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閲覧とブクマ、そして評価をありがとうございます。

 実は、初めて会った時から右の手首に嵌めている腕飾りがすごく印象的だった。銀製のバングルだから一見して腕時計に見えるんだけど、それより細めだしよく見るタイプの朝顔のような薄い紫色の宝石が施されているのでアクセサリーだというのが分かる。後に聞いた所、亡くなられた父君の遺品であるという。




「どうやら、私は甘く見てみたようだね」 

 たそがれ時という黄金時間にも関わらず、いまだ行き交う人がいる裏通り。もう何度目になるのかというため息をはき出しながら、ライアンがジト目で見てきたので、素知らぬふりしてそっぽ向く。あっ!あの布ってアリアさんたちが手がけた染め物なんじゃない?わぁ、綺麗な色だなぁ。アリアさんたち、元気にしているかなー。

 ……。

 うん、心の内にも関わらず棒読みなのは自覚してる。まるでタイミングを図ったかのように夏の生暖かい風が僕たちの間をさあっと過ぎり、ライアンがもう一度ため息をはき出した。

「別に怒る気はないから、こちらを見たまえ」

「僕は悪くないですからね」

 これ、重要。という事で。もうお気づきかと思われますが、やはりというか信じられない事にナンパ地獄に遭いました。はい。もうね、地獄と言っても差し支えないと思う。

 そんなわけで、ライアンが呆れている状態なんだけども。

「ああ、分かっているとも。君のような着せがいがある男を店長に任せてしまったのと、敢えて容姿を隠す事で逆に男共の視線を引き寄せてしまった私の判断ミスだろう」

 というか、貴族と一緒に居るというのに声を掛けてくる人たちもどうかと思うよ。そもそもどこからどう見ても男であるのに、どうして勘違いしちゃうかなぁ、っていうのはこの際諦める事にした。もう、僕を女性と間違えるなら間違えてくれていい。……ショックだけど。

 でもさ?でもね、三百六十度、上から見ても下から見てもどんな方向から見ても隣りに人がいるのは分かるでしょ?しかも、相手は貴族の装いなんだから、あーこれはちょっと何かしらの事情を抱えた二人かもって何となく察してしまえるじゃない?それなのに、「美人なのに隠してるなんて勿体ないから声をかけちゃいましたー」とか「突然ですが一目惚れしました!付き合ってください」だとか。挙げ句に、「そこに教会があるんだ。今から行こう」と強引に手を掴まれた時は、さすがにライアンが割って入ってくれたけど。

「僕もびっくりしてますよ」

 だって、今まで食事やお茶に誘われる事は多々あったけれど、ナンパされたのは初めてだもの。

「やっぱり、こういう服装だと口説きやすいものなんでしょうか」

 貴族ではなく町民に見えるというのなら喜んで良いのかもしれない、と両脇にスリットの入った裾を持って僅かばかり拡げてみる。……うん、この上着ほんと着やすくて良いな。

「お姉さ」

「失礼、彼女は私の連れでね」

 え?今のなに?

「彼女?」

 って、今明らかに僕に視線を寄越していましたよね?もしかして、またナンパされかけた?

「隙を見せる君も悪い」

 しかも、怒られた。

「怒らないって言ったじゃないですか」

「怒りたくもなる君が悪い」

 どういう理屈だよ、全く。今回の件で、ちょっとはライアンの事を見直したというのに。

 城下町は、僕にとって大がかりな迷路のような場所だった。だというのに、ライアンには自分の庭みたいなものであるらしく、何度かナンパで足止めをされながらもその歩を緩める事は決してなかった。エルの言う『頼もしい兄のような存在』という意味が理解出来そう……だったけど、やっぱり僕に対しては捻くれているようだから、結局この関係が変わることはないと思う。

 何だかんだといつも通りの会話をしている内に、歴史を感じる古びた壁と青々とした木々に覆われた広大な建物が目の前に現れた。

「さあ、着いた」

「本当に徒歩で行けるんですね」

 いや、別に疑ってたわけじゃないけど、頑張ればうちの屋敷からも歩いていけるって事なんだなって。そんな感想を口に出してもいないのに、ライアンから批難めいた視線を向けられた。なにゆえに。

「君は一度、……いや、君にはなるべく馬車移動をおすすめするよ」

「そこまで軟弱じゃありません」

 失礼な。貧弱そうにみえるだろうけど、これでも町内を通らないだけで真夜中にリーレンとグランヴァル間はよく行き来してるんだからね!

「そういう意味ではないのだけれど。とりあえず、君はここで身を潜めて待っていたまえ。あの方がまだいらっしゃるかどうか確認してこよう」

「ありがとうございます」

 ほんと、この人面倒見は良いのにな。

 正門に向かって歩いていると、ちょうど人目につきにくそうな窪んだ部分に差し掛かっていたので、これ幸いにとライアンから指示を受ける。

 前々から思ってたけど、このミニ広場のような花壇のような円形のスペースってどういう意図で作られているのか分からない。休憩がてらたまには花を愛でてねーっという意味合いなのか、男ばかりの学校という事でただ単に見栄えの問題なのか。まあ、答えを知った所で、へぇとしか言いようがないんだけども。

 それより、今はライアンだよ。

 警備を受け持つ騎士にでも訊ねるつもりなんだろうけど、上手く聞き出せるのかな。……不安過ぎる。いや、でも一応、これでもオーガスト様から直々に次の生徒会長にと推されたぐらいなんだから大丈夫でしょ。……多分。変な所で律儀だから、適当に誤魔化せるのかも心配だし。

 やっぱり、無理を言ってでも着いていけば良かったかも、とこっそり正門を伺っていると、見慣れた馬車がやってくるのが目に入った。

「……あれは」

 しかも、タイミング良くどうやら乗ってらしたようで、正門の前に止まった馬車から僕のよく知る人物が降りてくる。

 まさかのチャンス到来!え?ここ、ガッツポーズするところ?しませんよ。

 せっかくライアンが調べにいってくれたけど時間も惜しいし、話しかけるべきだよね。ってことで。

 歩み寄る時間すらもどかしくて、呼びかけようとした――その時。


「コ、っ!」


 不意に後ろから腕を取られ、声を奪うように口元を布で覆われた。

「――っ!?」

 振り返ろうにも、強い力で抑えつけられているので身動きすら取れない。というか、そもそもフードを被っている時点でアウトでは?あーもう、僕のばか!

「まさか、本当に現れるとはな」

 そんな声が真横から聞こえたかと思えば、羽交い締めのままリーレンから離れた狭い路地裏へと移動を強いられた。

 もしかしなくても、これって誘拐だったりする、よね?

 どうやら相手は僕が来ることを知っていたようだけど――――――どうして?

「っ!」

 なんて、考える時間を相手が与えてくれるはずはない。うん、知ってた。でも、いきなりフードを脱がしてカンテラ向けるとか、人としてどうかと思うよね。眩しいんですけど!

「偽装の眼鏡に平民の服装だが間違いない。こいつはあの男の息子だ」

「こいつが例の」

 ……うん。あのね、誘拐犯が一人じゃないというのは分かったけどさ。そんな至近距離で顔をのぞき込まれると、僕からもあなた方のお顔が見えるって理解してます?

 ざっと確認させてもらった所、年齢層もばらばらで僕とは面識がない方ばかりだけど、話し方や服装で彼らも貴族だというのが分かる。

「こいつを手に入れたら、コルネリオ様も我らが悲願を聞き入れてくれるというのは本当の事なのか」

「私はそのように聞いた」

 ……え?

「もう一人の方は屋敷から出る気配がないようだからな」

「女の方であれば、色んな使い方もあっただろうが」

 わぁ、なんて絵に描いたような悪い考え。アルミネラが大人しくしてくれていて良かったー!こんな下劣な貴族に、アルが捕まっていたらと想像するだけでゾッとするよ。

 母上がこういう状況である事を事前に知っていたのなら、案外、手紙に書いてたドレス作りというのはアルを監視する為の体の良い口実なのかも。

「母親が傾国の美女というだけあって、……こいつもそこそこ」

「……!」

 ――ったい!

 不意に髪を掴みあげられ、一人の男がじっくりと観察するかのようにじろじろと見てくる。

 その嫌な視線から逃れたいのに、こういう時に限って僕を羽交い締めにしている人が抑えつけてくるという連携プレーにお見事、なんて拍手しないからね?はっきり言って、僕を甚振った所でストレスのはけ口にしかならないっていうのに……って、こういう人たちはそれだけで充分か。

「おい、不作法な真似はよせ!」

 よし!よく言ってくれた、そこの人!まあ、僕の味方じゃないけども。

「なに、ある程度仕込んでおけば、あのお方も喜ばれるに違いないだろう?」

「……まあ、一理あるな」

 いやいや、ないから!微塵も無いよ!どうして、そこで同意しちゃうかなぁ!?良い人だと思ったのに。敵だけど!でも、この中では比較的常識あるって安心したのに!

「では、当初の予定通り、移動中は眠っていてもらおうか」

「そうだな」

 ……今まで色々とあったけど、血の気が引くのはかれこれ何度目となるのでしょうか、じゃなくて!お願いだから待って!って声を出せないから必死で抗っているけども。新しい布に謎の液体を染みこませているのが目に飛び込んできて、全身が凍り付く。


 あれで眠らされてしまったら、何もかもが終わってしまうかのようで。


「……っ」

 こんな時に限って、後悔が押し寄せてくるのはどうしてかな。今更、という言葉の意味を理解しているはずなのに、悔しくて自分に対して怒りがわき上がる。

 会話の内容から察するに、恐らく彼らは反体制派の人たちである事には間違いない。そんな人たちに捕まったとなれば、今行われている審問会においても父が不利な選択を強いられる羽目に陥るかもしれないし、コルネリオ様にも迷惑がかかるのは明らかだ。

 ……それに。

 僕が戻らなければ、僕を脱走させてくれたアルベルト様やアシュトン・ルドー、それにセラフィナさんも咎められる。


 ――軽率だった。


 何もかも、身勝手過ぎた。

 僕が、コルネリオ様と話したいなんて言ったから。

 僕一人の所為で、皆が。

「――っ、は」

 あてがわれていた布が外され、少しでも長く息を止められるように息を吸う。そんな僕をあざ笑いながら、男が液体を染みこませた布を近づけてきて――――


「我が母校の生徒に、何をしておられるので?」


 息を、飲む。

 いつの間にか闇夜と化した路地に新たな明かりが一つ生まれ、その声の主の顔を僅かな明かりが照らし出す。途端、目の前で貴族の男が持っていた布を落とした。

「なっ!な、」

 僕もかなり驚いていたりするけど、彼らは後ろめたい行為を行っている自覚がある所為か、僕よりもかなり動揺している。そのおかげで、痛かった拘束も自然と解かれてしまったほどに。

「っ、はぁ」

 急に解放されて、そのまま地面に座り込んでしまったのは許してもらいたい。だって、気が抜けてしまったっていうか、ね?だから、その、あんまり睨まないでほしいんですが。

 抑えきれない怒気を携えながらも、昂然たる姿勢は騎士の風格そのものと言って良い。その堂々たる振る舞いを目の当たりにする度に、距離が離れていくような気がして、どうしてだか胸が痛い。

 在学中はいつもふざけたノリで僕を翻弄してたけど、卒業して本物の騎士になった途端、嫌味なぐらい格好よくなっちゃって。……全く。

 それもこれもこんなピンチの時ばかり現れるからかな、って。

「き、貴様はコルネリオ様のっ!」


「よくご存知で。第二騎士団所属、フェルメール・コーナーと申します」


 もしかして、吊り橋効果でも狙ってるとか?……過剰に反応し過ぎでしょ。僕のばか。

「密偵か!」

「密偵とは人聞きが悪い。我々騎士団は、常に国民が安心して暮らせるように、不審な行為を見かけたら声を掛けているだけですよ。未然に犯罪を防ぐのも、我々の役目でありますので」

 一人で悶々とした僕を置いて、オブラートに包まれた両者によるいがみ合いは続いていたらしく、愛想笑いで対応するフェルメールの余裕ぶりが勝敗の決め手となった。

「フン、減らず口が」

「よせ、今は奴と揉めるな!仕方ない、ここは引き下がろう」

「くそ!」

 相手が貴族だったのが良かったのかもしれない。しかも、コルネリオ様を擁立したい者の集まりだから、下手にフェルメールを敵に回せないというのは僕でも分かる。

「そうそう、早くお帰り下さい。報告されたくないのならね」

「っく!」

「平民風情が。覚えていろ」

 それでも一言言わなきゃ気が済まないっていうのは、貴族特有の『あるある』だよね。嫌味を放ち、逃げて行く彼らの背をつい無言で見送ってしまう。

「立てるか?」

「は、はい、あっ、すみません」

 差し出された手を持つと、引っ張り上げる要領でひょいと立たされ、その勢いで転がりそうになってしまった。こんな時にドジらなくても良いのに……情けない。

「お前なぁ、狙われてるっていう自覚はないのかよ!」

 でもって、藪から棒に叱られた。ええ?

 そうなると、こちらもむくむくとこみ上げてくるのは人間の性質でありまして。

「あるわけないじゃないですか!知ってたら、僕だってあそこからちょっと抜けだそうなんて考えませんよ!」

 フェルメールは悪くない。悪くないけど、たまりに溜まっていた鬱憤がつい口から飛び出してしまってた。

「お、おう。それもそうだな。……すまん」

 うーわぁー!やっちゃったー!

「あ、ち、ちが」

「おーい。全くもう君は何処へ行って……おや、そちらの方は?」

 ……なんてタイミングの悪い。

 わざわざ探してくれたんだと思うと申し訳なさと感謝しかないけど、どうしていつも微妙なタイミングで現れるの、ライアンは!?多分、タイミングの女神様に見放されていうのだと本気で思う。まあ、そんな女神様はいないんだけど。

「リーレンでお世話になった方、というかこちらが例の僕の監視役ですよ」

「ああ?例の?」

 特殊な紹介ではあるけども、当人であるフェルメールが首を傾げる中、ライアンには充分に伝わっているようで得心がいった顔で頷かれた。ごめん、ちょっと楽しい。ふふっ。

「気付かれてしまっていたのだね」

「ここまでお膳立てして下さったのに、申し訳ありません」

「いいや」

 後は、アシュトン・ルドーとアルベルト様にも謝らないとなぁ。なんて思いを馳せていると、ここでようやくフェルメールも理解に及んだようで。

「なるほどな。てか、そんな俺の前で堂々とやりとりするなよ」

「だって、もう今更かなって」

 フェルメールにバレてしまった以上、隠し通す事は出来ないから。

 「今更って、お前なぁ!危険な目に遭ったんだから危機感を持ってくれよ。毎回、俺がどんな思いで、あ、いや、そんな事はどうでも良くてだな」

 ……うん?何を急に照れる事が?説教されてただけだよね?

「監視役というわりには、やけに親しい間柄のようだね」

 え、そうかな?

「って、おい。そこは首を傾げんな。俺だって微妙に傷付くんだからな、これでも」

 これでも。

 自分が普段どのように見られているのか、よく分かってらっしゃる。あ、駄目だ。笑いそう。

「っふ。ちょ、ちょっとした茶目っ気ですよ。やだな、もう」

 いつになく振り回してる優越感を誤魔化すように笑ってみせると、フェルメールが恨めしそうな目で見てきたので耐えきれなくなって話題を変えることにした。あまり調子に乗ってると、いつか倍返しされそうな気がするんだよね。特にフェルメールだと侮れない。

 というわけで、ここは一つお互いに自己紹介をしてもらった。その際、ライアンは僕の事情を知らないので、フェルメールと同い歳という部分に感心していたのだけれども。フェルメールは何もかも知っているので、ライアンから名を聞いて「ああ、あのお嬢さんの」という、恐らくエルの顔を思い出していた感じだった。

「で、どうやってあの屋敷に戻るんだ?」

 ……えーと、えーと。あれ?ここは、しばらく自己紹介で和やかな時間が訪れる時では?もう終わったの!?

 僕の気のせいじゃなければ、これって明らかに尋問だよね?あまりにも自然と話を繋げられたから違和感がなかった。……くっ!

「ルドー卿が忘れ物をしたとフォンタナー伯爵邸に戻る際に、従者として付き添う予定でした。ルドー卿がお帰りの際に、セラフィナさんの侍女が僕の服とウィッグを被って一緒に去るという流れで」

「……」

 うん?急に座り込まれると困るから止めて欲しい。

「……えっと、どうしました?」

 急に体調が悪くなった、という訳じゃないよね。だったら、アシュトン・ルドーの計画だから完璧だと思ってたんだけど、やっぱりどこか無理があったのかな?

「いや、そこまで段取りが出来上がってんのが、もうな」

 そう言って、フェルメールが呆れた顔で僕を見上げた。あ、なんだ。そっちか、良かったーっていうか驚かさないでよ。

「ちなみに、コーナー殿はどこで気が付いたんだい?」

「すまん、俺の事はファーストネームで呼んでくれ。んで、あー。俺が脱走に気付いたのは、セラフィナお嬢とイオが屋敷から出てきた時だよ。お前ら双子を見抜ける俺が、たかが変装如きで誤魔化されると思うなよ」

 睨まれた。おもいきり睨まれた。……うう。これぞまさに、蛇に睨まれた蛙とか上手いこと言ってる場合じゃない。

「それは凄いね!」

 ラーイーアーン!感心してどうするんだよ!

 そもそも、さ。

「初めから気付いてたのなら、どうしてあの時通してくれたんですか?」

 ライアンも、そういえばそうだね、とか言わない。知ってて、後を付けられてたって事なんだよ?分かってる?つまり、口喧嘩しながらお店で服を着替えて、ナンパされた所も見られてるって事なんだよ!?恥ずかしくないの!?僕は本気で恥ずかしい!……パーカー被って良いかな、もう。

「さっきみたいな危険に遭えば、身を以て分かんだろうが」

「……それは、そうですけど」

 こっそりフードを被ろうとしたらフェルメールに止められた。ひどい。じゃなくて。騎士ってどうしてこう、体育会系のノリが多いの。

「まあまあ。そう一概に彼を責めないであげてくれないかな。拐かしに遭いかけたのは、一人にしてしまった私の責任もあるからね」

 ――違う。ライアンが悪いんじゃない。

「そんな事は」

「それはない」

 って、フェルメールがばっさり言い切っちゃうのもどうかと思うんだけど、如何なものなの。これは僕の問題でしょ、と隣へと視線を投げつければ。


「こいつが決めたんなら責任をもって最後まで見守ってやるって、自由にさせた俺の甘さが招いたんだ」


「……っ」

 ……ねぇ。今、自分がどんな顔してるか分かってる?あまつさえ、頭を撫でてくるとかさ。どこの騎士様だよ、ほんとにもう。これがご令嬢だったら、絶対に惚れてるよ。

「なるほどね。けれど、それは些か騎士の範疇を超えているのではないのかな?」

 僕もライアンの意見に大いに同意する。

 狙われていたのを知らなかったとはいえ、やっぱり抜け出すべきじゃなかったんだ。皆を巻き込んで、寸で助けられたけれど大惨事になっていたかもしれないのだから。

 フェルメールの所為じゃない。

 なのに、この人は僕を最大まで甘やかそうとする。


 それが何故なのか――なんて、もう僕は知っているのに、拒絶しながらも心の奥底で喜んでいる自分がいるんだ。 


 こんな自分が、大嫌い。

 にも関わらず、フェルメールは嫌そうな素振りもなく、苦笑い一つで受け流した。

「かもしれねぇな」


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