番外編 私の幼馴染みが、変な手紙を送りつけてきた件について。
いつも、閲覧&ブクマ&評価をありがとうございます。
本編にはいっさい出てこなかった新ルームメイト、ティッシくんのお話です。
親愛なるマーシャルへ。
突然、こんな手紙が届いてお前は驚いているに違いない。俺が誰にも何も言わず村から去ってしまって、お前にはすげー心配をかけている事だろう。
だから、今日はこの手紙に俺の身に何が起きたのか書き溜めてみようかと思う。いつそっちに送っても良いのかよく分からねーけど。
一ヶ月前の、領主様主催の『天下一!ふんばれ!こどもすもう大会』を覚えているか?あ、これを書き始めてる今は五月なんだ。お前が混乱しないように明記しておく。
で、大会に優勝したら、俺はお前に、その、なんだ、けっ**(汚い字に付き不明)を申し込むつもりだった。だから、俺は優勝候補のとなり村のダンに勝つために、いつもの二倍以上は練習にあけくれた。そのかいあって、俺は見事優勝したんだ!すごいだろ!
これで、ようやくお前に認められて、一人前の男になれると思ったのに、領主様からこんな事を頼まれたんだ。この国に住む害虫退治に協力してくれないか?って。
そこで、俺は考えた。お前との未来と愛国心を天秤にかけて。そしたら、領主様はこうも言った。もし、手伝ってくれるなら向こう五年間の徴税は減らすから、と。
米農家に生まれて、十四年。両親には何もしてやれてなかったし、俺が世帯を持つ時もそうしてくれるっていうから、俺はそれに乗っかった。お前には何一つ相談しなくてすまない。
だけど、これは滅多にないチャンスだろ?なにせ、アイスクラフト様といえば王様の側近中の側近なのは、俺たち領民には誇らしいので有名だからな。上を目指すのが男ってもんだぜ!
だから、俺は首都にあるリーレン騎士養成学校に行く事になったんだ。何でも、俺が監視すべき相手はその学校の生徒だったんだからな!
今、すっげー驚いただろ!俺も、話を聞いた時はびっくりしたもんだ。だって、首都だぜ?俺たちいなか者には一生のうち、あるかないかの花の都で、俺は一旗揚げてこようと心に誓った!**(興奮している字に付き不明)万歳!
そんな訳で、俺は文字通り着の身着のまま首都まで連れていかれて、騎士養成学校へと入学したんだ。
二枚目
リーレン騎士養成学校っていうのは、噂には聞いていたが、大半が貴族の坊ちゃんばかりの学校だった。ほんと、うんざりするぐらいにな。俺たちが飯を食う時でも、もっと端っこで食えだのなんだのほざいてくるのは、権力を振りかざす連中ばかりだ。あいつらは、俺たちのやる事なす事気にくわねーんだろうな。一ヶ月間は、そんな感じで対立がひどかった。あ、でも心配すんなよ!全員が全員そんな奴ばっかじゃなくて、俺たち庶民と仲良くしてくれる連中もいるからな。
体力には自信があったから、座学より体を動かす授業はすごく楽しい。基礎訓練でもほめられたんだぜ!毎日、お前らと村ん中を走り回ってたおかげでかもな。って事で、それなりに充実した毎日を過ごしてる。安心してくれ!
おっと、すっかり本題からズレてちまったな。すまんすまん。
俺が領主様に頼まれた監視対象は、びっくりすることに寮では同じ部屋になった。つうか、相手は俺より一年先輩で、俺がその人の部屋に入る事になったってだけなんだけど。まさか、領主様の計らいなのかもしれねーな。
そして、その人は杉の木の三つ角にあるセレナさんとこの孫みてーな人だった。お前なら、これだけで分かるよな?いつも、あのガキには振り回されっぱなしだったんだから。
名前を明かしたら、お前も驚くだろうからここではIさんと書いておく。
Iさんは、とにかく俺なんかじゃ計り知れねー行動力を持った人だった。そうだな、監視するためにIさんの行動を全てメモしているが、それを書けばお前にもあの人の凄さが少しは伝わるかもしれないな。
分かりやすい例をあげんなら。たとえば、そこにバナナの皮が落ちていたとするだろ。
そこで、どうしてバナナの皮が落ちてんのかって疑問に思うはずだ。俺も、初めて見た時はそう思った。だから、お前を見倣ってゴミ箱に捨てようかと思ったら、あの人に怒られたんだ。は?って思うよな?俺も全く同じだった。だから、どうしてですかって聞いてみたら、三日前に妹さん、ああ、その人には妹さんがいるんだが、その妹さんにラ**ター(汚い字に付き不明)を書いたって噂があった先輩をこてんぱん<その人の言葉そのままの表現を記してみた>にしようとわざと置いているんだから触るなって言うんだよ。もう、意味がわかんねーだろ?後で、たまに話す貴族の上級生に聞いたら、あの人はシスコンで有名な人らしい。
けど、まあ分からねーでもないと俺は思った。なにせ、その人自身も綺麗な人なんだけど、妹さんと双子で全く同じ顔をしているらしい。あの顔が、この世にもう一人いるのかと思ったら、俺は鳥肌が立ったぜ。そりゃあ、シスコンにもなるだろうなってくらい、あの人は綺麗なんだから。あ、いや、俺はお前みたいな可愛い方がタイプだけどな。
とにかく、あの人は色んなものに対する情熱も凄かった。
休憩時間中は、必ずどこから調達してくんのか分からねーけどパンをくわえて走ってるし、たまにどこへ行ったのかと探してみれば、野良猫と一緒にひなたぼっこしながら昼寝してたりする時もある。あまりにも無防備に寝てるから心配になって傍で起きるまで待ってたら、俺も何度か一緒に寝ちまった事もある。
そういえば、一度誰かの下着を長い枝に旗みたいに巻き付けて走り回ってるのも見た事あったな。あの後、なぜか筋肉むきむきの先輩たちと外で魚焼いて笑ってたけど、意味がわからんねー。
三枚目
けど、何となく放っておけない人なんだ。自由気ままに生きてる人で、毎回色んな場面に出くわす度に驚きの連続だしな。
だから、報告書は逐一書いているが、あの人のどこが監視する理由があるのか俺には全く分からねー。
(似た内容のため二枚ほど略)
五枚目途中から
突然だが、今朝教室に行ったらすごい噂を聞きつけた!Iさんがもしかしたら女かもしれないってクラスの連中が騒いでたんだ。みんな、俺がルームメイトだって知ってるから、朝っぱらからずっと本当なのかって聞かれてまくったけど俺は知らねー!だから、すげーむかついた。っていうか、あの人が女だったら俺だって、***(書いた文字をぐちゃぐちゃと書き潰した形跡)なんでもねー!
とにかく、誰が言い出したのかわかんねーけど、あんな男らしいあの人が女なわけあるものか!これは、報告書にも一応書いたけど、お前にも誤解はしてほしくないから書いていく。
俺は、一度風呂場であの人と一緒になった。普通の女なら、男が入ってきたら騒ぐだろ?なのに、あの人はむしろ風呂の中から片手を振って俺に笑いかけてきたんだ。そこまで大胆な女を俺は知らねー。だから、絶対にあの人は女じゃない。早く、こんな変な噂が消えればいいのに。
ああ、そうだ。大事な事を書き忘れてた。今日は、領主様と久しぶりに会った。そしたら、嬉しい話をしてくれたんだ!聞いてくれ!
近々、貴族のお子様連中が集まるグランヴァル学院で新入生歓迎パーティーというのが開かれるみたいなんだが、それが終われば一度村に帰って良いって!
帰ったら、俺たちの未来に関わる大事な話をするから待っていてくれ。いいな、絶対に会いに行くから待ってろよ!お前とは生まれた時から一緒だったけど、これからいやなんでもない!その話は、直接お前と会った時に言うから!
ああ、すげードキドキしてきた。今から緊張してもしかたねーよな。ああ、そうだ。落ち着くために、今日のあの人の行動を書いてみるか!最近、あの人の行動をメモするだけですげー心が落ち着くんだ。何だろうな?たまに、胸が妙にしめつられたり苦しかったりするんだが。今度、帰った時に、そっちの事も詳しく話を聞いて欲しい。学校の友達に話してたら、みんなして変な顔をするから分からねーんだ。あの人を追っかけてるっていう先輩には、ぜひファンクラブを結成しよう!って誘われたけど、しばらく考えますって言っといた。あの人の事は、憧れているけどそんなんじゃないような気もするし、何かよくわかんねーんだ。あーむしゃくしゃするぜ!
「で?続きは?」
「ここまでしか書いてなかったけど……分かるでしょう?」
「ああ、領主様が王様のお怒りに触れちまったとかって」
「そそ。おかげで、この村も次にどこの貴族様の領地に分けられるのか保留中だもん」
「まあ、お前は来月には別の村人になるけどな」
「うふふ。そうね!ティッシが帰ってきたら驚かそうか!私がダンと結婚したなんて知ったら、とっても驚いてくれるわよね!」
以上、リーレンサイドのこぼれ話でした。




