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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第四章 色とりどりの世界
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いつも、閲覧&ブクマ&&評価をありがとうございます。

 この世界にも、雪は降る。真っ白で、キラキラと光る結晶の集まり。そんな純白を、毎年インクで染めて遊ぶのがアルの楽しみの一つで。ある朝、雪とは思えないぐらい精巧な人形が真っ赤に染まって何体も扉に向かって集まっているのを窓から見下ろした時は、さすがに心臓が止まるかと思った。






 取引きの現場は、私の範疇外なので後は任せると言ったウェンディさんを置いて、僕たちは暗闇の中、昼間使われた会議室へと足を運んだ。

 この学校は、騎士を養成することを目的としているため特別な防犯対策はしていない。もしも、不法侵入者が来ようものなら、訓練の一環としてこてんぱんにやられるのがオチだろう。また、この学校には不誠実な者はいないと言われる。それは、学校長ここに居るのは騎士になるべく日々精進している学生しかいない、という言葉に集約されているという。

 昼間は、眩しいぐらいに陽の光を浴びて、まるで人の体温のような温もりを感じさせる校舎内も、宵闇が支配すれば途端にそれを覆す。まるで、ここは仄暗い世界でしか生きられない常闇を抱く者の住処だと言わんばかりに。

「やあ、お待ちしておりましたよ」

 僕たちが扉を開けると、既にアーリラ様とリーンハルト先輩が待っていた。いくつかの蝋燭の灯火が揺らぐ部屋は、非日常的で密会には充分な演出じゃないだろうか。

「あははー、どうもー遅くなってすいませんねー」

 ここに来るまで散々ため息をはき出していたのに、さすがに拙いと思ったのかネネ先生はニコニコしながら軽く頭を下げてアーリラ様の向かいの席へと座った。

 さて、どうしよう?なんて思っていたら、無言のままフェルメールに引っ張られてリーンハルト先輩の近くまで来て立ち止まる。そこは、ちょうど両国の代表者の間辺り。

 なるほどね、この取引きはあくまで聖ヴィルフ国とクルサード国だけなのだから、僕たちが口を挟むべきじゃない。だから、横に並んだ僕とフェルメールを横目で確認したリーンハルト先輩も、挨拶すらなく無言で成り行きを見守っているようだ。

 蝋燭の炎を写す先輩の瞳には、この景色はどのように見えるのだろうか。

 己の欲する物に繋がる夢の架け橋?

 それとも、予定調和としての過程?


 ――ほんとに、これで良いって今も思っているのかな?


 蝋燭の僅かばかりの明かりが、アーリラ様とネネ先生の顔を照らす。

 先に、口を開いたのはアーリラ様だった。

「さて。さっそくですが」

「あ。その前に、ボクから提案があるんですけどー」

「……何でしょう?」

 出鼻をくじかれて、アーリラ様がその端正な顔を顰める。けれども、ネネ先生はおかまいなしにそれは実に楽しげに微笑んだ。



「やっぱ、この話無かった事にしません?」



 え?と思わず呟いてしまった僕を咎める人は誰もいない。だって、僕の両サイドに立つ年上からは、は?という驚きの声が漏れたのだから。

「なっ!何を考えているんだ、貴様は!?」

 まさかの爆弾発言ですかね、じゃなくて。アーリラ様が自分の立場を忘れて罵倒してしまうのも理解出来る。

「えー?だってぇ、聖遺物を手に入れても百害あって一利なしって気がするしィ。上のじーさま方が欲しがってるだけで、ボクはそんなに興味が湧かないんですよね~」

 そんなアーリラ様に対して、ネネ先生は頬杖をついて大きなため息と共にさも面倒くさそうに言葉を吐き出した。

 そういえば、他の枢機卿に聖遺物の回収は絶対するように言われてたっけ。

「国の命令だぞ!?それに背くというのか!」

「じゃあ、不成立でしたーって報告して、いっそここで話を合わせましょうよ~」

「愚かな!」

 まあ、なんていうすっきりした鮮やかな平行線。近年稀に見るぐらいに見事かも。

 僕だって、まさかネネ先生がここでいきなり中止を提案するとは思わなかったし。ただ、その本心はどうなのか分からないけど。

「貴方も面倒な人だなあ」

「きさ、……そちらこそ。どうして、貴殿が派遣されたのか分かりかねる」

 それは、僕も同意します。

 個人的には面白い人ではあるけど、こういう国同士のやりとりには向かない人間をどうして選んだのかが分からない。

 苛立ちを隠せず、依然として眉に皺を寄せたままのアーリラ様と、それに反して蝋燭の炎を眼鏡に映しながら両手で頬杖をついて面倒くさそうにしているネネ先生。

 まるで、水と油のような。

 何を言っても平行線になる二人の会話は、どちらも折れそうにないからこそ持続される。それこそ、ここで僕が口を挟めばミュールズに責任をなすりつけられるのは目に見えているから僕もじっと見ているしかない。

 これじゃあ、時間だけが過ぎちゃうよ。

「……まさか、例の物を持ってきていないという事はないでしょうな?」

 おお。アプローチの仕方を変えてみるのも一つの手ですね。

「あはは!まっさかー。ちゃんと持ってきてますよ~」

 ほらね?と、朗らかに笑いながらネネ先生が胸元から取り出したのは、どこか見覚えのある本で。


 ……あれって、まさか。


 目をこらして確認すれば、隣りから異様な視線を感じて目を向けた。

 うん、口にはしないけどフェルメールが言いたい事は分かってる。

 つまりは、こう言いたいんでしょ?


 あれって、お前が返しそびれて持って行った本だよな?って。


 まさしくその通りですよ、という意味合いを含んで頷くと、フェルメールが疲れた顔になってしまった。多分、僕も似たような表情になってるだろうから何も言わない。

 あれが本物だったとして、ネネ先生はどこまで僕を試す気だったんだろうな、とか……考えたくない。

 だけど、一つだけ言わせて欲しい。それにしても……中を確認しなくてほんと良かったぁ!!

 もし、僕にせよフェルメールにせよあの本を開いていれば、今頃どうなっていたことか。心底ホッとして、小さく息を吐き出した。

「国が決定を出したのだから、それをこちらに渡してもらおうか」

「だからー、止めましょうってば」

「貴殿の意思は介入できないはずだ!」

「あちゃー。そんなこと言っちゃいます?」

「そうではないか」

 僕からみても、そこに反論の余地はない。

 アーリラ様も、今度こそ言い負かせた喜びで口角を上げた。

 しかし、ネネ先生は悔しがるそぶりもなく、ただ仕方ないなぁとでもいうかのように天井へと視線を向ける。

「あー、うー」

 なんて言って。さらりと黒い髪を揺らしながらしばらく逡巡したのち、ネネ先生は再びアーリラ様に視線を戻しながら髪を耳にかけた。

「じゃあ、もしそれがうちの教皇様のご意志だったら?」

「……何?」

 カチリと音を鳴らしながら、眼鏡の位置を正してネネ先生が正面に座る男をジッと見据える。

「教皇様が、この取引きを止めるように言っていたのだとしたら?」

「貴様のような男に、教皇が直々に言葉を授けるとでも」

 ばかばかしい、と吐き捨ててアーリラ様の顔に嘲りが浮かぶ。

「ですよねぇ~。ボクもおんなじ意見です、けど。これが、本当の話なんだなぁ。なにせ、あの人はボクの血の繋がったじーさんなもんだから」

 あははーなんて、軽く笑っているけどネネ先生以外の人間は誰も笑ってなどいない。

 僕と同じく、あまりの衝撃に声すら出なくなってしまっているのだから。

 ……でも、確かネネ先生は自分が枢機卿だと僕たちに話した時に下っ端だっておっしゃられたけど。あれは、もしかして嘘だったとか?

 いや、でもあの場で本当の事を言っても、そりゃあ驚いただろうけど僕たちはそれを悪用したりしないのに。

 そんな小さな疑問に首を傾げていると、アーリラ様があり得ない、と鼻で笑い飛ばし一蹴する。

「そもそも、教皇の地位は独身じゃないとなれなかったはずだ」

「そうそう!よくご存知でー。ただねぇ、じ、あの人が教皇に選ばれたのが十六歳。それ以前に、婚姻を結ばず子供を作っていたのだとしたら……ちょうど、これぐらいの孫がいてもおかしくはない」

 そう言ったネネ先生は、たまに見る真面目な時の不敵な笑みを湛えていて、人を畏服させるだけの力があった。その毅然とした態度に、アーリラ様が言葉を失う。

「……失礼ですが、何か証拠の品などはお持ちでしょうか?」

 そこへ、声を掛けたのはリーンハルト先輩だった。この状況だと、やはりどうしても聞かざるを得なかったのか、躊躇いがちにも一歩前へと出る。

「うんうん、君ならそう言うだろうと思ったよー。ボク、装飾品ってあんまり好きじゃないからよく置いてきてるんだけどさ~。……ハイ、これね。光に透かしたら、中に教皇様にしか与えられない特殊な紋章とご丁寧にボクの名前まで仕込まれてるのが分かるんだってさ。今回、出て行く時に絶対に持って行けってうるさかったんだよねぇ」

 いやぁ、参ったよーなんて言いながら、紐でネックレスのようにして服の下へ仕舞っていた宝石を先輩に投げて寄越す。

 ちょっと、待って。いくら装飾品が嫌だと言っても、あまりにも扱いがぞんざい過ぎて恐いんですけど。

「……なるほど。どうやら、本当の事のようですね。ありがとうございました」

 近くにあった蝋燭の明かりにかざしてそれを確認した後、リーンハルト先輩も納得したようでそれを大事そうに手渡しで返した。

 はあ。良かったー!先輩もやっぱりそれがどれだけ貴重な物か分かりますよね。ミュールズ国は無宗教だといっても、さすがに教皇様の品物は適当には扱えませんって。

 ネネ先生が再びそれを確実に仕舞ったのを確認してから、ようやくホッと息をつく。

 心臓に悪いったらない。枢機卿というだけでも位が高いと分かるのに、その上今の教皇様の孫だったなんて、誰も想像すらしていなかった。


 ――今回の取引きは、さすがにもう成り立ちそうにない。


 そんな事は、この場で一番未熟な僕ですら分かったぐらいだったのに。

「……こうなったら、意地でも」

 アーリラ様の野獣のように低い呻り声と共に動いたのは、リーンハルト先輩で。

「っ!?」

 ネネ先生にアーリラ様と挟み込むように近づく傍で、フェルメールが即座に僕の腕を引っ張って抱き込んだ。

 多分、その動作は数妙単位で行われたはず。なのに、勢いのままフェルメールの胸へとぶつかって、ようやく僕は彼に守られたのだと理解出来た。

「フェ」

「黙ってろ」

「っ!」

 見上げれば、僕の後ろを見据える厳しい顔がそこにはあって息を飲む。その僅かに間を置き、純度の高い金属音がぶつかる音が響き渡った。

 ……まさか、こんな場所で刃物を使うなんて。

 フェルメールの腕から見える蝋燭の炎が、三人の動きに激しく揺れて逃げ惑うように慌ただしく動く。恐いと思いながらも、気が気じゃなくて、フェルメールの腕の隙間からそっとのぞき込んでみれば。二対一でありながらも、ネネ先生はそれぞれに応じて軽々と刃を受け流していく様子が見えた。

 オーガスト殿下の暗殺未遂の時よりもはるかに高度だと分かる技が繰り広げられて、これが本気同士の戦いなのだと唾を飲み込む。

 やっぱり、あの時はたまたま運が良かっただけだ。

 相手も手加減した上で、女に対して舐めていた部分もあるだろう。それを逆手に取って、技をかける事が出来たのだ。

 だけど――


 ……僕は、こんな風に戦えない。


 こんな、生命を削る戦いは。

「……」

 騎士になりたいと思ったのは事実だ。だけど、まだ僕には覚悟が足りない。それをまざまざと見せつけられるかのように、三人は武器をはしらせる。

 そんな両者を、机や椅子といったミスマッチな学校の備品が阻みこの空間を混沌とさせていく。

「あー。こうなるのが嫌だから、行きたくなかったんだけどなぁ~」

 そこで、相対する二人と距離を保ちながら、顔にかかる長めの髪を鬱陶しそうに首を振って流して、ネネ先生が今まで外さなかった眼鏡を外した。

「……え?」

 蝋燭の明かりに照らされて、晒されたのは金色とも取れる色合いの瞳で。

「やっぱ、裸眼が一番見えるな~、っと!」

 ネネ先生は、今まで色眼鏡に邪魔をされて、よく見えていなかったのか声を弾ませながらもアーリラ様の短剣を弾いた。

 金色といえば、ナオだけど……よくよく見れば、金灰色というのかな?そんな不思議な色合いにも見える。

「……なるほど。現教皇と同じ色だったとはな」

「おや?うちのじーさんの顔をご存知で?」

「まあな」

 そう言ったアーリラ様が一瞬だけ憎々しげな表情を浮かべる。

「だったら、さっきもまどろっこしい事などせずにそれを見せたら良かったではないか」

「いやぁ。だって、教皇の顔を知っている人なんて稀少ですよ?知らなかったら無意味でしょー?」

 それは、確かに。

 しかし、悔し紛れにアーリラ様はそれをスルーして、左手を差し出した。

「その本を渡してもらおう」

「だーかーらー、それはじーさんが困るんだってば」

 互いに牽制し合いながらも、会話が続けられているので二人がこういった場面に慣れているのだという事が分かる。

 だけど、依然として二対一の状態だから、本当なら僕を置いてフェルメールが参戦するべきなんだろうけど……彼は僕を抱え込んだまま動く気配すらない。

 ああ、でも。


 ネネ先生だって、このまま二人を相手にしていたら――


 その時、どうするべきか考えあぐねていた僕たちの後ろの扉が、大きな音を響かせて勢いよく開いた。



「ここで何をしている!!」



 ――そんな怒気を盛大に孕んだ大きな声と共に。

 緊張していた所為もあって、身体が震える。僕の心臓を殺しにかかってきた声の主に、僕だけじゃなくてこの部屋にいる誰もが一斉に視線を浴びせた。

「……ディー」

 誰もが動きを一瞬で止めて静まった部屋にこだましたのは、リーンハルト先輩の声だった。

「リーン、お前まで……なんてことだ」

 まるで、自分の方が失態を犯したとでもいうように、ディートリッヒ先輩は顔を歪めて俯いてしまう。

「すまないが、ちょっと通してもらえるかい?」

 何とも居たたまれない空気の中、そんな統括長を邪魔だとばかりに肩を押して部屋の中へと入ってきたのはコルネリオ様だった。当然、フェルメールが、今日のこの時間に取引きがあるという情報を流していたんだろうけど、出来ればもうちょっと早く来て欲しかったなぁ、というのは僕の希望で。

 そこへ、こんな暗がりでも相変わらずキラキラとまばゆい光を巻き散らかせていたコルネリオ様と目が合った。……いや、合ってしまった、というのが正確かもしれない。

 何となく、嫌な予感が湧き立てば。

「ああ!イオ、怪我はないかい?無事で良かった!どうやら、彼は役に立ってくれたようだね」

 なんて言いながら、フェルメールの腕の中から引っ張り出されて、今度はコルネリオ様に抱きしめられる。僕としては、もうどうしようもないので為されるがまま流されたけど。

「心配だったよ」

「……っ」

 最後の仕上げとばかりに、明らかに色気が増した声を耳に流し込まれて、当然、腰にきたけど気力を絞ってそれに耐えた。ただ、一人で立つには無理があったから、つい両手でコルネリオ様の服を思いきり掴んでしまったけど。

 ……なんだか、故意にされた気がする。この人の術中にはまってしまったようでちょっと悔しい。

 アーリラ様やネネ先生までもが、ぽかんとした状態で僕たちを見ているのが気になって仕方ないけど、ここはそのまま話を進めることにした。

「コ、コルネリオ様、どうしてこちらに?」

 まあ、僕はもう分かっているんだけどね。

 敢えて聞いたのは、他の人が全く分かってないからだ。なので、コルネリオ様もそれに乗っかって下さるだろうと思っていたのに。

 コルネリオ様は、僕を抱き寄せたまま、フェルメールへと顔を向けた。

「今回は、最後の働きに免じてプラスとしよう。これからもよろしく頼んだよ」

「……ありがたき幸せ、感謝致します」

 そのやりとりだけで、フェルメールがコルネリオ様と繋がっていたのは明白で。

「わぁ~。もしかして、監督生君ってコルネリオ校長の密偵か何かだったりするのかな?」

 ディートリッヒ先輩の登場で、いち早く武器を仕舞ったネネ先生が眼鏡を掛けつつ、早く言ってよーなんて苦笑いを浮かべた。てっきり、今回の件が全てコルネリオ様に流れている事を怒るのかと思っていたけど、どうやらネネ先生にとってさほど重要ではないらしい。

 うーん、この人の優先順位の基準がいまだに分からない。

「そういう貴方がたも同じでしょう?フェルメールには、主にイエリオスの、ああ、失敬。何でもありません」

 今、絶対わざと言いかけましたよね?

 コルネリオ様が相変わらずの策士ぶりを発揮したところで、もう既に諦めているけど。さらりと言いのけた初めの言葉に、二人の先生方の視線が揺れたのを見逃さない。

 まあ、僕にはその情報だけで充分だ。

 それに、色々と巻き込んでくれたけど、きちんと視察の仕事をしてくれたわけだし。もしも、この国の重要な情報を盗むような真似をしていれば話はまた変わるけれどさ。

 今回は、あくまで取引きの場所として使われたに過ぎないから、コルネリオ様も深く追求することはしなかった。――けど。

「校内での武器の使用やうちの生徒を巻き込んだ事、その他にも注意すべき点はありますが、ここで両国がお互いに手を引くというのであれば私も目をつぶりましょう」

 ……えっと。それってつまり、これ以上もめ事を起こすならこっちもそれなりの覚悟は出来るよ、って意味だよね?

 にっこりとそれはもう、天の使いのように純白そうに微笑んでいらっしゃるけど、脅しに近い。というより、明らかに圧力をかけてますよね?ね?……流石です。

「ボクはそれで問題ありませんよー」

「……仕方ありませんな」

 うんうん、そう言うしかないよねー。って、アーリラ様、不承不承って丸わかりです。しかも、ネネ先生は取引きを不成立にしたかっただけに晴れやかな笑顔過ぎて、この上なく対比が激しい。

 コルネリオ様がそこまで先を読んで中断させた訳じゃないけど、僕としてもネネ先生の希望通りでホッとした。

「では、夜も更けて参りますのでお帰り願います。明日は、午後にはここを出発されるのでしたよね?お忘れ物がなきよう、荷物の整理などはしっかりとなさって下さい」

 うん。今日は、もう大人しく荷物の整理でもして明日にはさっさと自国に帰れ、なんて……聞こえるはずのない言葉が聞こえた気がしたけど、きっと僕の耳がおかしかっただけだ。そうだよね?誰か、そうだと言って下さい!

「……」

 あー、お仲間発見。

 フェルメールさん、あんまり顔を顰めたらコルネリオ様にバレますよ?いや、僕としてはコルネリオ様の腹黒さを分かってくれる人がいて感激だけど。

 アルもエルもいまだに気付いてくれないから、なんか嬉しいなぁ。なんて、密かに喜んでいたら、急に背筋がゾクッとしたのは気のせいだと思いたい。


 とりあえず――これで、ようやく僕の肩の荷はおりた。




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