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第十五話

「黙示録GIG」―○月×日決行― 


 チラシが街のあちこちに貼られ始めた。その数は尋常ではない。チラシからはGIGの場所や開始時間、出演バンドなどは全く分からない、しかし街中ありとあらゆる場所に所狭しと貼られている異様な有様にこれはチラシというよりも「戦線布告」、もしくは「征服宣言」とでも思えるような挑発、そして恐怖を人々は感じていた。


 この数ヶ月、街が荒れている。荒れ果てていたというべきか。乾いた砂が水を吸い尽くすが如く街が衝動、いや、暴力を求めている。老若男女関係なく被害者が続出する強姦、監禁を目的とした幼児誘拐・拉致、昼夜の区別なく発生する無差別・猟奇殺人、毎日街の何処かで公権力と暴徒と化した群集が衝突する、予告なしの爆弾テロが多発、泣き喚き、叫び続ける子供、燃え上がる火炎瓶の炎、転がっている死体さえ、もう珍しい景色ではなくなっていた。


 何かが壊れていく、何かが崩れていく、それは決して産みの為の破壊ではなかった。目的意識の無い破壊、破壊の為の破壊、そしてそれはいずれ崩壊、滅亡、破滅へとつながっていく。


「まだまだだなあ」


 『CHEAT』が笑いながら街を徘徊する。後には十数名の完全武装した集団。『CHEAT』をヘッドとするこの集団は「FTW」と呼ばれていた。様々な肩書きがこの集団には与えられている。愚連隊、過激派、政治結社、思想団体、武装集団、暴力宗教法人、麻薬組織、発狂十字軍、武器密売団、解放戦線、そして「救世主」。


「もっともっと暴力が必要だよなあ」


 腰からかなり低めに右腿に装着したガンホルダーからダブルバレル・ソードオフショットガンを取り出す。使用している弾はスラッグショットに水銀を埋め込んだモノ。その時偶然近くにいたFTWの一人に悪気さえみせずに銃口を向ける。安全装置は外してある。


「運が悪いってそれだけで罪なんだぜ」


 引き金が引かれた0.1秒後、そいつは声を発することもなく倒れた。アスファルトには飛び散った血と脳漿が街に燃え上がる炎を映し出す。


「いやあ、いいねえ、こうじゃねえとな」顔面にかかった返り血を拭く事もせずに歩き続ける『CHEAT』。


「どうしたのさ、えらい今日はご機嫌じゃん」


 何事もなかったかのようにFTWの集団から少年が一人、その華奢な身体をくねらせながら『CHEAT』に擦り寄る。男である、しかしなんという妖美、そして艶やかさであろう。歳は十代半ばくらいであろうか、そしてその美貌は暴力によって更に艶やかさを増していく。名前は破麗流夜ハレルヤ、『CHEAT』が決して手を下さないFTWの唯一の構成員、そして愛人である。


「ああ、いい気分さあ。この前、インドのバラモンってところかどっかから、やって来たっていうわけのわからねえ坊主がよ、いいクスリくれてな、果心居士とかなんとかって言っていたけどな。どうでもいいだろ」


 酩酊しているのか、ハイになっているのか、しかし『CHEAT』の口調は乱れていない、それに目は更に「鋭さ」を増している。


「ヤツがいうにはよ、面白い事が起きるってのさ。金儲けよりもな。それには俺が必要なんだとよ」



 「壊」「滅」「亡」「殺」序曲が鳴り始めた。


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