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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第六章 誰が為に鐘は鳴る
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いつも、閲覧&ブクマ&&評価をありがとうございます。

六章始まります。

 あれはまだ幼くて日に日に増していく前世の記憶に翻弄された毎日を送っている頃だった。無邪気なアルがいつものように僕のお見舞いで部屋へとやって来た際に、一緒に入ってきた人物があまりにも美しすぎて驚いた。

 傾国の美女と名高い母とはまた別の美形を見るのは初めてで、その夜、知恵熱でまた寝込んでしまったほどだった。




 たまに思う事がある。

 こちらの世界で生まれ変わる事を薦めてきたあの時の自称神様は、僕に何をさせたかったんだろうか、と。それと、前世の記憶があるというのは何か繋がりがあるのかな?

 そんな事を思うのは、目の前で繰り広げられている急な展開の所為なのかもしれない。

 今日は、月に一度の陛下を交えた定例会の日だった。そこにどうして僕が出席しているのかといえば、二年生に進級して早々、この国の次期国王となるオーガスト殿下の宰相の候補者選びに名が挙がったばかりにとしか言い様がない。それも、僕を選出した人は己の野心の為であって、決して僕が適任者だからという思いなど全くなかった。言うなれば、動機は真逆。むしろ、僕がそんな器じゃないという事が露呈するのを期待しての悪意だった。

 父の仕事上、幼少の頃からとてもお世話になったし信頼していただけあって、その事実を知った時はさすがに悲しくてショックだったけれど、貴族社会のなんたるかを教えてもらったのだと思うようにしている。気持ちに折り合いを付けるのは難しいけど、平和な日本とは違うのだから。

 そんな陰謀渦巻く紆余曲折を乗り越えて、僕はオーガスト殿下の宰相候補(暫定)となり今も週末は王宮で文官の仕事に携わっていたりする。そう、あくまで暫定ね。ここ強調。

 という事で、月に一度の定例会にも顔を出すように、文官の最高責任者である現宰相の父に命令されて、部屋の片隅で大人しく存在を消していた訳だけど。

「それが火急の用件とやらか。おかしな戯れ言をぬかすでない」

 あくまで、その声は冷静だった。

 なのに、この場の空気は緊張感と動揺で張り詰めていた。例外は、陛下と父上ぐらいなもので。厳しい目付きではあるものの、やはり一国の主としての風格を身に纏う陛下は泰然としている。父に至っては……まあ、いつもの何を考えているのか分からない無表情という通常運転。二人とも、突発的事態であっても余裕綽々。もう流石としか言い様がない。これを僕が真似出来ると思ったら大間違いも良い所だと思うんだよね。現に、陛下の隣りにいるオーガスト殿下が声は出さないものの内心かなりテンパってるのが見て取れる。あ、でも殿下見てたらちょっと冷静になれた気がするかも。なるほど、僕は殿下のストッパーか。って、そんな訳ない。宰相の仕事はそれじゃないと思いたい。

 この場にいる文官や武官たちが緊張して見守る中で、陛下の視線を一身に受けているのは何を隠そう王弟のご子息であるコルネリオ・フェル=セルゲイト様だった。

 コルネリオ様は一人ではなくて、あれは第二騎士団の団長さんと副団長さんかな?を伴って、陛下の御前で膝を折って頭を下げている。うん、きちんと陛下に敬意をもって接しているけど、言動が慎みをもってない気がするのは僕だけなのか。実に気のせいだと思いたい。

「ですが、時期的に陛下が隣国との境界地へ出向いたのは誠であると、過去の書類で確認致しました」

「時期というのは、主が申した十五年前の事か」

「はい。陛下の身に覚えがなくても、やり方次第ではいくらでも子種を取る方法はございます」 

 わぁ。これって、どういう展開なのかな?いきなり、下世話な話をされるとは思わなかった。いや、会話をしている二人は至って真面目にその話をしているのは百も承知だけど。

 そりゃあ僕だって、貴族の子弟に生まれたからにはそういった情操教育はされてるけどさ?前世を引きずっている分、未成年枠に入る十五歳でこういう話は聞きたくなかった。かと言って、出て行く訳にもいかないしなぁ。

 どうしようか、と思いながらもさり気なく視線は扉へと向いてしまう。だって、割かしここから近いのだから、考えてしまうじゃないか。

 先程からの押し問答にある十五年。この単語で、何故か流れ弾がくる可能性を見いだしてしまって自己防衛機能が働くのはしょうがないと思うんだよね。普段からオーガスト殿下にも危機感を持て、なんて言われてるしさ。えっ、そういう意味じゃない?って、さっきから僕は誰と会話してるんだか。

 その時、まるでこちらの部屋の様子を窺うように、ある意味典型的なぐらいに扉が少しばかり開かれた。

「!!」

「……」

 開けた主と目が合うこと、五秒間。

 えーっと。

 コルネリオ様の話からするに、隣国との境、つまり辺境地の話が出た時点でもしかしたらなんて思ったけどさぁ。思ったけど、まさかここに来るとは思ってなかったなー。って、それはあっちにも言えた事か。あの驚きようからして、そんな感じだったもんね。なんて、つい苦笑してしまう。

 コルネリオ様が持ってきた内容があまりにも濃すぎて部屋中がざわついてしまったのを良い事に、相手は隙を見ながら上手にしゃがんで僕の傍へとやってきた。わーお、ドレスなのにすごく器用。ドレスでそこまで俊敏に動ける秘訣を僕も知りたい。……って。僕は別に女装のエキスパートを目指してないよ?断じて違う。

「どうして、あなたがここにいるの?」

 ここにいるの?と言われても。いや、その前に久しぶりに会ったからといって上から下までガン見しないでほしんだけど。っていうか、ぶっちゃけ背筋に悪寒がっ。

「伯父上から聞いてませんか?」

 お互いを語る上でちょうど中間に入る人物といえば、この人なわけで。あの人は、ほぼ縁が切れた状態だけど、常に僕たち家族の動向は知っていそうな気がしてる。だから、娘である彼女にも当然知れ渡っていると思って訊ねてみたけど。

「会ってないし、手紙のやり取りもしてないの」

 約数ヶ月ぶりに見る彼女の琥珀色の瞳が揺らぎ、首を振られた。

「そうだったんですね、すみません」

「いいえ、良いの。構わないわ、あの人はそういう人だって分かってるから」

 それより、どうしてここに?と相変わらず真っ直ぐ伸びた濡れ烏のような黒い髪をさらりと揺らして、我が従姉のオリヴィア・クレイスはもう一度問いかけてきた。

「つい先日、暫定ですが次期国王の宰相候補として選ばれました」

「まあ!そうだったの、おめでとう。あなたならきっと成し遂げられるわ」

 セラフィナさんと同じでこの人もイエリオスには盲目的な部分があるけれど、この言葉が社交辞令やお世辞ではないという事は彼女の喜びようからして分かってしまう。ううっ、素直に嬉しいけど恥ずかしい。

「ありがとうございます。それより、オリヴィアこそどうして」


「良かろう」


 ここに来たの?と最後まで僕が言う前に、陛下のお声で一瞬にして室内が静まった。

「そこまで申すのならば、彼の者を連れてまいれ」

 どうやら、陛下とコルネリオ様の話は論より証拠という場面まで進展したようだ。こういった話し合いなんて、ただ白か黒かの境界線上をうろつくみたいなものだしね。

 コルネリオ様の話が嘘か真実かは、実際に見てみないと分からないこと。

 多分、陛下も父上もコルネリオ様だっていきなり始まったこのやり取りが不毛だという事は知っていたけど、ここにいる全員を納得させるためには仕方なかった。まだるっこしいけど、これが事の重要性における一つの流れだもの。例えでいうなら、数学における解答までに掛かる式。まあ、昔からこの人たちは僕に対してその段階を組んではくれなかったけれど。でもさ、僕に前世の記憶がなかったら、多分理解出来てないよと言ってやりたい。

「ごめんなさい、あたくし行かなければ」

「えっ」

 何がなにやら、と思いながらも。急いで入り口まで戻っていく従姉の後ろ姿を見つめて、事の発端を思い出した。

 そもそも、月に一度の定例会に突然、コルネリオ様が乱入してきたというのが始まりだった。

 案の定、コルネリオ様の父君であるマティアス様がお怒りになって、話し合いすら持ち込めないほど場が乱れて一時室内が騒然となった。そこへ、鶴の一声が――つまりは陛下がとりあえず話を聞こう、とおっしゃってくれて少しの安穏を過ごせたのだ。

 というのは、ほんの束の間という流れ星よりも一瞬のこと。

 それでは、と口を開いたコルネリオ様の話はあまりにも衝撃的で。けれど、コルネリオ様の表情を見るに荒唐無稽とは言い切れない内容だった。

 ――曰く、



「彼女は、アリア。オックス辺境伯の地に住まうお針子で十五歳の少女です。そして、陛下の血を受け継いだ姫君です」



 オリヴィアが開けた扉から、躊躇いがちに一人の少女が現れた。

 僕と同じ年齢とコルネリオ様はおっしゃっていたけれど、童顔なのか幾分か幼く見える。それとも、室内にいる全員の視線を一身に受けているので恐くて表情が硬いからかもしれない。僕だって貴族だから慣れているけど、そうじゃなかったら大人数の大人たちからの注目を受けるのは恐いもの。

 しかも、己の登場でここまで場内が騒いでいるのだから、当然の事なのかもしれない。

 というのも、彼らの呟きは一様に、

「緋色の、髪……だと?」

「それに目も緋色ではないか」

「あれは、王族の証しだ」

「王族特有の色だ」

 というような彼女の容姿についてだったのだから、本人は当惑して当然だと思う。

 案の定、彼女は入り口で戸惑いを見せて足が動けないでいるようだ。

 小声でオリヴィアがどうにか先へ行くように促しているみたいだけど、彼女は小さく頷きながらも動かない。ああ、きっとあまりの緊張で体が固まってしまったかな?

 なにせ、コルネリオ様の話からするに、彼女は隣国との境に住むお針子だったというのだから、この状況は青天の霹靂のようなものだろう。コルネリオ様も酷な事を、と思って視線を向ければ目が合った。……うん。なんだか凄く嫌な予感がするんだけど。

 遠目からでも分かる美しい顔に笑みが浮かぶ。慌てて顔を背けるも、時既に遅かった。イエリオス、という麗しいお声が掛かって、仕方なく顔を上げて、はい、と答える。

「エスコートして差し上げて」

 だろうな、と思ったよ!僕はそもそも彼女が入ってきた扉から近いし、年齢も同じだし?自分でいうのもなんだけど、妹の代わりが出来るほどの女顔なんだろうから怖がらせる事はないでしょうよ。

絶対敵わないけど、いつか目にもの言わせてやる!と心の中で誓いながら席を立つ。

 と、同時に彼女の元へ向かう僕にも不躾な視線をいくつか向けられて、なかなかに不愉快。こういった視線は、たまに出席する夜会や学院に入った頃にもよくあった。僕を通して我が妹に懸想しているのがよく分かる。しかも、よこしま過ぎるってところまで。ああ、もういやだ。言っとくけど、僕の大事な妹を性的な対象として見ている時点でアウトだからね?アルミネラに手を出そうものなら、僕は誰だって容赦しない。

 不特定多数の敵に対して、内心でファイティングポーズを取りながらやっと少女の元へと辿り着く。うわー!もう、ここで思いきりため息つきたい!しゃがみ込んで叫びたい!なんて事を思いながらも顔には出さず、こちらを見て顔を赤らめている少女へと笑いかけながら片膝を折って手を差し出した。

「イエリオス・エーヴェリーと申します。しばしの間、エスコートさせて頂く許可をください」

 まだ、陛下が認めていない限り彼女は城へ招待されただけの少女といえる。なので、ここは畏まらずに、一定のマナーの範囲で接してみた。――のだけれど。

「……こ、ここここちらこそ、お、お願い、しま……す!」

 うーん。余計に緊張させちゃったかな?

 先程よりも更に顔を赤く染め上げた少女に、内心で苦笑しながら差し出された手に触れる。

「ひゃっ!ご、ごめんなさっ」

 やっぱり、僕も彼女にとって恐かったかな?そこまで泣きそうな顔にならなくても良いのに。何だか、こっちが悪い事をしているようで申し訳ない。

 でもなぁ、このままでは埒があかないし。……さて、どうしようかな。

「あなたのペースで構いませんよ。どうか、私をただの杖だとでも思って支えにしてください」

 せめて緊張を和らげたくて、他の人には聞こえないように小声で伝えてみる。

「あ、ありがとうございます」

 照れながらも、少しは落ち着いたのか彼女は頭を下げてからそっと僕の手の平に手を添えた。

その申し訳なさそうな態度が慎ましい。ふと初めて会った時のエルを思い出して、一瞬にして胸が焦がれた。

 ああ、早くエルに会いたいなぁ。

 こんな状況で不謹慎だし、エスコート中の彼女には大変失礼な事だとは分かってるけど、グランヴァル学院の寮で僕を待ってくれている大切な妹と愛しい婚約者の顔が浮かぶ。あ、現実逃避なんて言わないで。少しの間だけのご褒美って事にしておいて。

 ただ、いつもならどうしても顔が緩むけれど、どうにか平静を装って少女を陛下の前まで連れて行く事に無事成功。……と思いたい。目前の父とばっちり目が合った際に、僅かに目を細められた気がして、僕の心臓が凄まじい勢いで働き出した。ううっ、ごめんなさい。半人前にも満たないのに、きっちり気持ちを切り替えするので!

 小さく息を吐き出して、頭の中から雑念を取り払う。そんな僕の思考を全て読んでいたかのように、コルネリオ様が絶妙なタイミングで口を開いた。

「ここにおられますどなた様から見ても、彼女が王族にしか顕われない緋色の持ち主である事は明らかです」

 コルネリオ様が言うように、僕の隣りに立つ彼女の細く長い髪は、それはもう鮮やかなあけの色だった。そして、いまだに戸惑いを隠せないやや垂れ目がちの瞳も同じで。紛れもない王族の色だと分かる。

「コルネリオ」

「はい」

「さきほど、我に身に覚えなどなくともと言ったが、ならばその者の母は罪人となるが?」

「ですが、子に罪はございません」

 ……そうだけど。でも、それを彼女の前で言うべきなのかな。

 案の定、僕の手の上に乗せられた彼女の手がビクリと動く。誰だって自分の母親の悪口なんて聞きたくないよね。大丈夫?なんて陛下の御前で彼女に声を掛ける事なんて出来ないので、彼女の手を微かに握る。

「……っ」

 その僕の行動に彼女は息を飲んで驚き、少し逡巡したのち同じく手を握り返した。

 

 頑張って。


 王族だとしてもそうじゃなくても、今、ここに立たされて心細い事に変わりはないもの。せめて少しでも、僕の存在が助けになれたらとそう願う。

「彼女の母が、陛下がお泊まりになられた宿で働いていたという事、そして不自然な出産と彼女の容姿に、村の人々の間では彼女がご落胤なのは間違いないと噂になっていたようです。そういった証言をオックス辺境伯にして頂きたかったのですが、ちょうど収穫の時期と重なっておりまして。代わりに、先頃ご子息とご成婚されたオリヴィア夫人に来て頂きました」

 そうだったんだ。

 幼少の頃は、オリヴィアに色んなトラウマを植え付けられてしまったけど、わざわざあの頃の謝罪の為に学院に編入までしてくれたオリヴィアの気持ちは嬉しかった。辺境伯のご子息に嫁ぐ事が決まっていたから、たった一年しか一緒に過ごせなかったからお別れの時はしんみりしたものだけど。また、こうして会えるなんて。

「オリヴィア・オックスにございます。義父から陛下へこの書を届けるよう言付かっております。どうかお目通しを頂ければ」

「うむ」

 コルネリオ様を挟んで、オリヴィアが陛下に辺境伯からの手紙を渡す。おおよそ、その手紙にはコルネリオ様が言っていた内容とほぼ同じ事が書かれているに違いない。手紙を読む陛下の表情が全く変わらない所をみるにそうなんだろう。

「――これを我に認めろと申すのか」

 しばらくして、その手紙を父に渡した陛下がコルネリオ様を見据えて公然と問いただす。今まで、陛下とコルネリオ様がこんな冷たい応酬を繰り返す事なんてなかったから、緊張感が尋常じゃない。

 しかも、大人しく片隅で見守っているつもりがこんな特等席で見られるなんてね。……ありがたくもないし、むしろ今すぐ平和的解決をお願いしたい。こういう時、やっぱり前世からの日本人気質は直らないんだよね。穏便にいきましょうよ的な。

「いいえ。――ですが、ありのままをご覧頂ければ、と」

 うん。それって、一種の皮肉ですよね?あーもう。どうして、煽っちゃうかな?

「何も直ぐに承認して頂きたいのではありません。私が集めた情報を宰相閣下に全てお渡し致します」

 コルネリオ様は何を考えているんだろう?

 だいたい、聡明なこの人が会議中という状況を弁えないはずはない。彼女が本物であっても偽物であっても、こんな大勢の前で下手をすれば陛下の権威を貶めそうな馬鹿な真似をするなんて。どう考えてもおかしい。

 それに僕のよく知るコルネリオ様なら、このような案件は慎重に情報を集めて、まずは自身の上司である宰相に報告してから事の成り行きを見守るに留めるはずなのに。

「もうよい!お主がこのような馬鹿騒ぎを起こすとは失望の極みだ。下がれ!」

 緊急の用件と言われた内容が陛下ご自身も知らなかったご落胤の件という事もあって、今までずっと我慢していたのか、マティアス様が恐い顔を更に磨きをかけながら我が子に向かって怒声を浴びせた。

 その低音の咆吼に体がビクリと震えおののく。それは、隣りの少女もオリヴィアも同様で、多分室内にいたほぼ全員の心が一つになったはず。マティアス様恐すぎです、と。

 むしろ、他国に武神と言わしめたマティアス様の怒りを受け流せる方が異常だと思うんだよね。まあ、だからこそ国の中枢を担えるって事なのかもしれないけどさ。

「御意に」

 当然、マティアス様のご子息でいらっしゃるコルネリオ様も物怖じせずに頭を下げる。そして、第二期騎士団のお二方を引き連れて潔くそのまま踵を返していってしまった。意外とあっさりし過ぎじゃない?

 ……って、いやいや。ちょっと待って!エスコートさせといて、それはないでしょ!しかも、この子を置いていくとか無いわー。ないない。コルネリオ様らしくもない!オリヴィアだって、呆気にとられて立ち尽くしてしまってるんだよ?せめて、引き返すよ的な一声でも掛けて欲しかったー!こんな緊迫した状況で残される側の気持ちを五文字以内で書き示せ。『S、O、S』あ、三文字でいけた。じゃなかった!なんて、下らない事考える場合じゃない!もう。


 ……ほんと、何を考えてるの?


「……」

 うー。誰でも良いから指示出してー!と、父に視線を送るもやはり無視されるのは当然の結果なのでした。はい、分かってたー!自分でどうにかしろって事だよね。分かってる。いつもながらに、ライオンより厳しくない?谷底より深いんだってば。

「陛下」

「何だ」

 あうー……恐い恐い!そんな目で見ないでください!

 成り行きとはいえ、彼女のエスコートをした時点で僕はコルネリオ様の片棒を担いだと見えて当然か。もしかしなくとも、これは後で父に説教をかまされるコースで間違いないかな。

「か、彼女の処遇は如何ほどに?」

 動揺するのは許してください。こんな場に慣れるには、もっと時間が必要なんです。

「そうさな、いずれにせよ定まるまで城に留めるしかあるまい」

 その言葉を聞いて、ホッとする。そうなる可能性も考えてたけど、僕が関わってしまった時点でエーヴェリーの屋敷で預かるように言われたらどうしようかなと思っていたから。ただ、陛下も城下町にあるうちの屋敷は普段誰もいないという事を分かってらっしゃたからかもしれない。僕もアルも寮生活で、父はほぼ城住まい母も領地と城の往復だもの。

「アリア、といったか」

「は、はい」

「後の事は担当の者に任せるゆえ、その者に従うように」

「あ、ありがたきお言葉、感謝致します」

 とりあえず、僕がフォロー出来るのはここまでかな。オリヴィアは彼女の付き添いなり実家に一時帰省なりでどうにかなりそうだし。

 ここで僕のお役は終わった。


 この時の僕は、特に深く考えず安易にそう思ってた。


更新は不定期です。

そして、時間を掛けて進めるのでそのつもりで共に走って下さったら嬉しいです。

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