほど大きいのかわからないが東西に見渡すかぎり伸びている山脈。あそこは大火山地帯で、その向こうは魔道工学の発達したアーク機工王国だ。


 「……夏樹。見つけたよ。あそこ!」

 同じ馬で、俺の前に座っている春香が荒野を指さした。

 ふつうの馬なら二人乗りなんて負担が大きすぎて無理だろうけど、じつはこの馬。俺の神力で生み出した魔法生物なのだ。

 やり方はパティスさんに教わって、本当は魔力でもできるらしいが、どうしたわけか、俺たちには神力でなくてはできなかった。その代わり、ふつうの魔法生物より力が強いようだ。

 というわけで、早速、俺が手綱をにぎって、前に春香を座らせてやってきた。ちゃんと邪魔にならないように春香は髪を結っているが、春香のいい香りや柔らかい体を感じることができて、気分は上々だ。春香も心持ち後ろに寄りかかって、いつも以上に密着していて楽しそうだ。


 春香の指を指した方向には、討伐対象のランドリザードがいた。

体長八メートルの巨大なトカゲで、見た目以上にどう猛だ。たまに街道を行く商隊が襲われる事件が起きる。ただ、その肉はうまいらしく、ほかにも心臓と肝臓が薬の材料になるようで高価で取引される。


 「三匹だな。……春香。頼むぞ」

 「うん。まかせて!」

 今日は俺は馬を操り、春香が魔法で仕留める手はずになっている。

 馬を走らせて近づいていくと、ランドリザードも俺たちに気がついたようで、こっちを向いて吠えた。

 「いくぞ!」

 一匹目のランドリザードが鋭い牙の並んだ顎をひらいて突っ込んでくる。それを右に回ってかわしざまに、春香が、

 「ディメンション・カッター!」

と空間に断層を生じさせて、ランドリザードに攻撃した。空間に干渉するこの魔法なら、皮膚の硬さなど関係はない。

 つづいて、目の前に迫るランドリザードの手前を横切るように馬を左に旋回する。体が斜めになりながら、春香が再びディメンション・カッターを放った。

 最後の三匹目が威嚇をしてくるが、その叫び声の衝撃波を突き抜けて、脇を通り抜ける。

 三度目のディメンション・カッターが狙い違わずに、ランドリザードの命を絶つ。


 走り抜けた馬を旋回し、動かなくなった三匹にゆっくりと近づいていく。

 「ま、こんなもんかな?」

 「ふふふ。楽勝だね」

 そう言いながら俺は馬を下り、地面に手を添えた。

 「ゴーレム創造」

 そうつぶやいて魔力を地面に流し、練り上げて大きな土人形を6体作り出す。ゴーレムはゆっくりとランドリザードに近づいて、俺たちの代わりに素材のとりわけをはじめた。


 その作業を眺めながら、

 「魔法って便利だな」とつぶやくと、春香が、

 「本当だね。……っていうか、私たち人間離れしてきた気がする」

 振り向いて、春香のおでこを人差し指でつんっと軽くつき、

 「今さらだな。……それに二人一緒さ」

というと、春香は微笑んだ。

 「ずっと一緒だもんね」

 近くの丁度いい大きさの岩に二人で腰掛けて、ゴーレムの作業が終わるのをまつ。そばには馬がたたずんでいる。

 水筒を取りだして一口飲んで、そのまま春香に手渡す。春香も一口飲んで、両手で水筒を持ち、

 「ねえ。今ごろ王子たちは何をしてるかしらね?」

と空を見上げながら言う。


 太陽のオーブを取り戻してから、シエラさんは再びどこかへ出発した。王子とユーミはいつもどおり、城のなかで勉強やら開発やらをしているだろう。

 俺たちも神力の使い方に慣れてきた。

 順調のように思えるが、いまだにジュンさんのいる神域の場所すら感覚的にわからないから、転移していくのはまだまだ無理だろうが、そう遠くない時期にできそうな気がしている。

 その時には、王子たちともお別れになるのかなと思うと、ちょっと寂しいが、それも仕方がないことだろうなぁ。


 春香が水筒のキャップを閉めて、

 「ほら、終わったみたいよ」

と言って岩から立ち上がった。

 俺は水筒を受け取ってアイテムボックスにしまい、春香と一緒に部位ごとに分けられたランドリザードの所へ向かった。


――――

 再び春香と二人乗りで馬の乗りながら、街道を戻る。

 湖が見えてきたところで、人から見えないように馬をもとの神力に戻し、そこからは二人で歩いて行く。

 先に依頼主の錬金術師のところへ行って、依頼の部位を渡し、達成のサインを貰った。


 まだ時間的には早いから、今ならギルドもすいているだろう。

 ギルドのドアを開けると、なぜかカフェスペースに王子とユーミがいた。

 「あれ? もしかしてデートかな?」

とつぶやく春香にうなづきかえし、

 「ふふふ。幼い恋が順調に進展してるみたいだね」

と言い、温かい目で二人を見る。

 俺と春香に気がついた王子が、

 「あっ。帰ってきた! おーい。ここだよ!」

と手を振っている。

 春香が苦笑しながら、

 「あらあら。せっかくのデートなのにお邪魔しちゃったかな」

と言いながら二人に近づいていった。

 俺はカウンターで、依頼達成の報告をしてからカフェスペースに向かった。


 王子たちと一緒のテーブルに座ると、王子が一冊の本を取り出した。

 「ね、これ見て。……ええっと、ここ」

 そういって王子はページの中の一文を示した。

 「ええと、どれどれ」

 それはどうやら10年前の襲撃事件を誰かが記録したもののようだ。


 ――火竜王が、結界の中に捕らえた砂魔人に向かってブレスを放った。

 ブレスの光に対抗するように、砂魔人が砂のブレスを放った。

 ブレスとブレスが真っ向からぶつかり合い、空気が振動し、大地が震えた。この世の終わりのような光景の中、突如として、王城の一角に光が生じた。

 その光は飛んでいき、砂魔人の周囲を一周すると、砂魔人は突然苦しみだし、体が崩れていった。

 光は、崩れていく砂魔人の体を突き抜け、東の方。死の谷の方へと飛び去っていった。

 それを見届けた火竜王は、しばし東の方角を見つめ、ゆっくりと王城の方へと飛んでくると、右手の指先から不思議な水を吹き出した。

 残念ながら、王城の石壁が邪魔で、その水がどうなったのかわからないが、それを終えた火竜王は、そのまま北へと飛んでいった。――


 なるほど。王子は手がかりを見つけたわけか……。

 春香の方を見ると、春香はだまってうなづいた。

 「なるほど……。死の谷ねぇ」

とつぶやくと、王子が身を乗り出してきて、

 「ね、これってそうだよね。お母さんの魂は死の谷にいるんだよね?」

ときいてきた。

 「どうやらそのようだね。……だけど、あそこはかなり危険だよ。だから王子。前も行ったとおり力をつけるのが先だね」

というと、ユーミが、

 「ほら。だから言ったじゃない。……あのね。王子ってば、お母さんの魂のことをきいてから、心ここにあらずなのよね」

と言う。王子がしゅんっとなって、

 「でも、……ボクはお母さんに会いたいんだ」

とつぶやいた。

 春香がやさしく王子の頭をなでて、

 「王子。その時には私も夏樹も手伝うから、今は今できることを頑張ろうね」

と言うと、王子は気を取り直して、

 「うん。……うん。そうだね。がんばらなきゃ」

とつぶやいた。

 王子たちが戻り際、ユーミが、

 「ありがとうね。もう、王子ったら、そばで見ていないと何をするかわかったもんじゃないわよ」

と言う。俺と春香は笑いながら、

 「ユーミも大変だな。王子のこと、頼むぞ」

と言うと、ユーミは肩をすくめて、

 「仕方ないわね。と、と、友だちのためだもんね」

と振り返って、王子を追いかけていく。


 俺と春香はそれをほほ笑ましく眺め、見送った。


――――

 その日の夜。

 再びお城の方から何かが爆発するような音がした。


 あわてて飛び起きて、武具を身につけて外の飛びだした。

 お城から黒い煙がモクモクと立っている。

 目をこらすと、上空に四つの人影が浮かんでいて、さあっと東の方へと飛び去った。


 「王子!」


 お城へ着いて、俺たちが知ったのは、再び奪われた太陽のオーブと、王子が連れ去られたということだった。

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