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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第一章 双子と前世と異世界と
4/174

閲覧&ブクマ&評価、ありがとうございます!


2017/07/21 キャラの年齢の訂正しました。

4.

 世を儚んで、何故か毎日ひたすら庭の園庭に食虫植物を植える事に没頭しているおばあ様、お元気ですか?



 僕は、十歳の頃から僕の世話係をしてくれているサラが、まさかの戦闘狂だったとたった今知って、とても驚いている最中です。

 そりゃあ、陽も落ちてから夕食に舌鼓を打ち、宿題も終わらせたのでそろそろ寝る時間だなぁと、呑気にお茶を楽しんでいた僕も悪いのかもしれません。そうです、情けない事に僕もとうとう令嬢の嗜みを覚えてしまいました。



 ですが、誰が予測していた事でしょう。



 いきなり、二階の自室の窓からドンドンと激しい音が鳴り響いたら何事!?なんて思ってしまいますよね。ましてや、エーヴェリー家は敵も多く、さしも無抵抗な令嬢を襲撃しに来たのか?!と思わずにはいられませんよね。

 カーテンで窓を覆っているので、その恐怖は絶大です。




「サ、サラ……」

「下がっていて下さい!」

 情けない事に、僕は今、侍女のサラに守られている状況だったりする。

 というか、この襲撃に巻き込まないようにサラを逃がそうと彼女に腕を伸ばしたら、何故か逆に引っ張られてサラの背中の方へと追いやられてしまった。

 その行動力といったら並外れていて、あまりにも高速でめまぐるしくて、気が付けば大人しく従ってしまっている事に僕は内心愕然としてしまったくらいだ。

 彼女の過去は全くしらないけれど、手慣れすぎだから!いや、別に恐くはないけど。

 肩を覆うエプロンのレースに触れるぐらいのゆるふわなブルネットの髪が、僕の目の前で揺れる。部屋の明かりに反射して、いつの間にか青白い光を放つ二本の物騒な代物を握りしめて、紺色のメイド服を身に纏っている彼女はいつでも臨戦態勢に入っていた。

 って、いやいや!

「そっ、その両手に持っている物は、どこから出してきたの!?」

「たまに、肉を捌いております」

「に、にく」

 …………何のにくなの?

 しかも、若干僕の質問をはぐらかしている辺り、もう何とコメントを返せばいいのか分からない。綺麗に研がれた刃を見つめながら、僕は馬鹿みたいにサラ凄いとしか言いようがなかった。うん、明らかに混乱しているというのは、僕だって既に理解している。

 そこで、再びドンドンと窓が叩かれた。

「っ、サ、サラっ」

「しっ、お静かに」

 僕よりも場をこなしていそうなサラにそのように言われてしまえば、僕は従順にただ己の手で口を押さえるのみ。余所から見れば、完全に怖がっているご令嬢のような僕をあざ笑うかのように、もう一度窓が叩かれた後、よく聞けば窓の外から声がした。

「……、け、て!ここ!あ、け、て!!」


 ………………え?



 この時の僕は、きっとかなり間の抜けた表情をしていた事だろう。

 外からの声は、とても懐かしい色をしていた。


「あ、けて!」

 ……えーっと。そういえば、つい最近まで、僕は屋敷の自室でもこういう体験を何度も何度も、それこそしつこいぐらいに何度も体験していた。その時は、外からではなく廊下からだったけど。

 だから、必然と襲撃犯の正体に思い当たって。

「も、もしかして、アルミネラ?」

 可能性なんていうよりも、まず妹しかあり得ないだろうな、と分かってしまう。

 僕が肩の力を抜いたと同時に、サラが二つの刃を収めてカーテンと窓を開ける。決して疚しいことなど考えてないけど、純粋にあの武器がどこに収納されるのか気になってしまった。いや、結局それどころじゃなくなって、謎が残されてしまったけれど。



「イオ!!」



 鏡を見ているような同じ顔、ほぼ同じ体型、同じように伸びている身長。で、少し日に焼けてしまったアルミネラは、それはもうかっこいい士官生の出で立ちで、僕に勢いをつけて抱きついてきた。

「っ!」

 一緒に居た時は、当たり前の行動だったけど。

「ちょっ!い、今、ヒールなのに、ば、ばかっ!」

 今は、慣れない服装に女性物の靴を履いているので、はっきり言って僕の今の安定感は半分以下と言っていい。それでも、何とか必死で踏ん張ってみたけど。

「えへへ。ごめーん」

 やっぱり、後ろに倒れそうになった僕を、笑いながら支えてくれたのはアルミネラで。

 妹に支えられるとか、どんな拷問だよ。なんて、男の矜持を傷つけなれながらも彼女を間近で見つめれば、ただひたすらに嬉しいとばかりな顔をしていた。

「……はあ。しょうがないね、アルは」

 どうせ、僕は妹には弱い。

 彼女の、この笑顔が見られるのならば、多少の無茶でも受け入れてしまえる。

 苦笑して、おいで、と改めて手を広げると、待ってましたと言わんばかりに、アルミネラはもう一度満面の笑みを浮かべて今度は僕に優しく抱きついてきた。

「アル、どうして急に来たの?」

 しばらく抱擁し合った後、彼女がこんな真似をしてまでどうしてここへやってきたのか不思議に思う。あり得ないだろうけど、見習い騎士の暮らしが如何に大変だったのかようやく身にしみて、入れ替わりを正しに来た……なんて、僕的には嬉しいお知らせじゃないよね?

「それはね」

「すっげぇな!本当に、そっくりじゃねぇか。そりゃ、見分けなんてつかねぇよな」

 と、いきなりアルの言葉に被せて聞こえたのは、見知らぬ青年の声だった。

 アルミネラの相手をしていた間に侵入してきた声の主は、勝ち気そうな顔に笑みを浮かべて窓枠にもたれながら僕たちをじっと観察しているようだ。

「……イエリオス様」

「サラは下がっておいて」

 不穏な気配を当然サラは見捨てる事など出来ず、もう一度青白く光る物体を手にしていたので、内心では冷や汗を流しながら、穏やかな声音で落ち着くよう促す。

 だから、あれはどこから出してきたんだろうか。

 サラの武器にドキドキしながらも、相対している青年からは視線を外さない。

 ヘーゼルブラウン色の短髪に、三白眼のオリーブ色の瞳。アルと同じ士官生の服を身に纏っているから、同じリーレン騎士養成学校の生徒だという事は分かるけど。

 先ほどから、僕に対して何故か挑戦的な視線を投げてくるので、それがとても気に障る。

 「……誰?」

 だから、つい不機嫌が滲んだ低い声が、口から漏れてしまった。

 僕にしては珍しく怒りが含まれていることにアルミネラが気が付いて、慌てて僕の腕にしがみつく。

「あっ、あのね、彼はフェル。この間、手紙にも書いたと思うけど……その、僕たちの秘密を知ってる、僕のルームメイトなんだ、よね。えへ?」

 そこ、可愛い子ぶらない。

 というか、今、明らかに視線を逸らしたよねぇ?一応、アルも反省してるってことかな?けど、僕の真似とはいえ、アルの一人称が『僕』に変わっている事が地味に一番のショックなんだけど。

 父上にでも知られた日には、多分また遠い目をさせてしまうに違いない。

「ふうん。でも、悪いんだけど僕は彼に尋ねてるから」

「え、……あ、ハイ」

 アルミネラの頭を撫でながら、にっこり笑うと彼女はぎこちない笑みを浮かべた。

「お初にお目にかかります。私は、エーヴェリー公爵家嫡子、イエリオス・エーヴェリーと申します。失礼ですが、貴殿は?」

「うわぁ、こういう時のイオに祟りなし」

「ちょっと、黙って」

「ハイ」

 むう、失礼だなぁ。こっちは、せっかくドレス姿とはいえ貴族の礼儀に則って正しい姿勢で挨拶をしているというのに。

 チラリとアルを見やって黙らせたのを、青年はじっと見ていたかと思ったら、次の瞬間には何が面白かったのか、物の見事に大笑いをされてしまった。

「つぷは!あはははっ!おもしれぇな、はははっ!」

 あり得ない、こんな失礼な態度をされたのは初めてだ。

 彼の大笑いに一瞬だけ不意打ちをくらってしまったけれど、腹の底からムカムカしたものがわき出てきて相手を威嚇するように睨みつけた。

「ああ、わりぃわりぃ。俺の名は、フェルメール・コーナーだ。城下町にある八百屋の三男。んで、先に言っとくけど、お宅の妹さんは俺の守備範囲外だから興味ないし、触れてすらないからご安心を。しっかし、美人が怒るとこえぇな、やっぱ」

「フェルは、僕たちの三つ年上で監督生なんだ」

 彼の言動に煽られているとしか思えなくて、またイラッとしたけれど、アルが絶妙なタイミングで口を挟んでくる。僕が苛立ちを隠せない所為もあるけど、双子というのは不思議なもので、もう一人の感情が手に取るように感じる事が出来てしまう。

 僕だって、同じくね?

 ――だから。

「監督生がルームメイト、ねぇ。それで?後、ルームメイトは何人いるのかな?」

「ふわぁっ!?えっ、えーっと」

 はいはい、やっぱりね。

「アル?」

 まさか、僕を騙そうだなんて。兄を馬鹿にするのではない。僕がジト目でアルを見れば、案の定彼女は色んな場所に視線を彷徨わせながらテンパっている。

「イオ、じゃねぇや。えーと……お嬢。お前の兄ちゃんには全てお見通しみたいだぜ?この際、正直に話しちまった方が良いんじゃねぇの?」

「あ、あああ、あう」

 まるで、執拗な取り調べの末に観念して自白した犯罪者みたいに、アルは頭を垂れながらため息をはき出した。

「ん、っとね。後、一人居るの。あそこの寮は、四人部屋なんだけど、僕たちの部屋は一人居なくて。ごめん、イオ。迂闊だった」

 なんて、言いながらアルミネラは、オドオドしながらも僕の腰に抱きついてくる。

 くっ、小悪魔め。

「……夜、こっそり水浴びをして帰ってきて着替えようとしたら、下着のところを見られちゃって。あ、でも、裸は見られてないよ?ほんとに!裸はまだ、見られてないから大丈夫!裸は、決して見られてないんだ」

「わっ、分かったから!分かったから、女の子がそんな言葉を連呼しない!」

 あー、もう。本当に分かっているのかな?いい年齢の女の子が、こんな……ああ、気が重たい。

 思わず、額に手を当てた僕を気遣うアルを横目に見てから、大げさにため息をはき出してやる。

「はあ、もういいけど。でも、アルはまだ続けるつもりなんでしょ?」

 半ば、呆れている風を装いながら、そのように問いかけてみると、彼女は上目遣いの状態でこくりと頷いた。

 やっぱり、ね。

 僕と同じ白金色の短い髪に触れる。さらりと細やかな髪の感触を、何度も確かめる。一ヶ月が過ぎて、少しは伸びているのかと思っていたけど、アルミネラの髪は僕と同じような髪型のままだった。

「そう。それなら、厳しいことを言うようだけど、僕は君に約束してもらわなくちゃいけない。もし、この先、僕たちの入れ替わりが広まるような事態になりそうなら、即刻君は元に戻って、このグランヴァル学院で淑女として学ぶこと」

 アルを立たせて、僕たちは同じ目線でお互いを見つめ合う。

 自然と繋がった両手の温もりを感じながら、蒼い瞳に、お互いの姿を映した。


 こうすることで、まるで一つの魂を共有しているかのよう。


 呼吸のタイミング、心臓の音すら重なり合っている気がして心が落ち着く。



「約束するよ。この血にかけて、楓の木と溢れる星の海の下で」

「楓の木と溢れる星の海の下に」



 それから、同じタイミングで笑い合う。

「すげぇな、双子って。シンクロ率が高すぎて、つい魅入っちまったぜ。それで?楓の木云々ってのは、何なんだよ?」

 何故か、一連の誓いを行った僕たちよりも、フェルメールが大興奮をしているので面食らう。

 アルも、一瞬キョトンとした表情を浮かべて、僕たちは顔を見合わせた。

「何だよって、言われても……ねぇ?」

「まあ、二人だけのおまじないのようなものかな?」

 ……だよねぇ?




 楓の木とは、ついこの間まで住んでいたエーヴェリー公爵家の領地内にある僕たちの屋敷から、少し離れた小高い山に立っていた。それはそれは、樹齢もさぞや長いだろうと思える立派な大木で。

 僕たちは、そこへ遊びに行くのが常だった。

 その木は、天気が良い日も雨の日も、風の強い日だって僕たちをいつも温かく見守ってくれていて、身を潜めるような場所なんてないのに、幼い頃は僕たちにとってのいわゆる秘密基地のようなものだった。

 アルは、その木に登って遠くの景色を眺めたりするのが好きで、僕はその下でよく本を読んでいて。とにかく、僕たちよりもずっと長く生きているだろうに、同じ時間を共有しあって共に成長しているような錯覚すら感じられる、大切な居場所だった。

 だから、僕たちは楓の木がとても大好きだった――のに、ある日、その楓の木は伐採しなければならない事になってしまったのだ。


 当然、幼いながらも反対してみたけれど、民の要請には抗えなかった。




 伐採される前日の夜のこと。僕たちは、初めてこっそり屋敷を抜け出して、楓の木とのお別れを告げるために訪れた。

 その日の事は今でもよく覚えてる。あの日は、とてもよく晴れていて、アルミネラが珍しく僕に手伝うから登っておいでよ、と言ってきた。

 幼少期は運動が出来ない身体だったから、登り切るのに一苦労をしたけれど、汗だくになって二人で軽い傷を負いながら登ったその場所から見た景色は、絶景といえるぐらいに綺麗だった。


 静寂の中の満点の星の海。

 小さな家々から零れる人々の灯。

 どこまでも見渡せる地平線の先は、とても不思議で。



 僕たちは、言葉をなくしてそれらを忘れぬように見ていた。



 ――ああ、今、この世界にいるのは、僕とアルと楓の木だけなのだ、と。


 何故か、不意に涙が出ていた。

 横を見れば、アルミネラも同じように涙を流していて、驚いていたら、そこへ一陣の柔らかい風が吹いて、楓の木がまるで僕たちを慰めるかのようにさわさわと音を立ててその葉を揺らした。

「この景色を、これから何があっても忘れないようにしようね」

「うん、絶対だよ」


 その時、僕たちは誓い合ったのだ。

 今もその約束は生きている。

 だから、僕たちは何か二人で約束事をする時は、いつも必ずその言葉を入れることにしている。




「秘密だもん。ねっ、イオ?」

「うん」

 にしし、と笑うアルミネラに僕も笑って頷くと、フェルメールはそりゃ残念だ、とあっさり引き下がって苦笑いを浮かべた。

 そうしてくれて、助かったかも。だって、今さっき会った人だし、簡単には教えたくない。

 だって、この事は僕たちの幼馴染みにもあたるエルフローラにさえ言っていないのだから。

 うんうん、と内心頷いていた僕の手を取って、アルミネラが再びにこりと笑みを浮かべる。

「ねぇ、イオ」

 あ、あれ?何か、嫌な予感しかしないんだけど。

「何?」

 急に鳥肌が立って、ぞわりを身体を震わせる僕の背中越しから、アルミネラはとても甘い砂糖菓子のような微笑みでがしりと僕の腕に絡みつく。

 まさかのホールド。僕にとって、今、それは不穏でしかしない。

「それでね、今日ここに来たのは、イオに頼みたいことがあってなんだけど」

「……だろうね」

「え!もしかして、何かそんな気がしてたとか?」

「えー?うーん、いや、違うけど。……とりあえず、お茶でもしようか」



 嗚呼、悲しき哉。僕は、徐々に淑女の作法が身についてきてしまってる。


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