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転生したら女装するコトになりました?  作者: 九透マリコ
第一章 双子と前世と異世界と
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この度、pixivからお引っ越ししてきました。

なろうでは初投稿となります、よろしくお願い致します。

1.

 僕には、秘密が二つある。


 まず一つは、前世という記憶を持って生まれてきたこと。

 前世の僕は、地球という名の星の日本という国に住んでいて、二十歳の誕生日に運悪く死んでしまった。まあ、これでもかというほど地球上の人口が多いんだからよくある話だ。

 そこへ、名前も知らぬ自称神というのが現れて、小難しい話を延々とされたのだけれども、つまるところ、次の人生は違う世界で頑張ってヨ!という具合に送り出された。

 僕としては、また地球に生まれ直したかったと思うんだけど、地球だったら次の人生はオオミズアオとかいう田舎じゃよく見る蛾に生まれて、成虫になったら直ぐに死んじゃうから止めた方が良いよ!と顔を真っ青にしながらかなり必死に説得されたので、何かよっぽどの事情があるのかなと思って仕方なく諦めた。やっぱり、贅沢だろうけどまた同じヒト科が良いよねとも思ったし。


 そして、もう一つは……






 この国の宰相を務めるエーヴェリー公爵家の司る剣を抱く女神の紋章を付けた馬車が、街の中をひた走る。がらがらと、音を立てて。

 行き先は、国内屈指の有名校グランヴァル学院。良家の子息令嬢が集い、共に学ぶ寄宿舎だ。そこは、勉強や作法はもちろん、ご令嬢なら将来嫁ぐべき有望株を探しに。ご子息なら、様々なコネクションを作っておくために。そんなたくさんの思惑が集まっている場所である。

 しかし、中には純粋に貴族としての己を高める為に学びに行こうとしている者もいるのも事実で。

 例えば、目の前できちんと背筋を伸ばしてお行儀よく両手を膝の上に置き、まだあどけないながらも美人だと評判の凛とした顔つきで僕を見つめている我が婚約者、エルフローラ・ミルウッド嬢がそうだろう。

 彼女とは、お互いの父親同士が、生前に起きた戦の戦後処理に東奔西走して苦楽を共にした親友同士であるため、五歳で初めて会ってまもなく婚約を交わす間柄となった。

 僕のとは違って、深みのあるダークブロンドの長い真っ直ぐで艶やかな髪が、窓から入る風にふわりとなびいている様はとても美しい。まるで、前世で見たシャンプーのCMのように。

 小さな窓から入るカーテン越しの光に当てられた、くっきりとした二重まぶたの下には聡明さが滲みでる赤銅色の瞳。ミルウッド公爵に似た少し高めの鼻と、それからまるで鮮やかな花で色づけたような桃色の唇。

 何度見ても、彼女は綺麗だ。

 だからまあ、異世界に生まれ直して良かったかなとも思っている。こんな綺麗な女の子が、僕の婚約者になってくれているのだから。名も知らぬ神様には、感謝している。感謝しているけど、だからって、頭の中でどや顔になるのは止めてください。顔だってあんまり記憶に残ってないのに、どうしてこういう時だけ主張してくるんですか?


「それで、イオ様。淑女の歩き方は、マスターなさいましたか?」

「え?」

「え?では、ございませんのよ。学院には、もうまもなく着きますわ。その青いドレスも、たいぶ慣れてきましたわよね。その髪は、何が何でも絶対に外れないようにお気をつけ下さいまし」

「う、うん」

「話し方は……まあ、アルもイオ様も同じでしたから大丈夫でしょう。問題は、イオ様があのアルミネラになりきれるかどうかでしょうけれど」

 と、赤銅色の瞳に心配する色合いが滲む。

「……ど、努力してみる」

「それしか、ありませんものね。申し訳ありません、聞いた私が野暮でしたわ。頑張って下さいませ」

 曖昧に笑って返事をする僕に、エルは不安そうにため息をついた。

「それにしても、まさかアルがこんな事をしでかすとは思いもしませんでしたわ」

「……そうだよね」

 なんて言い合いながら、今度は二人してため息をはきだす。

 アルとは、僕の双子の妹のアルミネラ・エーヴェリーだ。彼女は、僕達と同じ十四歳とは思えない程のアグレッシブな女の子で、エーヴェリーの残念姫といえば彼女の事を指している。いたずら好きで、木登りが大好き。いじめっ子との勝負が好きで、とにかく動き回らないと気が済まない。活発過ぎて、もはや父も半ば諦めているほど彼女は本当に逞しい。

 そんな彼女も十四歳になり、これから立派な淑女になるべく、グランヴァル学院へと入学する事となった。それに、彼女の婚約者も既に在学しているのだから、この機会にもっと仲を深めてもらおうという思惑も含まれていたに違いない。


 ――が、やはり彼女は彼女だった。


 僕にだけ置手紙を残して、本来ならば僕が行くはずだったリーレン騎士養成学校に彼女は早馬で一人さっさと旅だってしまったのだ。いや、むしろこれは逃げたとでもいうべきか。

 入学式を前に友人作りなどを見越して、一週間前に出て行こうとした僕に泣きながら抱きついてきて、お願いだから一緒の日に旅立とうと言ったあれは何だったんだろう。

 いつもと同じように目が覚めて、自分の荷物が全く見当たらず、しかもどこを探してもドレスしか残っていなかった時の僕の絶望を察してよと言ってやりたい。

 そんなアルミネラが残した置手紙には、お父様にはどうぞ内密にしてねという文字がでかでかと。

 それから、お互いに四年間ばれないよう頑張ろうね、なんて。

 いやいや、絶対に無理でしょ!そう思わずにはいられなかったけど、一時間弱部屋の中をうろうろしながら考えた結果、現状打破は難しいと諦めた。そりゃあ、追いかけられたら良かったんだけど、慣れないドレスを着込んだ上に馬を乗りこなす自信などない。うん。

 僕は、アルミネラとは違ってそこまで運動神経はよくないのは自分がよく知っている。自慢じゃないけどね。これ、重要。

 だから、ここはアルミネラのくわだてに乗ることにした。




 ……それに。


「なんで、髪切っちゃうかなぁ」

 両親や友達連中、その他皆にも見分けがつかないといわれる僕たちは、男女の双子にしては珍しくとてもよく似ていて、区別するといえば服装と彼女の長い髪ぐらいなものだった。本当に、冗談でもなんでもなくて。

 そんな、唯一と言いきってもいいぐらいに大事に伸ばしていた長い綺麗な髪を、彼女は切ってしまっていたのだ。

 盟友とも呼べる僕にすら気づかせない内に。

 つまり、アルが早くからこの計画を練っていたという事実が考えられる。




 彼女が、『イエリオス・エーヴェリー』という名の僕に変装する為に。

 それから、僕を『アルミネラ・エーヴェリー』という名の彼女に変装させるウィッグとして。



「アルは昔から、肝心な事は何も相談して下さいませんもの」

 悔しそうなエルフローラに頷いて、そっとアルミネラの一部だったプラチナブロンドの髪を撫でた。

 貴族の娘が髪を切ってまで覚悟を決めたのだから、双子の僕がするべき事は一つしかない。


 入れ替わりがバレないように、彼女の代わりを務めてみるか。




 ……なんて、勇んで馬車に乗ったものの、やっぱり長年一緒に居たエルには直ぐに看破されてしまったけどさ。いやいや、けれどもこれは逆に良かったかもなんて、逆説を唱えてみる。

 だって、エルが入れ替わっている事を分かってくれているのなら、これから学院の生活も何とかなるかもしれないな、なんて思えてしまうのだから。エルは、僕たち双子の幼馴染みだけあって、第三者視点から色々と駄目だしをしてくれそうだし。

 僕は、アルミネラになりきるためにできる限り努力をしよう……あの自由過ぎる性格を真似出来るのかは、いまだにいささか不安ではあるけれど。

 双子といっても、僕とアルミネラは静と動で表せるぐらいに性格が違うから、アルミネラの突拍子も無い行動を僕が再現出来るとは思えない。

 例えば、父上の満面の笑顔が見たいとか言って急に我が家の大事なテーブルクロスに、どこから捕ってきたのか大中小様々な、しかも色とりどりの種類の昆虫を並べた事とか。……あの時は、ただ無我夢中で半泣きになって回収したけど、この世界の虫の異様な派手さが恐かったのによく触れたなぁと、今も自分自身に感心してしまうほどだろう。

 後は、屋敷の侍従の皆さんを労いたいと言い出して、厨房でとりあえず目に付く固形物を片っ端からミキサーにかけようとするのを、屋敷の専任コックと一緒に必死で説得した事だとか。

 今考えても、色々と僕には真似出来ない行動ばかりを思い出してしまう。

 うん、なんていうかアルミネラの感性は僕たち常人には理解しがたい個性の塊なんだ、きっと。愛する妹の名誉のために、そう思いたい。


 かと言って、今更引き返せるはずもない。

 まあ、僕はただアルミネラが男ばかりの騎士養成学校で音を上げるのを待つしかないだろう。



 それが、いつ頃になるのか全く分からないのが難点だけど。


 昔から、アルミネラは一度決めたら中々諦めない性格だった。そりゃあ、もう僕がどれだけ融通を利かせても。お兄ちゃんは、アルが突っ走らないか心配です。

ああ、今頃何をしでかしているんだろう。

 ……。

 ……駄目だ。不穏な事しか思い浮かばない。考えるの、よそう。

 少し憂鬱になって、ぼんやりしてしまった僕を上目遣いで見ながら、エルフローラが眉尻を下げて微笑んだ。

「イオ様。私も、フォローをさせて頂きますけれども、くれぐれもお気を付け下さいませ、ね?」

 可愛いなぁ。綺麗な見た目と反して、エルの内面はとても可愛い。未来の夫になるかもしれない男の女装を受け入れてくれるなんて、彼女はなんて心根が優しい女の子なんだろう。

 ああ、こんな子が僕の婚約者だとか嬉しすぎて感動してしまう。

 今まで何度も味わった幸せを再び実感して、彼女を見つめながら顔が緩む。

「ありがとう、エル」

「……っ!」

 えっ?ちょっ、何で急に顔を逸らすの?

 駄目だった?僕、今さっき思いきり変な顔になってたの?

 えー?変だったのかなぁ、と不安になっている僕を乗せて、馬車はがらがらと問題なく突き進む。

 ひたすら真っ直ぐ、グランヴァル学院へと。


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