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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第一章 双子と前世と異世界と
5/174

たくさんの閲覧&ブクマ&評価、ありがとうございます!


5.

 さて、どうしてこうなった。






「それはだな、お宅の妹さんが猪突猛進で言い出したら抑えがきかないのと、お前さんがそんな妹さんをめちゃくちゃ甘やかしているから、だと俺は思うが。どうよ?」

「……身も蓋もない事を言わないで下さい」

 正確には、僕が悪かったのでそこまで辛辣にコメントを返すのは勘弁して下さい、だけど。

 二人きりの部屋の中。ニヤニヤと笑うフェルメールに対して、僕はため息で返す。

 アルミネラから持ちかけられた話から一時間後。僕は、久しぶりに性別通りのちゃんとした服装、というかアルミネラが着ていた士官生の服に着替えていた。要は、僕とアルの服を交換したって事だけど。

 何故、そんな事になってしまったのか――結論からいえば、どうやらアルミネラにしか出来ない任務があるらしい。

 フェルメールは、その護衛役兼お目付役として彼女に付き添ってきたのだという。

 まだ右も左も分からない新入生の『イエリオス・エーヴェリー』に、よく簡単に仕事を任せる気になったなぁ、というのが僕の感想だけど。その判断を下した上の人間の気持ちが理解出来ない。

 けれど、任務の内容をきけば、『イエリオス』ほどそれにぴったりな人物はいない。というのも、この任務には僕たち双子だからこそ成立するというのが大前提で。

「けど、本当にそんな不穏な動きなんてあったんですか?」

「王位継承者とはいえ、そもそも王族に対する反乱分子はいくらでも見つかるからな」

 反乱分子ねぇ。

 そういえば、僕とエルフローラが入寮した際に、珍しく騎士が二人ほどうろついていたけど、あれはそれに対する警戒だったのかな?

 確か、学院内では非常事態以外で騎士の要請はしない事になっていたはずなんだけど。

 うーん……、まあ、今の段階で考えても埒はあかないか。

 アルミネラが『イエリオス』として任された内容は、明日のグランヴァル学院の新入生歓迎パーティにて、オーガスト殿下に対して不審な行動をする者がいれば報告せよ、という事だった。

 ただ、万が一殿下に危険が及ぶ可能性があれば、即座に殿下を守って逃げること。

 それって、はっきり言って壁になれって事じゃないの?と、僕が大反対したのは言うまでもない。

 だから、本来ならば僕が受けるはずだった任務なのだから、僕がするべきだと述べてみたけど、アルミネラは何としてでも自分がやると言ってきかなかった。

 その攻防戦で小一時間使ったというわけだけど、結果は今のこの状況。

 つまり、アルミネラの粘り勝ち。

 それでも、もしアルミネラを失うようなことがあればと心配で仕方ない僕の肩に手を乗せたのは、フェルメールだった。

 なんでも、リーレン騎士養成学校の新入生たちも、実はそのパーティに初訓練として警備につくのだとか。だから、僕もその訓練に参加すればいい、と。何かあれば、すぐに駆けつけられる距離に居るだけでも、気持ち的にまだマシだろう、なんて言われたけど。

 アルミネラが怪我をする前に、何とか食い止められるのなら是非とも訓練に参加して貢献したい。

 何だか、フェルメールに上手く丸め込まれたような気がしなくともないけど、何せよ僕に出来る最善の方を選びたい。

 兎にも角にも、相変わらずうちのお姫様は、厄介な事に巻き込まれているようだ。いや、むしろ嬉々として難題の渦中に身を投じているのか。

 だって、どういういきさつで、まだ新入生の『イエリオス・エーヴェリー』に極秘任務なんて仕事を与えたのか分からないけど、アルミネラの事だから、やってみるか?と問われたとして諸手を挙げて喜んだんだろうな、……って想像に難くない。

 はあ、ともう何度目かのため息をはき出しながら、手で顎を支えながらいまだにニヤニヤとしているフェルメールを見る。

「あなたは、笑っていない時なんてあるんですか?」

 ああ、駄目だ。こんなの、ただの八つ当たりでしかない。

 ただ、つい目の前の男の笑みにムカついてしまった。

「あるよ」

 なんて、言った傍から急に真顔になって、彼は机の上に乗せていた僕の片手に手を添える。

「っ、え?なっ」

 不意打ち過ぎて、同性にこんな真似されて気持ち悪いとはねのけるより先に驚いてしまった僕の隙を突かれる。

「……っ」

 ち、近いから!なんで、ここまで顔を近づける意味があるの!?

 同じ男という性の癖に、何故かドキドキしてしまうのは、この人が意外にも顔が整っているからではない、断じて。ただ、初めて会った時からずっと、いたずら小僧のようにニヤニヤとしていた男が、いきなり真面目な顔つきになれば誰だってギャップにドキリとしてしまうはずだろう。

 だから、僕の顔が若干赤くなっていても問題はないはず。

 間近にあるオリーブ色の瞳から目が離せずに、沈黙よ早く終われと願うばかり。

「……うん、俺はいもう、面倒くせぇな。お嬢より、こっちの顔の方が好みだわ」

「は?」

 いや、今本当に素では?って出たよ。

「男ってのが、正直がっかりなんだけどよ……一回、キスでもしてみるか?」

「へっ?いや、それは無理!絶対に、無理ですから!」

 な、なんて事を言い出すかな!

 言葉は軽いのに、そのあまりにも真剣な眼差しに気圧されて、何度も首を振って拒絶する。

 すると、フェルメールはいたずらが成功した悪ガキのように口の端を上げてニヤリと笑った。

「あー、もう。そういう冗談は、止めて下さい」

 例え、同性でもこればかりは心臓に悪い。

 実は、僕には幼少の頃にちょっとしたトラウマがあり、そういう部類の冗談は不得意になっている。だから、心臓の音が体中を駆け巡り、冷や汗が背中に流れたぐらいなんだけど。

 フェルメールは、そういう事情なんて知らないから苦笑して済ませる。

「男相手に、どうかしてますよ」

「あれ?嘘だと思った?」

「嘘ですよね?」

「うん、半分はな」

「はいはい」

 一回、騙されたとはいえ今度は騙されないように、敢えて呆れた顔をして受け流す。

「あ、聞いてねぇな。だから、俺の好みは」

「いえいえ。もう充分理解しましたとも」

 フェルメールが、人をからかうのが好きな人だという事は。

 そりゃあ、僕だって苛立ちをぶつけて悪いだろうけど、何もそれに乗っかって冗談を仕掛けてくることはないだろうに。

 アルミネラは、こんな人と同じ部屋で大丈夫なのかな。僕としては、ちょっと心配。

 そんな風に、フェルメールと他愛も無い会話を繰り広げていると、侍女の待機部屋の扉が開いた。

「お待たせ!どう?どう?違和感ない?」

先程まで僕が着ていた薄紫色のドレスに身を包んだアルミネラが、くるくると踊るように舞いながらやってくる。

「ああ、やっぱりアルがドレスを着ている方が落ち着くよ」

「馬子にも衣装ってか」

 僕たちのコメントがあまりお気に召さなかったようで、アルミネラはぶすっと頬を膨らませながら、久しぶりに再会した己の長い白金色の髪を撫でつけてた。

「ふーんだ。僕だって、ちゃんと女の子らしくなってきてるんだから!」

「……」

 ね、サラ!と、他にこの場に誰もいないので、お茶を淹れているサラに同意を求めて見事に失敗。

なに、これ。うちの子、本気で可愛い。いやぁ、ごめんね?でも、アルだってサラが、超がつくほどの無口な子だって事は知っているよね?

「もう!サラまで!」

 いやいや、分かってなかったの?あーもう、仕方ないなぁ。

「アルは、何を着ても可愛いよ。おいで、僕の大事な半身」

「イオー」

 拗ねかけているアルミネラには、優しく笑って抱き寄せれば大人しくなる。これが、僕の昔からの対処法。ちなみに、これは僕と母上限定なんだけどね。

 案の定、アルミネラが僕に甘えてこようとしたけど、不意に伸ばされた別の手によって中断される。

「ちょっ、フェル!」

「いや、お前らの過激なスキンシップはもうお腹いっぱいだからよ。それよりも、今夜中にしなくちゃなんねぇ事が山ほどあんだろう?」

 ……くっ。さすがは、リーレン騎士養成学校の監督生。正論過ぎて、ぐうの字もでない。

「あっ、そうだった!」

 なんて、割とあっさり気持ちを切り替えたアルに、内心驚きながらも僕も頷いて返答した。

「……了解です」






 翌朝、僕はフェルメールに連れられて、そそくさとリーレン騎士養成学校の学生たちが集まっている場所へとやってきた。

 新一年生にとっては初任務という事で、明らかに緊張をしている人もいれば、どっしり構えている人もいる。士官生は、制服の色で見分けがつくので誰が上級生で誰が同級生なのかもはっきり分かってホッとする。

 ただ、何故か同級生はいわずもがなで、上級生の先輩たちからも挨拶がてら声をかけられて、戸惑ってしまうのは致し方ない。どうして、こんなにも話しかけられるんだか……いや、考えるのは後にしよう。

 それにしても、アルにある程度の話は聞いてきたとはいえ、いかんせん久しぶりに男臭い連中ばかりに話しかけられるので、面食らってしまうばかりだ。というか、アルミネラはあれでも一応、深窓のご令嬢なはずなのに、どうしたらこんな人たちと仲良くなれるんだろう……目の前には、肉、肉、肉。

 いわゆる、筋肉パラダイス。

 ……いやいや。僕こそ、今はリーレン騎士養成学校の一生徒、イエリオス・エーヴェリーなんだから、もっとしっかりしなければ。

 うん、あまり筋肉は見ないようにしよう。

 すっかり淑女のような気持ちになっていた己を恥じながら、フェルメールと共に今回の新歓パーティの警護を指示する指導官の幕までやってくる。

 どうやら、この極秘任務を指示した人物は、フェルメールの直接の上司であるらしい。リーレンサイドの人脈なんてよく分からないけど、監督生ってそういうお仕事もあるんだなぁ。


 ただ、まあ、そこから推測するに、かなりの大物である可能性が浮上するわけで。


 ……厄介な。

「お呼びされましたフェルメール・コーナー、及びイエリオス・エーヴェリー両名が参りました」

 ひたすらに、気が重い。

 指導官というわりに、テントの入り口に警備兵が配置されているのを訝しむ。

 たかだが、学校の教師に警備兵なんて必要あるのかな?教師……本当に教師?リーレン騎士養成学校で、警備兵を付けなければならないぐらいの人といえば――

「入って良いよ」

「!」

 ここにきて、ようやくその正体に予想がついたけど。


 なんで、今頃になって気付いたの!?



 時既に遅し、なんていう言葉が頭を一周する頃には、もう僕はフェルメールと共に天幕の中へと足を踏み入れていた。本音をいえば、今すぐ引き返したい。けど、ここでそんな素振りを見せれば、僕の、いや主に僕たちのこれからが左右されるだろう。


 リーレン騎士養成学校。

 その設立には、国の歴史も絡まって、実に紆余曲折なエピソードがあるけれど、今はそれどころじゃないので割愛しておく。が、最たる設立の立役者というのが、現在の国王陛下の弟君、マティアス・フェル・セルゲイト閣下だろう。

 ただ、マティアス様はまだ戦時中だった若かりし頃に、足を痛められた事がきっかけで不自由な生活を送られており、早々にその家督をご子息様に委ねられている。

 そのお名前が――

「コルネリオ様、ただいま戻りました」

 ですよねー、と背中に冷や汗が流れていくのを感じながら、騎士としての忠誠の証である最高礼をとるフェルメールと同様に僕も頭を垂れて合わせる。

「普通にして構わないよ。フェルメール、それで?」

「こちらが、アルミネラ・エーヴェリー嬢です」

「なるほど。ようこそ、我がリーレン騎士養成学校へ」

 姿勢を正したその目の前で、ランプの明かりに照らされた尊い方は、麗しいお顔に笑みを浮かべて、王族特有の緋色の瞳で僕を捉える。

 昨夜の打ち合わせ通り、フェルメールは入れ替わりを済ませたアルミネラだと僕を紹介したので、僕はもう一度ゆっくりと頭を下げた。


 コルネリオ・フェル=セルゲイト様。

 御年二十九歳。いまだ独身だけど、王太子殿下と同じく、世の女性が放っておかないぐらいの美形である。

 ただ、まだまだ若いオーガスト殿下と違うのは、コルネリオ様は成熟した大人の男性だという部分だろうか。どういう事なのかというと、つまりフェロモンなんていう色気が一線を越えて常に放たれていると考えれば良いかもしれない。それは、もう全方位へと常に。

 緋色の宝玉を細かく溶かして撫でつけたような御髪は少し長めで軽く後ろへ固めて流されていて。美形特有の甘さを含むキリッとした涼しげな目元、鼻筋が通っていて、引き締まった口は、今は口角が上がり笑みが作られている。まさに、甘いマスクといった顔は、どこかの天才彫刻家が造った最高傑作品のように整っている。

 しかも、コルネリオ様は美丈夫ながらお声も艶があって大変麗しく、耳元で囁かれた婦女子は腰が砕けるほどの威力があるため、夜会ではそのお声に惹かれて様々な女性が集まってくるのだとか。年若きご令嬢もさることながら結婚していてもまだまだ遊び足りない奥様方に、そして夫に先立たれた未亡人の方々と、数えだしたらキリがないぐらい。まさに、骨抜きにされる女性が後を絶たない、という言葉はこの方のためにある。

 そんな眉目秀麗に加えて、武道でも腕前は各騎士団の団長レベルの域にあるというのながら敬服する。けれども、コルネリオ様は騎士団には所属せず、マティアス様のご意志を尊重してリーレン騎士養成学校の校長の座に就かれているのだ。

 けれども、己の全てを父君のご意向を汲んで捧げているわけではない。身体を動かす事と同じように、頭脳面でも優れておられるので、実は文官としても名高い方で知られている。

 物腰柔らかで、何事にも即座に柔軟な対応で執り行う様は、領民にも慕われているときく。

 文武両道で、おまけに容姿端麗。完全に非の打ち所が無い。

一部の貴族には、次の宰相候補と言われているが、実際の可能性は露ほども無い。――そう、有能な文官でもあり、次の宰相候補と噂されるぐらいの立ち位置におられる方とは、つまり現宰相エーヴェリー公爵とも大変縁があるという意味で。

 思わず、ごくりと喉を鳴らす。




 ――すなわち。




「久方ぶりだね、アルミネラ。いや、それとも今はイエリオスと正しく呼んでも?」

「……初めから、気付いてましたね?」

 これは、最初から負け戦だったらしい。

 脱力気味に息をはき出しながら、僕はさっさと両手を挙げてギブアップを申し出る。

「もちろん。入学式の際、再会したのがアルミネラだった事には気が付いていたよ。でも、楽しそうだったから知らないふりをしたけどね」

「っ、面白がらないで止めて下さい!」

 この人は、これだから。

 多分、今日ここで僕へのネタばらしをするまでに、さぞやアルミネラの観察を楽しんだことだろう。

「もしかしなくても、お知り合いでしたか?」

 僕たちが、知り合いだという事に逆に気を抜かれたフェルメールが、僕とコルネリオ様を交互に見て、僕の方に問いかけた。

「コルネリオ様は、文官としても大変優秀なお方ですので。父の仕事の関係で、僕も親しくさせて頂いております」

 簡単にいえば、家族ぐるみです。ええ、もはや家族の一員のような。

 けれど、そこまでは言えない。言ったら、多分、びっくりされるのは目に見えているから。

「なんだ、そうだったのか」

「って、何ですか?そんなつまらなさそうな顔をして」

 目に見えて、面白くないと顔に書いてある。

 期待を裏切って悪うございましたね、と軽く突っ込みを入れると、今度はコルネリオ様が僅かに柳眉を寄せた。

「随分、彼と親しくなったんだね」

「……そう言って、二人して僕で遊ぼうとするのは止めて下さい」

「残念。アルなら、もう少しからかっていても気が付かないのにね」

「……」

 うちの妹で遊ぶ気満々ですね。

 というか、察しが良くてすいませんね!なんて内心では訴えながらも、無言を貫く。ここは、大人しく黙っていた方が良いという事は既に経験済みだから。

「フフッ。からかうのはここでお終いだね」

「もうちょっと、リアクションを取ろうぜ!」

 じゃないよ。っていうか、何でそこノリノリなわけ?

 結局、いいように遊ばれただけのような気がする。ので、僕は仕返しにフェルメールを軽く睨め付けた。

「それよりも、あなたこそ僕とコルネリオ様の関係を知っても驚きもせず、コルネリオ様の悪ふざけに乗っかってましたよね?」

「ん?まあな。コルネリオ様は、入学式で気が付かれていたようだけど、お嬢が女だって知った時点で報告したの、俺だし」

「えっ?」

 ……フェルメールって、一体?

「そこから、一応俺がお嬢の監視役、兼警護役」

 いやいやいや、本当にフェルメールって何者なの?

 多分、いくつものクエッションマークを浮かせている僕を、コルネリオ様がクスクスと笑う。

 うー……。

 結局、最後はこうやって笑われる始末だよ、まったく。

「あの、フェルメールさんって?」

「リーレン騎士養成学校の、今年の監督生。あはは、もう睨まないで。彼は、私の期待の星、かな?」

 これ以上はまだ言えないよ、と言って、コルネリオ様が首を傾げながら微笑んで人差し指を立てて口元に当てる。そんな仕草までもがとても様になっていて、これ以上見ていられないくらいに何故か無性に恥ずかしくなった僕としては頷くほかなかった。

「いやぁ、お嬢も見てておもしれぇけど、お前さんもなかなかおもしれぇなぁ」

 そんな僕を、フェルメールは相変わらずのニヤニヤ顔で見てくる。

「ああ、そうだろう。この双子は、私が手塩にかけてずっとそだ、見守っていたぐらいだからね」

 今、完全に育てたって言いかけましたよね?

 確かに、育てたという言葉はある意味、合ってるんだけどさ。

 僕よりも、何故か自慢げなコルネリオ様が、これ以上変な事を話し出さないように止めなくては。

「あ、あの!そういう話は、もうそろそろ中断していただいてもよろしいですか!」

 むしろ、今すぐ忘れて下さい。

「うん?」

「僕としては、それよりもアルミネラが受けた任務が、本当に危なくないのかといった事の方が心配です」

 僕が、ここに来たのはそもそもそれが目的で。フェルメールの上司がコルネリオ様だと分かったのだから、むしろ聞きやすくて良かったと言える。

「今回の、オーガスト殿下に対する不穏な動きとは、どういったものなんですか?」

「ひゅう!意外と言うねぇ」

「フェルメールさんは、黙っててください」

 これ以上、横やりをいれられても話が進まないので、フェルメールにはジロリと睨んで威嚇する。

「はいはい」

 僕が、本題に入った事が分かったのか、フェルメールも笑って頷くと、それ以上は追従しなかった。

「ふむ。仕方ない、君には経緯を話しておこう」

 コルネリオ様から、強く見定めるような視線を向けられて居住まいを正す。

「実は、数日前に王宮から騎士の服が二着、盗まれたんだ。騎士団では徹底管理しているはずなのにね。ある朝、枚数を計算する際に上下共に二着がない事が判明した。騎士団内で、何回も捜索したようだけど、まだ見つかっていないんだ」

「そうなんですか」

 それだけで?とは、僕だって安直ではないので言わない。何がどう繋がるのかは、前世でいう迷路よりも複雑だから。

「ただ、分かったのは内部の犯行ということ。それと、管理室に足を踏み入れられる者は限られているということ」

 と、いう事は。何となくだけど、もしかして犯人の目星はついているってこと?

「ちなみに、犯人はいまだに捕まっていないよ」

 コルネリオ様がさあ、これで分かるだろう?とでも言いそうな笑みを浮かべる。

 いや、全く分かりません――とは絶対に言わない。コルネリオ様は屋敷に遊びにくると、いつもこういう風に僕やアルミネラにゲームを仕掛けてくるのだ。僕が負けず嫌いなのを知っていて。

 大半は、アルミネラが感覚で探し当ててしまうけど、今は僕一人しか居ない。


 だから、何が何でも僕が答えを見つけなくちゃ。


「さしあたって、そうだな。イエリオスには特別に、警備の配置を選ばせてあげるよ」

 これは、ヒント。

 ただし、気まぐれな。


 けれども、そこが最も重要で、慎重に考えなければいけない選択。


 コルネリオ様は、この瞬間をとても愉しんでおられるようだ。

 世のご婦人方が目にしたら、今にも気絶してしまいそうなほど、それはもう艶やかに、そして鮮やかに微笑みながら僕に告げた。


「学院の外を守るか、内を守るか。――さあ、どちらにする?」


2017/07/25 コルネリオ氏の年齢変更

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