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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第五章 嘆きの王子様
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いつも、閲覧&ブクマ&評価をありがとうございます。

 この国の未来を担うのは、この方しかいないと思う。全てに対して全力疾走。偉ぶっているけれど、実は誰に対しても優しくて誠実的。まあ、僕の妹とだけはどうしても反りが合わないみたいだけどね。




 僕が王宮に出向いている間は、リーレン騎士養成学校にいるアルミネラにこちらに来てもらって『アルミネラ・エーヴェリー』として振る舞ってもらっている。って、本人だからこれがある意味正しい状態……いや、もうなにも言うまい。初めは、可愛いおねだりをするぐらいで、事情が事情なだけに仕方ないなぁという感じでアルも頑張ってくれていたのに、今日は何だか拗ねているのでそのご機嫌取りをしなければならなかった。

 うーん……前世で僕の兄妹と言えば弟だけだったし、これぐらいの年齢の時にはもうお互いに口もきかなくなってたもんなぁ。年頃を迎えてしまった女の子とどう接したら良いのか、お兄ちゃん分からないよ。

 ベッドの上に座る僕の膝にちょこんと腰をかけて座るアルは、ぷうっと頬を膨らませていてとても可愛い。いや、ごめん。うちの子、ほんと可愛くて。

 元自毛だった綺麗に梳かれた長い白金色のウィッグとか、白色と前世でよく写真になるような碧い海のような色のストライプ柄のドレスがとても似合う。ああ、やっぱり僕が着るよりアルの方が可愛くて似合ってるなぁって。

「デっ、デレてるイオ様サイコー!くっ!神よ!この手に宿って!!今すぐ、模写……ふぉっ!」

「まあ、フィナさんったら。鼻血もそろそろ控えないと、貧血になってしまいますわよ」

 えっと。いや、根本的に間違ってるよね、その対応。何なの、その食べ過ぎは体に良くない的な諭し方は。というか、自制を促す方向明らかに間違えてるよね?まあ、そこが見た目百パーセント美人のエルを可愛いと思える部分なんだけど。

「ふっ、ふいまへ……っ」

「ふふっ。今日は零れておりませんし、大丈夫ですわよ。しばらく、じっとなさっていて」

 ……ああ。慣れって恐い。何かある度に鼻血を出す彼女も彼女だけど、それにどんどん順応しているエルフローラに僕はどんな声掛けをすれば良いんだろう。僕が鼻血を出した時は頼もしいね、とか?……いやいや。毒されないで、僕。

 毎度の事ながら、学院では絶世の美少女だと評判のセラフィナ・フェアフィールド嬢のティッシュを鼻に詰めている絵はとてもシュールで。思わずじっくり見ていたら、アルに両手で頬を挟まれ強制的に向きを変えられた。

「もう。今は、私と話してたんでしょ!イオのばか」

「ごめんごめん。アルの為に、エルやセラフィナさんが居てくれるのが嬉しくてさ」

「私にはイオしか必要ないよ」

 僕が王宮に出向いている間は、アルが一人ぼっちにならないように最近では彼女たちが何も言わずに集まってくれている。それがどれだけ嬉しい事なのか、きっと妹には理解出来ないだろう。


 今回の件で、一番気をつけなくちゃいけないのはアルの気持ちだと思うから。


 少女から女性になったアルは、ここ最近会う度に綺麗になっていると思う。兄の欲目なのかもしれないけれど。それと同時に、心境にも変化が出てきたようで、とても繊細になったように思う。そんな妹を守りたい僕の味方が彼女たちだった。

 アルも何だかんだと文句を言いながらも、二人と一緒にいるとリラックスしてくれているみたいだしね。

「そんな事、言わないの。所で、いつもノアと一緒だけど」

 本当は別の誰かがいなくちゃ駄目なんじゃないの?という言葉が僕の口から出る前に、タイミングを合わせてきたかのように部屋の窓が激しく叩かれた。テーブルで楽しくお茶をしていた二人の少女たちが驚いたので、大丈夫だと笑ってみせる。

「……ですが」

「心配しないで大丈夫だから」

 渋るエルをなだめながら思うのは。


 わあ、すっごいデジャヴー!これ、一年前にも全く同じ体験したけど、その話する?


 今は頼もしい仲間がいるけど、あの当時はどこの敵対貴族の奇襲かと思って本当に心臓に悪かった。そんな当時の犯人を膝に乗せたまま、サラに視線を送れば彼女は心得たとばかりに、どこからか光に青白く反射する二本の剣を出して――

「あん?カチコミですか、だったら俺が相手に」

「違うから!サラ、僕に心当たりがあるから開けてさしあげて」

 今まで、ずっと僕を睨み続けていたノアまで出てきそうになったので、慌ててアルを下ろして立ち上がる。いつからここは物騒な事務所になったの!?あーもう。

 サラは僕を、そしてノアはアルミネラを守ってくれようとしているのは充分理解出来るけど……出来るんだけどさ?今まで僕の前では非戦闘員に見えていたサラが、ノアを教育してからどうも血が騒いでいるようで、たまに武力行使にいきがちなのが心配になってくる。まあ、それぐらい元暗殺者だったノアを従順な従者に教育するのは骨がいったって事なんだろうけどさ。主の僕としては、それを鎮めさせるのが今後の課題なのかもしれない。

 内心ではあ、とため息をついた僕の視界の隅で、どこか残念そうに見えるサラが窓を開けると、一人の青年が息を切らせて室内に足を踏み入れた。


「……っはぁ、はぁ!ようやく……、ようやく着いたか!」


 そう言って、膝をついて息を整える青年が汗ばんだ額を冷やすように赤茶色の髪をかき上げる。

「お疲れさまです、ディートリッヒ先輩」

 まだ着慣れていないスーツ姿は微笑ましく、それと同時に、妹のせいで無理をさせて申し訳ありませんという気持ちにもなる。

 アルに代わって、リーレン騎士養成学校で行われた国外から来られた学校視察団に参加したのがついこの間のような気がしてる。このディートリッヒ・ノルウェルという人物は、リーレン騎士養成学校で統括長を勤めるほどの将来有望な騎士見習いで、いわゆる生徒会長のような立場の人だった。あの時は、大変お世話になったっけ。

  ただ、今はもうお互いの立場が違っていたりするけれど。

 当時、ディートリッヒ・ノルウェル先輩といえば学生ながらに傑物で、誰もが卒業後の進路はオーガスト殿下の近衛兵になるはずだと予想していたのだ。

 だけど、実際は――

「いつも、妹が大変お世話になっております。跳ねっ返りなもので、監視だとか警護をするのは大変かと思いますが、どうぞ宜しくお願いします」

 まさか、配属が次期王妃の護衛だとは思わなかった。

 なので、本来ならリーレン騎士養成学校ではなくてグランヴァル学院の方へ配属される予定だったんだけど、そこはコルネリオ様が権力でどうにかしちゃったわけで。

 どうやって上手く誤魔化したのかは分からないけど、リーレン騎士養成学校で学校長付けの臨時職員という形に収まって、陰ながらアルミネラを支援してくれているらしい。進級してからずっと会ってなかったから、僕は又聞きでしか聞いてない。

 という訳で、今日久しぶりに再会を果たしたからご挨拶させてもらったんだけど。


 ……この時点で、振り回されてる感が。


 なんて、思わず目線を逸らせば。

「……エーヴェリー。エーヴェリーなのかっ!!エーヴェリーだよなっ!?」

「うあっ!?はっ、はい!そう、っ、そうです、けどっ!ちょっ!」

 なに、その三段階活用って。……それよりも。僕と先輩の体格差は大きいわけで。ディートリッヒ先輩は、優しく揺さぶっているだけなのかもしれないけれど、僕にとって喩えるなら前世でいうジェットコースター。

 つまりは、だ。そんなに激しく揺すっても、抽選会でよく回すあのガラガラという音を鳴り響かせる機械のように当たりの玉は出てこないって誰か教えてさしあげて!……あ、酔いそう。

「ちょっと!イオがぐったりしてるじゃん!!」

 そう言って、強引に引っ張られたかと思うとアルに抱き締められてホッとするも。

「元はと言えば、きっ、いや、貴女が私を振り切って逃げるのが悪いのでしょう!ここに頻繁に通うのは、前任者からも聞いて把握しています!昼間に声がけして下されば、お連れするのは厭いませんよ!」

 さすが理性の塊、ディートリッヒ先輩。この段階なら、もう暴言を吐いてもいいぐらいなのに、律儀に敬語を使ってるなんて。……ああ、どこかの殿下にも聞かせてやりたい。ほんと、斡旋先の人選ミスじゃないかな。

「だって、あんたの図体大きいんだもん。それだけで威圧感あるっていうか、ノアの方が前の職業柄、すっごく手慣れてるんだよねぇ」

 そりゃあ、人を殺すんだから不法侵入には長けてて当然だろうね。片隅で喜色を浮かべるノアに若干イラッとしながら、アルから体を離して視線を合わせる。

「でもさ、アル。フェルメールさんだって僕たちより大きい人だったけど、一緒に来てたでしょ?来てもらってる身だから怒らないけど、僕が登城している事を気に入らない人がいつ襲ってくるかも限らないじゃない。だから、なるべくアルも気をつけて欲しいなって思うんだ」

 現に、どこから対決を聞きつけたのかは分からないけど学院でもイエリオスではなく妹の方だと分かっていても、嫌味を言ってくる強者がいる。エーヴェリー公爵家が歴史ある名門だとしても、父や娘だけじゃなく息子までもが召し上げられるのは気にくわないんだろう。僕がそんな感じなのに、男ばかりが集まる学校なんてもっと嫌がらせを受けていても当然な気がする。

「ありがとう。でも、それをいうなら私よりイオの方が心配だけどね」

「僕?」

「体力ないし、お人好しだもん。相手に同情してどうにかされちゃいそう」

 どうにかって。曖昧にしなくても、殺されるって言ってくれてもいいのに。

「そうですよ!イオ様は見た目からして儚げで気弱そうで体力もないんですよ!?ただでさえ、カイル様に言い寄られてるっていうのに、空き教室に連れ込まれたら手込めにされるのなんて目に見えてるじゃないですか!そんなの、いっかんの終わりなんですよっ!?うわぁああああん、やだー!」

「……えーっと。僕、けなされてる訳じゃないよね?」

「ええ、フィナさんのそれは紛れもない危惧ですわ……きっと」

 って、エルもどうして目線を合わせてくれないの!?う、うーん……まあ、心配されているのはありがたいけど。それにしては、すごい言われようじゃないかなぁ。

 いまだに穢されるーとかなんとか言いながら悶えているセラフィナさんは、もうこの際放っておこう。これが彼女の通常運転だもの、仕方ない。うん。

「まあ、そうなったら女装がバレてないって事だから安心だけどね」

 服を脱がされたところで、それ以上に酷い事にはならないのだから気楽なものだ。それこそ、アルミネラが脱がされるよりは、とそう思っていれば。

「誰だ、こんな甘っちょろい育て方をしたのは」

「片割れよりよっぽどの箱入り息子じゃねぇか」

 何故か、ディートリッヒ先輩とノアに思いきり呆れた顔でため息をつかれてしまった。

「僕だって、人並みに常識は備わっているつもりですけど?」

「「……」」

 え、えー?おかしい?僕、何か間違えてる?まさか、同性に残念な子を見るような目付きで見られる日が来るなんて。

「あのな、エーヴェリー」

「世の中には、特殊な性癖の持ち主がたくさんいるんだ」

「ああ、そこら中にな」

 目の前のアルミネラを見れば、悟りを開いた顔でウンウンと頷いている。アルですらそれを既に理解している事に軽い衝撃を覚えて、何だか申し訳ない気持ちになってしまう。

「えっと、すいません。気をつけます」

「こういう時、あいつだったらきちんと教えてくれたんだろうけどな。そういった話は俺も不得意でな。悪い」

 苦笑いを浮かべて口にした『あいつ』というのは言わずもがな、フェルメールの事で。散々、堅物だと言われ続けていたディートリッヒ先輩の苦労を想像して笑ってしまった。

「いえ。気にしないでください」

「まあ、さー。イオが僕を心配してくれてる事は、分からなくもないよー。だって、そのフェルが抜けた寮の空きベッドを埋める為に入ってきた新入生が、最近、どうも僕を監視してるみたいなんだよねぇ」

 うーん、と手を伸ばして背伸びをしながらアルはなんてことないように言ったけど。

「え!?それ、大丈夫なの?」

「分かんない。でも、ちょっと付きまとわれてる気はする」

「た、例えば?」

 まさか、入れ替わりに気付かれて?

「んー。一番気になるのは、気付けば傍に居る、って事かな?後は、部屋で僕の持ち物をチェックしてたり、一日のスケジュールを把握してたり、交友関係を探ったり」

「なんだか、不気味ですわね」

 なんて、エルが頬に手を当てて困惑してるけど。


 それって、立派なストーカーだよね!?


 そして、セラフィナさんがいつの間にか部屋の片隅で壁を向いて三角座りしている。

 ああ、一応本人にも自覚はあったんだ。まっるきり、去年の僕と似たような状況だもんね。

「いっつも、面倒くさそうな顔してるんだけどさ。よく分からないよねぇ」

「確か、ティッシ・オメローだったか。最近になって、アルミネラ嬢の回りをうろついていたので、こちらでも既に把握している。調べてみたところ、彼は平民で農業を営んでいる家の長男だ。特に問題はない」

「それならいいんですけど」

 って、よくないけどさ。その行動が、セラフィナさんのようにただの好意からくるものなら心配はいらないのかもしれない。……だけど。

「アル」

「うん、分かってるよ。用心に越したことはない、でしょ」

 イオの言いたい事はだいたい分かるよ、と言ってアルは笑った。

 さすが、僕の半身。最近では、少し距離が出来てしまったかと思っていたけど、この分ならしばらく大丈夫のような気がする。

「まあ、私の事はともかく。今は、自分の事に頑張ってよ、お兄ちゃん」

 僕と同じ顔に微笑まれて、せき立てながら窓に向かう。

「うん、本来なら平日はほとんど行かなくて良いんだけどね」

 今の僕は、お呼び出しがかかれば黙ってお城へ赴くしかない。

「じゃあ、帰ってきたら分かってるよね?」

「……」

 アルさん。その純粋な笑顔に、お兄ちゃんはもはや戦慄しか覚えません。そうだよね、さっきまであんなにごねてたアルがとびきり可愛い笑顔で送り出してくれるはずないよね。分かってたよ!

「う、うん……出来る範囲でお願いね」

「問題ないよ!」

 はあ。嫌な予感しかしない。今日は何をおねだりされる事やら。

 大丈夫、イオにしか出来ない事だからー!と言ってキラキラと目を輝かせた妹やエルたちとお別れをしてノアと共に窓から出て行く。

 ……妹よ、一つだけ言いたい。


 お兄ちゃんにしか出来ないという事の方が、実は兄にとって大変問題なんだよ、と。


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