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外伝12 取り戻せ! 太陽のオーブ

 う~む。この和室は古き良き昭和の香りがする。一ヶ月ぶりの畳にどこかで見たようなブラウン管のテレビに、なぜかミカンのカゴを載せたこたつ。……まあ、この部屋は確かに冷房が効きすぎているけれど、ここって砂漠の国だよな?


 小学校4年生くらいの外見のユーミがどてらを着て、驚きに目を見開いて俺たちとこたつにいる王子を代わる代わる指さしている。

 その背後のブラウン管のテレビには、この四畳半にいる俺たちが映し出されている。ひょっとしたら監視装置用のスパイロボットがいたのかもしれないね。


 フリーズから復帰したユーミがわなわなと震えると、

 「ここは乙女の私室よ! さっさとこっちに来なさい!」

と叫ぶと、裏口とは別のドアか出て行った。

 王子がニコニコしながらこたつから出て、靴を履いて俺の隣にやってきた。


 すると待ちきれないのだろうか、ドアの向こうからユーミが、

 「はーやーく!」

と大声を上げている。

 なんだか早速、気が抜けてしまうが、ふと横を見ると春香もシエラも苦笑していた。

 「ほら。お呼びのようだから、早く行こうよ」

と春香が笑った。


 ドアを開けると、そこはお城でいうところの謁見の間だった。前方に高い段が設けられていて、その中央に立派なイスが鎮座し、その正面の段下から赤い絨毯が観音開きのドアまで続いている。


 ユーミは立派なイスの前で腕を組んで、いらいらと足を揺らしながら、

 「こっちの前に並びなさいよ」

と言う。王子が、「うん! わかったよ」と言いながらユーミの指示通り赤い絨毯のところまで歩いて行くので、俺たちもその横に並んで、段上のユーミを見上げた。

 王子が明るく、

 「ここでいい? ……もうちょっと後ろ?」

 「悪いわね。ええっと、そこらでいいわ」

 ユーミの指示通りに移動して、そこに俺たちは整列した。その途端に、まるでスイッチが入ったようにユーミが高笑いをはじめる。


 「あーはっはっはっ。よくぞ来たな! ポプリ王国の王子よ! そして………って、あんたたち誰?」

 指を突き出したままで、ユーミはいぶかしげな顔で俺たちを見つめた。


 シエラが怒り出す。

 「私の顔を忘れたの! 剣を返してちょうだい」

と言うと、ユーミはしばらく何かを考え込んでいて、不意に右の握り拳を左の手のひらに打って、

 「ああ! そういえば、サンドワームをさばくのに大きな包丁がいるからって。……オッケー! ちょっと待ってて」

と言って、襟元にマイクでもあるように口を寄せると、

 「シェフ。……例の包丁さ。持って来て」

とどこかへ指示を出した。

 すると俺たちの後ろの観音開きの扉が開いて、一体のシェフ姿の人形が一本の剣を持ってきた。

 見た目はシンプルな剣のようだが、不思議な力をその剣から感じる。魔力ではなく、神力のような気がするが……。まあ、気のせいだろうな。

 その剣を見たシエラがシェフ人形に近よって受け取り、早速、腰に下げた。シェフ人形は一礼すると、室内から出て行く。

 ユーミはそれを見てうなづくと、

 「んじゃ。そっちの用件は終わりね。というわけで気を取り直して……。あーはっはっ。王子よ! よくもここまで来れたな。そんなに太陽のオーブを返して欲しいのか?」

 ……う~む。まるっきり悪役のセリフだが、これは様式美というべきなのだろうか。なんだか劇をやっているような気もするし。


 王子はユーミの問いかけに、

 「うん!」

と元気に手を上げて返事した。

 「ならば。こいつと戦ってもらうわ! ……奪い取れるものなら、奪い取ってみなよ!」

とユーミが宣言したと同時に、謁見の間の天井から、ちょうど俺たちとユーミの真ん中に何か大きなものが落ちてきた。

 ガシャンっ。


 「「「わっ!!」」」

 俺たちはおどろいて飛びすさり、油断なく武器を構えた。

 その間に、ユーミは落ちてきた物体に駆け寄って、何かのボタンを押した。

 ぷしゅうぅーー。

と空気が抜ける音がして、物体の一部が開き、そこへユーミがぴょこんと入っていった。

 ぶううぅぅんっと何かが起動する音がして、その物体が変形していき……、一体のロボットとなった。


 王子は目をキラキラさせて、

 「すっごーい! かっこいいー!」

と叫ぶ。ユーミが、

 「ははははは! どうだ! これこそこのユーミさまの最高傑作。バトロイド29号よ!」

 俺は剣を構えながら春香に、

 「春香! 王子のそばに!」

と指示をした。春香は「わかったわ」と言って、王子の横に瞬間転移する。


 バトロイド29号が、

 「行くわよ! ラットロケット発射」

と言うと、背中から8発の小型ロケットが発射され、ひゅううっと音を立てながら俺たちの方へ軌道を変えて飛んできた。

 うおっ。自動追尾ロケットか? 驚きながらも、俺は剣に風の魔力をまとってかまいたちを放って、俺の方へ飛んでくるロケットを打ち落とす。

 ボンッ。ボンッ。ボンッ。

 三つの小型の爆発音が聞こえる。シエラの方は金色のドーム状のバリアでロケットを防ぎ、王子たちのほうも春香の魔力壁マナバリアでロケットを防いだ。


 バトロイド29号。見たところ素材は人形と異なり、金属のようだ。とすると弱点は電撃か?

 俺は全身に魔力を巡らして身体強化を行い、一気にバトロイドの懐に入り、斜めに切り上げた。俺の魔力を帯びた剣がガガガと何かに当たったように火花を散らすが、残念ながらバトロイドにはダメージがないようだ。

 即座にバックステップして距離を取る。

 「みんな。注意しろ。どうやらバリヤーがあるみたいだ」


 ユーミが、「ぐぬぬ」とうなる声が聞こえ、バトロイドが高くジャンプした。そのままバトロイドは両手を組んで、下りてくると同時に組んだ両手を振り下ろした。

 すぐにそこにいた俺とシエラが左右に分かれて飛びすさると、そこにドゴオォとものすごい衝撃が走り、床がすり鉢状にへこんだ。


 「ろけっとぱーんち!」

 一瞬の隙を突いて、バトロイドのコンボ攻撃。バトロイドの右の肘からロケット噴射が出て、それを推進力にした右のストレートパンチがシエラに襲いかかる。


 シエラの目がキランッと輝くと、

 「竜闘気ドラゴニック・バトルオーラ!」

と叫び、シエラの全身を黄金色のオーラが覆う。続いて体の前で両腕をクロスし、

 「神竜の盾、バージョン4!」

と言うと、先ほどと同じようにドーム状の光がシエラの周りに表れた。


 ドゴオン。

 そこへバトロイドのロケットパンチがぶち当たる。……が、ドーム状の光球には何のダメージもないようだ。

 すごいな。あの防壁。何のダメージもないのか。

 驚いて見ていると、バトロイドから「ちっ」と舌打ちする音が聞こえ、その背中からジェット噴射が出て、後ろに飛びすさった。


 そこへ王子が剣を掲げ、

 「行っくよ! サンダーボルト!」

と言うと、剣から真っ直ぐ上に稲妻が走り、バトロイドの頭上から襲いかかった。

 バトロイドに稲妻が走る。

 「あがががが……」

 ユーミの感電する声が聞こえ、バトロイドからプスプスと煙が出た。

 春香が王子に、

 「すっごいですよ。王子」

と褒めると、王子がガッツポーズを取った。「やったぁ」


 バトロイドから、

 「よくもやったなぁ」

とユーミの声が聞こえ、下半身はそのままに上半身がコマのように回り始めた。

 「はははは。これでどうだ! バトロイド・ローリング・トルネード!」

 これは危ない。不用意に近づけば、あの回転に巻き込まれてしまう。


 春香が王子の前に立って、

 「次は私の番ね。……我がマナを資糧に、床を凍らせろ。アイスバーン」

と呪文の詠唱をする。バトロイドの足下がピキピキと凍りつき、上半身を回転しているバトロイドは、その回転運動に引きずられて下半身も回り始めた。


 「ははは……。うん。な、なに? コックピットも回り始め――、きゃあぁぁ。目が、目がまわるぅぅぅ」


 ユーミの声がぐるぐると響き渡り、やがてバトロイドが目を回したようにフラフラとなって尻餅をついた。

 プシューと音がしてコックピットのドアが開くと、中からユーミが排出されて地面に投げ出された。

 「うぅぅぅ。きぼぢわるいぃぃ」

とユーミは立ち上がることができずにひくひくしている。


 王子がトトトッと近寄って、ユーミの頭をなでた。

 「ねぇ。大丈夫?」

 「うぅぅぅ。大丈夫じゃないよぅ。もう……だめぇ」

 そういうと、ユーミは胃の中のものを吐きだした。

 ……うわっ。きたないなぁ。でも、これで一件落着かな?

 俺は剣を納め、慎重にユーミのそばに近寄った。


 観音開きのドアが開いて、3体のメイド人形がぞうきんを手に入ってきて、早速、ユーミが粗相した跡を掃除していく。

 ユーミはまだ立ち上がれないようなので、生活魔法で口周りをきれいにしてやりお姫様だっこで四畳半の部屋に連れて行ってやった。



――――

 少ししてユーミの吐き気も治ったようだ。

 「はあぁぁ。負けちゃった……」

といいながら、四畳半の押し入れを開けて中をごそごそと漁り、大きな宝玉を両手に抱えてきた。

 「はい、これ。返すわ。約束だもん」

とそのオーブを王子に渡す。


 王子は、

 「うん! ありがとう! ユーミ!」

とニコニコして受け取ると、春香にお願いしてマジックバックに収納した。

 ユーミはしょぼ~んとしながら、

 「ふんっ。用が終わったら、さっさと帰ってよね」

といじけた声で言うと、王子が、

 「ユーミも僕んちにおいでよ! ね?」

と声をかけた。

 ……いやいや、王子、それはちょっとまずくないか?

と思っていると、王子がつづけて、

 「お父さんやみんなに一緒に謝ろう? そしたらきっとみんな許してくれるよ!」

と言うや、ユーミの腕を引っ張りはじめた。

 ユーミは、

 「ちょ、ちょっと。痛いって……。それに私はあそこを襲ったのよ?」

と抵抗する。


 「大丈夫だって。もう僕のお友達なんだし」

と王子が腕を引っ張る。ユーミが、

 「と、友達……」

と急に赤くなった。


 俺は春香に、

 「デレたかな?」

と小声で聞くと、春香がうなづいて、

 「うん。デレたね」

と言う。シエラは、ニマニマとしながら、

 「ふふふ。な~るほど。これじゃあ、私もユーミをこれ以上怒れないなぁ」

と言っている。


 ともあれ、王子に根負けしたユーミは一緒にお城に行くことになったが、すぐには一緒に行けないと言うことで、次の日に再び迎えに来ることになったのだった。

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