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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第六章 誰が為に鐘は鳴る
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閲覧とブクマ、そして評価もありがとうございます。

 僕とあの人の決定的な違いは、その時までは確かに重要であったのに、不要となればいつでも切り捨てられるかどうかだろう。




「ご多忙中のところ、わざわざ送って頂きましてありがとうございました」

 僕が、ここまで丁重な態度で謝意を表したのには理由がある。

 うん。まさか、ここでコルネリオ様の次に忙しいはずの騎士団長エルンスト様と関わる事になるとは思ってもいなかった、というね。あははは、嘘だと思う?……お願いだから、僕の方こそ誰か嘘だと言ってください。

「コルネリオ様には、くれぐれも注意をするよう言いつけられております。差し支えがなければ、お部屋の前まで警護を続けたいのですが」

「さ、さすがにそれは……学生ばかりの女子寮ですので」

 噂に聞いていた通り、真面目が服を着て歩いているみたいな人なんだなぁ。そう思いながら、遠回しにご遠慮願ったんだけど。

 ……あれ?なんか、怒ってる?

 いや、見た目は鉄面皮というあだ名だけあって真顔なんだけど、無表情が当たり前のサラを見てきたから何となくムッとされているような?僕、何か気に触る態度でもしちゃったかな?

「失礼ながら、貴殿にご忠言して差し上げたい」

「は、はい?」

 えっと。『貴殿』って敬意を表しながらも、『忠言』って明らかに上から目線なんだけど?これは、……本気で叱られる?

 一難去ってまた一難、とは思いたくないけれど、そう言わざるを得ない状況に嫌な汗が背中を流れていく。――と、エルンスト様が見えない虫を握り潰すかのように、いきなり右手で拳を作った。

「っ!」

 そして、殴られる!と一瞬怯む僕に対して。

「コルネリオ様は……それはもう、初めてお会いした幼少の頃より聡明でいらして、神童と呼んでも差し支えのない存在でありました」

「…………は、はあ」

 容赦ない語りが始まった。しかも、視線は煌々と星が輝く宇宙のその先っていう、ね。

 ……なぜに突然。

「その頃の私なんぞ凡人の極みのような存在であったのに、彼の方は私に武芸の才を見いだして下さったのです」

 えっと。これって、相づち打って置いた方が良いのかな?

「そっ、そうなんで、わあっ!」

「そうなのです!」

 びっくりしたびっくりしたびっくりしたー!……心臓に悪いので、突然手を握らないでください。

「私が、第二騎士団の団長に就任したのは、コルネリオ様のおかげであると言えるでしょう」

「……」

 なるほどね。聞こえていないだろうけど、敢えて心の中からお返事します。また驚かされても困るので。

「聡明英智にして、如何なる時も泰然自若しているのが私の知るあの方のお姿であったのに、つい先程、貴殿との話合いにてあのような笑顔を拝したのは初めてでした」

「あのような笑顔、ですか」

 多分、僕がコルネリオ様に連れて行ってもらえるようにお願いした時の事だろうなぁ。確かに、あの笑顔は破壊力が強過ぎて動揺を隠せなかった。うん、分かる。

 でもね、ちょっと待って。それより僕は、どこからか覗かれていたって事の方が気になるんだけど。見ていたのはエルンスト様だけだよね?ね?

「コルネリオ様が感情を見せるのは、いつも貴殿らが関わる時だけ。……羨ましい」

 そう言われましても。って、今、ぼそっと羨ましいとか言いました?ここ最近、第二騎士団の方と接する機会があってぼんやりと思っていたけど。

 ……第二騎士団って、コルネリオ様のファンクラブ?

 や。いやいやいや。違う、と思いたい。けど、団長であるエルンスト様に羨ましいとか言われたら余計に思えてならないよ。

「貴殿らは、そういった事を踏まえて行動するよう心がけしてください」

 えっ、もしかして僕たちってファンクラブ公認なの?じゃなくて。あーもう。何を言ってるんだろう、僕。一旦、ファンクラブから思考を遠ざけたい。……ええーっと。

「エルンスト様が、コルネリオ様をお慕いされている事はよく分かりました。私たちにとっても、あの方は……どうしました?」

 うん?今まで一度も表情の欠片すら浮かべない人が、急に真っ赤になって思いきり顔を逸らしてきたら驚くよね?

「も、申し訳ありません」

「……はあ」

 こちらこそ、ごめんなさい。僕よりも何十歳も年上の方を可愛いだなんて思ってしまって。

「このような時間帯なのに、長話を聞かせてしまい大変申し訳ありませんでした。それでは、私はこれで失礼致します」

「あ、はい」

 しかも、いきなり話を畳んできたし。良いけどさ。

 寮の入り口の離れた場所から、改めて腰を折って頭を下げる仕草は、さすがは騎士団長といえるぐらいにキリリとしていて格好いい。

 うーん。何だか、見た目とギャップがかなり違いすぎて驚いちゃった。

「さて。じゃあ、部屋に帰ろうか」

 と、今までずっと少し離れた場所で待機していたサラに声を掛けて寮の中へと入っていく。

 自室に戻っても、僕の成すべき事が見つからないもどかしさをかみ締めなくてはならないけれど、それが僕に出来る事であるのなら受け入れるのみだ。

 ……せめて、ノアが見つかれば。

 そう思わずにはいられない。というか。フェルメールさんの言葉から始まったにしても、ノアノアノアノアノアノア、と。どいつもこいつも。

 あの駄犬が何を抱えているのか知らないけれど、ここまで色んな人に望まれているなら早いところさっさと姿を現せば良いのに。全くもう。

 とまあ、僕が思った所で簡単に出てくるはずなんてないけどさ。

 はあ、とため息が漏れたところで、ちょうど階段も上がりきる。毎回思うけど、地位の高い人の部屋を最上階にするの止めない?体力不足にはちょうど良い運動にもなるけどさ、体調悪いときとか急いでいる時なんてほんと辛いんだから。

 シン、と静かなフロアを抜けて、角を曲がると――

「やあ、遅かったね」

「わ、っ!……っ!?」

 突然、立ち塞がるように目の前に立っていたのは、まさかの人物。ここで大声をだせば大ごとになると分かって、即座に自分で口を塞いだ僕を誰か褒めて欲しい。

「……ミルウッド卿。何故、ここに?」

 だって、ここ女子寮ですよ?

「寮長とは旧馴染みなものでね。少し融通を利かせてもらったんだよ」

 この人の手に掛かれば、何でもありか。さすが、宰相の片腕と言われる存在。

 まあ、だいたいミルウッド卿がここにいる目的が何なのかは察しがついている。


「この度は、申し訳ありませんでした」


 それはもちろん、大事な娘をみすみす目の前で連れ去られてしまった、間抜けな婚約者である僕への叱責に他ならないだろう。

 フェアフィールド子爵にも彼女が誘拐されたという連絡は既にいっているけど、温厚な子爵夫妻が寮にまで来ることはない。ただ、ミルウッド卿は父上の補佐の時点で、情報は全て流れていると思って良い。

「とりあえず、ここでは落ち着かないから部屋に入れてもらえるかい?」

「分かりました。気が利かず申し訳ありません」

「あはは。何事も謙虚が一番。ただし、若者はもっと威勢良くあるべきだけどね」

 それは、暗に僕は大人しすぎるというオブラートにも包んでない注意でしょうか?毒を吐くのはいつもの事だけど、今日はどうしても気にしてしまう。

 ようやく自室に戻ってきたけれど、緊急の客を待たせる訳にはいかないので女装は解かない。僕が指示をしなくとも、優秀なサラは黙々とお茶の準備に取りかかってくれているので、僕のする事といえば、やや熱がこもった部屋を通気させる為に窓を開けていく事だった。

 そして、ようやく僕が「おまたせしました」と言う頃には、ちょうどお茶も配られていて。

「ああ、美味しい。この味をここで堪能していると、過去に戻ったような気になるね」

 机に凭れた状態で柔らかな湯気が立つコップを持ちながら、ふふっ、とミルウッド卿が楽しげに笑う。 そういえば。

「ミルウッド卿もグランヴァル学院の卒業生でしたね」

「そうだよ。君の父君と知り合った頃は既に彼は宰相候補として活躍中だったからね。あいつも、ちょうど男子寮の最上階で部屋の構造は一緒だからね」

「へぇ」

 滅多に聞かない父の青春時代を知り得た気がして、少し感動。もっと知りたいな、とは思うけど今はそんな時じゃない。

「……エルが誘拐される少し前に、実は図書館で襲われていました。ですが、僕はそれをエルには言わなかった。心配をかけると思って、言えなかったんです」

 だから、エルの誘拐は僕の自分勝手さが招いた対価だ。

 いつも、エルに心配をかけた僕への――

「罰、だとか思ってる?まさか、僕の娘の誘拐を自業自得だと処理して、自分に酔いしれていたりしないよね?」

「……っ」

 ……ああ、もう。容赦ないなぁ。分かっていたけど。決して、そんなつもりはなかったけれど、上手く言葉が返せない。

「あはは、君を詰るつもりはないんだよ。少し苛ついているから、言い過ぎていたのならすまないね」

「い、いえ」

 まさか、そんな事を言われるとは思ってもいなかったので驚いて首を振る僕に、ミルウッド卿がふふっと笑った。

「大丈夫だよ。あの子は、ちょっとやそっとで壊れやしないさ。だって、この僕がイルの息子の嫁にする為に、幼い頃から最高の教育を彼女に施してきたのだから」

 ……それって。

「そんなにあの子の事が大事かい?」

 自惚れて良いのかな。

 目を細めて微笑むミルウッド卿の水色の瞳とかち合って、この時ばかりは偽りのない気持ちが口から零れた。


「……はい」


「良い返事だ。君は青臭いが誰かと違って嘘がない。――宜しい、ならば助っ人をくれてやろう」

 助っ人って。

 あまりにも急な展開について行けない。

 えっ、と僕が声を出すと同時に、唐突に目の前に現れたのは。


「ノ、ノア!」


 純白の髪に赤い目の、元暗殺者にして今ではチンピラ従者と化したアルの駄犬のノアだった。

 久しぶりだというのに、顔を見ただけでアルの怪我の事を思い出して、ついつい怒鳴り散らしたい程むかついてしまうけどここは我慢。我慢だ、僕。

「今までどこに?」

 とりあえず、話を聞こうと訊ねてみれば。

「お前には関係ない」

 ……うん、これってゴーサインが出たって事で良いんだよね?

 頭のどこかで、ぶちりと何かが切れた気がしたけどどうでもいい。のんきに髪をかきあげたノアにぐっと近付き、背丈の違いから悔しいけれど仰ぎ見ながら睨み付けた。

「馬鹿なの?阿呆なの?木偶の坊なの?あのさ、君たちの間にどんな契約があったか知らないけれど、アルに受け入れられている時点で君はアルの所有物なんだよ。つまり、アルのものは僕のもので、僕のものはアルのものなの。言ってる意味、分かる?」

 いっきにまくし立てたとは自分でも思った、だけど、今までのストレスのまだ半分にも達してない。

 ちなみに、これが僕たちの双子ルールですが、何か?

 おまけで、前世でよく不良グループのリーダーにされていたように腕を組んで仁王立ちのまま威嚇してやれば。

 不意に、クロード様が背中を向けて肩を激しながら咳をしている。え、どうしたの?急に。

 んで、あと!そこ、チッとか舌打ちしない。僕だって、気にくわないに決まってる。

 ――だけどね。

「アルのものであるなら、所有権はエーヴェリー家にあるって事なの。つ、ま、り、君の生殺与奪権は僕にもあるって事なんだよね」

 にっこりと愛想笑いをしてやれば、とてつもなく嫌な顔をしたので内心でほくそ笑んだ。ざまぁみろ。あー、今回は僕も鬱憤が溜まってたからちょっとすっきり出来たかな。まあ、それはそれとして。

「で?」

 さあ、ここから全て白状してもらおうか。

「……」

「で?」

「……」

「あれ?僕よりも年上でいらっしゃるはずのノアさんは、さっきの話を全く理解出来ていな」

「ちょっと調べ物をしていたら、たまたま俺をこの世界に引きずり込んだ男を見かけたんだよ。んで、探ってたら逆に気付かれちまって」

 クソ、と言いながらノアはまだ不服そうに光を帯びて輝く白い髪を乱雑にかき乱した。まあ、僕も雇用主としての特権をふるったのは悪かったとは思っているけど。……えーっと。

「あの、……ミルウッド卿?そこまで笑います?」

 僕とノアとのやり取りがツボに入ったのか、声も出さずに大笑いを始めたミルウッド卿が気になって仕方ない。さっき、後ろを向いた時からもしかして笑ってたのかな。

 もしや、学生の身で偉そうに振る舞った事だとか?はっ!と気付いた僕に、ミルウッド卿はこちらに向き直りながら違う違うと仰ぐように片手を振った。

「いや、イエリオスくんはまだ幼稚だけどキレ方が親子でそっくりだなって。あーそれとね、彼はアルちゃんの為に実はとある人物を探っていたんだよ」

「おい!」

 えっ、なに?どうしてそこでノアが怒るの?

「その人物は、ずっと僕たちも要注意していたけれど、最近きな臭い動きをみせていたんだ。あげく、今回はあまりにも馬鹿げた真似をしでかしてね」

 もしかしなくとも、ミルウッド卿は怒ってる……よね?そういえば、さっきも苛ついてるって言ってたっけ。

 ぴりり、と今にも電気が走りそうな怒りの放流に言葉を失う。視界に入るノアは、苦虫をかみつぶしたような表情をしているけれど、抑止したいほど僕には聞かせたくなかったのかもしれない。

「本人は、僕を回避すればどうにか出来ると思っていたみたいだね。だけど、結果的に僕の愛しい娘の夢を壊そうとしているのを、黙ってみていられるほど僕の心は広くはない」

 ……エルの夢?

 そういえば、ずっと一緒にいたけれど、そういった話をした事がなかったなぁ、なんて首を傾げる、と。

「えっ、嘘だろ。お前、分からないのかよ?」

「……うるさい」

 その呆れた顔するの止めてくれる?何なの?ケンカなら後で買うけど?

「さすがに、娘の夢を僕が君に話すのはどうかと思うから言わないでおくね。なら、こう言えば分かるかな?――タオ経由で取り寄せたお茶は美味しかったかい?」

「何故、それを」

 口から零れたのは、そんなありふれた言葉だった。

 だけど、僕の頭の中では全く別の情報が占拠していて。


 ……ああ。

 そうか、そうだったんだ。



 声に出すまでもなく、理解した――――



「あの男は、コソコソ嗅ぎ回る俺がさぞかし邪魔な存在だったんだろうな。表だってはただの貿易商を演じてるタオのあの男が、タオの裏の世界に精通しているという事を理解していて、俺を引き払おうとした」

「……」

 だけど、脳の情報処理が追いつかない。

 それに、あの人がそこまでするというのもまだ信じられない。……そう思うと、あの人を信用出来ないと思いながらも、頼っている部分が大きかったのかもしれない。

「……あいつが、怪我を負ったと知ったのはちょうど騎士団に拘束されている時だった。その直後に、あいつと同室だった男がわざと俺を逃がしたんだ」

 フェルメールが。

 だから、アリアが学院の見学に来た際に、僕にノア保護して貰いたくて探せ、だなんて言ってきたんだ。あの時、もっと話してくれたら、と思っていたけど。

 ……ああ、そうか。あの時、監視が付いてると言ったのは、ノアを逃がしたからなんだ。

 なるほどね。

 そして、あの人もきっとフェルメールがしらばっくれてただろうけど、故意に逃がした事には気付いてた。

 そう思うと、僕との食事会でのフェルメールとのやり取りにも納得がいく。

 きっと、あの人は僕とフェルメールが裏で繋がっている可能性も見いだしていたはずだ。そこで、食事会なんていう理由で僕を呼び出して、わざと僕たちを会わせてみた。

 もし、あの時素直に会っていた事を告げていたらと思うと、今更になって冷や汗が流れる。

 ……フェルメールは大丈夫なんだろうか。

 いや、アルがフェルメールに懐いている以上、酷い事はされてないはず。――きっと。

「後は、ひたすら隠れて逃げ回っての繰り返しだったが、この間の雨の日にちょうど騎士団と裏世界の同僚とも鉢合って、まあちょっと失敗して怪我を負っちまって」

 考え事をしている場合じゃないや。

 ノアの話を聞いて思い出すには、紛れもなくいつぞやの休憩中にあったクラスの女子会の噂話の件だった。確か、遅い時刻に戦闘があったらしい、という。

「あいつの部屋には戻れないし、かといって監視されてるお前の部屋には行けなくて、校舎内で身を潜めてたらミルウッド卿のご令嬢に会ったんだ」

「えっ」

 エルと?

 僕、そんな話聞いてない。というか、エルが僕に内緒事をするとはちょっとびっくりかも。いつも隠し事をしちゃうのは僕ばかりだから何だか新鮮だけども。

「あの子が君に言わなかったのは、僕が秘密にするように言ったからだよ。ノアを匿った事を、僕か君のどちらに話せば良いのか悩んだらしいけどね」

「そうでしたか」

 多分、エルの事だからアリアの事で悩んでいる僕にこれ以上心労をかけないように、なんて思ったんだろうな。

 ほんと、エルは僕を甘やかし過ぎだよ。

 僕も、エルを甘やかせたいのに。

「ふーん。あの子の事を考えるだけで、君はそんな顔になるんだね。その辺は、母親似か」

「えっ!?あ……申し訳ありません」

 うわーっ!もしかして、いつものように顔が緩んでた?あー恥ずかしい。気をつけないと。……うん?母親似?えっ、そうなの!?あっ、いや。今はスルーだ、スルー。

「そうだね。そういった甘い態度は、娘の前でしてくれないかな」

「……はい」

 ううっ。やっぱり、親からすれば気持ち悪いよね。反省します、すみませんでした。穴があったら入りたい。

「こいつ、分かってないみたいデスケド?」

「あははは。そういう子なんだよ、この子は」

「……?」

 えっ?えっ?僕、何か間違えた?

「よく考えてごらんよ。私怨を抜きにして、どうして僕がノアを君に会わせたのか」

「……」

 会話の最中、サラによって何度も淹れ直されたお茶は、ほのかな香りを含んだ湯気が立っていた。

 やっぱり、親子って似るものなのかな、と思えてしまうのはいつもエルが座っている椅子に、ミルウッド卿が優雅に足を組みながら腰かけているからで。

 娘と同じダークブロンドの髪に軽く手ぐしをいれてから、彼は僕へと微笑んだ。

「条件は揃ったはずだよ」

 条件――というヒントで、思い当たるのは一つしかない。

 ああ、そうか。




 エルを――僕はもう、エルを助けに行っても良いんだ。




 第二騎士団を待たなくても。 

 今すぐ、エルを助けにいける。

 そうなんだ、という思いでミルウッド卿を見つめれば、いつにない笑顔で頷かれた。

「はい!」



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