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15(上)

閲覧とブクマ、そして評価をありがとうございます。

最終話でしたが終わりませんでしたので、上下に分けさせて頂きます。

 僕はいまだにこの世界が分からない。




 コルネリオ様が僕をあそこから連れ出してくれたのは、寒気と共にクシュン、と一つくしゃみをしてしまった為である。

 僕にフォンタナー伯爵の話を聞くのが、どうやらあのどんどん秩序が失われていったお茶会の目的だったらしい。というのは、手のひらを返して早く帰るよう促す面々のお言葉から何となく察してしまった。場所が牢屋という事もあって、そこで尋問のように陛下や父上から訊かれたら僕が萎縮するだろうとご配慮して下さったのだ。あのお茶会でも、充分緊張したけどね。

 未熟者で申し訳ありません、と頭を下げたら、とうとう陛下に「いいから早く帰れ」とお叱りを受けてしまった。もちろん、本気で怒られたわけじゃない。けれど、そこに居たほぼ全員に微苦笑を浮かべられたのだけは解せない。

 そして、向かった先は城内のコルネリオ様の執務室で。えっ!王弟のご子息なのに執務室?って思ったよね?ええ、その認識は間違っておりませんとも。そうなんだよ、なんとここには王弟のご子息の私室まであるんです。びっくりだよねぇ。なんて惑わすのはこの辺にして。

 実は、元はマティアス様の執務室であったらしい。しかしながら、そこは一つの場所に大人しく留まるのが苦手なマティアス様で、滅多に自室に居られる事はなかったのだそうだ。そして、コルネリオ様がリーレンの学校長にご就任された日に、この執務室もお譲りになられたとの事だった。

 そんな王弟の元私室だったコルネリオ様の執務室に向かう事になったのは、僕の付き添いと称して一緒に来たアルがここで待ってるねー!と言っていたから。

 ――なのに。

「お待たせ致しました。って、アルは?」

 コルネリオ様の後に続いて室内を見渡せば、そこに居たのはフェルメールだけだった。

 ……あのさ。どうして、うちの子は大人しく待っていてくれないんだろうね?アルがじっと出来ない性格だというのは分かってる。そりゃあね、僕はお兄ちゃんだもの。妹の事はだいたいの事ならなんだって分かるよ?でもさ。

「詳細は聞かせてくれなかったが、殿下の所へ行くと言って出てっちまったよ」

 たまに、本気で何を考えているのか分からなくて戸惑う時がある。それが、今――だ。ああ、頭が痛い。よりにもよって、どうしてオーガスト様の所かな?常にいがみ合ってるのに、そこをわざわざ選んじゃう?

「そうですか」

「それで、付き添いは?」

 おっと、そうだった。アルの行動力に感心している場合じゃないんだよ。フォンタナー伯爵が行方をくらませている以上、警戒を怠ってはいけないのです。はい。

 きっと、騎士として当然の義務からの問いかけだったんだろうけど、キルケー様には感謝の念を送っておこう。ありがとうございますー!ってふざげてる場合じゃなくて。

 あーそれにしても。……さっきから、どうも思考がままならないや。

 もしかして、ここにきて一気に気が抜けてどっと疲れが押し寄せてきたのかなぁ。

「ディートリッヒが付いております。ノアも合流したので、安全であると判断致しました」

「宜しい」

「あの、それじゃあ、僕もオーガスト様の所へ参りますね」

 もしくは、本格的に風邪を引いてしまったのかも。ということは、早く帰る為にはアルを回収しなくては。

「そう。本当は、イオに聞いてもらいたい話があったんだけど、それはまた今度にしようか」

 うん?訊ねたい事ではなくて、話したい事?

 コルネリオ様を仰ぎ見ると、美しい笑みがそこにはあった。……うん。やっぱり、分からない。

「あの、お急ぎでしたら」

「いや、焦って話す事でもないから今日はいいよ」

 おっと、断られたー。まあ、いいけどね。いいけどさ。表情が読めない人だから、お伺いしただけだから。

「分かりました」

 とは頷いたものの、逆に僕が思い出した。

「一つだけお訊ねして良いですか?」

「何かな?」

「僕がフォンタナー卿の邸宅に預けられていた時、オーガスト様とグスタフ様がいらしたのはコルネリオ様のご指示だったんですか?」

 実はちょっと気になってたんだよね。面会に来て頂いた時は驚くばかりだったけど、今考えたらあのご訪問も意図的なものだったのかなって。つまり、証拠探しを促しに――って。

「いいや、二人とも己の意思だよ。ああ、だけど、殿下は陛下から今回の計画を知らされていたから、或いはそうかもしれないね。だから、そんな状況に晒されている君がとても心配で、居ても立ってもいられなかったんだろう。私同様に、接触は控えるようにと仰せつかっていたはずだよ」

「え……で、では、陛下に叱責されるのを覚悟の上で?」

「だろうね」

 う。……どうしよう。駄目なことなのに、こんなにも。

「嬉しそうだね」

 うわぁああああああああああああっ!!

「や、あっ、そ、そのっ!そ、そんなことはっ、決して!……こほん。オーガスト様には秘密にしておいてくださると助かります」

 主の身を危険に晒して喜んでいたら駄目なんだよ、本当は。こんなの、臣下として失格なんだから。

「これ以上、嫉妬させないでくれないかな」

「し、嫉妬って!」

 何を言い出すんだか、この人は。

「だって、オーガストよりも先に君を見つけたのは私なんだよ?それを、あっさり横からかっさらわれて私が何も思わないとでも?」

「そ、そうおっしゃられましても」

 どういう反応をすれば良いのか分からない。どう返答をすれば『正しい』のかも。

「なーんてね。まあ、それは冗談で」

「……ご冗談、ですか」

 何なの、それ。冗談にしては笑えないよ。

「ふふっ、真っ赤になってるね。焦った?」

「し、知りません!」

 それでもって、フェルメールは僕の顔を覗こうと移動しない!今にも顔から火が出そうなぐらいに火照ってるのが自分でも分かってるんだから、いちいち確認しようとしなくても良いんだよ。

 恥ずかしさのあまり、フェルメールを睨み付けてやるとコルネリオ様にクスクスと笑われてしまった。

ほんっと、後で覚えといて!僕の騎士になった以上、僕には怒る権利があるんだから。まあ、初対面の時からフェルメールには怒ってたけどさ。

「エアハルトの場合は、あの子なりに君を心配しての事だと思うよ」

「とても嬉しかったです。アルは誰とでも仲良くなれますが、グスタフ様の事はどうも苦手なようで。僕は、もっと距離感があると思っていました」

 少なくとも、交流はあってもアルは全力で距離を作ってると思ってた。――あの時までは。

 わざわざ嫌いな人間に会いに、他家の屋敷まで来る人なんて滅多に居ないよね。しかも、そこの家の住人じゃないんだよ?なのに、グスタフ様は来てくれた。

 『イエリオス』を訪ねて。

 正直、アルは今でもグスタフ様を面倒くさい人だと思ってるはず。だって、入れ替わった時に分かるんだよね。普段、アルがどれだけグスタフ様を軽くあしらっているのか。そりゃあ、分からなくもないよ。たまに、この人の精神力半端ないなって思うから。

 それでも、『友達』だって言ってくれるんだから兄としては感謝しかない。

 入学したての頃は本当にエーヴェリー兄妹が嫌いで『イエリオス』に意地悪をしていたのだとして、あのアルが根気よく付き合っている辺り憎めない人だという事は知っている。僕も初対面では色々と驚かされたけれど、今は思いやりがある優しい人柄のグスタフ様とお話するのは楽しくなった。

「あの子は素直じゃないからね、思っている事とは逆の事を口にしてしまうんだよ。でも、心根は優しい子だよ。だから、イオもこれからも仲良くしてあげてほしいな」

「もちろんです」

 ほんとにね、それはこちらこそ願ってもないお願いですよ。




 それでは、とコルネリオ様とキルケー様に別れを告げてお城の中を移動する。北の塔から東の執務室、そして次に目指すはその数階上のオーガスト様の執務室へ。

 何度か寒気に襲われながらも、もう少しの辛抱だと自分に言い聞かせて階段へと一歩踏み出す。――途端。

「っと、大丈夫かよ?」

 まるで稲妻のような痛みがこめかみを走り抜けて、ふらついてしまった。

「大丈夫です。少し疲れが出てしまっただけなので」

「本当にか?無理してねぇだろうな?何なら、俺が抱きかかえてやろうか?」

「結構です」

 いやいや、何故そこに至る。

「こんな誰が見てるとも限らない場所であり得ません」

 あと、ニヤニヤしないで下さい。僕がどういう立場であるのかフェルメールも分かっているくせに茶化してくるんだから、全くもう。性質が悪いったら。……でも、おかげでちょっと元気は出たけど。

「んじゃ、誰も見てねぇ場所なら良いのか?」

「ちがっ!――――あ」

 あのねぇ、いい加減にしてください、とため息を吐きながら後ろを振り返ったところで。


 階下に佇んでいたアシュトン・ルドーと、目が合った。


「……アシュトン様」

 悲鳴を上げなかったので褒めて欲しい。咄嗟にフェルメールにしがみつきそうになってしまったけれど、そこも意地とプライドで頑張りました。はい。でもさ、急に現れるのは本当に止めてもらいたい。前世からホラー系は苦手なんだから、心臓に悪いったら。っていうか、どうしてここに?

「お前が見つかったと聞いたから」

 えっと……僕、顔に出てた?

「心配をおかけして申し訳ありません。わざわざ僕を探しに登城して下さったのですか?」

「早く、……安心したくてな」

 そっか。うん、なるほどね。でもさ、そこではにかむ理由が分からない。

「ありがとうございます」

「……いや」

 だから、どうして恥じらいながら視線を逸らすの?

「それで、あの、何かご用が?」

 用件があるからこそ探してたんだよね?

「実はな、お前が専属の騎士を迎えたと人づてに聞いて。本当かどうか知りたくて」

 ……いや、ちょっと待って。その情報源はどこですか?僕がフェルメールを騎士にしたのって、まだ一日も経ってないんだけど。え?ほんと、どこからなの?早すぎない?恐いんだけど!

 まさか、本人が自ら?……と、そろりと視線をフェルメールに向ければ、満面の笑顔で首を振られた。

 ……だよねぇ。というかさ、面白がらないでください。絶対、今の状況を楽しんでるでしょ。

「えっと、……本当です。彼が、僕の騎士です」

 まだ、堂々と胸を張って言うのは恥ずかしいけどね。知られたのならご紹介しないと。

「フェルメール・コーナーと申し」

「どうしてなんだっ!どうして、俺じゃないんだ!?俺よりもその男を選ぶというのか!?」

「えっ、いや、あの」

「俺はお前しか見ていないのにっ!お前は俺じゃなくその男の方が良いのか」

 ……………………え、えええええ?

 いや、ほんとにちょっと待ってもらえませんか。……どうして、次から次へと問題が、じゃなくて。えーっと……つまり、アシュトン・ルドーは、自分を差し置いてフェルメールを騎士にした事への抗議がしたかったわけだ。うん、そこは分かった。僕も勢いでフェルメールを騎士に迎えたから、そこは軽率だった事は認めよう。

 でもね、ここが何処か忘れてません?

 あなたと僕が立っているのは、ミュールズの心臓とも呼ぶべきお城の中央階段なんですよ。そう、ここには沢山の方が働いておられるんです。つまりはね、人が行き交う往来でそんな事を叫ばれたらさ、……ねぇ、分かるでしょ。

「皆集まってどうした、何があったんだ?」

「どうやら痴話喧嘩のようだ」

「なんでも恋仲だったあの少年?少女か?をそこの騎士が奪ったとかで」

「俺はあの子が二人を手玉にとっていると聞いたぞ」


 ……泣いて、良いですか。


 本当は、今すぐ両手で顔を覆って座り込みたい!いや、心の中ではもうしてるんだけどさ。例えるなら、見世物小屋の動物になった気分。何となく既視感があるなって思ったら、オークションと一緒じゃないか。これ以上の辱めは耐えられない。もうやだ……この世の終わりだ。おうちに帰りたい。

 このまま気絶したいという願いも虚しく、途方に暮れる。そこへ、フェルメールが急に拍手を始めた。

「いやぁ、素晴らしい!初めてとは思えない程の演技力ですね!問い詰め方なんて、まさに迫真に迫っておりましたし。主も驚いて声が出ない様子です。えっ?もう、構想は練られておられると?それは是非ともお聞かせください。ささっ、それでは参りましょう。ええ、お茶の準備は出来ております」

 ははは、という作り笑いを浮かべながら、フェルメールがアシュトン・ルドーを強制的に連れてくる。

 もう、うわぁ……としか言いようがないけど、別の回避策を考える時間はないわけで。

「お騒がせ致しました、申し訳ありません」

 僕もそれに乗っかって、野次馬になっていた方々に謝罪しておく。

 うん。嘘も方便だよね。時には必要な嘘もあるんだよ。ほら、世間体って最低限は必要だしさ。

「……悪かった」

 熱くなってしまって、とようやく僕たちに興味を失った人だかりが霧散していくのを僕の真横で見下ろしながら、アシュトン・ルドーが口にした。

 やっと、落ち着いたってみて良いのかな?

「いえ。……少し、お話をしましょうか」

 本当は帰りたい。定期的に押し寄せてくる寒気と頭痛が、僕に体の限界を知らせてくるから。今すぐ帰って、サラが干してくれているふかふかのお布団に潜り込みたい。

 けれど。


 アシュトン・ルドーとの問題を、このまま引き延ばすわけにはいかないのだ。




 フェルメールに落ち着いて話せる場所を知っているか訊ねれば、連れてこられたのはよく騎士の皆さんが待機中に使っている部屋――の隣りにある小部屋だった。なんでも、ここは極秘の任務など内密な話をする際に使用する部屋らしい。どうりで壁紙も無地だし机も簡易的なものしかない。とまあ、部屋のインテリアを語るのはこの辺にして。

 扉を閉じた途端に、美しいかんばせにある碧い瞳が僕を急かした。

 はいはい、分かりましたとも。

「回りくどいのはお嫌でしょうから、単刀直入にお話します」

「ああ」


「以前から申し出て下さっていた僕に仕えたいという件ですが、改めてお断り申し上げます」


 それが、アシュトン・ルドーに対する僕の『答え』だ。

「なっ、そ、そんなっ」

 アシュトン・ルドーを正面に見据えているから、動揺が手に取るように分かってしまう。言葉にならない戸惑いを見せるアシュトン・ルドーに、思わず苦笑してしまいそうになったけどここは我慢だ。

「言っておきますが、アシュトン様の件と彼は関係ありません。彼を騎士にと望んだのは、彼になら僕の命を預けても良いと思ったからです」

 そう。それは、フェルメールにしか出来ないからだ。

 だから、フェルメールじゃないと駄目なんだよ――――僕の騎士は。

「っ、だが」

「あなたは、僕に『執事バトラーでも近侍ヴァレットでも、何なら下僕フットマンでもいいんだ。俺を、お前の傍において欲しい』と申し出て下さいましたよね」

「そうだ、騎士にはなれなくとも、他の役割なら何だってこなしてみせる!」

 その心意気は、僕だって純粋に嬉しいよ。そこまで求められているって事なんだから。

 ――でもね。

「けれど、僕には想像出来なかったんです」

 僕の屋敷で、アシュトン・ルドーがあれこれと僕の世話をしてくれるという想像が。

「想像とはただのイメージの塊に過ぎん。実際に体験してみなければ不明瞭なままだ」

 まあ、それはそうなんだけど。


「僕が望む未来は、あなたが僕の隣りにいるという事です」


 この意味が、分かるかな?

「しかし、お前は拒絶したじゃないか。一体、どういう意味だ?」

 美形に目を細められて見つめられたら、けっこう威圧感じちゃうよね。本気で怒られてる気がして射すくめられるというか。

「僕はアシュトン様に下僕になって欲しいとは思っていません。ましてや、執事や近侍でもありません」

「よく分からないな。それじゃあ、お前は俺に何を求めているんだ?」

 やっぱり、まだ分かってないか。

 アシュトン・ルドーとは宰相候補の対決という形で付き合ってきたから、僕に傅くというのが納得出来ないんだよ。僕よりも先見の明があって、頭の回転が速い策士家。その才能が埋もれるのは僕の方が我慢ならない。

 ――分かって欲しい。

「あなたには、僕と対等の立場でいて欲しいのです」

「対等だと?」

 人に仕えるというのは、主君の後ろにつくということ。つまりは、横並びじゃいけない。

 前世だと誰しもが対等の立場で全ての人は平等であったから、この世界のそういった関係がとても苦手だった。乳母のマーナは直ぐにそれを理解してくれて、僕の好きにさせてくれていたけれど、サラに代わってからは主としての教育も施されていった気がする。

 下手したてに出ない。敬語では話さない。名前は呼び捨てる。命令とお願いは全く違う。主としての品格を持つ。他にも、もっとたくさんサラには教わった。

 アシュトン・ルドーとはその関係性を見いだせない。

「この国の安泰を保つには、知略に優れたあなたが必要なんです」

「しかし、俺はもう宰相になる気はない。そもそも、この国に忠誠心など持てないんだ」

 分かってる。それも、ちゃんと分かってるから。

「構いません。だからこそ、僕の隣りでこの国の未来を次の世代にも繋げるように、共に築き上げてもらいたいんです。僕だけだとどうしても偏ってしまうから、僕とは違う意見を堂々と述べてくれるアシュトン様はとても貴重な存在なんです」

 学院でも生徒会で行われる会議で、生徒会長のライアンに真っ向から違う意見をぶつけるのを何度も目にした。そこからまた違うアイディアが生まれたり、合わせる事で解決出来た問題もあった。

 それが出来る人がほしい。

 ――そう、僕には。


「宰相には、補佐官が必要なんです」


「……つまり、お前は宰相となったお前の補佐を俺にやれと言いたいんだな?」

「や、やれ、だなんて滅相もありません。ただ、僕は……父とミルウッド卿の関係が一番しっくりくると言いますか、その、理想的だなって」

 強制したいわけじゃないよ。それに、オーガスト様は約束して下さったけれど、僕が本当に宰相になれるのか不明だし、……課題は多いし。

僕にとってあの二人は常に対等でお互いを補えている気がして、ちょっと羨ましいなって思っただけだよ。……なんか、段々恥ずかしくなってきた。

「エーヴェリー卿とミルウッド卿の関係、か」

「か、関係といいますか、距離感というか。あとは、お互いを認め合って理解してい」

「それだ!俺が求めているのは、まさにそれだ!」

 わぁ、びっくりした。話している最中に、急に「それだ!」とか言い出すから思わず身を引いてしまったじゃない。えっ?えっ?なに、急にキラキラしちゃって。美形が無駄に輝かないでほしいんですけど。

「え、えっと……?」

「俺は、ずっとお前に認められたかった。……ああ、そうか。確かにそうだ。俺はお前に仕えれば、いつか認めてもらえると思ってたんだ」

 ……そういうことか。

「認めるもなにも、僕はアシュトン様を尊敬してますよ。だから、あなたとは対等でいたいんです」

 あーもう、脱力して笑いがこみ上げてきたよ。こんな事なら、もっと早く話し合えば良かったのかもね。まあ、僕が対等でいたいという結論に至ったのは、つい最近の事だけどさ。

「そうか。分かった、……俺は望みをはき違えていたんだな。前言を撤回する。そして、俺はミルウッド卿に負けないぐらいの補佐官となって、お前に見合う男になる!」

「……アシュトン様」

 多分、ここは感激する所なんだろうけど僕には無理だ。宰相候補の対決の時より無駄に勇ましいのが謎で仕方ないし、最後の一言がちょっとなーって。見合うって何なの。もしや、彼氏気取りじゃないよね?この人、たまに僕の彼氏面するから困る。って、彼氏ってなんだよ!

 もしかしたら、フェルメールより厄介な人を引き入れようとしているのかもしれない。いや、時既に遅しなんだけどさ。

 軽く嘆息したら、フェルメールにうっすら鼻で笑われた。後ろに居るからって見えないとでも思ってたら間違いだからね、と一瞬だけ睨み付けてやる。

「ま、諦めろよ」

 ぼそりと背中に響いた声は励ましというより、当然の結果と言わんばかりの物言いだった。

 ……失礼な。僕を何だと思ってるんだか。

 楽しげに口角を上げたフェルメールに一言もの申してやる、と息巻いていたら。

「そうとくれば、お前が宰相になるまでに、俺はミルウッド卿と同じように外交官となって情報網を拡げるかたわら、世界の情勢についても調べておこう。ついでに、各国との連携も強化しておきたいしな。だったらまずは、クルサードとの条約を見直して」

「いや、あの、落ち着いてください!」

アシュトン・ルドーが暴走し出したので、それどころじゃなくなってしまった。



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