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《師の影》第二十八回

 確かに、師とは語らいの機会が数度あった。だがそれは、一方的なものであり、左馬介が言葉を受け、言葉で返したという性質のものではなかった。要は、単に聴いていた…、というだけの語らいなのである。

「千鳥屋のこと、先生は既に知っておられた。ははは…、(わし)もそろそろ、この道場に(いとま)を乞う時節が到来したが、まさか、この時に及んで、与右衛門の奴が出奔し、千鳥屋の用心棒になろうとは思おてもおらなんだぞ。…まあ、腕はここの門弟だったのだから、程々には(つか)えるのだが…。問題は、相手が鼯鼠(むささび)の五郎蔵一家だからなあ…」

 朝餉の席で、皆を前に話した後、蟹谷は箸を口へ運びながら隣席の井上に、そう話した。その声が左馬介の耳にも小さく届いて、聞こえた。

「旅籠の千鳥屋と云やあ、葛西じゃ随一ですが、何故、五郎蔵一家が

嫌がらせをしてんでしょうねえ?」

 井上は食べ終え、白湯(さゆ)を飲みながら訊ねた。

「それなんだがな。どうも、賭場にしようって魂胆らしい…」

「葛西は、この堀川道場が売りものですし、賭場で有名になりゃあ、私らの沽券(こけん)に関わりますよ」

「そういうことだ。山上のことは扠置いても、堀川道場としても看過する訳にも、いくまいて…」

「先生は、如何様(いかよう)に仰せで?」

「いや、訊いてはおらんから分からぬが、もう既に、そのことで動いておいでの御様子じゃ」

「先生は神出鬼没ですからなあ。ははは…」

 二人が笑い合っている。左馬介の両耳にも、その声は届いていた。


                                (師の影) 完

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