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《旅立ち》第九回

 ふたたび、大声がした。

「どこを見ておる! ここじゃ、ここじゃ。…上を見てみい!」

 左馬介がふたたび辺りを見回し、そして屋敷に連なる土塀の一角に視線を向けると、驚くべきことに、一人の老人が土塀瓦の上で一振りの杖を突いて立っているではないか。その白い(あごひげ)の老人こそが、この道場の主、堀川幻妙斎であることを、この時の左馬介は知る由もなかった。漸く二人の目線が合うと、その老人は柔和な笑みを浮かべ、

「やっと気づきおったか…。もう、そろそろ現れる頃だと思おてな、待っておったぞ」

 と、云うが早いか、二度、宙返りをうって地上へと舞い降りた。それだけでも左馬介にとっては驚くべきことであったが、更に驚くべきことには、その老人の吐息は全く乱れることなく、地上へと音もなく立ったという事実であった。茫然とその姿を見続ける左馬介に、

「如何した? これくらいのことで驚くこともなかろう」

 と、小笑いして、老人は厳かに云った。風に(なび)いて、白い鬚が微かに揺れた。

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