99/612
《騒ぎ》第十五回
熊次は辺りを虚ろな眼差しで見回した後、柱を頼りに立ち上がり、ふらつきながらも部屋を出ると、廊下伝いに歩き出した。そこへ、反対側からお紋が走り込んできた。
「お、親分が…」
声が上擦って掠れ、震えている。
「えっ? …親分がどうかされやしたか?」
訊いた熊次も、半分方は眠っているから、全く要領を得ない。お紋も無益を悟ったのか、
「チッ! もういいよっ」
と、舌打ちして、他の者を探しに大部屋へと駆け入った。ぐるりと部屋中を見回しはしたお紋だが、誰一人として正気で頼り甲斐がありそうな子分はいない。後を追ってきた熊次が赤ら顔で、
「姐さん、どうされたんです? 親分は?」
と、また、的を得ない意味不明な訊ね方をした。
「まともな奴は、他にいないのかい!!」
立腹したお紋は熊次に詰め寄るが、埒があきそうにない。熊次を見捨てたお紋は、誰彼となく、辺りへ喚き散らした。
「お前達! それでも鼯鼠の五郎蔵の子分かい! 親分が斬られなすったっていうのにさぁ~!」




