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番外編 Rの章

うわぁ!たくさんの閲覧&ブクマ&評価頂きました!ありがとうございます!!

今回は、番外と言う名の短編です。

セラフィナ嬢の独白となっております。

 私の名は、花千院麗華。江戸時代から代々続く華道の分家の一人娘なの。

 でも、私は華道なんて興味なくて、昔からテレビ関係のお仕事がしたかったから大学を出て都内でアナウンサーを目指したわ。

 だから当然、両親や祖父母、それから本家の方々にもたくさん嫌味を言われたけれど。私は、自分のやりたいお仕事だから頑張って、私の勤める局のスポーツ関連ニュース番組では担当アナウンサーにまでなったのよ。


 由緒あるお家柄のお嬢様だけあって、自分にお金をたくさん使って綺麗にしてきたから、本家の方からも求愛されるほど美人だと自分でも自負していたわ。でも、そんな自分に自信を持っていたのが、気にくわなかったのでしょうね。

 当然、しばらくしてから世間ではお局様と呼ばれるような立場の先輩方が、男性社員には分からないような嫌がらせをしてきたり、嫌味を言ってきたりで胃に穴を空けてしまったの。

 あの時は、相当参っていてお酒に溺れた時期もあったし、悪いお友達とオフの日は一日中ずっと遊び回っていた事もあったわ。


 けれど、それでもストレスは発散出来なくて。



 ある日、大学時代のお友達にゲームなんてどうかな?と勧められたの。

 その子は、お外で遊ぶよりお部屋でおしゃべりするのが好きだという内気な子だったけど、私たちは何となく馬が合っていて、悩みとかよく打ち明けていたからかしら。

 たまには、そういう気晴らしもあるよ、と微笑みながら教えてくれたのが、所謂乙女ゲームという物で。

 今まで、そういう物に縁が無かった私は、そのゲームにハマっていったわ。

 お友達が言うのは、よくある典型的な乙女ゲームらしいのだけれど、私にとっては初めての乙女ゲームだったから、とってもハラハラドキドキして楽しめた。

 私にとって、一生大事な最高のゲーム。

 タイトルは、そう……『あなたにまつわるエトセトラ』という中世ヨーロッパ風のファンタジーな世界観。主人公は、ミュールズ国という国のグランヴァル学院に入学する所から始まるの。お友達にきけば、大抵の学園モノ乙女ゲームはそういう始まりらしいわね。

 攻略対象者というのは七人いて、その中で私の一番のお気に入りが、イエリオス・エーヴェリー様よ!


 お友達は、彼は母性本能をくすぐるタイプだから『イオたん』なんて可愛らしく呼んでいたけど、私にとっては王子様より正に私の理想を具現化したような王子様だったから『イオ様』としかお呼び出来ないの。今でも彼は私の運命の人だって思っているわ。

 イオ様は、六人の攻略対象を制覇した七周目にして、ようやく攻略出来るシークレットキャラクターで、現宰相のご長男だけど双子の妹の代わりに、何と!女装してグランヴァル学院で生活されていたという驚きの設定だったのよ。

 その双子の妹さんは、攻略対象者の一人、オーガスト王子様の婚約者だから、当然王子様を攻略する時に、主人公を苛めたという罪で断罪されていたけれど……まさか、あれがイオ様だったなんて。

 そりゃあ、私だってその事実を初めて知った時は、すごくショックだったのよ。だって、双子の妹さんが学院にいて、イオ様は騎士になる為に学院から少し離れた騎士養成学校に通われているから、パーティや何かでちょこちょこ登場されていて、その度に彼のかっこよさにドキドキしていたほどだったから。まさか、全てとは言わないでしょうけど、あれが妹さんの方だったなんて思わないじゃない?

 この時、イオ様はどういう心境だったのかしら。妹さんを大事にされていたから、きっと後悔はされていなかったとは思うけど。

 ああ、イオ様の全てが知りたい。

 イオ様を初めて見たのは、妹さんと一緒に登場する新歓パーティの時だった。まだ新入生だから、新人の士官生の制服を身に纏った状態だったけれど、私は直ぐに一目惚れしたの。それからというもの、イオ様が出てくるイベントは必ずその前にセーブして記録に取っておいたくらいよ。本当に、大好き。愛しているなんて言葉じゃ伝えられない。

 根っからのお嬢様で、幼い頃から習い事尽くしだった私がサブカルチャーに触れたのはイオ様のおかげ。初めて、そういう関連のグッズを買い漁ったのもイオ様がいたからこそね。部屋中にイオ様のグッズを並べて飾って……多分、お屋敷を出て一人暮らしをしていなければ出来なかった事でしょうね。そう思うと、両親に反対されながらもアナウンサーの道を目指して良かったなんて言えるかも。

 私の全てがイオ様で満たされて、毎日が本当に充実していたわ。二次創作にも手を出して……もはや、神の領域に達しているのではないかしら。


 だから、初めてイオ様を攻略する時が一番興奮したわね。

 ただ、イオ様の婚約者のエルフローラ様には敵わないのよ、絶対。というのも、攻略は出来るの。けれどね、イオ様がエルフローラ様をどれだけ愛されているのかが重要なのよ。

 例えば、イオ様は恥ずかしがり屋だから絶対に口には出さないお方だけど、エルフローラ様の事になると途端に甘くなって微笑まれるんだけど、それがもうフェロモン全開なものだから回りの男子生徒も女子生徒も誰もが皆、虜になってしまうくらいなのよね。

 だから、学院内では主人公の女の子、それからエルフローラ様、そして妹のアルミネラ様だけど実は女装されているイオ様。この三人がグランヴァル学院の三大美姫なんて呼ばれているっていう設定とかね、もうニヤニヤが止まらなかったわ。同性をも魅了してしまう美しさを備えているなんて、私を萌え殺す気ですか?と何度画面に叫んだ事か。


 そんなイオ様を落とすのは本当に難しくて、主人公は最後にやってはいけない事をしてしまうの。

 何と、どのルートを辿っても最初から主人公にはベタ惚れの王子様に、王太子妃は自分には荷が重いからイオ様と結婚させて下さい、それなら愛人になってあげるからなんて大胆発言をしてしまうのよね。どれだけ、えげつないのかしら。

 けれど、王子様もアルミネラ様が苦手な分とっつきやすいイオ様には親しみがあるみたいで、それを了承し裏から手をまわしてエルフローラ様との婚約を強制的に破棄させてしまうのよ。


 そして、イオ様に主人公との婚約を強要して、強引に学生結婚。


 ゲームの中の世界では、離婚という概念が無いから、イオ様はエルフローラ様の事を泣く泣く諦めて主人公を愛する事に一生を賭していくわけ。

 そう、主人公は、女の武器を使って早々に子供を産んで自分の幸せを掴むのよ。

 エンドカードは、赤ちゃんを抱くイオ様とその二人を見つめ微笑む主人公、その後ろには主人公を見つめる王子様っていうなんとも言い難いイラストだったわ。

 だから、どうしても納得できなくて、拙いけれどこんなラストではなくもっと幸せになるような終わりを見たかったから、私なりに二次創作を書いてしまったほどだもの。


 私にはとてもじゃないけど、真似できない。


 それは、あの日オリンピックの会場を回って移動中のバスの事故で死んでしまって、この世界へ転生してからもそう思っているのよ?

 ちまたで流行っている転生を果たしてしまったのね、と気が付いたのは五歳の頃だったかしら。その数か月後に、幼馴染みキャラと出会って、ここがあの大好きだった乙女ゲームの世界だと分かったの。

 そこから、私が取った行動はまず幼馴染みルートを潰す事。

 いくら乙女ゲームの主人公になったからといって、特に逆ハーレムだとかに興味はなかったわ。


 私は、ただイオ様に会えたら幸せだと思えた。


 ささやかな幸せだと思う?でもね、前世ではお金も男も欲しい物はいくらでも与えられた私は、そんな小さな幸せに憧れて生きていたの。贅沢な悩みかしら?

 お金持ちで有名になってもね、人の目が常に光っているから自由がないのよ。

 大きな声で笑ったり、お友達とはしゃいだりも出来なかったわ。

 貴族は貴族でも、高みを目指さず慎ましやかに生きる義両親。母子家庭だった私の母が急死して、孤児院にいた所を拾って下さったのが彼らで良かった。そう、今の地位が良かったの。

 決して、貴族になれたからと喜んでいる訳じゃないのよ?誤解しないで。私は、彼らが没落しても共に生きていこうと本気で決めているぐらい、それぐらいに私は今の両親を愛しているわ。

 当然、主人公だから皆に可愛いって言われるけど、前世でも似たような状況だったから慣れてしまっているのよね。そんな言葉に騙されるほど、私はゲームでの能天気な主人公みたいにはなれないわ。まあ、前世では綺麗だよとよく言われていたから、可愛いねなんていう表現には最初だけ照れ臭かったけれどね。

 前世より、たくさんお友達も出来たし義両親にも愛されて私は幸せ。


 それから、私は何度も何度も周回したからこそ目に見えている様々なフラグを折りながら、無事にグランヴァル学院に入学出来たってわけよ。

 ――愛しのイエリオス様に出会う為に。

 会えるだけで充分、そんな風に思っていたけれどアルミネラ様に変装して歩かれているのを目の当たりにした時、私はいてもたってもいられずに気が付けば声をかけてしまっていたわ。


 だから、彼が振り返ったその一瞬、私の世界が色づいたの。



 声をかけた時に変な事を口走ってしまったり、下級貴族が上級貴族に話しかけてしまったりで、お隣に立たれるエルフローラ様にこんこんとお説教をされてしまったけれど、申し訳ないけれど半分以上聞いてなかったわ。

 だって、どれだけ望んでも画面から外に出てきてくれない憧れの存在が、目の前にいたんだもの。はっきり言って、あの時は泣きそうなくらいだった。でも、変な子だと思われたら嫌だものね。

 せめて、お友達になりたいと思ってそれから何度もイオ様を見つけたら声をかけるようにしたわ。……今にして思えば、ちょっと行き過ぎた行為もあったかもしれないけれど。

 でもね、何故か不意に見つけてしまうの。

 いつの間にか何度か会話する内に気に入られてしまった王子様が隣に居たって、他の攻略者とおしゃべりしていても、米粒のような後ろ姿を見れば私は声をかけに走っていったわ。

 そりゃあ、少し驚かれたけどいつも笑ってお話して下さるのだもの。それが甘えだと分かっているけど、止められなかった。

 そんな風に私はいつもイオ様の事だけを考えて過ごしていたはずなのに……何故かしら?いつの間にか残りの攻略対象者の六人とも接点を持つようになってしまっていて、彼らから寵愛を受けるような状況に陥ってしまっていたの。

 私は、ただイオ様と学院で仲良く出来ればそれだけで幸せなのに!

 全く、忌々しいったらないわ。

 それなのに、彼らの婚約者方はさり気なく嫌味を言ってくるのよ?そんなに自分の婚約者を愛しているなら、私のように追いかければ良いじゃない。私からは別にアプローチもしていなければ、そもそも彼らは眼中にないのだから。

 イオ様に比べたら月とすっぽん。いいえ、比べる事すらおこがましいわね。皆、イオ様が如何に素敵なのか分かってない。ああ、でも気付かれても困るけれどね。イオ様の魅力に気付くのは私とエルフローラ様のごく一部だけで充分だもの!


 そんな時、どのキャラでも攻略していくと必ず起きるイベントが始まってしまった。

 それが、入学して最初の大きな行事である、新入生歓迎パーティよ。そのパーティの最中に、事は起きる。

 怪しい二人組が突然、パーティ会場で王子様を暗殺しにやってくるのだけれど――

 実は、このパーティで王子様が主人公の気を引き止めたくて、自分で起こした事件だったの。さっきも言った通り、王子様はとにかく直ぐに主人公の虜になってしまうから、どのキャラを攻略しようとも、必ず王子様は邪魔をしに入ってくるのよ。正直、毎回の事で鬱陶しかったわ。

 その二人組を倒すのが、エーヴェリー家の双子。つまり、アルミネラ様とイエリオス様ね。

 実際、その通りになってしまって。その渦中、イオ様が本当なら肩を怪我されてしまう場面があるのだけれど……助けたくて咄嗟に飛び出した私をあの方は助けてくれた。今でも、たまにイオ様のあの微かな良い匂いを思い出しては一人で陶酔しちゃうくらい。

 だって、助けに入ったのにまさか抱き締められるだなんて思わなかったんだもの!一生の思い出よ!この先、しばらくはあの時の事を思い出して天国気分を味わえるわ。ああ、でも、願わくばもう一度なんて……毎日、祈ってみようかしら。

 などと浮かれて居る場合じゃなかったわ。あの時は、イオ様に何事もなくて本当に良かった。自分にグッジョブね。

 ……けれど、その後の衝撃的展開で、私ったらつい前世と同じような行動をしてしまって転生者だってバレてしまったけれど。

 まさか、あの方も転生者だったなんて驚かずにはいられなかったわ。だって、ずっと学院で見ていたけれど全然違和感がなかったのよ?立ち居振る舞いも綺麗で、話し方だって控えめで。私が想像していた通りの方だった。

 多分、前世でもイオ様の中の人はイオ様みたいな性格だったのかもしれないわね。お互いに前世で生きていたら、お会いしてみたかったぐらいだわ。もしかしたら、あの方なら私の恋愛対象になったかもしれないもの。

 だから、私の中ではショックというより、一層彼に対して親しみが増してしまったくらいなの。今までは遠い存在だったけれど、同じ前世仲間っていう意識が強くてもっとイオ様にお近づきになりたいとまで思えたほどに。

 ただ、行き過ぎた行為は止めて欲しいってお願いされたから、そこは反省しているわよ。それに、攻略者の婚約者たちがもしかしたら何かしでかしてくるかもしれないから、いつでも相談してくださいって仰ってくれて、私、とても感動したわ!

 やっぱり、私にとってイオ様は王子様より王子様らしくて愛しいお方。


 って、そういえば最近、オーガスト王子の様子もおかしいなと思わなくもないのよね。以前は、私がイオ様を見ている事に嫉妬されていらしたけれど、ここ最近私と同じように、イオ様が変装されているアルミネラ様をじっと見つめる事が多くなって。

 一体、どういうつもりかしら?私のイオ様に、文句でもあるなら私がまず受けてあげる。イオ様にかかる火の粉は、私が払って差し上げるわ!






 そういえば、前世で死ぬ前にお友達にとある情報を教えてもらったっけ。


 実は、もうすぐ『あなたにまつわるエトセトラ』の新作が出るんだよって。そう、その発売日がちょうど私の死んでしまった命日だったの。生きていれば、翌日には日本に帰って、その日に予約していたお店に一緒に行こうねってお友達ともお約束していたのよ。

 だから、バスが事故って、意識が混濁していく中で私はただ悔しくて悲しかったのを覚えているわ。お友達に一緒に行けなくなってごめんなさいとさよならを言えなかった事。それから、せめて新作のパッケージすら見られなかった事への悲しみ。

 そういえば、お友達が言ってたっけ。



 確か、次の主人公は――



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