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いつも、閲覧&ブクマ&&評価をありがとうございます。
一貫性のない会話には慣れている。……うん、なんていうか、うちの女性陣がそんな感じなので。
視察の最終日。
今年の視察は通常通り何事もなく終わり、解散となってそれぞれが帰国の途についた。各国は、代表者が持ち帰った教育指導法などについて自国の教育を見直し、また来年には別の国の学校を視察するため集まるのだそうだ。
ウェンディさんには、何かとお世話になったのでお別れの際に頭を下げたら、見聞を広めるためにもセレスティア共和国に是非留学を、なんて最後まで薦められてしまった。
何と返事をすれば良いのか分からなかったので、とりあえず黙って笑ってみせたけど。
必ず、また会おう、と言ってくれたので、それには素直に頷いた。
それから、ネネ先生にもお別れを告げに行ったら、先ほどと全く同じやりとりになったのは言うまでも無い。ただ、結局ネネ先生をファーストネームで呼ぶ事はなかったので、ちょっと拗ねられてしまったけれど。ほんと、アルみたいな人だった。
短い間だったけど、こうして様々な人と話が出来たのは良い経験になったと思う。前世から、人と関わる仕事にも興味があったので、今回は父上からの依頼を受けて良かったなんて、今だから言えること。
そりゃあ、色々と失敗もしたけれど。
将来を考える上での可能性が増えたと思えば、前向きに受け入れられるような気がした。
僕たちの補佐としての仕事もようやく終わりを迎え、午後からは片付けに奔走するばかり。昨夜のあの出来事で、ディートリッヒ統括長とリーンハルト先輩は以前よりも更によそよそしくなってしまって、今まで彼らの関係に気が付かなかった二人の補佐役も何となくその異変に気が付いてしまったらしい。
といっても、気軽に聞けないので黙っているみたいだけど。
何度かグスタフ様には聞いて欲しそうな目で見てきたけれども、こればっかりは今以上に揉められても困るから知らないフリしてずっと通した。
それよりも、グスタフ様とは初めに来た頃より随分フレンドリーになってしまったので、アルミネラには申し訳ない事をしちゃったな。まあ、一緒にご飯を食べてる仲だし、ちょっとは親しくなってもいいはず。お兄ちゃんは、そう思う。うん。
と、話が脱線したけども。
フェルメールは、ノルウェル兄弟に対しては相変わらずの態度で接している事から、僕もそれに倣って対応してる。ぶっちゃけ、冷たいようだけども僕たちには関係のない話だしね。
それに、僕は視察期間が終了したという事で、今日の夜には再びアルミネラの元へと行かなければならないから、それどころではないというのが本音だった。
今まで、中々会えなくても手紙のやりとりは欠かさなかったのに、今回はそれすらなくて彼女に会うのが恐いのだ。
アルミネラに見捨てられてやしないか、とか。
もう、兄として慕ってくれなくなるだろうか、とか。
不安と絶望の狭間を行ったり来たり。
だから、一人になる度にぼんやりしてしまったのは否めない。つまり、その時の僕はあまりにも無防備で全く油断していたって事なんだけど。
寮内にある客室の清掃に取りかかりながら、上の空だった僕は少しの物音も聞こえていなくて、誰かが侵入したという事実に全く気付かず。ハッとした瞬間には、背後から口元を布で覆われ羽交い締めにされていた。
「大人しくしていれば、痛い思いはしないで済むぞ」
ナイフを突きつけられて、身動き一つ出来ない僕の耳元で囁いたのは居るはずのない人物の声で。
その情報一つで脳裏に浮かんだのは――金髪の若き隣国の王宮教師、エヴァン・アーリラ。
どうして、ここに?と、眉根を寄せる僕を見て彼は陰気を含んだ笑みを浮かべた。
「言っただろう?取引きが失敗に終わったのなら、手土産を持って帰ろうか、と」
「!!」
――まさか、本気で僕をクルサードに連れて行く気があったなんて。
体中の血の気が干潮の波のように引いていく。
これで、二度目となるクルサードへの強制入国を想像するだけで、嫌な汗がじわりと噴き出る。ここで大人しくすれば、確実に連れて行かれるのは明白だろう。
……そうしたら、今度こそ絶対にミュールズ国には戻れない。
そんなのは、嫌だ!
大切な人たちと離される恐怖に、首を振って抵抗を試みる。
「動くな!」
「っ!……っ!」
そんな事、言われたって!
キラリと光を受けて鋭く反射するナイフも恐い、だけどクルサードに行くのはもっともっと恐かった。
動ける範囲で盛大に反抗を示して、精一杯拒絶する。
「ッチ!やはり、薬を使うか」
「……っ」
薬、と聞いて思わず身震いしてしまう。
そもそも、大人と子供でハンデがあるのに、薬品なんて使われてしまえば一巻の終わりだ。
どうして、クルサードの人間はこんなにも強引なのかな!?
無理強いさせるのが、常套手段ってどういう事なの!?
羽交い締めにされた状態から、せめて脱しようと身を捩り続けるけどビクともしない。どうにか技をかけられないかすら検証してしまうのに、上手く躱されるのは、やはりアーリラ様はこういった荒事に慣れているのだ。
それでも、何とか逃げ出せないかと足掻いたら、どうやらアーリラ様の手を引っ掻いてしまったらしい。
「っ、この!」
「……っ!」
アーリラ様にとって、男など大事にする価値もないようで、背中を強く肘で打たれてそのまま床へと転がされた。
「フン。だから、大人しくしていろと言っただろう?」
王族の教師ということで、相手をどう撃てば急所に当たるのか分かっているのだろう。
背中を打たれただけなのに、上手く呼吸が出来なくて苦しい。
「っ、はっ、……っはあ」
「なに、次に眠りから覚めれば、殿下との再会が待っている」
そう言って、胸ポケットから取り出した小瓶のようなものを先程の布に数滴かける。おそらく、睡眠薬か何かの一種なんだろうけど、きっと強力な作用があるに違いない。
苦痛に顔がゆがみながらも、それでも何とか逃げたくて這いつくばりながらも扉のある方向へと向かう。
きっと、アーリラ様には滑稽に見えているだろうけど。
いや。
――絶対に、行きたくない。
「はっ。強情な奴め」
だから、罵られたって構わない。
お願いだから。あと、もう少し――……
「諦めるんだな。お前は、私があの地位へ返り咲く為の最高の献上品となるのだ」
「っ!」
そんな願いもむなしく、アーリラ様にとって今の僕とは簡単に御しやすい獲物に過ぎず、背後からあっさりと片手を捕らわれた。
もう、ここで僕はおしまいなんだろうか。
――誰か、
「どうして、貴方がまだそこに居るんです?」
背中の痛みに耐えながら、短い呼吸を繰り返す僕の正面から聞こえたのは――聞き慣れた、けれどもいつもとは全く違う底冷えのする声だった。
左手で胸を押さえて顔を持ち上げれば、そこに立っていたのはやはり予想通りのその人で。
「リーンハルト・ノルウェルか」
どうして、という言葉すら満足に出せない僕を冷めた瞳で見下ろしていた。
誰か助けて!とは思ったけれど、元々クルサードよりだったこの人が来てくれたところで意味がない。……もう、諦めるしかないのかな。
「ちょうど良い所に来たな。君が望むものを渡すから、手伝ってくれないか」
分かってはいたけど、こんなにも現実は厳しい。
先輩は……きっと、先輩は僕よりも自分の欲望を優先するのはこれまでの行動で目に見えている。
――せめて、最後に一目でいいからアルミネラに会いたかったな。
「っ、」
悔しくて、胸を押さえた手でそのまま制服を握りしめる。
涙は出ない。
だけど、どうしてこんな時に限って喧嘩なんかしちゃったんだろうな、なんて関係のない事ばかり考えてしまう。
リーンハルト先輩は無言のまま僕の傍までやってくると、次の瞬間。
「っ!?」
いつも簡単に自分の方へと僕を引き寄せ、味方だったはずのアーリラ様から引き離した。
「……これは、どういう事かね」
僕にしても、アーリラ様と同意見。意味が分からず、戸惑いのままリーンハルト先輩の顔を見れば柔らかな笑みがそこにあった。
……ああ、もしかしなくても、僕は助かったという事なのかな?
「昨日の時点で、貴方との取引きは決裂しました。それに、この子はどうやら我が学校長のお気に入りのようですし、現宰相様のご子息にして次期国王となられるオーガスト殿下の婚約者の兄上です。貴方に加担して失踪されたとなると、こちらの方が分が悪い」
「気が付かなかった、で済ませれば良いではないか。我が国の領域に入れば、そのような縁はどうとでもなる」
これって、もう人身売買してるぐらいの犯罪者集団の言い訳ですよね。
こんな考え方、ミュールズ国ではあり得ない。クルサードという国では、こういう考え方がまともなのかもしれないけれど、これは異常過ぎるでしょ。
こんな人が王宮の教師をやっているという事実がおぞましい。今すぐ、クルサードには教師を一新するよう進言してしまいたい気分だ。
確か、セラフィナさんは同じ転生仲間のアメリア王女とずっと文通をしているみたいだから、それとなく書いて貰おうかな?なんて本気で悩んでいたら、リーンハルト先輩が突然、クスクスと笑い出した。
「……何がおかしい?」
「いえ。貴方には色々とお世話になったのだし、別れの挨拶程度に一つ、教えて差し上げますよ」
と、一旦言葉を切ってリーンハルト先輩はにっこりと微笑んだ。
「今すぐ、聖ヴィルフへと渡すはずだった品物を確認された方が宜しいですよ。貴方が今、持っているのは贋作でしょうから。今頃は、郊外を過ぎて後、数時間で国境付近か。レベッカ・ネネに一杯食わされてしまいましたね?」
「なんだと!?」
「おや?お気づきになりませんでしたか?昨日、貴方はレベッカ・ネネに本物を見せろとおっしゃっておりましたが、彼は確認すらしようとはしなかった。それは、何故か?取引きの中止を要求することで、貴方がその貴重な品物を出す事を防いだんですよ」
見ればそれが本物かどうか貴方にはバレてしまいますからね、と苦笑いに変える。
ああ、やっぱりリーンハルト先輩には気付かれていたんだ。
それというのも、僕がその事実を知ったのはネネ先生と別れの挨拶をした時だった。
最後まで軽い調子の先生が、二人だけの秘密だよーなんて言いながらこっそりと耳打ちして教えてくれたのは以下のこと。
ウェンディさんと共謀してアーリラ様の部屋へと侵入した際に、実はちゃんと本物と取り替えていたという事。
だけど、それを隠し通す為にはどうしても相手方との交渉の場はどうしても必要だったという事。
それが、本当かどうかは分からない。もしかしたら、僕の失敗に合わせただけの猿芝居なのかもしれないし。
そうだったとしたら、今回、僕は随分と彼らに甘やかせてもらったという事だ。
これでも、前世を含めば生きた年数は多いはずなのになぁ。どうしてこうも僕が知り合う大人は皆、父上と同じで権謀術数に長けている人たちばかりなんだろうな。
ちょっと、頭が痛くなってきた。
「ほらほら、早く取り返しに行きませんと、国境を越えられたら厄介ですよ?」
「……くそっ!!」
今や、僕よりもそっちの品物の方が貴重なだけに深刻さを増している。
「ッチ!」
この場で品物の確認をしないほどには頭が回っているようだけど、苛立ちで舌打ちをすると何も言わず、さっと背後の窓枠から飛び降りてしまった。
って、ちょっ!ここ、三階だよね!?
まだ身動きが取れないので、微妙に身体を動かしているしか出来ない僕の代わりに、リーンハルト先輩が窓辺に近付き下を覗く。
「……どうやら行ったようですね」
そっか。やっぱり、昨夜、コルネリオ様がおっしゃっていた通りアーリラ様もただ者じゃないって事か。今までそういう人種とは会わなかったけど、やっぱりノアのような忍者、じゃなかった、諜報員とか暗殺者もこの世界にはいるんだなぁ。
「君は、最後まで勘違いしていたようですが、彼は現在王宮の教師ではありませんよ」
「……?」
「詳細は知りませんが、何か失敗を犯したようで、彼は降格して現場から遠ざけられているようです」
こんな形でね、と言いながらも先輩はまだ窓から外を眺めている。
――ああ、そうか。そうだったんだ。
そもそも、一流の王宮教師がいくら大切な取引きだからといって、わざわざ他国の視察になど参加なんてしないだろう。それに、僕を連れて行きたがったのは、先程も言っていたけど、ヒューバート様を喜ばせて、もう一度自分が王宮教師に戻りたかったからだ。
……そんな事も見破れなかったなんて。
ゴホッと咳をして、ようやく痛みが消えてきたのでゆっくりと立ち上がる。リーンハルト先輩は、相変わらず姿勢を崩さず外を見ていた。
その背中は、真っ直ぐに伸びていて堂々としている。
高潔な雰囲気は、初めから今も全く何も変わっていない。
「……ありがとうございました」
先程は助けてくれて。
まさか、助けてもらえるなんて思っていなかったけど。
無言を貫く先輩の背中に、僕はお礼と――それから謝罪の言葉を口にする。
「後、申し訳ありませんでした」
――だって。
「今回の取引きも、先ほどの時も、アーリラ様の指示通りにしていれば、先輩は……ちゃんとクルサード国への入国許可証を手に入れる事が出来たのに」
そう、リーンハルト先輩がアーリラ様に望んでいたものは、クルサード国への入国許可証だったのだ。
そこに気が付いたのは、グルナムくんのおかげだろう。
彼がリーンハルト先輩との接点や会話を話してくれなかったら、僕は多分今もどうして先輩がクルサード側についていたのか分からずじまいだったもの。
「君なら、気付くと思っていました」
「ここを卒業されたら、旅に出られるおつもりですね?」
卒業後、オーガスト殿下の護衛に配属されるだろうディートリッヒ統括長と第二騎士団への配属が決定しているフェルメール。これほど有名な特務会で、けれども、唯一リーンハルト先輩の進路先だけは謎だった。
だからこそ、そこに行き着いたというのもある。
「さすが、フェルが入れあげているだけのことはありますね」
ふっと鼻で笑った後、先輩が風にその長い髪をふわりとなびかせて振り返る。
その瞳は、いつも以上に深みがかって神秘的に見えた。
「どうしてなのか、訪ねても?」
たった二週間ほどではあったけど、この先輩に会えたのは僕にとっての幸いだった。
そりゃあ、キスをされたり脅迫もされたけれど、憧れを抱かずにはいられないのも事実だから。
「ちょうど、去年の今頃のことです。次の監督生にフェルメールが決定して、準監督生に選ばれた私は本音を言うとショックでした。どうして、フェルメールが、とね。けれど、よくよく見ていれば、フェルメールは頭脳戦では私より能力が陥るものの、様々な物事を捉える能力や何でも受け入れる事の出来る柔軟性を持っていました」
ああ、だからこそ選ばれたのか、と。
それは、今まで見た事がないぐらい潔く晴れやかな笑顔だった。
「私は、フェルメールに憧れています。けれど、勝ちたいとも思うんです。だから、世界を回って自分の目で自分の手で色んな体験したいと思うようになりました。そして、いつか帰ってきたらこの男に自慢してやるんだと決意したのです」
そして、先輩の表情は、まだ諦めてはいないことを物語っている。
きっと、リーンハルト先輩は、再び別の手段を用いてどこかの国の入国許可書を取得しようとしているんだろう。
強いな、と思う。
そして、先輩のその意思の強さに惹かれてやまない。
「……」
応援しています、なんて野暮な事は言えないな。
尊敬して止まない先輩に何と答えるべきか悩んでいると、先輩は僕から視線を外して、わざとらしいほどの咳をした。
……うん?
「――ですから、いつまでも私の事ばかり気に掛ける兄が疎ましくて仕方ないんですよ。いつからそこに居たのかはだいたい予想はついているので、いい加減出てきなさい」
「えっ?」
リーンハルト先輩の話に集中していて、全く気配に気が付かなかった。
もしかして、まだ誰か残っていたの?と焦って振り返った先にいたのは。
「フェルメールさん……と、統括長?」
いわば身内のようなものだから、ホッとしたけど。まさかの組み合わせに驚きを隠せない。
「全く、揃いもそろって」
「いんやぁ、悪かったな!盗み聞きするつもりはなかったんだけどよ、こいつが止めるから」
「何を言う!?貴様こそ、リーンに誉められてニヤニヤと阿呆面になっていたクセに!」
「黙らっしゃい」
……うわぁ。
リーンハルト先輩にぴしゃりと怒られて、条件反射のように素直に謝罪する上級生たちに居たたまれなくて、つい顔を背ける。
いや、面白いけどね。
だって、この二人が怒られる場面なんてそうそう見られないだろうから。
「それより、リーン。旅に出るというのは本当なのか!?」
「……ええ。貴方は反対するだろうから言いませんでしたが、そのつもりですよ」
だろうなぁ。
僕だって、アルが旅に出たいなんて言ったら絶対に止めてしまう。
そういう意味でいえば、僕もディートリッヒ先輩と同じく心配性という事だろうけど。それを見越されて、アルに強制的に入れ替わりをされた僕からは何も言えない。
「くっ!だったら、俺も共に行く!」
「は?貴方は馬鹿ですか?確か、卒業後の配属先は決定しているのですよね?」
きつい!言い方が厳しいですって、先輩。
何だか、自分がリーンハルト先輩に言われているようで耳が痛い。
アルはまだ僕を甘やかしてくれるけど、今日会った時にこんな言い方されたらどうしよう。ううっ。……やばい、泣けてきた。
「おお、俺も聞いてるぜ。確か、おじょ、アルミネラ・エーヴェリー嬢の護衛だろ?」
「えっ?」
ちょっと、待って。
今、聞き捨てならない言葉をフェルメールが言ったような?いや、かなりはっきりと言ったよね?
「統括長の配属は、オーガスト殿下の護衛じゃないんですか?」
だって、学校ではそういう噂が持ちきりで。
勢いあまって、思わずフェルメールの袖を引っ張って聞き返してしまったけど、答えてくれたのはその横に立っていたディートリッヒ先輩だった。
「いや、違うんだ。だから、それをお前に伝えようとしていたんだが、毎回何故か横やりが入ってずっと言えずじまいだった、すまない」
「そう……だったんですね」
なんだ、そうだったんだ。
視察の間、フェルメールの動向ついでにアルの話をしたがると思っていたら。
「……そっか」
いつも、話を最後まで聞けなかったから、まさか僕たちの入れ替わりがバレてるのかもなんて思ってたけど。
なんてことない話だったんだ。
良かったぁ、とホッと胸をなで下ろしたのも束の間。
「つう事だから、早くどうすんのか決めてやれよ?お前がここに残んのか、また入れ替わんのか」
「っ、何でそれを言っちゃうんですか!ばかぁ!」
あ、つい馬鹿なんて言っちゃった。いや、結構何回も言っちゃってるけど。
けど、今のは明らかにフェルメールが悪い!
統括長には気づかれてなかったのに!どうして、ここでばらしちゃうかな、もう!
思わず飛び出た僕の拳を受け止めながら、何故かそこでデレデレとした顔になるフェルメールが解せない。うーっ!くそう。
「なっ!なっ!ここが最高にたまんねぇだろ?クソ可愛いぜ、ったくよ」
「俺には全く理解出来ん」
「ディーには理解出来なくて当然ですよ。私は、フェルほどではないですが興味がそそられる子だと思いますよ」
多分、僕の事を言ってるんだろうけど、そんなものスルーするに決まっている。というか、勝手に人を品定めしないで下さい。
「これ以上、他の人にバレたらっ」
「まあまあ、落ち着けって」
うー……と、僕なりに威嚇をしているのに、フェルメールは全く動じていないどころかむしろニコニコと嬉しそうに緩んだ笑みを浮かべて片手でいなしてくるのが腹立たしい。
あーもう!
これだから、この人の相手は苛立つ!
「ディートリッヒは、配属が決まった時点でお前らの入れ替わりを知らされたんだ。何せ、次期王妃となるおじょ、アルミネラ嬢の護衛係だしな。だから、おじょ、あーもうめんどくせぇ!お嬢が、進級してもまだここに居んのなら、コルネリオ様がちょこーっと配属に細工してここの研修員にさせなくちゃならねぇし、グランヴァル学院でご令嬢としての教育を受けるってんなら、研修生としてあっちに行かなくちゃならねぇんだ」
「そ、そういう事なんだ、今まで騙していて本当にすまない」
「いえ、統括長に謝られるようなことなんてありませんから」
この人はなんて凄く良い人なんだ!
僕の周りの大人たちはお腹の中が黒すぎて、毎回泣かされそうになるっていうのに!
ほんとに、もう。むしろ、それならそうと早くコルネリオ様もフェルメールも言ってくれたら。……徒労感が大きすぎる。
「すいません、僕たちのごたごたに巻き込んでしまって」
まさか、こんな近くにまで弊害が及んでいたとは気付きもしなかった。
「いや。むしろ、俺は羨ましい。同じ双子なのに、こうも違うものかと」
「それは、私への当てつけですか?申し訳ありませんね、可愛げの無い弟で」
「いやっ!?違うぞ!俺は、決してそういう意味で言ったんじゃない!」
うーん。なんだかんだいって、やっぱり仲が良いように見えるのは僕の気のせいなのかな?
フェルメールと一緒に二人のやりとりを、苦笑いをしながら眺め、僕はようやくアルミネラに会おうと決心がついた。
そして、彼女とちゃんと話すのだ。
――僕たちのこれからを。
来週、最終話となります。




