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第十八話

「うぎゃああああ!!!」


 断末魔の声が響き渡る。切断部を抑えながら床に転げ周る破麗流夜。


「僕の、ぼ、僕の左腕がああああ!!!」


 先程まで生命を確実に感じていた「腕」がぴくりともせず、無機質なコンクリートの瓦礫と一緒に単なる物体として埃まみれになる。


「い、痛いよぉ、『CHEAT』、痛いよぉ!!!」


 泣きじゃくる破麗流夜。その声は男が発生したものとはとうてい考えられない悲鳴であった。


「ち、ちくしょう、絶対に許さないからあ!こ、こんな目にあわせるなんて、ぼ、僕をこんな目にあわせるなんて、絶対に許さないぞぉ!」


 叫びではなくわめき、神経を逆なでするような破麗流夜の声。


「ね、ねえ、『CHEAT』、ヤツを殺して!お願い!ヤツをほら、はやく!」


 ヒステリックに破麗流夜が『CHEAT』にせめよる。


「な、何しているのさあ、はやく、あんなヤツ、殺しちまえ!はやくしろよ!」


 神誤に向けられていた『CHEAT』の視線が破麗流夜をつらぬいた。


「あぁ?」

「わかんねえのか!あんなヤツ、ぎったぎたに殺しちまえっていったんだよ!」


 『CHEAT』がなめる様に破麗流夜をにらみつけて言う。あの「鋭い」目だ。


「お前さあ、何様のつもり?」


 破麗流夜がビクリとした。


「俺に命令するなんてよ、また突然随分と偉くなったなあ?」

「ち、違うよ、『CHEAT』、そんなつもりじゃ、ご、ごめんね、、『CHEAT』、ごめんね」

「ちょっとくらい人よりチンポの舐め方がうまいとか、ケツの穴の締りがいいからって調子に乗ってんのかな?」


 『CHEAT』の口元に極悪の笑みが浮かぶ。


「ご、ごめんなさい、許して、お願い、『CHEAT』、大好きだよ、ごめんなさい!」


 切断された腕の事も忘れ、恐怖におののく破麗流夜が許しを請う。


「口の聞き方を知らないヤツにはオシオキかな」

「な、なんでもするよ!『CHEAT』、僕、なんでもするから!お、お願い!」


 破麗流夜は震えている。足元は切断部からの流血と失禁でびしょぬれだ。


「じゃあさあ、これ咥えろ」


 ショットガンを破麗流夜の口にぶち込む。息ができずにもがく破麗流夜。引鉄を引く『CHEAT』。そこにあった破麗流夜の頭部はもうない。ぶっ飛ばされた破麗流夜の頭部の破片が神誤の顔面にへばりつく。


「お前、間違ってないよ。ヤツはうるさかったな。さてやっと二人になれたな」


 神誤をみて笑う『CHEAT』。『CHEAT』を見つめ続ける神誤。どちらが先に動く、いや、どちらが先に解放されるのか。


 ショットガンにスラッグ弾を詰め込みながら『CHEAT』が舌を出して血のついた唇を舐めた。


「それにしてもさあ、お前、どうして破麗流夜を一発で殺さなかったのよ?お前程の忍びならさあ、ヤツなんて瞬殺できただろ?」


「お前を試したかった」

「はぁ?試す?」

「愛する者から受ける暴力は痛くない。しかし愛する者に与える暴力は痛い。愛する者が他人から与えられる暴力はもっと痛い。お前は違うのか?」

「ギャッハハハハハ!!!お前は忍びの癖に屁理屈ばっかりこきやがるなあ!っていうか、何にもわかってねえじゃん」


 神誤にショットガンの銃口を向ける『CHEAT』。


「愛なんてあるわけねえだろ。俺にもアイツにもさあ」


 ショットガンを撃ち放つ『CHEAT』。神誤の右腕をスラッグ弾が貫通する。


「いいか、人間が2人以上いるとさあ、絶対生まれるものがあるんだよ。それは何か知っているかあ?」


 空薬莢をショットガンから取り出し、新しいスラッグ弾を詰める『CHEAT』。銃口はあいかわらず神誤に向けられている。


「駆け引きってやつだよ。絶対どちらかが主導権を取ろうとするんだよ。それは親子でも兄弟でも身内でも仲間でも恋人でも愛人でも奴隷と主人でもそうなのさ」


 引鉄を引く。ショットガンから放たれる銃声。神誤の左腕から肉片が吹き跳び血が流れ出す。


「誰でも自分が優位な立場になろうとしていやがるんだよ。一見不利な立場に見えても、実はその不利な立場さえ利用しようとしやがったりしてなあ。でも俺はそういうのが面倒でさあ」


 ショットガンの照準を『神誤』の眉間に合わせる。


「誰が強くて弱いかなんてのはよ、暴力ってのが1番わかりやすい答えの出し方なんだよ。圧倒的な暴力の前にはかけひきもクソもないだろ。愛も憎しみも悲しみも喜びも全部躊躇も妥協もない暴力で片がついちまうんだ。殺るか、殺られるか、結局はそれだけなんだからよ」


 首をかしげながら『CHEAT』が続ける。


「なんだろなあ、何、こんなに喋っているんだろうなあ。果心居士からもらったクスリのせいかな。まあいいや、どうせたいした事じゃねえしなあ」


 突然視界が遮られた。手榴弾の炸裂でつぶれたのは左目だけの筈。何も見えない。ショットガンを発砲するも音と反動の衝撃以外何も感じない。何が起きた?


「しゃあああああ!!!!」


 いきなり襲い掛かる漆黒の暗闇に戸惑いを隠せない『CHEAT』。


 背後に感じる人の気配。首の頚動脈辺りに冷たいモノを感じる。その数2本。「斬奴」と「刹奴」。両刀が鋼の音を出しながらこすれ合う。それはまるで愛し合う男女が絡み合う姿。『CHEAT』の喉元が切り裂かれる。宙に吹きあがる血柱。己の背後に右肩越しからショットガンを向ける。引鉄を引く。引いたはず。手ごたえがない。右手の人差し指が切断されていた。


「びゃあああああ!!!!」


 気管をやられて声にならない雄叫びをあげる『CHEAT』。


 次の瞬間、低く身構えた神誤が「斬奴」と「刹奴」を『CHEAT』の脊髄にそって深く、確実に、そして美しく斬りつけていた。


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