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第二十話

 瓦礫の山の上に座りこむ神誤。『CHEAT』の身体が屍と化そうとしている。痙攣の回数や長さも減ってきたようだ。他に動くものは何もない。破壊されたライブハウス「魔界天生」の中は神誤の息遣いだけが聞こえる。「斬奴」と「刹奴」はまだ手の中にある。両刀の先端からまだほのかに温かい『CHEAT』の血が一滴ずつ時間を焦がすかのように落ちている。


 人の気配。見上げる神誤。FTWの残党か?違う、どこかで感じたことがある気配、あれは忍びだ。


「いやいや、こりゃすげえなあ」


 虎視丹が闇の中から姿を現した。


「ここまでやるとはねえ、へへへ」


 心に沁みるような虎視丹の笑顔だ。


「なんとか大丈夫みたいだなあ。さすがだぜ。やっぱりお前はたいしたもんだよ」


 褒め方に嘘は感じられなかった。


「実はなあ、卍様に言われてきたんだよ。いくら任務といってもやっぱり自分の子供は心配なんだぜ。俺にお前がちゃんとやっているか見て来てくれってな」


 神誤の表情は先ほどから変わらない。虎視丹を見つめているだけ。


「いざとなったら助けに入ろうって思っていたん・・・」

「虎の兄ィは始末屋なんだろ?」


 神誤が遮った。


「は?」

「俺独りで今回の任務を試させて途中でトンズラでもこいたら捜殺『Search and Destroy』ってオヤジに言われてきたんだろ?」

「何いってやがるんだよ、そんなわけ・・・」

「いいんだよ、虎の兄ィ。わかっているからさ」


 視線が鋭くなる神誤。無言になる虎視丹。


「でどうだった、虎の兄ィ。俺はちゃんと任務を果たせたと思うかい?」


 虎視丹はまだ言葉を発しない。


「ちょっと時間かかりすぎってところかなあ。どう思う?」


 神誤が「斬奴」と「刹奴」を握る絞める手に力を入れた。虎視丹の顔から笑顔が消える。


「・・・」

「・・・」


 虎視丹が懐に右手を入れる。懐の中には特殊警棒がある。2人の距離は5メートル。神誤に動ける力は残っていない。しかしあの眼はなんだというのか?生きているような、しかし死んでいるような、言い方を変えれば生きてもいない、死んでもいない眼は何を意味するのだ?神誤のあのような眼はみたことがない、これはヤツの生死なのか、それとも自分の生死を意味するのか?


 虎視丹がゆっくりと口を開いた。


「・・・まだ改善の余地はあるよな・・・だけど任務完了したのは間違いないだろ・・・」


 神誤が眼を閉じる。何かを自分に言い聞かすような大きな深呼吸一つ。両手に持っていた「斬奴」と「刹奴」を己の目の前の地面に投げ捨てた。


「虎の兄ィ、肩貸してくれないかなあ。膝、ちょっと痛くてさあ」


 懐から手を出した虎視丹が近付いてくる。警戒心は解いていない、しかしこれは自分の知っている以前の神誤ではない。


「果心居士だっけ?とっととやっちまおうよ。捜殺『Search and Destroy』ってね」


 神誤の表情は変わらない、しかし今回の任務に送り出す前とはまるで別人のようであった。


 虎視丹が手を差し出して、神誤に肩を貸す。歩くのは少しつらそうだがなんとか孤異厨の里まではなんとか帰れるだろう。神誤の足元には「斬奴」と「刹奴」が放り出されたまま。その両刀に目もくれずに立ち去ろうとする神誤。虎視丹が神誤に尋ねた。


「おい、『斬奴』と『刹奴』を拾っていかないのか?」


 足元を見ようともせずに答える神誤。


「道具は所詮道具だ」


 2人の間には沈黙。ただ以前の沈黙とは明らかに質が違うものであった。虎視丹がニヤリと笑った。いつものような人懐っこい笑顔ではない。


「お前はやっぱりたいした忍びだよ」


 ライブハウス「魔界天生」の闇から外界の闇へ2人は歩きながら出て行った。




                         『神誤忍法帖』完


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