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《騒ぎ》第二回

「いいえ…。私は、ふと、そう思っただけですから」

 左馬介は謙遜して、片手首を扇のように激しく振って否定した。

「いいや、それは一馬が申すとおりだ。一本取ったな、秋月」

 小笑いして一馬に同調したのは、師範代の、そのまた代理を仰せ付かって喜んだ井上である。左馬介は、つまらぬことを口にした…と、後悔した。だが、この左馬介の何げない一言がその後の堀川道場に波風を引き起こす大きな要因となっていくのである。

 その後、十日ばかり過ぎていったが、山上は遂に道場へは戻らなかった。 ━━ 来るは拒まず。また、去るもよし ━━ この幻妙斎の口癖のように、山上与右衛門が破門になることはなかったが、道場の定まった決めにより、道場に掛けられた門弟の表札は知らぬ間に外され、門弟籍もいつしか消されたのである。山上も、そうなるであろう…とは、知っての上であった。堀川道場から物集(もずめ)街道沿いに十町ばかり離れた千鳥屋の木賃部屋で、安い銚子酒を(あお)る山上の日々が続いていた。

「もう二本ほど持って来い!」

「先生。そんなに飲んじゃ、毒ですよぉ」

 三十を疾うに過ぎたと思える仲居の女が、親切心で止めだてをする。それがまた、山上の心を逆撫でした。

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