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外伝11 ユーミのお城

 人形は自宅らしき建物に寄ったあと、町の一番奥にある大きなお城へと入っていった。

 大きな階段を上った先に駅の改札口のような機械が置いてあり、そこへカードを入れて中へと入っていく。

 俺はサンドイッチを食べながら、その様子を確認し、春香へ念話を送った。


――――

 春香たちが来るまでそこで見ていると、10体ほどの人形が同じように中に入り、正面の玄関を迂回してどこか別の入り口に向かって行く。おそらく工場が別にあるのだろう。


 時間はまだ昼下がり。まだ時間はある。

 機械の前でIDカードを取り出したら、

 「あ! ボクやりたい!」

と王子が言った。ふふふ。まあ、いいか。

 俺は王子にIDカードを手渡し、JRのSuicaのセンサーのようなところに当てるように教える。

 王子はワクワクしている顔でカードを受け取り、おそるおそるセンサーに押し当てた。

 ピンッ。

と短い音がしてゲートが開いた。俺は王子の背中を押しながら、みんなとゲートをくぐろうとしたら、王子が通ったところでガツンッとゲートが閉じてしまった。


 「あっ。そうか」

 そういやそうだ。一人一枚のはずだ。…………って、しまったぁ! IDカードは一枚しかないじゃん!

 先に中に入った王子が俺たちを振り返ってアワアワとしている。


 ゲートが赤く光り、脇のドアから人形が出てきた。

 「どうかしたデスネー?」

 衛兵の恰好をした人形を前に、戦うことを覚悟していると、シエラが、

 「ねえねえ。私たちここに入りたいんだけど、IDカードが一枚しかなくって。どうしたらいいかな?」

とたずねた。人形は俺たちを見てうなづくと、

 「ええっと。見学デスネー。ならこっちに名前を書くデスネー。そしたら、中に入ってオッケーデスネー」

 思わず春香と一緒に脱力する。春香が「カードって必要ないじゃん」とつぶやいた。

 手続きを終えて、人形の脇のゲートから中に入ると、

 「では。ごゆっくりデスネー」

と衛兵人形が俺たちに手を振るので、一礼して中の王子と合流した。


――――

 玄関のドアをギギィィと開けて中に入る。

 すると暗かった室内に、順番に電気がついていく。

 「「「おおーっ!」」」


 目の前には、お城のダンスホールのような空間が広がっている。シャンデリアなどの燭台に次々に魔法の明かりが灯っていく。ところどころに料理を並べるテーブルに掃除をしているメイド人形が見える。

 ほほぉ。なかなかの施設だ。石造りではなく金属造りなところが違和感があるが、まあそれもアリだと思う。


 歩き出そうとした俺たちの目の前の空中に大きなスクリーンが浮かび上がった。

 ブウゥゥン。

 約100インチのスクリーンに表れたのは、どこかにあるだろう謁見室を背景にユーミが映し出された。


 「ええっと誰かと思ったら、王子じゃないの! なになに? どうしたの? ……ひょっとして、このオーブを取り返しに来たの?」

 そういうユーミはクレメンス国王から奪った宝玉を手に持っている。それを見たルキウス王子が、

 「そうだよ。ユーミだよね? それとっても大切な宝玉なんだ。ねえ。返してよ」

 すると画面のユーミが愉快そうに、

 「うふふふ。いいわよ? 私のいるここまで来れるものなら来てごらん。そしたら考えてあげるわ」

と答えると、王子が手を上げて、

 「やったぁ! ありがとう! ユーミ! 僕たちそこまで行くから、待ってて!」

とそれを見たユーミが微妙に引きつりながら、

 「そ、そう? じゃあ、楽しみに待ってるわね」

とだけ言って、ぷつんっと映像が消えた。


 するとシエラが、

 「ちょっとまってぇ! 私の剣はぁ!」

と叫んだが、すでにスクリーンは消えた後だった。


―――― 

 気を取り直してダンスホールを眺めると、扉が正面の壁に二つ、左の壁に一つあるのが見える。

 春香が、

 「扉は三つ……。どこから行こうか?」

と言う。シエラはシエラで両の拳を握って下を向いている。

 「私の剣……」

 シエラになんと声を掛けるべきか迷っていると、春香がそっと寄っていって、

 「シエラ。大丈夫よ。必ず見つかるわよ」

と声を掛けてあげている。シエラは顔を上げてうなづいて、

 「うん。そうですよね」

とダンスホールの奥を眺めた。


 あれ? そういえば王子はどこだ?


 あわてて王子の姿を探すと、掃除中のメイド人形のそばに王子がいた。

 「ねえねえ。ユーミに会いに来たんだけど。どこにいるかな?」

 おいおい。さすがに教えてはくれないだろう。ここはRPGよろしく自分の足で探さないと。きっと鍵のかかったドアとか門番とかいるんだろ?


 メイド人形が掃除の手を休めて王子の方へ振り向いた。

 「お客様デスネー? ユーミさまは、あそこのドアの奥の廊下をまっすぐ行って階段を上がったところにある謁見室にいるデスネー」

 「あ、ありがとう! あとは自分たちで行くね!」

 「ちょっと待つデスネー。今、そっちは将軍が守っているデスネー」

 「将軍? うわ、強そうだなぁ」

 「裏口から行けばいいデスネー。案内するデスネー」

 「本当! ありがとう!」

 「どういたしましてデスネー」


 ううむ。本来は真っ正面から行くのが王道なのだろう。……が、まあ。さすがは王子といったところか? 裏口ね……。


 俺たちはメイド人形が案内する後ろについて、一旦、玄関から建物の外に出た。メイド人形はそのまま建物に沿って歩いて行く。その横を王子が手を後ろで組んで歩いている。

 「まるでお姉さんと弟みたいですね」

 俺と春香に並んで歩いているシエラが、王子と人形を見てそう言った。


 建物の角を回り込んで裏側に出ると、そこは表側とは異なり金属の壁がむき出しになっていた。

 どうやら俺が思う以上にこの建物は頑丈だったようだ。一階の裏口らしきドアにそばのゴミ捨て場。上を見上げると、二階の壁にダストシュートらしき穴とその下に散らばった鉄や木のくずが、うずたかく山になっていた。


 やがてその奥の壁に設置されたはしごの下で、メイド人形が振り返ってお辞儀した。

 「こちらでございますデスネー。ここを上れば、ユーミ様の謁見室の裏側に出るデスネー」

 王子はにこやかに、

 「やったぁ。これでユーミに会えるね! ありがとう!」

とメイド人形と握手をした。

 俺も人形に、「助かったよ。ありがとう」と言うと、人形はちょこんとお辞儀をして、

 「いいんデスネー。では、私は仕事にもどるデスネー」

と元来たほうへと歩いて行った。


 それを見送った俺たちは、はしごに手をかけ、三階に見える出入り口を見上げた。

 よし。今行くぞ! ユーミ!



――――。

 ユーミは鼻歌を歌いながら、哀愁ただよう四畳半の自分の部屋で、なぜかこたつに入ってお茶をすすっていた。


 「ふふん。そういえば王子たちはどこまで行ったかな?」

 そういいながら、リモコンのスイッチを古びたブラウン管のテレビに向かってスイッチを入れた。

 「あれ? 電源が入んない? また壊れたの?」

とリモコンを何度もスイッチを押し、ついにあきらめて、しぶしぶこたつから出て、おもむろに、

 「このポンコツ!」

とテレビの天板にチョップを落とした。


 ゴスッ。……ぶうぅぅぅん。


 テレビ画面が明滅して、やがて荒いながらも映像を映し出した。

 ユーミは「よしっ」とうなづくと、ふたたびこたつに入って、カゴに入ったミカンに手を伸ばした。


 「う~ん。ええっと……。ダンスホールにはいない。厨房にもいない。倉庫にもいないわね……。くぅ。面倒くさっ。こんなことならしっかりモニターするんだったわね」


といいながら、ミカンを一房ほおばり、リモコンのスイッチを押していく。

 「ん~。下の廊下にもいない……。どこにいったのかしら? あ、そういえばスパイロボットをつけてたっけ?」


 その時、畳敷きの脇に設置されたキッチンの脇にある扉がノックされた。


 「あっ! 見つけた! えっとここは……どこ?」

 同時にテレビには裏口のドアをノックする王子たちの姿が見える。


 「ユーミ! 入るよ!」

とキッチン脇のドアの外から声がして、ドアが開いた。


 ユーミはそれに気がつかずにテレビを見ながら、

 「ああ。わかった。ここは私の部屋じゃないの。王子め。いつのまにここまで……。…………ん?」


 ぎゅいんっとユーミが横を見ると、なぜか王子が一緒にこたつに入っていた。

 目と目が合う王子とユーミ。


 王子が、

 「やっほ。来たよ!」

と笑った。

 ユーミが跳ね起きて、

 「な、なななな。なんでここにいるんじゃーー!!」

と叫んだ。

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